第952話 砂時計の洞でのLv上げ


 とりあえず望海砂漠の地下の大空を改めて、砂時計の洞でのLv上げを開始出来る状態になってきた。いつものようにアルの巣の中にいるハーレさん以外は岩場の上に降りて戦闘準備も完了だ。でも、その前にみんなに確認をしておくことがある。


「みんな、経験値の結晶は使うか?」

「……ケイさん?」

「え? ケイさん、使わないのー!?」

「ケイ、どういう理由でそういう話になるのかな?」

「俺は使わんが……ケイ達は良いのか、それで?」

「いやいや、ちょっと待った! 理由はあるから!」


 ちょっとみんなの声が低くなったのが地味に怖かったんだけどー! ふぅ、俺だって理由無しで言ってる訳じゃないから、この辺はきちんと説明しよう。


「えっと、俺らはテスト期間が終わるまでログイン出来ないじゃん!?」

「そういえばケイさんはフラムさんと同級生でしたね。そうですか……。明日からしばらくいないのですね……」


 うん、なんだか寂しそうなルストさんには悪いけど脱線するからスルーさせて! フラムと同級生なのは赤のサファリ同盟の何人かにはもう周知の事実だから、それ自体は気にしなくていいし。


「それがどうして今使わない理由になるのー?」

「いや、単純に次にログイン出来るのって10日とかそのくらい先じゃん? 今はそろそろ上がりにくいLv帯に入ってくるし、テスト明けのその頃に経験値のボーナスがある敵が大量発生する可能性があるからさ」

「あー、あれか。干潟エリアで貝類の大量発生があるんじゃないかって推測だな。……なるほど、ケイはそこで重点的に経験値の結晶を使おうって提案か」

「そう、そういう事! もしそれがなくても、今よりLvが上がりやすい状況になってるかもしれないから、今焦って使うのはどうかって話!」


 補填で貰った経験値の結晶は10個あるから、今使っても個数は残るけど、後からの方が効果が高い可能性があるから、温存って手もあると思うんだよね。

 多少は少しLvが上がりやすくなったっぽいけど、それでもまだ未成体の上限Lvに達した人はいないはず。……全てのプレイヤーの中に絶対にいないとは言い切れないけど、少なくとも今ここにいるルストさんはLv28だしね。


「……うん、確かにケイさんの提案もありかも?」

「でも、10個もあるから1個は使っても良い気がするのです!」

「要するにケイは、そこを相談したいって事かな?」

「そう、そんな感じ!」

「私はケイさんの意見が良いと思いますよ。現状ではLv27から取得経験値が激減していますし、Lv26での経験値を半分を過ぎた辺りから減少傾向になるはずです」

「……Lv28のルストさんが言うと説得力があるな」


 まさかのルストさんからの俺の案への肯定がきた。ルストさんは情報戦の類はしてこないし、実質今の上限Lvは27〜28という事になる。

 今の俺らはLv26だし、途中から減少傾向になるなら無理に使わない方がいい。ここでの狩りの効率にもよるけど、経験値を2倍にしたらLv26の半分くらいまでは普通に行きそうだ。


「あぅ……理由は分かるけど、気分的には経験値を増やしたいのです!」

「だったら、今は経験値の結晶の欠片を使ったらどうだ? 少なくともレンコンがあるだろ?」

「あ、アルさん、それなのです!」

「え、それでいいのか、ハーレさん。いや、それでいいならいいけどさ」

「……あはは、ハーレはただ今の経験値を少しでも増やしたいだけなんだね」

「昼間に出来なかった分だけ、ちょっとでも多めの経験値が見たいのさ-!」

「あ、それはなんとなく気持ちが分かるかな?」


 あー、なるほど、ハーレさんはちょっと多めの経験値が見たいのか。それなら50%の経験値増加でも体感は出来るもんな。

 えーと、泥濘の地で手に入れたレンコンもあるし、地味に水草は使ってないし、ハーレさんは手長海老のも持ってるはず。てか、俺は黒い欠片は使い切ってたから、レンコンと水草で1時間分しかないのか。


「でも、3個しかないのです……」

「私は2個かな」

「私も2個だね」

「あ、みんなもそんなもんか。思ったほど数が無くて、俺も2個……」

「俺はレンコンだけだが、ここでは温存するとして……こりゃ俺とハーレさん以外は使い切る感じか」


 ふむ、もっと持ってたような気もするけども……あー、何だかんだでオオサンショウウオとか、経験値の多いカニを仕留めるとかで使ったんだっけ。


 うーん、ほぼ使い切ることになりそうだけど、ハーレさんは絶対に使いたいっぽいしなー。よし、ここはそれぞれに決めてもらうか! 多少は経験値にバラツキは出るだろうけど、全員同じ値じゃないんだから、そこは気にする必要は無し! 


「ここはもう無理に足並みを揃えようとせずにそれぞれで決めよう。俺は1時間分、ゲーム内で手に入れたやつを使う事に決めた!」

「私もそれにするのです!」

「……出し惜しみ続けてたらいつまで経っても使えないし、私もそうしようっと。また手に入る機会もあるだろうしね」

「みんながそれなら、私もそうするかな!」

「あー、何だかんだでみんな同じになったか」

「ま、良いんじゃねぇか? ケイ以外は合わせたと思うしな」

「……確かにそりゃそうだ」


 サヤ達は3人で一緒に遊ぶ為にやってるんだし、そこは合わせてくるかー。ま、別に悪い訳じゃないし、少し考えたらこの結果は予想出来てたな。


「でも、経験値の溜まり具合によっては2個目は使わない方が良いと思うかな」

「あー、確かにそれはそうだな」


 1.5倍の状態でもLv26の半分まで行ってしまえば、変にアイテムを使うのは勿体ないもんな。まぁ流石に30分でそこまでは行かないと思うけど……。


「ま、その辺は戦いながら判断するとして、とりあえず1個目を使っていきますか!」

「「「おー!」」」


 アルは普通に明日からもログイン出来るから使わない……というか、俺らが一緒ではない時に使ってたって感じだから、今回は使用はなし。

 ルストさんについてはそもそも俺らに合わせる必要自体がないもんな。……そもそもここでルストさんが一緒に戦う意味ってなんだろう?


「それではケイさん達がアイテムを使っている間に敵を連れてきますね」

「おう、ルストさん、頼んだぜ!」

「ルストさん、サンキュー!」


 ルストさんが近くにある流れていない砂に近付いて、敵を引っ張り出しに行ってくれた。うん、ここでの勝手が分かっているルストさんの意見や行動はかなりありがたいね。


 さて、今のうちにサクッとアイテムを使ってしまわおう。今回は一番初めに手に入れた水草でいくかー。別にインベントリから取り出さなくても使えるし、手早く済ませたいから取り出さずに使用っと。


<『経験値の水草』を使用しました> 30分間、経験値50%上昇


 よし、これで30分間の経験値が増える! さて、ここのエリアもLv上げのおすすめ場所ではあるけど、どんなもんだろう?


「というか、ルストさん、俺らとLv上げをする必要性ってあるのか?」

「何を言いますか、アルマースさん!? スクショの撮影の機会に、味方がいてくれた方が撮影がしやすいでしょう!? 1人ではここの共生進化の敵は面倒なんですよ!」


 ほほう、ルストさんからしても厄介な敵なのか。ま、そりゃLvがまともに上がらなくなってる状態でも戦うからにはそれなりに理由はあるよなー。

 理由はルストさんらしいけど、俺らとしてもありがたい話だね。5人と6人で敵の数がどう変わるかが分からないけど、共生進化の個体が多いなら数にも影響がありそうな気もするし。

 

「……なるほど、俺らはルストさんがスクショの撮影をしたい時に全力で妨害されないようにすりゃ良いんだな。頼りになる戦力のご希望に合わせて動くぞ」

「ほいよっと」

「ルストさん、全力でサポートするのです!」

「了解!」

「……あはは、ルストさんらしい理由かな」

「その時はお願いします! さて、連れてきましたよ!」


 そんな話をしつつ、ルストさんが敵を3体引き連れてきた。えーと、背中に小さな松が生えたカメと、桜を鎧みたいに背負って……というか一体化しているみたいなクマと、大根を剣みたいに構えているサルか。

 3体じゃなくて、これは共生進化だから6体だな。……てか、桜と一体化しているクマのインパクトが凄い。うん、正直に言えば悪い意味で……。


「あのクマ、木に取り込まれてるみたいな感じなのさ-!?」

「……あはは、桜の木の幹からクマの手足と顔が生えてるみたいに見えるかな」

「プレイヤーであんまり大型種族の動物と木との共生進化の人を見ない理由が分かった気がするね……」

「あー、デフォルトだとあんな感じになるが、共生進化の位置を微調整で背中に木を持ってきて、根で枝と腕を巻きつけたりしたら鎧っぽくはなるんだぜ? ……面倒くさい上に、無駄に戦いにくいらしいが」

「アル、それは駄目なやつじゃん!?」


 いや、確かにそれだと共生進化で両方の位置調整をする必要がありそうだから面倒そうだし、それを聞いたら目の前にいる桜とクマの位置関係が一番動きやすそうだけど!


「私は支配進化で大型種族との組み合わせを試してみるか悩んでいるんですよね。どう思います、蜜柑の木を背負うゾウを考えているのですが……」

「あー、4足歩行の種族の方が比較的向いてるとは聞くぞ」

「って、呑気に話してる場合じゃないよなー!? ルストさん、早くこっちまで来てくれ!」


 思いっきりルストさん目掛けて、松の尖った葉と桜の花びらが飛んでいってるよ!? くっ、微妙にルストさんがまだ俺らのいる位置まで戻ってきてないから、支援がしにくい。


「あぁ、これくらいならまだ全然大丈夫ですよ。『根脚強化』『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」


 えぇ……飛んできてる尖った松の葉も桜の花びらも全部根で叩き落としてるんだけど? うわっ、そのまま根でカメとクマに巻きついて俺らがいる岩場に叩きつけてるし……。


「『多根縛槍』! さて、戦闘を始めましょうか」


 あー、サルも一気に距離を詰めたルストさんの複数の根に串刺しにされて、捕縛された状態で俺らの待っていた岩場へとやってきた。……うん、すっごい見事な動き。

 今の多根縛槍ってアルも持ってるけど、スキルの出が遅くて使いにくいって話だったはず。でも、距離を詰めたらあんなにあっさり突き刺さるものなのか。


「って、普通にルストさん、この数の差でも楽勝っぽいんだけど!?」

「……いえいえ、流石にこの数を相手にしながらスクショの撮影には集中しきれませんよ? ここは最低でも2対1ですから、1人だと面倒なんですよね」

「……倒せないとは言わないんだなー」


 うん、まぁそこは深く考えない方が良い気がしてきた。……よし、ルストさんはこのエリアの真ん中にいるサボテンの発光が強くなる時のスクショが撮りたいんだし、基本的には俺らだけでも対処出来る形で動こう!

 いつそのタイミングが来るかが分からないし、ルストさん頼りの戦闘はなしだ! とりあえず、ここの敵は共生進化がメインみたいだから……って、しまった!?


「……まだ誰も識別Lv5になってなかったよな?」

「はっ! そういえばそうなのです!?」

「……しまったな。共生進化の両方を識別出来るのはLv5からか」

「おや、そうなのですか? それでは私の方で――」

「ルストさん、それは待ったかな!」

「そこは私達がやらないとね!」

「……これは失礼しました。それでは危険そうな場合以外は、私は識別は無しでいきましょう。可能な限り、皆さんに合わせます」

「ルストさん、サンキュー!」


 いきなり識別もルストさん頼りになりかけたけど、そこを丸投げする訳にはいかないもんな。ルストさんに倒してもらうために一緒に来たんじゃない。

 すぐにスキルLvが上がるかは分からないけど、俺らで識別をして、このエリアにいる間に共生進化の識別が出来るようにするしかないな。


「アルの海水魔法とヨッシさんの毒魔法を中心にして、まずは植物側を狙う! アル、海水の操作で海水に閉じ込めろ! ヨッシさんは海水から抜け出てきた敵に溶解毒のポイズンインパクトで! ルストさんはヨッシさんの対応が間に合わなかった時にフォローを頼む!」

「おうよ! 『シーウォータークリエイト』『海水の操作』! おらよ!」

「了解!」

「えぇ、お任せ下さい」


 よし、とりあえずアルの生成した大量の海水の中に敵6体を放り込めた。とはいえ、これだけじゃ普通に出てくるだろうから、そこはヨッシさんとルストさんに対応してもらう形でいこう。

 さて、次は識別だな。特殊なエリアだし、片方だけでも識別して傾向の把握をしないと。……聞けば全部ルストさんが教えてくれそうだけど、初めから丸々全部を頼る気はない。


「サヤはクマ、ハーレさんはサル、俺はカメを識別する! とりあえず、見えた方の情報だけで良いから報告よろしく!」

「はーい! 『識別』!」

「分かったかな! 『識別』!」


 さて、とりあえずはこの指示で俺も識別をしつつ、敵の動きを見よう。……出来るだけ早く識別のLvが上がってくれればいいんだけどな。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 78/82(上限値使用:1)


『強噛硬カメ』Lv24

 種族:黒の瘴気強化種(強噛堅牢種)

 進化階位:未成体・黒の瘴気強化種

 属性:土

 特性:堅牢、牙撃、大食い、地中適応


 特性に牙撃ってあるけど、カメは牙なのか!? いや、まぁ噛みつき攻撃が得意な特性なんだろうけど。とりあえずそこはいいや。えーと、この中で重要なのそうな特性は地中適応か。


「カメはLv24の瘴気強化種で、属性は土、特性は堅牢、牙撃、大食い、地中適応! 噛みつき攻撃に特化してるっぽい! 地中適応は砂の中で自由に動く為だな」

「こっちのクマもLv24の瘴気強化種かな! 属性は土で、特性は強靭、打撃、豪腕、地中適応だから、打撃特化の物理型みたい!」

「私はサルじゃなくて、大根が識別出来たのです!」

「え、そういうパターンもあるの!? あ、『ポイズンインパクト』!」

「Lv4までで識別出来るのは、メインではない方ですね。まぁどちらを先に倒しても、プレイヤーと違って生き残った方は普通に残るのであまり意味はありませんけど。『根の操作』!」

「あー、そういう違いなんだ」


 プレイヤーならログインしてる側だけを倒しても勝ちだけど、敵の場合はそれはないのか。……でも片方を倒さなきゃ、もう片方の識別が出来ないのは面倒だよな。


 ふー、とりあえず出てこようとしたカメとクマは、ヨッシさんとルストさんが対応してくれたから大丈夫だな。

 今は順調に植物側は海水でダメージが入っていってるけど、暴れてはいるからそう長くは保たないか。


「ハーレさん、とりあえず大根の情報を頼んだ!」

「はーい! 大根はLv23の瘴気強化種で、属性は草と水、特性は魔力強化と魔法耐性だから、魔法特化なのさー! 特性に地中適応はないから、砂の中への適応はサルの方がしてるっぽいのさー!」

「その構成なら、そうだろうな!」


 おし、これで砂の中に入っても平然としていられるには地中適応持ちの動物側みたいだな。これなら先に植物側を倒すか、動物側を倒すか、そこを決めた方が良さそうか。多分だけど、動物側が物理型、植物側が魔法型になってそうだよね。

 

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