第951話 地下の大空洞


<『望海砂漠』から『名も無き砂漠の地下空洞』に移動しました>


 俺の砂の操作をきっかけに発生した流砂の中に飛び込んだら、無事にエリア移動が完了したようである。いや、思いっきり落下中だからそうでもないけど!


<命名クエスト『命名せよ:名も無き砂漠の地下空洞』の開催中です>

<本クエストは現在該当エリアに滞在中のプレイヤーが対象になります>

<以下の選択肢より、4分以内に好きなものを選んでください。一番多かった選択肢が新しいエリア名となります>


【命名候補】

 1:アレイア大空洞

 2:ツァイト大洞穴

 3:砂時計の洞

 4:落下サンドーム


 ちょっ!? 命名クエストが開催の真っ最中なんかい! って、今は落下中なんだから、そっちに意識を割いてる余裕はない! とりあえず命名クエストは後回し!


「みんな、何とかアルに乗れ! 俺が砂の操作で衝撃は和らげる!」

「分かったかな!」

「はーい!」

「了解!」

「ケイ、頼むぜ!」

「はっ!? この手段だと、着地地点のクッション代わりの砂が少ないんでした!? 落ち方を間違えると朦朧になるのでご注意下さい!」

「ルストさん、ちょっと待てやー!?」


 それって思いっきり重要な情報じゃない!? えぇい、とりあえずそれはいい! 今はまだ操作時間が残っている砂をアルのクジラの下に持っていくのみ!

 多少減速させれば、アルのクジラの空中浮遊でどうにかしてくれるはず。 てか、上から砂が次々と落ちてくるのはどうにかならないの!?


「上からの砂は私が何とかするよ! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」

「ヨッシさん、ナイス!」

「ちょ、私の上に砂が!?」

「あ、ルストさん、ごめんなさい!」


 あ、ヨッシさんが俺らの上に落ちてくる砂を、平らな氷塊を斜めに生成して落ちる方向を変えたけど、変えた先には先には飛び込んでいったルストさんがいた。

 うん、ルストさんは思いっきり砂で埋もれたね。まぁその砂のおかげでダメージはないみたいだし、とりあえず俺らも落下の勢いは抑えられた。ふぅ、砂が落ちてくるのも落ち着いたし、地面にはぶつからなかったし、砂の操作は切れたけど無事に到着!


 さて、とりあえずどんなエリアなのかを眺めていきますか。おー、なんというか地下にあるドーム状の凄い広い空間だね。反対側がまともに見えないくらいの距離だし、凄い大空洞だな、これ!


「あ、中央に大きなサボテンがいるかな!」

「あれが行動パターンが変わったという不動種の成熟体のサボテンですか。ふむふむ、興味深いですね」

「ルストさん、あのサボテンは成熟体なのか!?」

「私も見るのは初めてですが、そう聞いていますね」


 うへぇ……不動種ってそもそも敵で見かける事自体少ないのに、それがここでは成熟体なのかー。うーん、サボテンの根本に地味に水場があるけど、あれは迂闊に近付けないな。

 てか、あのサボテンが思いっきり光ってて、この大空洞を照らしてるのか。むしろ便利なんじゃない、あのサボテン。


 えーと、他にも様子を見ていこう。ここのエリアの特徴は少し全体的に傾斜があって中央のサボテンのいる方向に砂が流れている水路……じゃないな。流れてるのは砂だから砂路か? 砂が流れてない剥き出しの岩場が戦闘出来る場所のようだね。

 砂に流されていったら……あのサボテンの餌食になりそうだな。うん、そこは気を付けよう。それにしても他の人が戦ってる敵はどこから……って、流れてない砂があちこちにあって、その中から出て来てるっぽいな。


「おぉ!? ちょっと先の方に砂が落ちてきてる場所があるのさー!」

「あれが自然発生の流砂での入口っぽいね」

「どうやらそうみたいだな」

「ヨッシ、ケイさん、多分あれがさっき命名クエストの選択肢にあった『砂時計の洞』の由来なのさー!」

「えぇ、おそらくそうでしょうね。一定時間が経てば、流砂が落ちてくる位置が変わりますので」

「あー、そういう感じか」

「そっか、だから砂時計なんだね」


 パッと見では砂の滝みたいに……には見えないな。天井部分の穴から真下に落ちてるし、それこそ砂時計から砂が勢い良く落ちているような雰囲気だ。

 あ、そういや命名クエストの時間はそう残ってなかったはず! 折角居合わせたんだから、ここは参加しておかないとね。


「みんな、とりあえず戦える場所を探す前に、命名クエストをやるので良いか?」

「もちろんなのさー! 参加しないのは勿体ないのです!」

「それはそうかな。私はどれにしようかな?」

「まぁ折角だしね。えーと、選択肢は何があったっけ?」

「『アレイア大空洞』と『ツァイト大洞穴』と『砂時計の洞』と『落下サンドーム』の4つだな。最後のは完全にネタ選択肢みたいだが……」


 あ、アルの読み方が正しければ、洞の読みは『どう』じゃなくて『うろ』っぽい? 

 命名クエストって結構な頻度でネタ選択肢が混ざってるよねー。まぁ早々ネタ選択肢に決まる事はないけど、ネス湖みたいにネタのエリア名になることもあるもんな。

 さーて、あんまり考える時間もないし、急いでどれに投票するか決めていかないと。


「アル。アレイアやツァイトってどういう意味だ?」

「ツァイトはドイツ語で時間だ。アレイアは……すまん、こっちは分からん」

「確かアレイアはポルトガル語で砂だった気がしますね」

「へぇ、そういう意味なのか」


 アルに聞くのはいつもの事だけど、ルストさんから返答がくるとは思わなかった。ルストさんも博識なんだなー。

 とりあえずこの大空洞の名前は砂と時計がモチーフになってるのは分かった。ネタ選択肢はよく分からんけど、まぁネタだし選ぶつもりもないから深く考えなくていいや。


「私は『砂時計の洞』にするのさー!」

「私もそれにしようかな?」


 ふむふむ、サヤとハーレさんは『砂時計の洞』にしたっぽい。俺もそれが良い気がしてるし、同じく『砂時計の洞』にしようかな?


「おや? ネタ選択肢の由来がいますね。いたり、いなかったりするのですが、今回はいたようです」

「え、ルストさん、それってどこー!?」

「今、砂の中から飛び出てきましたよ」

「あ、茶色いけど半透明なクラゲがフヨフヨと傘を広げて飛んでるかな!?」

「私のクラゲと同じ事をしてるのさー!?」

「……ネタ選択肢の由来は落下傘ってとこか。たまにはネタ選択肢を選ぶのも良いかもな」

「確かにそれはありですね。私も今回はネタ選択肢にしましょうか」


 まさかのアルとルストさんがネタ選択肢である『落下サンドーム』を選んだみたいだね。まぁここは自由な選ぶとこだし、とやかく口を出すことじゃないな。

 うーん、もう刻一刻と命名クエストの終了時間が迫っているし、悩んでる時間はないな。


「よし、俺はサヤとハーレさんと同じで『砂時計の洞』にするぞ!」

「もう考えてる時間がないし、私もそれにしようっと」


 おっと、ヨッシさんも同じのを選んだか。ま、もうすぐ時間切れになるとこだし、悩んでて時間が過ぎて投票権利が無くなると勿体ないもんな。


<命名クエスト『命名せよ:名も無き砂漠の地下空洞』が完了しました>

<『名も無き砂漠の地下空洞』を改め『砂時計の洞』へと名称が変更になりました>


 うわっ、思いっきり時間制限ギリギリだった!? あ、新しいエリア名は『砂時計の洞』に決まったんだな。


「そう簡単にはネタ選択肢のエリア名にはならんか」

「どうやらそのようですね。さて、それではLv上げをする為の場所を確保しに行きましょうか! 思っていたよりも空いていたのはラッキーですよ!」

「ルストさん、これって空いてるのか?」

「えぇ、比較的空いてますね。アルマースさん、ここから左前方に空いている岩場があるのは分かりますか?」

「ここから左前方って事は……あぁ、あそこか。ルストさん、あれは狩りが出来る場所か?」

「はい、そうなります。あそこまで移動してもらえますか? それと、私もアルマースさんのクジラに乗ってもよろしいでしょうか?」

「そりゃ構わんが、何かあるのか?」

「……ここは、砂の中に引き摺り込む敵が多いですからね。砂の横を通るより、空中を移動する方が安全なんですよ」

「あー、ここはそういう感じか。おし、了解だ」

「それでは失礼しますね」


 そうしてルストさんがアルのクジラの上に乗って、空中を飛びながら移動開始となった。なんというか、ルストさんがこの大空洞……さっきエリア名が変わったとこだから、『砂時計の洞』だな。

 そのエリアとしての特徴をそれなりに知っているみたいだから、スムーズに進めているね。俺らだけなら、どう移動するのが安全なのかを確認するとこから始める必要があったしなー。


 このエリアはグラナータ灼熱洞とは違って地上を移動する方が危険で、空中を移動する方が安全だとはね。これもエリアとしての特徴か-。

 それにしても、よく見たら空中を漂ってる茶色いクラゲは意外といる……って、なんか毒々しい模様があるようにも見えるぞ?

 

「あぁ、言い忘れていましたが空中を浮遊しているクラゲにはご注意ください。こちらから手を出さなければ何もしてきませんが、下手に手を出すと集団で襲ってくる土属性と毒属性持ちのクラゲです。経験値は微妙なので、戦うのは割りに合いませんし」

「厄介なクラゲだな、おい!?」


 うーん、上に行けば行くほどクラゲが大量にいるし、砂が落ちてくる天井から飛んで戻るのを防いでいるっぽい? ……その可能性は充分ありそうだね。

 でも、光ってるサボテンの照らされて、ドーム状の地下空洞で大量に漂ってるクラゲっていうのも不思議な光景だな。


「ルストさんに質問です!」

「なんでしょうか、ハーレさん?」

「ルストさんの撮りたいスクショって、あのクラゲは関係ありますか!?」

「おぉ、よくぞ聞いてくれましたね、ハーレさん! えぇ、そうですとも! あのサボテンの発光が強まる時があるようになったらしいのです!」

「もしかして、その光が半透明なクラゲで乱反射するの!?」

「まだ確認出来ていませんが、それを期待していますね!」

「それがあるなら、私も撮りたいのさー!」

「それではハーレさん、一緒に撮ろうではありませんか!」

「もちろんなのさー!」


 うん、サファリ系プレイヤー同士で話が弾んでるよ。まぁそれは良いとして、サボテンが発光を強めるのか。

 うーん、それってどういう行動パターンだ? 発光だけを強めても意味があるとも思えないけど、不動種に関しては特殊だもんな。しかも成熟体ともなれば、全然内容が予想できない。


「……アル、発光を強める理由で何か思い当たるものってある?」

「……そうだな。このエリアで出てくる敵の種類にもよるが、植物系が多ければ光合成を発動しやすくするって可能性は考えられるが……」

「あー、周囲の敵の強化ってパターンか」


 ふむ、こんな拓けたエリアのど真ん中にいる成熟体の行動パターンだとすれば、その可能性はあり得そう。

 確か光合成は晴れた昼間くらいの明るさがないとまともに使えないけど、HPの回復量やステータスを強化する効果だったはず。一定周期か不定期かは分からないけど、周囲の敵が一時的に強くなる感じになりそうだな。


 うーん、この辺はレナさんやダイクさんがここで戦ってたはずだし、何か知ってないかな? まとめで確認してみるか?


「ケイさん、まだどこの群集もサボテン絡みの変化は把握出来てないと思いますよ。その行動パターンが確認されたのは、少し前ですので。……ですが、植物系が多いのは間違っていませんね」

「あー、そうなのか」

「みんな、あっちを見てかな!」

「ん?」


 何かを見つけたようなサヤの指し示す方向を見てみれば、灰の群集のPTが戦っている様子が見えた。その戦ってる敵は……ちょ!? 蔓が巻き付いているゴリラ!?

 いや、それだけじゃない。木が鎧のようになって全身を覆っているゾウの姿もある。ははっ、なるほど、このエリアはそう来たか!


「ここは単独じゃなくて、共生進化の敵が出てくるエリアか!」

「片方は植物系になってるっぽいのです!?」

「これはヨッシの出番かな!」

「あはは、そうかもね」

「へぇ、こりゃ面白いじゃねぇか」


 なるほど、なるほど。この『砂時計の洞』も『グラナータ灼熱洞』に負けず劣らずの特殊なエリアっぽいな。片方が植物系になっている共生進化の敵がメインとはね。


「はっ!? 落ちてきている砂が止まったのです!?」

「あ、これは丁度良いですね。落ち続けていた砂がどうなるかが分かりますよ」

「……はい?」


 え、ルストさんは何を言って……って、そういや気にしてなかったけど、上から砂が落ち続けていたら、この大空洞って埋まるよな? もしかして、砂を上に戻す何かがある?


「あ、流れてる砂が逆流して、さっきの砂が落ちてたとこの砂と一緒の塊になった?」


 これ、どう考えても不自然過ぎる動きだし、もしかして何かが砂の操作を使ってる? って、そんな芸当が出来そうなのって、あの成熟体のサボテンだよなー!?


「わっ!? 砂が落ちてきてた天井に穴に、大量の砂を叩きつけたかな!?」

「……もしかして定期的にああやって、落ちてきた砂を元に戻してるの?」

「えぇ、そうなりますね。ちなみに、あれで上に戻ろうとすれば死にますのでご注意を」

「……そりゃ、今のは死ぬよなー。あれ、多分あのサボテンがやってるよな?」

「……おそらくそうだろうな」


 成熟体の砂の操作で、望海砂漠にある入口の洞窟の天井に叩きつけられたらそりゃ死ぬよ! てか、砂を戻すことも含めて砂時計かー! いや、砂時計はひっくり返すから、今みたいに乱暴じゃないけどさ!


「さて、それでは戦場に辿り着きましたし、Lv上げを開始しましょうか」

「だなー」


 何だか色々とここのエリアの特徴にびっくりしたけど、目的のLv上げをやっていきますか。さて、補填で貰った経験値の結晶を使うかどうかが微妙に悩ましいとこだね。




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