第950話 望海砂漠にある入口


 とりあえずグラス平原への移動は完了っと。ここから望海砂漠に向けて移動だね。まぁ移動はアル任せだけども。


 さて、いつまでも共同体のチャットで内緒話ってのもあれだし、何か雑談でもしますか。このまま放っておくとルストさんの語りが延々とBGMになりそうだしさ。

 えーと、何か話題、話題……スキル強化の種の使い道とかを話しておきたい気もするけど、赤の群集のルストさんを交えてする話でもないか。どっちにしても今日はもう1時間ちょっとが限界だし、使用期限も特にないから用途は焦って決めなくてもいいしね。


 そうなると……あぁ、丁度良い話題があるから、これにしようっと。


「そういえば夜に砂漠に行くのは初めてだよな」

「あ、確かにそうかな?」

「元々、昨日来る予定だったのに、予定が狂ったのさ-!」

「……あはは。あ、そういえば夜の砂漠って暑さはどうなんだろ?」

「……そういや、その辺はどうなんだ?」

「今の今まで気にしてなかったな……」


 予定が狂って昼の日じゃなくて夜の日に行くことになったけど、砂漠での暑さへの適応については全然考えてなかったなー。自分から話題を振っといてなんだけど……。

 あれ、冗談抜きで適応はどうなるんだ? ……ふむ、辿り着く前にまとめで調べておいた方が――


「おや、皆さんは夜の砂漠は初めてなのですね。それでは同行させて頂いているという事で、情報提供をしましょうか。夜は冷気への適応が必要なほどではないですよ。そして暑さへの対策も不要です!」

「おー!? ルストさんが知ってたのさー!」

「ただ、ケイさんのコケは乾燥への適応をした方が宜しいかと。乾燥については昼間ほどではなくとも、夜でも乾燥はしてますので。他の皆さんはそのままで大丈夫ですよ」

「あー、コケは夜でも乾燥は駄目なのか。ルストさん、とりあえず情報提供ありがとな!」

「いえいえ、これくらいは構いませんよ!」


 ふー、ルストさんは長々と語り出すのや暴走癖がなければ結構接しやすいんだけどな。ま、この情報はありがたいね。

 何というか俺のコケだけの適応で済むなら、夜の砂漠の方が俺らとしては来やすいんだな。ふむふむ、これは覚えとこ。


「そういえば、皆さんはスキル強化の種はどう使うんでしょうか?」

「……ルストさん、悪いけど流石にそれは教えられないやつだから」

「あぁ! 確かにそれはそうですね! それは失礼しました! それにしても普段は1人で動いても平気ですが、こうしてただ待っているのも暇ですね。……ふむ、それでは皆さんがやってくるまで、星空の撮影を行いましょう!」


 ぶっちゃけまだ使い道は考えてないけど、流石に赤の群集のルストさんが一緒にいる時にみんなで相談出来る内容じゃないしなー。


 ん? 共同体のチャット欄が光ってるから、誰かそっちで話題があるっぽいね。ルストさんはスクショの撮影を始めたみたいで急に静かになったし、合流するまではチャットで話しててもいいか。

 移動はまっすぐだし、途中の敵は雑魚しかいないし、徘徊して飛んでいる大型な成熟体さえ警戒してたら大丈夫なはず。


 アルマース : 流石にルストさんには聞かせられんからこっちにするが、みんなはスキル強化の種はどう使う予定だ?

 ケイ    : まだ未定だなー。水の操作か土の操作をLv7にするか、水流の操作をLv5にしてみるか、成熟体への進化後に温存しとくか、それとも他のスキルを上げるか、色々と悩む……。

 ハーレ   : 私は成熟体まで温存しておくのです!

 サヤ    : 私も基本的には温存のつもり。ただ、成熟体へ進化タイミングで使う事も考えてるかな。

 ヨッシ   : あ、ハーレが出したっていう新しい進化先と同じようなやつ?

 サヤ    : うん、そうなるかな。


 あー、そういやハーレさんは昨日の夕方にヤナギさんから交換して手に入れたスキル強化の種で、新しい進化先が出てたもんな。

 確かその進化先の出る条件は応用スキルの連撃かチャージでLv3以上を2つだっけ。自力で達成出来そうならスキル強化の種は使わないけど、無理そうならスキル強化の種を使うってとこか。


 サヤ    : ヨッシはどうするのかな?

 ヨッシ   : んー、私は地味に毒魔法Lv7のトキシシティ・ブーストが気になってるね。電気は昇華になったから同族統率を上げたいんだけど、さっきの1戦を見てたらね?

 ハーレ   : いか焼きさんの毒は強力だったのさー!

 アルマース : なるほど、自分で使ってみたくなった訳か。

 ヨッシ   : あはは、まぁそういう事だね。

 ケイ    : 他の人の戦い方を参考にするのもありだと思うぞ-。


 実際、トキシシティ・ブーストでレナさんと弥生さんのどちらにも毒を入れて、レナさんを場外にして勝ってたもんな。どんな相手にも絶対に有効なほど強力ではないだろうけど、それでも優位性を高めるためには有用か。


 ヨッシ   : ただ、もう少し考えてみてからでも良い?

 ハーレ   : もちろんなのさー!

 サヤ    : 焦って決める必要はないかな。

 ケイ    : だなー。そういやアルはどうすんの?

 アルマース : 俺もまだ考え中だ。ケイ達のテスト明けまで、スキルの熟練度を稼ぐ時間は十分あるし、まだ突撃の特性も付与出来てないしな。

 ケイ    : ま、アルは急ぐ理由もないか。

 アルマース : そういうこった。おし、そろそろ到着するから、この話題はこれくらいまでだな。


 おっと、スキル強化の種の話をしてる間にあっという間に望海砂漠への切り替え地点の付近まで……って、なんでルストさんの木が横倒しになってるの? あ、でも根で完全に倒れないように支えてはいるのか。

 とりあえずアルが速度を落としてルストさんの真横に降りていってるけど、ルストさんの状況が謎過ぎる。


「……ルストさん、何やってんの?」

「おや、皆さん、思ったよりも早かったですね。いえ、私が星空のスクショを撮ろうとすると、地味に葉っぱが映り込む事が結構ありましてね。それを避けるために、こうやって横倒しになってるんですよ」

「あー、そういう理由なんだ」


 うん、理由を聞いてみれば変な理由ではなく、至極真っ当な理由だった。確か木だと幹の真ん中辺りが視点になるはずだから、空を見上げたら自分の葉っぱが邪魔になるというのも分かる。


「あー、ルストさん、理由は分からなくはないんだが、そこまで真横にする必要もないだろ? 少し傾かせる程度で良いんじゃねぇか?」

「……はて、真横? あぁ! これは先ほど流れ星があったので、それに合わせて角度を変えからですね、アルマースさん! 確かにこれは驚かせる光景でした!」

「ルストさん、流れ星があったのー!?」

「えぇ、そうですね。しっかりと撮っていますので、ハーレさん、ご覧になりますか?」

「はい! 見たいです! みんな、見てても良いよね!?」

「おう、構わんぞ。ケイ、良いよな?」

「俺も問題ないぞー」

「それ、私も見たいかな!」

「私も見ていい?」

「えぇ、もちろんですとも!」


 思いっきりハーレさんが興味を惹かれてるし、駄目という理由もないか。サヤとヨッシさんも乗り気だし、見てる間に俺は乾燥への適応をしておきますか。


「やったー! ケイさん、固定の解除をお願いなのさー!」

「ほいよっと」


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 72/76 → 72/82(上限値使用:1)


 よし、ここから先では使わないだろうし、ここで岩でのみんな固定は解除良いタイミングか。固定の解除になったサヤとハーレさんとヨッシさんは、起き上がったルストさんに星空のスクショを見せてもらいにいったね。


「さて、今のうちに適応しとけよ、ケイ」

「あー、アルもそういうつもりだったのか」

「ま、時間の節約にもなるしな」

「そりゃそうだ」


 大して時間はかからないとはいえ、みんながスクショを見てる間にやるべき事を済ましておく方が楽だもんな。……正直に言えば、ルストさんが撮った星空のスクショに興味はあるけどさ。

 ま、ルストさんのスクショならコンテストに出してくるだろうし、運営による事前審査も突破してきそうだしね。その時に見れたら良いなって事にしておこう。


 という事で、望海砂漠へと突入する前に俺だけは必須な適応をやっていこう。乾燥への適応用の特性の種は持ってるから、それを使うのみ!


<『特性の種:乾燥適応』を使用します>


 さて、これで2時間は乾燥した場所でも大丈夫になった。効果時間に誤りがあって修正はされて、今はちゃんとした効果時間になってるからね。2時間もあれば、今日は死なない限りは万全だ!


「あ、そうだ。ルストさん、地下の大空洞の中って乾燥は大丈夫なのか?」

「それなら大丈夫ですね。完全に地下なので、砂漠とは別物になってますよ」

「お、そうなんだ?」


 正直ちょっと意外だったけど、まぁ地下の大空洞が乾燥への適応が不要なら……って、どっちにしてもそこまでの移動の最中に必要だから考えるだけ意味が無い気がしてきた。うん、気にしないでおこう。


「それでは準備も整ったようなので、出発しましょう!」

「「「「「おー!」」」」」


 なんだか流れでルストさんの号令になったけど、特に問題があるわけでもないから別にいいや。それにしても望海砂漠の地下の大空洞、どんな風な場所なのかが楽しみだね。


 とりあえずルストさん以外はアルのクジラの背中に戻り、ルストさんは普通に地面を歩いて進んでいく事になった。ルストさん、砂漠の砂で足……というか、根を取られる事は……うん、どうとでも回避しそうだから心配はいらなさそう。


<『グラス平原』から『望海砂漠』に移動しました>


 そうして望海砂漠へと突入したけど……暗い砂漠とか殺風景過ぎる! ここ、砂丘の上まで行けば絶景の海が一望出来るけど、夜だと景色は一切楽しめそうにないな!


「さて、まずは入り口となる流砂が流れ込む洞窟を探しましょうか」

「ん? ルストさんだったら場所を把握してそうな気がしてたんだけど、そうでもないのか?」

「洞窟の場所自体は把握はしてるんですけど、どこでいつ流砂が発生するのか、そのタイミングはまだ把握してないんですよ」

「あー、そういう感じか」


 ふむふむ、確かハーレさんはどこの入り口からでも流砂に乗れば同じ大空洞の中に入れるとは言ってたけど、その流砂が発生するタイミングがまだ判明し切ってないのか。

 もしくは灰の群集の俺ら相手に情報を与えないように……うん、考えてはみたもののルストさんの場合はそれはない気がする。多分、普通にまだ把握してないだけだな。


「ふっふっふ、ルストさん! ここに、それを無視できる人がいるのです!」

「もしや、ケイさんさんは砂の操作持ちですか!?」

「あれ? ルストさんは知らなかったっけ?」

「砂の操作は見た覚えはないですよ? ですが、土の昇華を持っているのなら気付いても良かった内容ではありますか。それでは、一番近くの入口から入りましょう!」


 そう言いながらルストさんは東の方へと、砂を踏みしめて根で歩いていく。まぁ土の昇華を持ってたら、岩の操作と砂の操作は両方持っておきたいもんだし、隠すほどの事でもないか。

 それに入口の位置を把握済みのルストさんの案内があるのは純粋にありがたいもんだよね。アルもルストさんを追いかけるように移動開始!


「ところでルストさん、具体的に俺は何をすりゃ良いんだ?」

「ケイさんは洞窟の中を埋め尽くすように、砂漠の砂を洞窟の中に押し込んでいただければ構いませんよ。それで入口はこじ開けられますので、そこからは皆さんは砂に流されて行って下さい。あ、結構な高さから落ちる事になるので、その点はご注意を」

「え、落ちるのか!?」

「えぇ、落ちますよ。入口は大空洞の天井部分ですからね。ただ、自分から落ちたという判定になるので、ダメージはありません」

「そこは相変わらず、自分では死ねない仕様かな」

「……あはは、そうみたいだね」

「ルストさん、参考までに聞くが、戻る方法はどうなってる?」

「横穴があるので、そこから脱出は出来ますよ、アルマースさん。ただ、ログアウトで前のエリアに戻されるエリアなので、そっちの方が早いですね」

「……なるほどな」


 ふむふむ、ここの大空洞もグラナータ灼熱洞と同じで、その場ではログアウトさせてくれないエリアか。一応地上に戻る為のルートもあるみたいだけど、ログアウトして戻される方が圧倒的に楽だね。


「さて、見えてきましたよ!」

「お、これか」


 前に望海砂漠に来て大きな砂丘の手前で見つけた小規模な洞窟と同じような洞窟があった。うーん、これだけ見るとすぐに先の見える短い洞窟にしか見えないね。

 これ、そもそもアルとかルストさんは通れるのか? そこまで広くはないぞ? というか、洞窟自体がかなり砂に埋まってない?


「それではケイさん、この洞窟の中を砂で埋め尽くすように砂の操作をお願いします。魔法産ではなく、周囲の砂を使って下さいね」

「ほいよっと」


 ハーレさんが入る手順を聞いているとは言ってたけど、完全にルストさんが案内役になってるね。ま、ここはルストさんを信じて言われた通りにやっていきますか。


<行動値を19消費して『砂の操作Lv3』を発動します>  行動値 63/82(上限値使用:1)


 えーと、周囲の天然の砂であの洞窟を埋め尽くすように操作していけばいいんだな。近くの大量にある砂を流砂のように洞窟の中に流していって……ん?

 それなりの量の砂を流し込んでたら、途中から洞窟が砂に埋もれてる感じがなくなった? というか、なんか洞窟内の砂の量が減ってきてない? 


「おい、ケイ。砂がなくなってるけど、何やってんだ?」

「いや、アル、それは俺のせいじゃない!」

「……は?」

「ケイさんの言っている通りです。これは洞窟内に穴が開き、中に入る為の流砂を作り出しただけです! 皆さん、出来上がった流砂に飛び込んで下さいね!」


 って、そう言いながらいつの間にか俺の操作とは別に、洞窟内へと流れ込んでいる流砂が発生してる!? 砂の操作は、あくまでこの流砂を作り出す為のきっかけかー!

 しかも埋もれてた洞窟内の全体像も見えてきた。……ははっ、洞窟の大半が砂に埋もれてただけで、埋もれてた部分は十分広いじゃん。これならアルでも普通に通れそうだ。


「聞いてた通りなのさー! それじゃ、えいや!」

「あ、ハーレ、待ってかな!」

「……うん、ここまで来たら行くしかないよね。えい!」

「さーて、俺らも行くぞ、アル!」

「ここで躊躇はしてられんか!」


 そうしてみんなで流砂の流れ込む洞窟内へと飛び込んでいった。さて、この先の大空洞はどうなってるのか楽しみだな!



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