第941話 タッグ戦の会場の準備
とりあえず無秩序に集まっている人達を、灰のサファリ同盟、青のサファリ同盟、そして赤の群集の新たに出来たルアーさん率いる『リバイバル』の3つの共同体が中心となって整理をしていくようである。
それとは別に全群集をごちゃ混ぜにした場所も用意して、そこの整理はレナさんがやっていくみたいだ。
「レナさん、そちらの整理は手伝いますよ」
「およ? ジェイさん、いいの? ジェイさんの方で対戦エリアの範囲の指定をするんだと思ってたんだけど?」
「スリムがそこをやりたがってるようなので、任せる事にしようかと。構いませんよね?」
「ふーん? タッグ戦に出るスリムさんに任せるって、また何か企んでなーい?」
「いえいえ、特にそんな事はありませんよ? 弥生さんはいかがです?」
「んー、まぁ良いんじゃない? 企んでるとしたら、ジェイさんじゃなくていか焼きって気もするし、ここはあえて乗ろうじゃない!」
「弥生がそれでいいなら……わたしもいいかなー? うん、ジェイさん、それで問題ないよー!」
「本当に何も企んではいないのですが……それが私への印象ですか……」
うーん、ジェイさんがそう言っても信用が出来ないよなー。さっきだってダイクさんの今の実力を測ろうとしてたし、いつ何を仕掛けてきても不思議じゃない。まぁ出場者であるレナさんと弥生さんが問題ないというのであればそこは良いけどさ。
それにしても、この状況で対戦エリアの範囲指定で仕込める事かー。……既に地面の中に何か罠を仕込んでて、そこに誘導する為? いや、流石にそれはギャラリーから反感を買うだろうし、無いと思う。
あー、今いる場所は土が全然剥き出しになってない場所だし、すぐに天然産の土が使えない場所を選んだ? ふむ、この辺はあり得そうな可能性だけど……なんとも断定し切れないね。
「ともかく了承は得られました。斬雨、スリム、引き続き対戦エリアの設定はお願いしますよ」
「おう、任せとけ!」
「ホホウ、今のは一直線に逃げ過ぎれるので、もう少し範囲は抑えた方が良さそうなので。かといって狭過ぎるのもあれなので、難しいところですな」
「俺は誰かに変わって欲しいんだけどー!?」
「ダイク、頑張ってねー! あ、弥生、ケイさん、そっちでスリムさんが指定した対戦エリアの範囲に目印をつけてくれない? 手段は任せるからー!」
「うん、任せて、レナ!」
「ほいよっと!」
とりあえず俺らにも役割はあったようである。ふぅ、何もする事なくボーッと待ってるだけになるかと思ったけど、やる事があって良かったよ。
というかスリムさんって、審判という名でただダイクさんが追いかけ回されているを見てるだけかと思ってたけど、そうでもなかったぽいね。どうも逃げの一辺倒にならない範囲かつ、狭過ぎないように対戦エリアの範囲をどのくらいにするかを見極めてるようだ。
うーむ、何かを企んでいるのか、そうでないのか、全然判断がつかないな。……こりゃ実際にタッグ戦が始まってみないとなんとも言えないね。
ま、とりあえず今は任された事をやっていきますか。レナさんは目印って言ってたし、多分前に常闇の洞窟でバトルロイヤル風に戦った時みたいに周りを囲む形が良さそうかな?
「さて、手段は任されたけど、どうやって目印を作る?」
「はい!」
「ハーレさん、案をどうぞ」
「溝を掘っていくのはどうですか!?」
「まぁ目印としてはそんなとこかー」
「目印って言ってたし、実際に使う時は壁とかを用意するのかな?」
「多分レナはそのつもりだろうねー。これだけ人がいるから、どれかの属性に統一して、ー周囲をぐるっと覆う感じじゃない?」
ふむふむ、まぁやっぱりそういう発想になるよなー。大型な種族じゃないけど、4人で大暴れするなら結構な広さは必要そう。25メートルのプールくらいじゃ狭そうだし、野球の外野くらいまでの広さは欲しいか。
あー、でもその範囲の周りを囲う壁は結構な大人数でやらないと無理そうだよな。あぁ、だからこその目印か!
「溝以外にも、誰がどこまでの壁を作るかの目印が欲しいとこだな」
「あ、アルに先に言われた……」
「考える事は同じって事か。まぁ担当部分の切り替えの場所は溝を掘らないって手段もあるが……」
「……それだと、パッと範囲の設定はしにくいよね?」
ふむ、確かにそうだよなー。流石に何十メートルもは1人で操作は操作は出来ないし、視界から遠い位置になればなるほど精度は甘くなる。
そういう点から考えるなら、溝の有無よりは他に何か目立つような物があればいい。例えば天然の岩を等間隔で並べるとか。うん、今からならその為の岩を確保しに行っても間に合う……あー、でも持ってくるのも手間ではあるよなー。他に代わりに使えそうな……。
「あ、竹を刺しておくのはどうだ?」
「お、そのケイの案は良いんじゃねぇか?」
「ケイ、それは良いアイデアかな!」
「それでいくのさー! ヨッシ、竹ってまだあったっけー?」
「ごめん、今は手持ちはないや」
「よし、それなら桜花さんに連絡して調達を――」
「あ、ちょっと待って、アルマースさん。シュウさん、確か未加工の竹はいくつか持ってたよね?」
「少しだけだけど、あるにはあるね。だけど、弥生、これじゃ足らないかもしれないよ?」
そう言いながらシュウさんが何本かの竹をインベントリから取り出してくれた。えーと、長めの竹が5本程度か。んー、多少短くして地面に刺すとしても、これじゃ流石に足りないだろうな。
「んー、止めたけど、ごめん! 足りなかったみたい!」
「いや、問題ないぞ、弥生さん。とりあえずすぐに使える分としては充分だろうし、俺はどっちにしても桜花さんとは連絡を取る必要があるからな。その時に竹の調達を頼んでおく」
「アル、桜花さんに調達を頼むのは良いけど、竹とのトレードはどうすんの?」
「そこは桜花さんと応相談ってとこだが、まぁ後から現物を調達して受け渡しってのでもありだろ」
「あー、確かにそれもありか。みんな、それでも良い?」
「問題なしなのさー!」
「まぁそれくらいなら問題ないかな?」
「一応、私達は主催側だしね」
よし、みんなの同意は取れたな。前に竹林に行った時は攻撃的なタケノコやパンダが面倒ではあったけど、決して採集出来ない訳じゃなかった。
竹林はミズキの森林の北側にあるから割と近いし、それくらいならなんとかなる範囲だろう。まぁこの辺は桜花さん次第にはなるけど……。
「そういう事なら、僕らも――」
「いや、シュウさん、追加分は俺らでどうにかするぜ。もう出してもらってるしな」
「……そうだね。それじゃ今回は任せようか、アルマースさん」
「おう。って事で、少し桜花さんとフレンドコールをしてくるから、今ある竹で作業を始めといてくれ」
「ほいよっと」
「あー、桜花さんか? おう、中継の件もなんだが、他にちょっと依頼が出来てな? ちょっと――」
そうしてアルは桜花さんへとフレンドコールをかけて、交渉を始めたね。ルストさんだけは空中の小石に乗ったままスクショを撮り続けてるけど……弥生さんもシュウさんも止めてないし、まぁ良いか。
「さて、追加の竹はアルと桜花さんに任せるとして、今ある竹を打ち込んでいきますか!」
「このままだと流石に長過ぎるし、とりあえず半分くらいに切る?」
「ヨッシ、それなら私がやるかな!」
「あ、サヤさん、待った。そういう事なら、上に適任がいるよ」
「上って……あ、斬雨さんかな!」
「あー、そりゃ確かに適任かもな」
サヤのクマの爪で斬っても斬れるけど、爪の本数の分だけ斬ってるからなー。その点、タチウオの斬雨さんだと斬る部分は1ヶ所のみになる。
まぁスキルとしての威力は特に変化はないみたいだけどねー。爪だと攻撃範囲が広めになり、そうでなければ一点集中の斬撃になるって違いくらいか。同じスキルでも種族による違いの部分だな。
とは言っても、そのくらいの切断のロスは極端に影響するほどでもない。あー、もしかして弥生さんの狙いとしては、不本意に追われ続けているダイクさんをそろそろ解放する為か?
……うん、止める役のレナさんやジェイさんが全然こっちに注意を払ってないもんな。流石に結構な時間を追われ続けているダイクさんの役目も終わりで良いよね。
「斬雨さん、ちょっといいー?」
「ん? 弥生さん、なんか用か?」
「今だ! 全力逃避!」
「ホホウ!? ダイクさん、どこへいくので!?」
あ、逃げ回ってたダイクさんが水のカーペットを解除して、灰の群集の観覧席の方に逃げ込んでいった。うーん、見事な逃げっぷり。
やっぱりもう嫌になってたっぽいな、ダイクさん。……今更だけど、もっと早めに俺らの方から止めてあげるべきだったかも。すまん、ダイクさん!
てか、いつの間にやら結構それぞれの群集の観覧席がかなり整理されてるなー。大型種族の人は後ろの方に、小型種族の人が前の方にって感じに分かれてるね。
PTや共同体で固まってるとこもあるけど、そういうとこは大型種族の人の上に乗るとかで工夫してるっぽい。
「ちっ、人混みの中に逃げやがったか。……スリム、範囲の目安はどうだ?」
「ホホウ、それは大体決めましたので、問題はないですな」
「……なら、本気になっちまう前に、この無茶はやめられるな。で、弥生さん、何の用だ?」
「えっと、ちょっとここに並べてる竹を真っ二つに斬ってもらえない?」
「それくらいなら別に良いが……自分達でも斬れるよな? なんで俺だ?」
「んー、流石にそろそろダイクさんを解放してあげようと思ってねー。ほら、レナもジェイさんも、斬雨さんがそろそろ痺れを切らしてるのに気付いてて、お互いに牽制し合っててチキンレースしてるでしょ?」
うん、レナさんとジェイさん、何やってんの!? しかもチキンレースって、どっちが先に全力を出すかの我慢比べをしてたんかい! タッグ戦の準備中に何やってんですかね!?
しかもサラッとそれに気付いて止めに入る弥生さんもとんでもないな……。赤の群集としては放置した方がメリットはありそうなのにね。
「……あー、そこまでバレてんのかよ」
「ちなみに、ドサクサに紛れてわたしとシュウさんが流れ弾にどう対応するか狙ってたのも気付いてるからねー? 斬雨さん、無駄に大振りしてこっちの様子を確認し過ぎだよ? ……不本意っぽい感じもするけど、ジェイさんの指示?」
「……おーい、ジェイ。完全に弥生さんに見抜かれてるぞ、お前の作戦。だからやめとけって言ったのによ……」
「場外乱闘がご希望なら、シュウさんがいる時にしてねー?」
「あぁ、斬雨さん、僕からの伝言もよろしく頼むよ。『対人イベント以外で弥生に手を出すなら、覚悟しろ』ってね」
あ、今のシュウさんの声音はキレてる時のヤバいやつ。弥生さんが単独だったらストッパーになるシュウさんがいないし、シュウさんがいれば今度はシュウさん自身が危険な相手となる訳かー。
そしてジェイさん、やってる事がやり過ぎになってませんかね? ……なんか、ちょっと形振り構わなさ過ぎてない?
「ホホウ、最近のジェイさんは少し成果を焦り過ぎなので……」
「……ジェイ、これ以上変に探ろうとするのはやめとけ。思いっきり地雷を踏み抜き……あー、了解だ。弥生さん、シュウさん、ジェイが一度こっちに来るってよ」
「うん、分かったよ。あ、とりあえず竹を斬るのはお願い出来る? 口実には使ったけど、斬って欲しいのはホントなんだよねー」
「ま、それくらいならお安いもんだ。『連斬撃』!」
話しながら上空から降りてきた斬雨さんが手早く竹を全部真っ二つに斬ってくれた。……割るような感じで縦に真っ二つに。
「……あらら?」
「って、斬雨さん!? 斬って欲しい方向は縦にじゃなくて、横になんだけど!? これ、目印として地面に刺すのに使うんだけど!?」
「え、ケイさん、マジか!? わざわざ俺に頼むんだから、爪だと支障があるそっちかと……」
「何をやってるんですか、斬雨!?」
あ、岩に乗ったジェイさんがやってきた。なんか、妙な事になってきたけど、目印として竹を地面に刺すだけでなんでこうなった!?
「弥生さん、すみません! 代わりの竹は私の方で用意しますので……」
「まぁそこについてはどうとでもなるから大丈夫だよー! 元々数が足りてなかったしさー。それよりも……」
「弥生、そこから先は僕が言うよ」
「あ、そう? それならシュウさんに任せるよ」
「ここは多分僕の方が適任だからね。さて、ジェイさん」
「……何でしょうか、シュウさん?」
何やらジェイさんとシュウさんが睨み合ってるような状況になってきた。……いや、だから、何がどうしてこうなった!?
「手段と目的を取り違えると、居場所は無くなるよ? 焦り過ぎや気負い過ぎは、目を曇らせるからね。今、そういう自覚はあるんじゃないかい?」
「……それをあなたから言われるとは思いませんでしたよ」
「僕はかつてそれで居場所を壊したし、ここでも壊しかけたからね。だから、今の段階で警告。あの時の、あの連中と同じ道は辿らないように。……流石にさっきのはスルー出来る範囲を超えかけているよ?」
「……分かって、いますよ!」
「どこがだ! バカジェイが!」
って、なんでこのタイミングでジェイさんが俺の方を見てくる!? え、もしかして俺が関係してんの!? あ、思いっきり斬雨さんがジェイさんを斬りつけた?
「斬雨、何をするんですか!?」
「あー! くっそ、もう我慢してられるか! シュウさんに焦り過ぎだって警告されてる意味が全然分かってねぇじゃねぇか!」
「……くっ! 斬雨には――」
「俺にはジェイの焦りは分からねぇってか! お前から見て、俺はそんなに頼りねぇか? 青の群集の他の連中も頼りねぇか? だから赤の群集が増強されて焦ってんのか!? 検証をしてた最中に灰の群集に先にその情報を出されて焦ってんのか!? それで過剰に情報を探るような真似を増やしてんのか!? もしそうなら、本気でぶっ飛ばすぞ!」
「そんな事は思っていません……そんな事は……そんな……事……は……」
「だったらはっきりと否定しろよ! なぁ、ジェイ!」
「………」
そこでジェイさんは黙り込んでしまった。なんというか、ジェイさんはジェイさんで色々焦ってたっぽい? そして斬雨さんの言葉に、上手く言葉が返せない様子である。
てか、検証してた最中に灰の群集から情報って……フェニックスの件だよな。うーん、俺自身が全く無関係って訳じゃないみたいだけど、かといって俺にどうしろって話だぞ、これ……。
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