第940話 打ち合わせ開始


 青の群集の出場者はどちらも打ち合わせに加わっていないけど、とりあえず関係者は集まった。集まったのは良いんだけど、落ち着かない、この状況。


「ちっ、ちょこまかと素早い大根だな!」

「ホホウ、中々当たりませんので」

「だー!? だから何で俺は追われてんの!? これ、どうなったら終わり!?」

「ホホウ、お互いにどちらかが一撃を入れたら終わりですので」

「そっちが一撃入れてきても良いんだぜ?」

「レナさん、絶対になんか裏で仕込んでるよな、これー!? てか、逃げるだけで限界だから!」

「さぁ、どうだかな!」


 いか焼きさんは時間の都合で仕方ないとしても、なんでスリムさんは斬雨さんに追われるダイクさんという対戦の判定役をやってるんだろう?

 周囲をグルッと色んな人達に囲まれてるのも落ち着かないし、だだっ広いタッグ戦の開催予定地のハイルング高原で打ち合わせをする事自体が失敗だったか? 


「……何やら面白い事になってますが、このままでは埒があきませんね。それではこうしましょうか! 『アースクリエイト』『並列制御』『土の操作』『根の操作』!」


 そんなルストさんの声が聞こえたと思ったら……空中に浮かぶ3つの小石を足場にしてルストさんが立っていた。いや、こっちはこっちで無茶な事をしてるんだけど!?


「……アル、あの小石3個だけの上に木で立てる?」

「……やってみないとはっきりとは言えんが、あれは出来る自信はねぇな」

「……だよなぁ」


 色んな人が小石を足場に駆け上がるみたいな事はするけども、木でそれをやってるのは流石に見たことがない。……よくあの巨体を、あんな小石3つだけでバランスが取れるもんだな。


「さーて、それじゃ打ち合わせを始めよっか! えっと、主催の代表はケイさんで、わたしと弥生はそのまま出場者で、ジェイさんがスリムさんといか焼きの代理って事で良いよねー?」

「問題ないよー!」

「えぇ、問題ありません」


 うん、俺が主催代表なのも、レナさんと弥吉さんが出場者なのも、そこら辺は問題ない。時間的な問題でここに来れないいか焼きさんも仕方ないだろう。でも、ここは納得いかない!


「俺が代表なのはいいけど、なんで出場者のスリムさんの代理までジェイさん?」

「ホホウ、それは単純に面倒なので」

「面倒って、そんな理由ー!?」

「……ケイさん、そこはご理解下さい。元々、このような形で再度打ち合わせが必要になるとは思っていませんでしたし……」

「ホホウ、予定としてはギリギリまでLv上げをして、今の段階でここに来る予定はなかったので。それに必要な事は既に済んでいるので」

「……あー、そういう理由」


 なるほど、スリムさんとしては予定外の今の状況はいまいち納得してない訳か。本来ならこのタイミングで、ログイン早々に大急ぎの打ち合わせなんて予定になかったんだしなー。

 主催側がそういう放り投げ方をするのは流石に無しだけど、出場者なだけのスリムさんにとってはジェイさんに参加する意思があると伝えるだけで問題はないのか。……実際、いか焼きさんもそうなってるしなー。


「まぁレナさんから、いか焼きさんの予定通りの時間での開催なら問題ないと伝言をしてもらっていますし、スリムもその点は同意しているので、私が代理でも問題ありませんよ」

「あー、確かにそれならそうなるのか……」


 って、あれ? スリムさんの意思確認が出来たし、この時点で出場者全員の予定通りの時刻での参戦意思が確定? そうなると、これ以上何を確認すればいいんだ?


「もう打ち合わせが終わったのさー!?」

「……あはは、そうなるのかな?」

「これは、予定通りって事になるよね?」

「……集まる意味あったのか?」

「無かったっぽい気がする……」


 事前にフラムに頼んで赤のサファリ同盟のリアルの繋がり経由で連絡を取ってもらっていたのが役立っていたっぽい。

 うん、まさかスリムさんの都合を聞くだけで終わるとは……。いや、そりゃスリムさんが面倒だと言う訳だよ。


「さーて、それじゃ予定通り、22時からこの場所で、わたしと弥生のタッグと、スリムさんといか焼きのタッグで勝負開始って事で、この打ち合わせは終了ー!」

「あ、マジで打ち合わせが終わった」

「まぁ打ち合わせはこれで終わりで問題ありません。どちらかと言えば、この混雑の整理の方が重要ですね」

「あー、この混雑具合は流石に良くないか……」


 今は空中でダイクさんが斬雨さんに追いかけ回されている様子を集まってるみんなが見てるけど、それがなければ観戦しやすい場所の取り合いになってる可能性だって……って、そこが狙いかー!


「……上のあれは混雑整理をしやすくするのが目的? ジェイさんとレナさん、どっちの発案?」

「え、わたしは何もしてないよ?」

「今回は私の独断です。私の方はレナさんからフレンドコールでスリム以外の意思は分かっていましたし、スリムがログインして予定通りで良いと分かった時点でもう開催は確定していましたからね。誰か1人でも無理という情報があれば、集まる理由もありませんし」

「……あー、そりゃそうだ」


 なるほど、一番最初に全員の意思確認の内容を把握したのがジェイさんだったんだな。そりゃその情報があれば、打ち合わせがすぐ終わるなんて分かるよね。

 俺らの方はスリムさんの都合が分からなかったから、こうやって集まる必要があったけど……。延期や中止や出場者変更があったから集まったけど、予定に一切の変更が無ければすぐに終わって当然か。


「ちょっと待ったー!? え、レナさん、何もしてねぇの!? じゃあ、なんで俺が狙われてんの!?」

「いえ、次の競争クエストに向けて、前回の総力戦でケイさんの他に水の昇華を持っていたという、あなたの実力を見たくてですね?」

「ちょ、俺をピンポイントで狙ってきてるんかい!?」

「あ、やっぱりそんなとこだったんだね」

「って、レナさんも気付いてたのに、連結PTを組んだのかー!?」

「いやー、こっちも今の斬雨さんの動きを見ておきたかったからさー。でも、斬雨さん、手を抜いてるよねー?」

「……それはそちらもでしょう? わざわざダメージが無いように連結PTを提案しましたよね」

「そうすればダイクは色々と警戒して、無理に全力で戦う事はないからねー」

「いや、そうだけど! なんか色々と釈然としないんだけど!?」


 まぁ普段からちょいちょいレナさんに追いかけられてたら、回避って上手くなりそうだけど。というか、普通にダイクさんの操作精度はかなり高水準だと思うけどなー。

 でもこれで青の群集はダイクさんの事を警戒してるのが分かった。……そう思わせる事すらも罠な可能性もありそうな気もするけど。


 それにしても相変わらず油断ならないな、ジェイさん! それを逆に利用しようとしてたレナさんもとんでもないな!?

 レナさん、自分が強い事に無自覚なフリをするのをやめたのか? あー、この後弥生さんとタッグで戦うんだから、流石にそれだと誤魔化し切れないのかも。


「まぁその辺りの駆け引きは抜きにしても、混雑の整理にご協力をお願いしますよ。お集まりの皆さん、上で戦ってる2人でタッグ戦の大まかな範囲を決めていきますので、それに合わせて移動をお願いします!」

「そういう真っ当な理由があるなら普通に頼んでくれない!?」

「って事で、全力でやろうぜ、ダイクさんよ!」

「いやいやいや、そんなに強くねぇからな、俺!?」

「ここまで避け続けておいて、そうとは思えんがな!」

「ダイク、頑張ってねー!」

「ぎゃー!? リタイアはさせて――」

「それは却下! 範囲設定はしとかないと、観てる人を巻き込みかねないからねー!」

「やっぱりー!?」


 あ、なるほど、そういう役割もあるのか。今は無造作に集まってるだけで、一応真ん中が空洞にはなってるけど、タッグ戦をするにしては狭いもんな。


「さてと、開始までに観客席の整理をしていかなきゃねー!」

「そうですね。レナさん、どのように整理していきましょうか?」

「んー、とりあえず、無秩序にやると混乱するから仕切り役が欲しいけど、ここはわたし達でやろっか」


 あれ、なんだろう? 地味にジェイさんに俺らが除外された気がする? いや、確かにこういう整理は得意とはしてないけど、いきなり無言で戦力外通告って酷くない!?


「……ケイさん、変な誤解をされているような気がするので説明しますけど、『グリーズ・リベルテ』や弥生さん達は大暴れするという認識ですので、こういう整理には向いていないという判断ですからね」

「そういう認識のされ方をしてんの!?」


 ちょ、暴走する弥生さんやシュウさんやルストさんと同じ分類なの、俺ら!? てか、そのイメージってジェイさんが灰の暴走種なんていうあだ名をつけたせいじゃない!?


「……いいさ、大人しくしてるさ」

「あ、ケイが拗ねたかな」

「ま、良いんじゃねぇの? 楽は出来るんだしよ」

「そうなのさー! 他の群集からどう呼ばれても気にしないのです!」

「とりあえず私達は待機だね」


 みんなはあんまり気にしてないっぽい。まぁ作戦の指揮は出来るけど、こういう大人数の混雑の整理の誘導とかは慣れてないし、得意な訳でもないから、そこら辺が得意な人に任せた方がいいかー。


「んー、とりあえず場所をいくつかの区画に分けて……」

「レナさん、私達の方で仕切りを手伝いましょうか?」

「あ、カグラさん、お願い出来る?」

「はい、お任せ下さい。灰のサファリ同盟・雪山支部のカグラです! ログインした灰のサファリ同盟の方、観客席の区分けにご協力下さい! 他の方々は、その案内に従って――」

「おいおい、灰のサファリ同盟だけで仕切ってんなよ」

「あぁ、ジークフリートさんですか。……何か問題でも?」


 あー、カグラさんって雪山支部で氷属性の松の木の不動種の人だったよな。確かあの松の木は2ndだった筈で、今は1stのタカっぽい。

 そして、そこに声をかけているジークフリートという大きなトンボの人。……あれ? どこかで会った覚えがあるんだけど、どこだっけ? えーと、あ、青のサファリ同盟所属になってるし……あ、思い出した! ネス湖の共同探索の時に見たジークさんか!


 なんか険悪な雰囲気っぽいようで、そうでもないような微妙な雰囲気が広がってるけど、ジークさんがカグラさんに難癖をつけるっていうのも変な感じだな? サファリ同盟同士って仲が悪い印象はないんだけど……。


「いやいや、問題大ありだっての。そういう事は俺ら青のサファリ同盟にも手伝わせてもらおうか! やるぜ、野郎ども! あぁ、ジェイはすっこんでろよ!」

「……えぇ、今回はお任せしますよ、ジーク」

「あのー、野郎ばっかじゃないんで、そこのとこはよろしくお願いしますよ、ジークさん」

「んだよ、セラか。そこは気にしなくても良いだろ」

「気にする人は気にしますからね? まぁやる事自体は了解ですけど」


 あ、セラさんって昨日放置されてたフィールドボスのカマキリに襲われてたアルマジロの人だよな。へぇ、所属の共同体の確認はしてなかったけど、青のサファリ同盟の本部に所属だったんだ。

 そして、今の仕切りを灰のサファリ同盟だけにはさせられないって事らしい。ふぅ、別にトラブルにもならずに済みそうだ。各群集の人がいるから、誘導役もそれぞれの群集の人がいた方がいいはずだしね。


「それではジークフリートさん、手分けをして作業をしていきましょうか」

「おうよ……と言いたいとこだが、それにはまだ早いっぽいぜ、カグラ」

「あぁ、ルアーさん達ですか」


 おっと、そこにやってきたのはルアーさんとそのPTメンバー……って事は、ライさんも何処かにいるのか? うーん、ライさんはいても俺には分からん!

 あ、水月さんやアーサーもいるな。それに、昨日の発火草の群生地での騒動の際に見かけた人達が多数いる。この人達は、赤の群集に戻れた元無所属の人達か。


「あ、ルアーさんなのさー!?」

「水月さん達も来てるかな!」

「ほう、知らない名前も結構いるな?」

「これ、ルアーさん達が立ち上げた新しい共同体?」

「どうもそうみたいだなー」


 そしてルアーさんには今まで見たことのなかった名前の共同体へと所属している表示があった。そっか、この共同体が赤の群集を主導していく、新しい共同体の名前なんだな。


「ルアーさん、早く整理をしたいんで、手早く済ませていただいて構いませんか?」

「カグラさん、辛辣だよなぁ……。まぁ、そこは仕方ねぇ。赤の群集の新共同体『リバイバル』活動開始だ!」

「「「「「おう!」」」」」

「みんな、ちょっと聞いてー! これから観客席は4つの区画に分けていくよー! 同じ群集の方々で集まりたいという人達は、それぞれ『リバイバル』、『青のサファリ同盟』、『灰のサファリ同盟』の誘導に従って動いてねー! 区画の割り当ては、東が赤の群集、南が青の群集、西が灰の群集、北を全群集の混在って形にするよー!」

「それでは灰の群集の区画を希望の方は、私、カグラの方までお願いします!」

「青の群集の連中は、このジークのとこに来い!」

「赤の群集は俺……あー、ルアーのとこまで集まってくれー!」

「混在の部分は、わたし、レナのとこまでやってきてねー!」


 そんな風にテキパキと観客席の区分を決めて、整理を行なっている。上で未だに斬雨さんに追いかけられているダイクさんが逃げる範囲を目安にしながら……。

 やっぱりこういう時はイベントの開催に手慣れてるサファリ同盟の指揮が的確だなー。そして総指揮は顔の広いレナさんが適任だよね。


 さて、俺らは今は特に何もする事がないんだけど、どうしたもんかな? こう周りが忙しそうに動いている中で何もしないってのも居心地が悪いから、何か出来る事を考えようっと。

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