第939話 打ち合わせの場所へ


<『グラス平原』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 手早く帰還の実で森林深部へ戻ってきた! ふー、PTを組んだ状態で全員が転移した場合に、こうやってアルに乗ってる状態のまま転移させてくれるのってありがたいよね。

 今日の森林深部は快晴か。うん、星空がよく見えていい感じだな。流石に打ち合わせやタッグ戦を昨日みたいな土砂降りの中ではやりたくないし、これならハイルング高原は晴れてそうだ。


 さーて、あんまりここでゆっくりする訳にもいかないけど、新しい帰還の実はちゃんと貰っておかないとなー。……ログイン早々に帰還の実を使わなきゃいけない状況はあんまり嬉しくはないけど、今回は仕方ない。


 とりあえず上空に転移はしてきたけど、周囲を飛んでる人が結構いるか。うん、森の上もいつもよりも飛んでいる人が多い。この感じだと、地上の方はもっと凄いことなって……。


「うっわ、やっぱりかなり混んでる!?」

「……こりゃ、ある意味俺らがログアウトしてたのがグラス平原でよかったかもな」

「ここまで人が集まってるのは、初めて見た気がするのです!?」

「……あはは、まぁそうなるよね?」

「これは当然の結果かな?」


 ですよねー。うん、俺らだってサービス再開と同時に即座にログインしたんだし、今は日曜日の夜8時台なんだから人はそりゃ多いよな。……逆に、ここで少なくなってなくて良かったよ。


「およ? アルマースさんを良いタイミングで発見ー! ダイク、行くよー!」

「ちょ、レナさん!? 待って……って、誰だ、今蹴飛ばしたやつー!? ぎゃー!? 人が多過ぎるー!?」


 あ、人混みの中……色んな種族が入り混じってるから人混みって表現が適切なのかが微妙なとこだけど、まぁ中身は人だから人混みでいいよな。ともかく人混みの中で、レナさんとダイクさんの声が聞こえてきた。


「え、あれ? 今の声ってレナさんとダイクさんだよね?」

「あぅ……人が多くてどこにいるのか分からないのさー!?」

「……これは、間違い探しをしてる気分かな」

「サヤとハーレさんでも見つけられないのか……」

「擬態とはまた探し方が違うんだろうな。ま、俺の姿が向こうから確認出来てるなら大丈夫だろ」

「まぁアルは目立つもんな。さて、レナさんはタッグ戦の関係者だし、ここは待ちますか」

「だな」


 一応俺も探してみたけど、リスの人も、大根の人もパッと見ただけでも数人いるんだよな。風景に擬態してる訳じゃなく、ただ混雑してるだけだから見つけにくいんだろうね。


「あれ? ダイク、どこ行ったのー!?」

「ちょ、待っ!? とりあえず脱出するしかねぇ! 『移動操作制御』!」

「あ、見つけた! ダイク、先に行くってどういうつもりー?」

「流石に今のは仕方って事で勘弁してくれー!?」


 あ、そんな事を言いながら、水のカーペットに乗ったダイクさんと、大根の葉っぱを鷲掴みにしてぶら下がっているレナさんの姿が見えた。……というか、ダイクさんがバランスを崩して落ちそうだな、この光景。

 でも、その状態でもダイクさんは俺らの近くまで飛んできたね。その間に葉っぱを持ち上げてバランスを整えるとは、やるな、ダイクさん!


「ケイさん達、助けてー!」

「おっと、こんな事をしてる場合じゃなかったね。アルマースさん、目的地は一緒だから乗せていってくれないー?」

「おう、それは構わんが……とりあえずダイクさんを離してやれな?」

「あ、それもそだね」

「……ふぅ、助かった」


 とりあえずレナさんに大根の葉っぱを引っ張られる状態からは解放されたダイクさんである。そしてレナさんとダイクさんも、アルのクジラの上に乗ってきた。

 まぁレナさんは確実に目的地は同じだし、ダイクさんは同伴だろうから、今回はこの方が都合が良いか。


「よーし、それじゃアルマースさん、大急ぎで出発だよー!」

「色々とツッコミたいが、今はいいか。ダイクさん、水のカーペットをそのまま風除けに頼む! 『略:自己強化』『略:高速遊泳』!」

「お、おう!」


 そうして、レナさんとダイクさんも乗せて、打ち合わせ場所であるハイルング高原へと出発である。ま、ここからならそれほど時間はかからないし、岩での固定は無しだね。


「さてと、昨日はフラム君経由で連絡してくれてありがとね、ケイさん。今のうちにケイさん達に、その時に赤のサファリ同盟経由でまとめられた意見を伝えておくよー」

「なんだ、ケイ。そんな事をしてたのか」

「まぁ思いついたのはハーレさんだけどな」

「えっへん! そうなのです!」


 俺は完全にフラムの存在を失念していたから、今回はハーレさんの成果で間違いない。うん、そこは普通に誇ってくれて問題はないか。


「えっと、それでどういう感じになってるのかな?」

「とりあえずわたしと、弥生と、いか焼きについてはこのまま予定通りの時間に開催で問題ないって意見になってるよー。いか焼きがログインしてくるのは、もう少し後になるけどね」

「あー、そういや22時からになったのって、いか焼きさんの都合だったっけ」

「ケイさん、そういう事! だから、いか焼きについてはそもそも今回の件は支障が出てないんだよね。ただ、いか焼きがログイン出来てないから、青の群集の方に連絡が出来てなくてさー。青の群集の方にリアルで繋がる伝手がなくてねー」

「……青の群集については、これからの打ち合わせ次第って事か」

「うん、それでさっきジェイさんにはフレンドコールしておいたよ。まだスリムさんがログインしてなくて分からないんだけど、とりあえず灰のサファリ同盟の方には開催する方向性で動いてもらえるようにさっき頼んでおいたからねー」

「流石、レナさん! 手回しが早いのです!」

「そりゃー、わたしとしても今日のは楽しみにしてたしねー! 変な事になっちゃってたけど、それをぶっ飛ばすくらいに盛り上げていくよー!」


 おー、レナさんはやる気充分だな。まぁそれだけ楽しみにしてたって事だろうし、残るは青の群集の都合次第か。厳密にはスリムさんの都合次第だな。


「私は実況は頑張るのさー! ね、ケイさん!」

「え? あ、そういや俺ってゲストに指名されてたんだった!?」

「ケイ、忘れてたのかな!?」

「……いやー、まぁ……忘れてました」

「そういやジェイさんを解説役に引っ張り出した代わりに、シュウさんとケイがゲストに指名されてたか」

「そういやそうだったよなー」


 うん、今まで完全に忘れ去っていたけど、確かにそういう約束だった。えーと、中継の移動種側はアルとルストさんがやるのも決まってたっけ。青の群集から中継役に誰が出てくるかは分からないけど、まぁそれは開催になれば分かる事か。


「……ねぇ、なんだかハイルング高原へ向けて移動してる人が多い気がするんだけど?」

「ヨッシさん、それはそうだよー! 今回の中継では音声は届けられないんだから、直接見にくる人は多いはずだね」

「あ、それもそっか」

「あー、なるほど」


 そういや群集内の模擬戦とは違って、同族同調を使っての中継は音声は乗せられないんだよね。無所属の人となら可能だったのはバグだった訳だし、そこは修正済みだしなー。

 確かにそういう事であれば、早めに良い場所を取ろうとしていても不思議ではないか。アルの他にも中継をしにくる移動種の木の人もいるだろうし……って、ちょい待った。


「アル、中継先の相手って桜花さんだったよな!? そっちの準備は!?」

「あー、そういう約束にはなってるが……まぁ後でその辺は調整だな。流石にサービス再開したばっかだし、そんな細かい調整をしてる時間なんかねぇよ」

「……そりゃそうだ。すまん、ちょっと焦り過ぎた」

「ま、気持ちは分からんでもないから気にすんな」

「ほいよっと」


 ふぅ、ちょっと落ち着け。ログインしたばっかなのは俺らだけじゃなく、今ログインしているプレイヤー全員なんだ。

 さっき聞いたいか焼きさんみたいに即座にログイン出来る人ばっかじゃないだろうし、それぞれに動いているんだから、焦るのは禁物。おそらく青の群集の方でも今は意見の取りまとめとかをしてるはず。


「これで中止か延期になったら、最悪だろうなー」

「盛り上げようって時に、ダイクは何でそういう事を言うかなー?」

「ちょ、レナさん!? そうは言っても、その可能性って否定出来んだろ!?」

「それはそうなんだけどさー。……出来れば、今日やりたいからねー」

「……まぁそりゃそうか」


 ここまでの流れ的には青の群集次第になってる気はするけど、それは実際に打ち合わせをしてみないと分からないからなー。さっき、レナさんがジェイさんにフレンドコールをしたみたいな事を言ってたし、既にジェイさんはログイン済みなんだろう。

 多分、時間の都合さえ合えば、タッグ戦に関係ある人達はすぐにログインはしてるはず。少なくともジェイさんがいるのであれば、不在者がいたとしても調整は何とかしてくれるだろう。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>


 おっと、そうやって話してる間にハイルング高原へと辿り着いた……って、既に人が多いんだけどー!? あちこちに木の人がいるし、その周囲でまったりと寛いでいる人もいるし、続々と移動してきてる人もいる。

 え、ちょっと待って。俺らだってそんなにのんびりしてた訳じゃないけど、この集まり方はいくら何でも早くない!? てか、地味に青の群集の人が多いんだけどー!?


「あ、普段から中立地点にいる人達が集まってきてるねー!」

「あー、そういう事か」


 よく見てみたら、確かに雪山の方からもゾロゾロと移動してきている集団が見える。それに群集に関係なく混ざってるし、普段から交流が多い中立地点にいる人達だからこそって様子だな。

 そしてそれを一目見て把握出来るレナさんは流石の顔の広さである。俺じゃ見てすぐに普段から中立地点にいる人達だとは断定出来ないぞ。


「ドーナツ状に人が集まって中央に空いてる場所があるが、あそこがタッグ戦の会場って事か」

「……その前に、タッグ戦の打ち合わせ会場っぽいけどなー」


 今アルが言った場所には、フクロウと、コケを背負ったカニと、タチウオの姿が見えているしね。どう考えてもスリムさんと、ジェイさんと、斬雨さんだよな。

 えーと、弥生さん達の姿はまだ見えないから、まだ到着してないってとこか。ま、その辺はタイミングの問題もあるから仕方ないね。


「アル、とりあえず降りよう」

「だな」


 という事で、思いっきり目立ちながらも空いている部分へと降りていく。……タッグ戦の本番はこういう風に目立つ事は想像は出来てたけど、まさか今の時点でこんなに目立つとは思ってなかった。

 いや、そもそも今のタイミングで打ち合わせをする事そのものが想定外なんだけどさー!


 とりあえずアルのクジラの上に乗ったまま打ち合わせって訳にもいかないから、みんなで地面に降りてっと。

 ハイルング高原も雲一つない快晴だし、星空の下で打ち合わせってのもなんか不思議な感じだな。


「来ましたね、グリーズ・リベルテの皆さん、レナさん……それとダイクさんですか」

「あー、俺はおまけだからお構いなく!」

「ダイクさんは俺と同じようなもんか!」

「……ふむ。斬雨、退屈でしたらダイクさんと雑談していても構いませんよ」

「あー、良いんだな、ジェイ?」

「えぇ、思う存分にどうぞ」

「……おうよ。おーし、ダイクさんとやら、ちょっと模擬戦でもどうよ?」

「え、雑談じゃねぇの!?」

「あはは、ダイク、良いじゃない。やってきなよー? はい、ジェイさん、連結PTの申請」

「……確かにこの状況では死なないようにした方が良いですか。それではこれで構いませんね」

「レナさん!? ジェイさん!? あ、普通に連結PTになった!?」

「ホホウ、それでは私はジェイさんに委任しておきますので、審判を行いますよ。一撃目を先に入れた方が勝ちでよろしいので?」

「おう、良いぜ!」

「ちょ、なんでこうなったー!?」

「おっ、ケイさんと同じ水での飛行か。それじゃまずはそれを破ってからだなぁ!」

「俺、戦うって言ってないんだけどー!?」


 水のカーペットに乗って逃げるダイクさんと、それを追いかけて空中を泳いでいく斬雨さんという戦いが始まった。うん、本当に何がどうしてそうなった? 

 というか、思いっきり挨拶をしそびれたんだけど、どうしよう? タイミングを逃したら、地味に挨拶ってしにくいよね……。


「さて、これで集まっている方々も暇にならなくて済むでしょう。お付き合い頂いて感謝しますよ、レナさん」

「まぁこれくらいはねー。スリムさんはジェイさんに委任するって言ってたし、青の群集では意思統一は出来てるって認識で良ーい?」

「えぇ、その認識で構いませんよ。後は弥生さんがくれば、打ち合わせを始められますし、詳細はそれからという事で」

「うん、それは了解」


 思いっきりレナさんが主導で話が進んでるし、ここは任せておいてもいいかな? うん、ジェイさんとやり合うと情報戦が始まっちゃうしね。

 それにしてもジェイさんが何かを仕掛けてくる事はこれまでもあったけど、今回のはちょっと強硬手段過ぎる気もする。……うーん、ジェイさんのやり方としては何か違和感がある? いや、今回のはレナさんも関わってるし、意図がいまいち分からない?


「すみません! 通れないので、道を開けてくれませんかー!?」


 あ、これはルストさんの声だな。ふむ、人が多過ぎてまともに通れない状態になってるっぽい? でも、あのルストさんならどうとでも……って、おわっ!?


「到着っと!」

「あぁ、既に揃っていたんだね。待たせたかい?」

「あっ、弥生さんとシュウさんか。びっくりした」

「あはは、ごめん、ごめん。上から飛び越えてきたからさー」

「ところで、ダイクさんと斬雨さんは何をやってるんだい?」

「あの2人なら、待ってる人達の暇潰し用に戦ってもらってるよー!」

「あ、そうなんだね」

「レナさん、俺はそれに同意した覚えはないんだけど!? なんで戦わされてんの!?」

「とか言いつつ、全然当たんねぇじゃねぇか!」


 おぉ、まともに見てなかったけど、ダイクさんが斬雨さんの鋭い斬撃を避け続けてるのか!? 斬雨さんだって相当は実力者はなずだけど、それを避け切るダイクさんも凄いな!


「ところで、弥生さん! なんでルストさんはあっちでここまで来るのに苦戦してるのー!?」

「あ、ハーレさん、やっぱり気になる?」

「思いっきり気になります!」

「実は特に理由はないんだよねー?」

「まさかの理由なしだったのさー!?」

「まぁそれは冗談なんだけど、これからの打ち合わせの光景のスクショを撮りたいって言ってたからなんだよね。……今の段階でここまで混雑してるとは想像してなくてさ」

「そういう理由なんだー!?」


 なるほど、思ってた以上に人が多くて、スクショを撮ろうにもルストさんは身動きが取れない状態という訳か。まぁそういう理由なら飛び越えても来れないよなー。

 ま、何はともあれ、これで打ち合わせをするのに必要なメンバーは揃った。……正直俺らが一番必要がない気もするけど、まぁ主催者としては居る事自体が重要か。

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