第938話 騒動の後に


 さて、サービス再開の時間になったので、即座にログイン開始。一時的にだけど、いったんが増強されているから、ログインはすんなり出来るはず。


 おっ、特に引っ掛かりもなくスムーズにいつものいったんのいるログイン場面へとやってこれた。えーと、なんとなく予想は出来るけど今回の胴体の内容は……って文章が長い!? え、ちょっと長過ぎて文字が小さくて読めない……あ、意識を文字に集中したら拡大されたよ。

 スクロールして読んでいけるみたいだし、とりあえず読んでいこ。えーと『セキュリティロックが解除になりましたので、【Monsters Evolve Online 】のサービスは再開みなります。色々と詳細の説明がありますので、そちらは公式サイトよりご確認下さい。本件の補填に関しましては、いったんより受け取りが可能になっていますので、お受け取り下さい』か。

 まぁ今回の内容は長くなっても仕方ない。しかも長めの文章でも、公式サイトで確認して下さいという案内になるのか。まぁここはいったんの胴体部分なんだから、その辺は公式サイトの出番だよな。


「いったん、補填をくれー!」

「はいはい〜。でも、その前に今回の事件の概要の説明や補填の説明は必要〜? 必要であれば真面目モードで説明をしていくよ〜?」

「その辺は公式サイトで確認したから問題なし!」


 まぁ厳密には補填の部分しかしっかり見てないけど、外部のニュースサイトや、SNSのまとめでの怪しげな暴露話は見たからね。大体の概要はそっちで分かってる。

 少なくとも運営に非があった訳じゃないし、公に出せる情報は限られているだろうし、概要自体は把握してるから問題ないだろ。運営だって被害者だから、そこからの謝罪を見たい訳でもないしね。まぁプレイ出来なかった間の補填は、月額で払ってるからしっかりと貰うけど。


「うん、それなら問題ないね〜。それじゃ、これが今回の補填と、今日のログインボーナスになります〜」

「お、サンキュー!」


 あー、夜だから変な気分になったけど、そういや今日の分のログインボーナスは今貰えるのか。それはともかくと、補填として『スキル強化の種』と『経験値の結晶』と『転移の実』×10個をゲット! これは貴重だよなー。


「それにしても、今回の補填は奮発したもんだな?」

「もうそろそろサービス開始が2ヶ月目に入るからね〜。ここで人離れは避けたいから、運営の人達も必死なのさ〜」

「あー、まぁそりゃそうか」


 俺は普通に続けるつもりでいたから少し前に次の1ヶ月分のプレイチケットは購入したけど、今回の騒動でやる気をなくしてそのまま離れる人が出る可能性が高い時期か。運営としては今後のサービス継続に直結する部分だから、何よりも人離れは避けたいだろうしね。

 だからこそ、1時間の経験値が2倍になる『経験値の結晶』と、入手手段の限られる破格な性能の『スキル強化の種』を補填に入れてきたんだろう。土曜の夜と日曜の昼間にログイン出来なかった補填には充分過ぎる内容だしなー。


「それからこれは申し訳ないんだけど、スクショの承諾に関しては処理が滞ったままになっているから、そこは少し時間をください〜。多分、この後から承諾申請自体が増えてくる筈だからね〜」

「え、そうなのか? あ、そもそもプレイヤーがログイン出来てなかったんだから、申請自体が出来てないのか!」

「そういう事になるね〜。その部分は実際に動いてみないとわからないので、ご了承を〜」

「ま、それも仕方ないな。とりあえず無事にこうやってログイン出来たから良しって事にしとくわ。運営の人達にも、お疲れ様ですって言っといてくれ」

「はいはい〜。そう言ってもらえると助かるよ〜」

「それじゃコケでログインをよろしく!」

「はいはい〜。それでは思いっきり楽しんでいってね〜」

「ほいよ!」


 そうしていったんに見送られながらゲームの中へと移動だな。ふぅ、とりあえずの実行犯は逮捕されたってニュースに出てたし、もう普通にゲームは楽しめるはず。

 さて、まずはみんなと合流してから、今日のタッグ戦をどうするか決めていかないとね。



 ◇ ◇ ◇



 そして、ゲームの中へと移動してきた。ログアウトした場所はグラス平原だから、混雑はしてないな。ある意味、ログアウトしてた場所がここで良かったのかもね。

 えーと、今日は夜の日だから手早く夜目を使ってしまおう。その方がみんなが来た時に視認しやすいしね。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 83/83 → 82/82(上限値使用:1)


 さて、これで視界は良好だけど、みんなのログイン状況はどうだろなー? ……ふむ、まだ誰もいなさそうだし、これは俺が一番乗りか?

 俺が一番乗りになるのはちょっと想像外だったけど、まぁいいか。今のうちに忘れないようにログインボーナスを貰っとこ。


<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>

<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>


 よし、これでログインボーナスはゲット! あー、そういやテスト期間中のログインボーナスはどうしよ? 通算でのログインボーナスはないし、今は結構進化ポイントも貯まってるし……いや、でも貰えるものを貰わないってのもなー。

 うーん、ログインボーナスを貰うためだけのログインをするか……? いや、でもそれでログインして気になる事があればつい他の事をやってしまいそうでもある……。


「おっ、ケイが一番乗り……って、なに唸って悩んでんだ?」

「あ、アルもログインは早かったか。いや、テスト期間のログインボーナスの受け取りをどうしようか悩んでてさ」

「あー、なるほどな。ログインボーナスを受け取るだけってのが徹底できるなら、それでも良いんじゃねぇか?」

「まぁそうなるよなー」


 結局は、俺が自制出来るかどうかという問題である。……ふぅ、10日分くらいのログインボーナスは無駄にはなるけど、進化ポイント自体には余裕があるし封印でいくかー。


「それにしても、今回の件、思った以上の大騒動になってたな。」

「だなー。アルは、逮捕された流出させた犯人の暴露話って見た?」

「あぁ、それなら見たぞ。……あれだけを見たなら胡散臭い話にしか思えんが、あの例のスライムを直接見た身としては……真実味はあるよな」

「やっぱりだよなー。あ、そうだ。アル、リアル側で連絡取れるようにする気はある?」

「あー、悪い。その手のは過去に面倒な事になった経験があるから遠慮しとくわ。そういうのはちょっと抵抗があってな」


 ふむ、アルにこの手の話を断られる可能性は考えてはいたけど、この断り方はかなり厄介事になったような感じがする。まぁそういう事なら無理強いはなしだな。


「そういう事なら了解。ちなみに何があったか聞いてもいい?」

「……大学生の頃に変な女に目をつけられて、自宅を特定されてストーカー被害にあったんだよ」

「思った以上にヤバいやつだった!? あー、うん、それなら抵抗があっても仕方ないな」

「ケイ達がそういう事をするとは思っちゃいないんだが、なんか悪いな。……で、ケイ? そういうのを今聞くって事は、何かあったか?」


 うぐっ!? アルもリアル側で連絡を取れるようにして、今日みたいな機会があればアルにも来てもらおうかと思ってたのを見透かされた気がする!? あー、でも別に隠すような事でも――


「ふっふっふ、それは私がVR空間でみんなを引き合わせたのです!」

「うぉ!? あ、ハーレさんか。なるほど、男1人だけになって、ケイは緊張でもしたか?」

「ケイさんも、ヨッシも、サヤも、みんな緊張してたのさー!」

「今日のハーレは妙に口が軽いかな!?」

「いひゃい!? いひゃくひゃいけほ、ひふんへきにいひゃい!?」

「ケイさん、ハーレに何かあった?」


 おっと、いつの間にやらサヤとヨッシさんもログインしていて全員集合になってた。そして、ハーレさんはサヤに思いっきりリスの頬を引っ張られている。まぁ確かに口は軽いよな、今日のハーレさん。


「……少しだけど、父さんの酒を間違って飲んでる。かなり酔いは醒めてるとは思うけど……」

「あ、そういう……ハーレ、余計な事は言ってないよね!?」

「いっへないへふ!」


 まぁ実態としては思いっきり言ってたけども、まぁそこは言わないでおこう。うん、リアルよりも実際には……まぁ違うらしいしね。

 それにしても、やっぱりゲーム内と昼間のVR空間では見た目の印象が全然違うもんだな。ま、それは俺も……というか、このゲームをしている全ての人に言える事だな。まだ人化に到達してないのに、見た目の印象が同じ人がいてたまるか。


「なんか俺の知らないとこで色々あったみたいだが、タッグ戦についての話って何か知ってるか? 掲示板で関係者はログインし次第、集まってくれって呼びかけはあったが、あそこは匿名過ぎて信憑性が何とも言えないんだが……」

「あー、それは事実だぞ、アル。俺がフラムを通じて、赤のサファリ同盟経由で可能な範囲で情報を伝えてもらった」

「……なるほど、そういう事か。赤のサファリ同盟ならリアルからの伝手があるから、事前に根回しはしてたんだな」

「そういう事かな。それで、これから打ち合わせに行こうって話になってるけど、アルはどうかな?」

「はや、ほろほろははひへー!」

「……サヤ、詳細はよく分からんが、とりあえずハーレさんを離してやれ」

「あ、確かにそれはそうかな」

「ふー、やっと解放されたのです!」


 これぞ口は災いの元ってやつだね。間違って父さんの酒を飲んでしまったとはいえ、迂闊な発言をしたハーレさんが悪い。

 実際に俺には言わなくていい事実まで言っちゃってるしね。俺だって男子高校生なんだから、今まで特に意識してなかった部分の情報は言わなくて良いのにさぁ……。


 ……なんだかサヤとヨッシさんからの視線が気になるんだけど、今のは俺は声は出てないよな!? 勘付かれないでくれよー!? そもそもハーレさんが勝手に言った事であって、俺が聞き出したことじゃないから、不可抗力ー!


「……まぁ今回は仕方ないかな。アル、すぐに移動出来るかな?」

「あー、ちょっとだけ待ってくれ。ログインボーナスを忘れないうちに貰っとく」

「あ、確かにそれはそうかな!」

「そういえばそうだったのさー!」

「あはは、まぁ勿体無いもんね」


 ちょっと待って。今のサヤの『まぁ今回は仕方ないかな』ってどういう意味!? これ、タイミング的に勘付かれてない!? 

 でも、それは追及しないって意味で仕方ないって事か? うん、まぁ実際に俺が悪い訳じゃないもんな。てか、サヤとヨッシさんは妙に隠したがってる感じだけど……あぁ、一部の同級生を見てれば分からなくもないか。


「……そういやさっき、ケイがテスト期間中のログインボーナスをどうするか悩んでたけど、サヤ達はどうすんだ?」

「あ、そういえば考えてなかったかな?」

「あぅ……絶対に脱線する自信があるので、私は諦めるのです……」

「ハーレはその方が良いだろうね。ケイさんはどうするの?」

「俺も完全にログインはやめとこうかと思ってる。……見たい組み合わせの模擬戦とかを見つけたら、そっちに心が惹かれそうだし」

「あ、確かにそれは分かるかな! ……うん、私もログインボーナスは勿体無いけど、ログインはしないでおくかな」

「……あはは、私もそうしよっと」

「って事は、テスト期間が完全に終わるまでは4人ともログインはなしか」

「ま、そういう事になるなー」


 スクショのコンテストについては、ゲーム内と公式サイトの両方で特設ページが用意される事になってたはずだから、投票については携帯端末から公式サイトで投票すればいい。

 そこであんまり見過ぎないように気をつけないといけないけど……逆に、少しだけ時間を作ってみんなで集まって投票の時間を作るのもありか?


 いや、ここは勉強の息抜き時間を決めて、その中でちゃんとやるって形にしよう。誰がどれに投票したかは、結果が発表になってからみんなで確認していく方が面白そうだしね。それにあんまりアルだけを除け者の状態にはしたくはないし。


「おし、とりあえずログインボーナスの確保は完了だ。今回はケイがPTの結成を頼む」

「あー、開催者側として行動するならその方がいいか。了解っと」


 誰がPTのリーダーをしても問題はないけど、まぁ今回はその方が良いか。それじゃみんなにPT申請を出してっと。


<ケイ様の率いるPTが結成されました>

<サヤ様がPTに加入しました>

<ハーレ様がPTに加入しました>

<ヨッシ様がPTに加入しました>


 さて、これでPTの結成は完了! とりあえずタッグ戦の開催については、予定通りに開催出来るかどうかから話し合わないとね。開催すると決まれば、そのまますぐに開催の準備も始めなきゃならない。


「それじゃ出発するから、全員乗ってくれ。『略:空中浮遊』!」

「あ、アル、森林深部までは帰還の実を使うか?」

「あー、その方が早いだろうな。エンまでは帰還の実で転移して、そこからは飛ばしていくぞ」

「ほいよっと」

「はーい!」

「分かったかな!」

「了解!」


 ともかく今は急いでハイルング高原まで移動だな。それでタッグ戦の開催がどうなるかが決まる。まぁ、ここはなるようになれとしか言いようがないか。

 とりあえず『スキル強化の種』やら『経験値の結晶』についての話もしたいとこだけど、それは後回しだね。俺ら以外にも大勢が関わってるイベントの方が優先順位は上だよな!

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