第937話 勉強会とバーベキュー
晴香の策略により俺までテスト勉強をする事になり、VR空間内のソファーを片付けて、再びダイニングテーブルを展開して勉強会となっている。
とは言っても、俺は学年が違うから自力で参考書の中にある問題集を解いているだけだけどね。ちなみに用意されていたのは数学だったけど……意外とこの参考書は分かりやすいな。
「……あぅ、この問題が分からないのです」
「どれどれ……? あ、これは私も微妙なやつだ。サヤ、教えてもらえない?」
「任せてかな!」
そして俺以外はそんな風に、サヤが晴香とヨッシさんに教えてる感じのようである。まぁヨッシさんが分かる範囲の問題であれば、ヨッシさんが教えてるみたいだけどね。
それにしても、まぁ四国と東北で離れているのにこうやって一緒に勉強会ってのも不思議なもんだな。
ん? 誰かからメッセージが来たって通知が出たけど……あぁ、慎也からか。えーと、メッセージの内容は……あー、可能な範囲でログインしたすぐに打ち合わせ出来るように連絡は出来たのか。
そして水月さんに赤点を取らないように、付きっきりで勉強を教えられているそうだ。……勉強に捕まったのは慎也、お前もか。
「兄貴、誰かからメッセージー?」
「あー、フラムに昨日頼んでた件の結果報告」
「え、フラムさんに何か頼んでたのかな?」
「ケイさん、どういう内容?」
「まぁ簡単に言えば、赤のサファリ同盟の方からリアルで連絡を取れる範囲で、今日の夜のタッグ戦をどうするかの打ち合わせについて話を通してもらったんだよ。ログインしたら、可能な限り早めにハイルング高原に集まるように手を回してくれた」
実際に話をつけてくれたのは弥生さんとかレナさんだろうけど、慎也も窓口としては活躍してくれたもんだな。……これから天気が大荒れにならなきゃいいけど。
「そっか、その件も話し合いが必要だもんね」
「……今日はもうLv上げは無理そうかな?」
「それは打ち合わせ次第なのさー!」
「状況が状況だから、中止って可能性もない訳じゃないからなー。延期の可能性もあるけど、その場合は俺らは完全に見るのを諦めるしかないし……」
この辺はそれぞれの都合によるものだから、実際に関係者で打ち合わせをしてからじゃないとなんとも言えないんだよなー。素直にそのまま予定通りに開催が一番ありがたいとこだよ。
「それじゃ、今日ログインしたら、真っ先にその打ち合わせかな!」
「アルさんにも、ログインしたらすぐに伝えないとね」
「出来ればタッグ戦は見たいから、予定通りの開催になって欲しいのさー!」
「まー、あれだけの補填があれば、テスト明けでもLv上げは何とかなりそうだしな。今日はタッグ戦を最優先にするか」
「弥生さんとレナさんのタッグが気になるかな!」
「いか焼きさんの強さも気になるしね」
とりあえずここにいるみんなは、今日はタッグ戦を見るので良いみたいだね。タッグ戦自体は22時からの予定だし、早めに終われば少しくらいならLv上げをする時間はあるかな?
まー、その辺は今考えても仕方ないから、なるようになれか。場合によってはタッグ戦が中止や延期になる可能性もあるんだしさ。
「さて、それじゃ勉強会を再開かな!」
「……はーい」
「頑張ろうね、ハーレ!」
さーて、とりあえず夜からの予定はこれで決定。それじゃ勉強の続きをやっていきますかー。ま、俺はこの状態で1人で勉強なんだけども。
◇ ◇ ◇
それから勉強会を続けていって、もう少しで17時になるというところである。途中で晴香の集中力が何度か切れてたけど、まぁなんとか乗り切ったね。
「さてと、そろそろ私はサヤの家に向かうから、この辺りで切り上げるね」
「私も海鮮バーベキューの準備があるから、勉強会はお開きかな?」
「……あぅ、エネルギー切れと気力切れなのです……」
「晴香、お疲れさん。俺は父さんの手伝いをしに行くから、ちょっと休んどけ」
「おぉ、待ちに待ったバーベキューがもうすぐなのです!」
なんだかんだ言いながらも頑張って勉強をしてたんだから、これくらいのご褒美はあっていいだろう。まぁ、俺が用意してる訳じゃないから、偉そうな事は言えないけどさ。
「あ、そういや待ち合わせ場所はどうする? アルと合流してからみんなでハイルング高原での打ち合わせに行くか、それともログインしたら個別に現地集合にするか、どっちにする?」
「んー、ログインはスムーズに出来ても、群集拠点種の周りは混雑してそうだよね」
「逸れたら手間だし、みんなで揃って移動の方が良いんじゃないかな?」
「私も揃って移動に一票さー!」
「私もそれで良いけど、アルさん次第でもあるよね?」
「まぁ、アルが先に行ってたらその時は現地集合で良いんじゃないかな?」
「……というか、そもそもアルにハイルング高原に集合ってのを伝えるとこからが問題だな」
「先にアルさんがログインしてればだけど、この中で一番初めにログインした人が伝えるって事でいいんじゃない?」
「そうするのさー! とりあえず私達4人は、昨日ログアウトした場所で合流なのです!」
「うん、私もそれで良いかな」
「そうしよっか」
「よし、それじゃそれで決定って事で!」
多分だけど、ヨッシさんはサヤの家から自宅へ帰るのに時間は多少かかるだろうし、俺はバーベキューの後片付けは手伝う事になる。
サヤ……は、俺と同じで片付けをする可能性もあるから、アルに伝える可能性が一番高そうなのは晴香か。ま、アルが一番最後にログインしてくる可能性もあるけど、その場合は問題ないな。
「それじゃまた夜にかな!」
「また後でね!」
「了解なのさー!」
「ほいよっと」
これで夜からの合流については問題なし。あ、転移の実も貰えるんだし、望海砂漠に切り替えの手前のグラス平原で登録しても……あの距離なら、普通に移動した方がいいか。流石に転移の実を使うのは勿体ないや。
とりあえずこれで、予定外に始まった……というか、俺は晴香に巻き添えを食らっただけだけど勉強会はひとまず終了。それじゃ現実に戻って、バーベキューだ!
◇ ◇ ◇
そうして現実へと戻ってきて、リビングへと移動してきた。父さんは庭でバーベキューの準備の為にバーベキューコンロに炭を並べていて、母さんは台所で下準備をしているようである。
まだ17時半前ってところだし、準備が終わるのはもう少しかかりそうだなー。さて、俺も準備を手伝ってきますかね。
「カニがあるのです! アワビ、サザエ、ホタテ、海老もあるのさー!」
「晴ちゃん、お肉もあるわよ」
「おぉ! お母さん、ナイスなのさー!」
「晴香は食材には絶対に触るなよ! 転んで庭に全部ぶちまけたとか、絶対に許さんからな?」
「大人しく待機しています!」
「いや、完全にサボるなよ!? ほれ、父さんに聞いて折り畳みの椅子とかテーブルを出してこい!」
「あ、そういえばそれがあったのさー! それじゃそっちを手伝ってきまーす!」
ふぅ、晴香は料理が絡むと何故か散々な事にはなるけど、折り畳みやテーブルを並べるくらいなら問題はないだろ。というか、今までそこでは特にトラブルは発生した事もないしね。
「圭ちゃん、晴ちゃんがテーブルの用意をし終えたら、下拵えが終わったものから運んでいってくれる?」
「ほいよっと」
さーて、それじゃ結構前から待ちかねていたバーベキューの下準備をしていくぞー!
それからしばらく準備をしていき、ようやく準備が整って我が家の庭でのバーベキューが開始である。ちょうど良い感じに18時ちょっと過ぎくらいで準備完了だったね。
「おし、それじゃ焼いていくぞ! 晴香、まずは何がいい?」
「えっと、海鮮の気分なので、貝やカニから食べたいのです!」
「よしきた!」
「……父さん、張り切ってるなー」
「うふふ、お父さんも地味に楽しみにしてたのよ? あ、野菜もちゃんと焼いて下さいね」
「おうとも! 野菜も肉もどんどん焼いていくから、どんどん食えよ!」
「はーい!」
「ほいよ!」
いつもは母さんが料理をしてるけど、こういうバーベキューの時は父さんは活き活きとし出すもんな。次々と父さんが色んなものを焼いていってくれているし、明日からのテスト期間に向けて英気を養っていこうっと!
おっ、良い感じに焼けてきた肉があるから、これを取って――
「もぐもぐ……」
「晴香!? それ、俺が取ろうとしたやつ!?」
「……ごくん。ふっふっふ、バーベキューは早いもの勝ちなのさー!」
「皿に取り分けてる貝から食えよ!?」
「まだ熱過ぎたのさー!」
「ちっ、だったら先に取るまで!」
「はーい、圭ちゃん、晴ちゃん、多少はしゃぐのはいいけど、やり過ぎは怒るわよー?」
「……大人しく食べます」
「……ごめんなさいなのです」
「はい、よろしい!」
そんな感じで晴香と肉の取り合いになりかけて母さんに止められたりしつつも、美味しくて楽しい時間は過ぎていった。
ゲーム内でもバーベキューは何度かしたけど、リアルの方がしっかりと調味料が揃ってるから、その辺の違いが大きいな。やっぱり現実のものの方が美味いもんだね。
そうしてバーベキューも終わり、とりあえず空いた皿を台所へと運び中である。晴香はリビングのソファーに座り込んで、缶ジュースを片手に満足気だな。
「ぷはー! 満腹で、大満足なのさー!」
「……ちょっと食い過ぎた」
晴香は俺よりもかなり食った筈なのに、なんでそんなに平然としている!? ……地味に大食いだよな、晴香って。だからといって、体型にその影響は全然出てないのが不思議なもんだ。
「あ、そうそう、兄貴!」
「ん? どした?」
「ヨッシとサヤのVR空間でのアバターには、嘘があるのです!」
「……それって、俺は聞かなきゃダメな内容か?」
「2人とも、もっと胸は大きいのです!」
「おーい、俺の意見は無視かー!?」
そういう情報は俺相手に開示しなくて……って、晴香の顔がちょっと赤い? あれ? 缶ジュースかと思ってたけど、これってそうじゃない!?
「ちょっと待て!? 晴香、手に持ってるのは父さんの酒じゃねぇか!?」
「ヒック、これ、美味しいジュースだよー?」
「ちょ、酔っ払ってんじゃん!? 母さん、水、水ー!」
「あらら、これは大変ね!? ちょっと待っててね!」
何を言い出すかと思ったら、晴香のやつ、完全に酔っ払ってるじゃん!? でも、意識自体はしっかりしてるっぽい? まだそんなには飲んでなさそうだな。
「うー、なんかふらふらするー?」
「晴ちゃん、とりあえず水を飲んで?」
「はーい」
「お父さん、お酒の管理はしっかりしておいて下さいよ!」
「す、すまん……」
あ、母さんが慌てて水を汲んできて、晴香に手渡していった。……そして、バーベキューコンロの片付けをしていた父さんが怒られ始めたね。まぁ、そりゃそうなるわ。
「ぷはー? あ、なんか少しスッキリしたのさー! ……あれ? 何か怒られそうな事を言った気がするのです?」
「いや、何も言ってないぞ、うん、気のせいだな」
「そうなのー? なら、良いのさー!」
とりあえずそんなに酒自体は飲んでなかったみたいだし、水を飲んだ事で多少酔いは醒めたようである。……ちょっと口が軽くなってた程度か。
それにしても、少しだけとはいえ酔った勢いで何を言ってくれてんのー!? VR空間で見たサヤもヨッシさんも決して無い訳ではなかったけど……あれが嘘? ……うん、細かく気にするのはやめておこ。
「晴香、まだ20時だし、少し休んどけ」
「うー、その方が良さそうな気がするー。アラームを20分後にセットなのさー!」
「おし、それじゃ片付けをしてくるか。父さん、母さん、片付けを手伝うよ」
「ん? 今日は任せといてくれて良いんだが……あぁ、そういえばまだゲームが出来ないとか言ってたな」
「それじゃ、その時間までの間で良いから手伝ってもらおうかしらね」
「もちろんそのつもり!」
「兄貴、頑張れー!」
「晴香は大人しくして、酔いを覚ましとけ!」
「はーい!」
もう既に割とあっさりと酔いが覚めてる気もするけど、どっちにしても片付けはあまり任せられないし、別に良いか。片付けの邪魔だって事で、椅子は真っ先に片付けられたしなー。
◇ ◇ ◇
大雑把に庭の方は片付いた時点で20時20分になったね。そろそろゲームの方に行かせてもらおうかな?
「おっし、圭吾、もう片付けは良いぞ! そろそろ時間だろ!」
「なんだか大事になってたみたいだし、昼間は勉強をしてたみたいだし、圭ちゃんも晴ちゃんも楽しんでらっしゃい。ただし、明日からはしっかりテストに向けて頑張る事!」
「父さん、母さん、ありがと! おい、晴香、いくぞ」
「はーい! 酔いも覚めてるのさー!」
父さんと母さんが気遣ってくれて、片付けは途中だけども切り上げさせてくれた。晴香も思ったほど酔ってはなかったみたいだし、問題はなさそうだな。
そうして今回は晴香は俺の部屋には来ないで、そのまま直接自分の部屋へと向かっていった。とりあえずヘルメット型のVR機器を頭に被り、ベッドに横になってフルダイブの準備は完了。
さて、サービスの再開は20時30分からで、その時間までには待機する事は出来た。今回はセキュリティロックというシステムを使った事の後処理の補助として、ログインで混雑してもいったんが処理出来るだけの状態になってるはず。
これなら混雑でのログイン障害は発生しないだろうし、サービス再開と同時にログインをして、運営からの補填を受け取って、それからみんなと合流だな。
今回の件で思ったけど、アルとはメッセージの連絡先ではなくても、何かのSNSで連絡を取れるようにしておいた方がいいのかもなー。
まぁこの辺はアル次第だから、少し話してみてか。ゲーム外ではあんまり交流をしたがらない人もいたりするから、アルがそのタイプなら無理強いも出来ないしね。
そんな事を考えている間に、20時30分になった。それじゃ、1日ぶりにゲームの続きをやっていきますか!
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