第28章 騒動の後とテスト期間

第935話 騒動の結末は……?


 あー、目は覚めたけど……今何時だ? えーと、朝の9時……どうせ起きても今はログイン出来ないし、二度寝でもするか。


「兄貴ー!」

「……どした、晴香?」


 そう思ってたら晴香が思いっきりドアを開けて入ってきた。昨日の夜は久々にVRでないレトロゲームで遊んでいたけど、地味にレースゲームは晴香の方が上手かったんだよなぁ。いや、もう負け続け。その後にやった格ゲーは俺の圧勝だったけど。

 中々眠くならなかったから割と深夜までやってたのに、晴香は元気なもんだなー。俺はまだ眠いぞ……。


「地味に昨日の件がニュースになってるのです!」

「……あー、そりゃまぁなるだろうなー」


 ほぼ確実にゲーム系のニュースサイトには出てくるだろうな、あの騒動。フルダイブでのVRオンラインゲームであんな騒動は地味に初めてだもんな。

 普通に大人気過ぎてよく混雑しまくってるゲームでのログイン障害とかでもニュースになるんだから、ゲーム系でニュースにならない訳が――


「兄貴、寝ぼけてない!? ゲーム系だけじゃなくて、一般の全国ニュースなのです!」

「あ、いや、そうなるのか」


 おぉっと、そっか。ゲーム関係なしに前例がない規模の出来事だもんな。そりゃ全国ニュースになっても当然ではあるか。

 何をぼーっと当然な事を……地味にまだ頭が寝てるな、これ。ふぁ……眠……。まぁ全国ニュースだとしても昨日の今日じゃ騒動が起きた程度の内容だろうし……


「……それは後でいいや。それじゃおやすみ……」

「完全に二度寝する気だー!?」

「……どうせログイン出来ないんだし、ニュースを見たってどうしようもないだろ」

「うー!? 確かにそれはそうだけど、兄貴の想像してるニュースとは絶対に違うのさー!?」

「……はぁ、そこまで言うなら見てみるか」


 ぶっちゃけ、昨日の夜からだとまだ逮捕とかもされてないだろ、多分。騒動になってるだけのニュースを見ても嫌な気分になるだけでろくな事にならない気がするんだけど、まぁ見ないと晴香が納得しそうにないしなー。

 とりあえず、携帯端末で適当にニュースサイトを開いて……って、はぁ!? え、ちょい待った。この展開は想像外だったんだけど!?


「複数のオンラインゲームで同時多発でのサイバー攻撃!? え、既に逮捕者が出てんの!?」

「そうなのさー! かなり大規模な犯罪だったらしいのです!」

「……ちょい待って、しっかり内容を把握する」

「はーい!」


 軽く見ただけでも思った以上に想像外の情報が多いし、流し見じゃなくてしっかり見ていった方が良さそうだ。いや、他も攻撃されてたとか、想定外過ぎる。しかももう逮捕者が出てるって早くない?


 えーと、そもそもDDoS攻撃を受けたのは『Monsters Evolve Online』だけじゃなくて、他にも4タイトルくらいがほぼ同時刻にあったのか。……もうこの時点で予想外だけど、そうなると犯人は例のスライムではない?

 しかもセキュリティロックを発動したのは、被害に遭った5タイトル全てでか。はー、こりゃ大規模な攻撃な事で……。


 それで……げっ、逮捕されたのが東京のどっかの役所で認証の発行をしている女性の職員!? うげっ、フルダイブの利用歴が全然ない個人の認証データや行方不明の人の認証データを横流ししてたとか書いてんじゃん。

 あー、セキュリティロックになって再認証が行われなかった個人データの偏りが大きく出て発覚か。逮捕されたのは昨夜のうちにって、警察の動きが早いなー。……ん? あぁ、妙な動きをしていたのを見つけた同僚が通報したってあるね。


 あー、今は横流し先の……うげっ、こっちはこっちで新興の有名なVRゲームの会社じゃん。うわー、あの会社って裏でそんな事をしてたの? なんかイマイチ面白くないのに妙に評価が高いのが不思議だったけど、評価偽装をやってたのかー。

 あー、なるほど、前々から目をつけられていて、今回ので決定的な証拠が出て、今捜査に踏み込まれたってところみたいだね。こりゃあのゲーム会社は潰れるなー。

 まぁ金を返せと思うようなゲームしか出てなかったし、もうだいぶ前から買うのを避けてたゲーム会社だから潰れるのは別に良いや。


「……って、ちょい待った。なんでオフラインゲームばっかのあのゲーム会社が、オンラインゲームを攻撃してんの?」

「ふっふっふ、それはニュースには載ってないけど、リーク情報があったのです!」

「……誰かの告発でもあった?」

「うん、そうみたい! はい、ここー!」

「どれどれ?」


 晴香が送ってきたURLはSNSでの発言をまとめているサイトのページか。えーと、匿名で個人の認証がされてないSNSのアカウントだから信憑性は薄いけど、逮捕された人に関する暴露話っぽいね。

 ふむ、これは完全には鵜呑みにしない方が良い内容だろうけど、興味深い類の話ではあるか。……って、ちょっと待てーい!


「……え、何? 『流出元の女が個人的な恨みでやらかした』ってどういう……えぇ、あちこちのゲームで問題を起こしてBANされまくって、『今度こそ滅茶苦茶にしてやる』って目論んでたのが失敗してブチ切れてた……? 『普段から怪しい動きをしてたけど、今はこの有り様だ! 報いを受けて、ザマァ!』って……」

「その情報が本当なら、多分あれなのさー!」

「……そんな気はするけど、理由がどうしようもないな!?」


 うっわー、暴露してる人の書き込み内容自体が相当性格が悪い感じだけど。暴露されてる逮捕された人も書かれている内容が事実なら大概だな。てか、暴露してる人って、通報した人なのでは?

 この逮捕された人があのスライムなのだとしたら……うん、まぁ納得出来る内容ではある。どう考えても思いっきり犯罪行為をしてるし、このSNSのまとめが事実ではなくてもどうしようもないのは確定だけど。


「あー、信憑性が微妙な情報源だけど、要は感情に任せて短絡的に実行した、今までBANされてきたオンラインゲームへの嫌がらせか……? あのゲーム会社の方は、その巻き添えで不正評価が表面化しただけなのか」

「多分そうなのです! 不正評価に使ってたのを攻撃に使う理由が皆無なのさー!」

「……だよなぁ」


 うん、そこは晴香の言う通りだ。あのゲーム会社が不正評価の為に役所の人間から流出させた個人の認証データを使って、わざわざ他のオンラインゲームに障害を起こさせる意味がない。

 オンラインゲームのサービスを開始しようとしていて他のゲームが邪魔だというなら、それこそ不正評価で不当に評判を落とす方がまだあり得そう。


 というか、この件って役所の人間が流出させてた方がよっぽどヤバい気もする。……ちょっとその辺はどうなってんだろ?


「あー、役所の方への炎上も発生してるのか。……まぁ当たり前か」

「今回のは偽装データじゃなくて、流出だったのが相当問題みたいなのさー!」

「そりゃそうだよなー」


 管理する側の人間が意図的に流出させたんじゃ、どんなセキュリティがあってもどうしようもないし……。人が管理している以上、そういう問題のある人間に管理を任せていた事が問題視はされるよな。

 まぁ、とりあえず今回の一件は……俺らとしてはこれで本当に終わったって考えて良いのかな? ……暴露話が本当の話かは分からないけど、まぁこの状況でBANされたあのスライムに出来る事は何もないだろ。


「……なんだったんだろうな、結局」

「……よく分からないのです」

「……だよなぁ」


 悪意をばら撒くだけばら撒いて、それを楽しみに動く人がいる。自分が思ったようにならなければ攻撃をする人がいる。自身の利益の為に、不法行為に手を染める人がいる。

 理解出来ないし、理解なんかしたくないけど、これが現実か。そういう人ばかりじゃないのは分かっているけど、巻き込まれたら本当にたまったもんじゃない。


 父さんや母さんからたまに昔よりもビックリするくらい技術が発展していると聞くことはある。俺自身も小さな頃には夢物語と言われてたらしいフルダイブのVR機器の普及を体感して育ってきた。

 どれだけ技術が進歩しても、道具は道具で、結局は使う人次第って事なのかもね。……昨日調べた際に、不正評価とかただ単純に実行するのが技術的に難しくなってるだけで、昔からあったみたいな事は書いてたしなー。

 

「あ、そういや運営から補填の内容は12時にお知らせするって出てたよー!」

「ほいよっと。……とりあえず起きるか」

「兄貴、もう二度寝しててもいいよー?」

「……ちょっと待て、晴香。さっきまでは起こそうとしてたのに、その変化はなんだ?」

「二度寝したら、兄貴の分の朝ごはんは貰うのです!」

「狙いたくなるような朝飯か!?」

「という事で、兄貴、おやすみー」

「おいこら、待て!?」


 あ、思いっきりドアを閉めて出ていきやがった! このまま二度寝したら、確実に朝飯は晴香に食われる。ニュースの内容を見て思いっきり目が覚めたから、二度寝出来そうにないけどなー!

 流石に今すぐに起きれば、晴香に俺の朝飯が渡される事はないはず。仕方ない、普通に起きますか。とりあえず晴香の思い通りに朝飯はやらん!



 ◇ ◇ ◇



 晴香が狙っていた朝飯はフレンチトーストであり、なんとか俺の分は死守出来た。母さんが晴香に俺を『起こしてきて』と頼んだけど、二度寝するなら晴香が食べていいという話だったっぽい。

 まぁニュースの件を言わなきゃ起きずに二度寝してたけど、そこは晴香も気になってたから伝えようとしてたみたいだけどなー。


 そして、今は適度に時間を潰して昼飯も食べて、食器を片付け終わったところである。いやー、昼飯までの間に解禁されたっていうオフライン版の配信を軽く見てみたけど……正直、あんまり上手い人はいなかったな。

 上手い人は元々録画でやってた人か、業務用のVR機器を使って配信をしている人ばっかだった。根本的に一般向けのVR機器のフルダイブには時間制限があるから、上手い人の多くがオンライン版に来てるんだろうな。


 それはそうとして、晴香が俺の部屋の椅子に座って机に突っ伏しているのはなんでだ? 今ここにいる理由はなんとなく予想は出来るけど、なんで疲れ果てている?


「……で、何やってんの、晴香?」

「うぅ、急遽ヨッシの提案で決まったVR空間での勉強会は疲れたのです……」

「あー、午前中はサヤとヨッシさんと勉強会をしてたのか」

「……テスト期間は明日からなのに、事件の犯人を恨むのさー!」

「晩飯に向けて頑張っとけー」

「……それがあるのが唯一の救いなのです」


 まぁテスト期間に入る直前にこの状態だとなぁ。本当に今日のバーベキューがあって、気分的には助かった。バーベキューは18時くらいからで、遅くても20時くらいには切り上げてくれる事にはなったしね。

 そしてバーベキューの準備の為に肉や海鮮を買いにさっき出かけていった。炭も追加で買ってくると言ってたっけ。


「さてと、それじゃ運営からの補填とやらを確認していくか。晴香もその確認のつもりだろ?」

「そうなのさー! そこでなんだけどサヤとヨッシと一緒に確認しませんかー?」

「……はい? え、こっちのVR空間で一緒にって事か?」

「うん、そうだよー! アルさんも呼びたかったけど、連絡手段が無いから仕方ないのです……」


 ふむ、このお誘いは全く想像してなかったな。んー、普通の家で使うVR空間用のアバターとか、リアルの姿そのままのしかないんだけど……あー、ヨッシさんは俺のリアルの顔は知ってるね。

 俺も一応ヨッシさんのリアルの姿は見た事あるから、リアルの姿を知らないのはこの場合はサヤだけだよな。……よっぽどでなければ、ホームサーバーに作ったVR空間で会う場合に代替用のアバターは使う事はないし、サヤもヨッシさんも多分そのはず。基本的にリアルでの知り合いを呼ぶ事ばっかだしなー。


「ヨッシさんはまぁお互いに会ったことがあるから良いとして、サヤはどうなんだ?」

「良いって言ってたよー! リアルの姿で会うのが駄目ならそもそも誘わないのです!」

「あー、まぁそりゃそうだ。……サヤがいいなら、俺も別にいいか」

「それじゃ決定なのさー!」


 まさかのサヤとヨッシさんとのリアルの姿での対面。いや、こういう流れになるのは全然予想してなかったぞ。……普段、ゲームで話しているけど、リアルの姿で会うとなるとなんか妙に緊張してくるね。


「あ、晴香、誰のとこでVR空間を作るんだ?」

「我が家なのさー! そうしたら兄貴の分の認証コードは必要ないのです!」

「……そりゃそうだ」


 外部から接続するなら認証コードを発行しなきゃいけないけど、そもそも俺は同じホームサーバーに接続してるんだから完全に個人用にロックをかけさえしなければ認証コードは必要ない。

 まぁ4人中2人が同じホームサーバーにいるとこでやるのが一番楽だよなー。うん、なんか妙に緊張してるね、俺。


「それじゃVR空間を作って2人を呼んでくるから、兄貴は後から入ってきてねー!」

「ほいよっと」


 そう言いながら晴香は自分の部屋へと向かっていった。まぁホームサーバーにVR空間を作るには、携帯端末からでも、VR機器からでも出来るからなー。


 とりあえず俺はVR機器を被って、フルダイブの準備をしとこ。えーと、VR機器を今はAR表示モードにして……晴香が作ったVR空間に外部からの接続が2人分確認出来るまで待機しとこ。


「お、来たか」


 それほど間を置かずに、VR空間に外部からの接続がされた事が表示された。さてと、それじゃ無駄に緊張してても仕方ないし、フルダイブしていきますか。



 ◇ ◇ ◇



 そうして、我が家のVR空間へとやってきた。まぁ特に珍しい訳でもない洋室のリビングみたいな感じの部屋である。ぶっちゃけ、俺はそこまでこのVR空間を使う事ってないんだよな。


 まぁそれは良いとして、その場にいるのはいつも見ている癖っ毛のある短めで薄っすらと茶色がかった髪の晴香。その隣にいる、晴香より少し背の高いどことなく見覚えのある少し青みがかった黒い髪のポニーテールの女の子はヨッシさんだな。

 そして全然見覚えのない長い黒髪の女の子が……まぁどう考えてもサヤだよな。へぇ、こうしてみると極端に身長の差がある訳じゃないけど、サヤが一番身長が高いのか。


「……あはは、普段よく話してるのに、こうしてリアルの姿で初めて会うのは少し気恥ずかしいかな?」

「あー、その気持ちはなんとなく分かる」


 なんというか、まぁ急な話だったしね。実際にこうして会ってみると、なんというかサヤは和風美人って印象だ。

 あー、でも特に何も喋らずに座って本でも読んでいたら、声をかけにくそうな雰囲気もあるかもしれない。いや、実際にどうなのかは知らんけど。


「うーん、私の知ってるケイさんのイメージが、なんか違うような気がするね? 前に会った時から時間も経ってるし、少し前より大人びてる?」

「俺としても、ヨッシさんには同じような印象があるな」

「まぁ最低でも半年くらいは経ってるはずだし、そうなるよね」

「だなー」


 ヨッシさんは……うん、確実に前に見た時よりも成長している。いや、まぁ俺も含めて全員高校生なんだから当然ではあるけども。

 活発で面倒見が良さそうな印象だなー。……印象も何も、普段の様子からそのまんまじゃん! いや、普通に印象通りの雰囲気。


 妹の晴香は除外するとして、ぶっちゃけサヤもヨッシさんも違う雰囲気ではあるけど、間違いなく美人だし、普通にモテてそうな気がする。


 それにしても、ゲーム内とのギャップが凄いもんだな。いや、人型は誰一人としていないから、こうなるのは当然なんだけど……。

 てか、3人とも服装がTシャツと丈が短めのズボンってラフな格好だな。まぁ俺も大差はないけど。


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