第933話 移動をしている最中に
グラス平原を進んで望海砂漠が見えてきて、適応する為に止まっているところである。それじゃサクッと適応を済ませて、望海砂漠へ突入だな。
「あ、ハーレさん、先に大空洞への入り方を教えてもらってもいいか?」
「それはもちろん良いのですさー! えっと、前にみんなで来た時にあちこちに小規模な洞窟があるって話をしたよねー?」
「そういえばそんな話もあったね」
「そこが関係してんのか?」
「アルさん、正解なのです! いくつもある小規模な洞窟のどこかじゃなくて、どこからでも同じ手順で入れるのさー!」
「あ、そうなのかな?」
ふむふむ、どれかに仕掛けがあるんじゃなくて、どれにも同様の仕掛けがあるって事か。だとすると、大空洞という名前的にも全部が繋がってる可能性もありそうだな。
「それでどうやって入るんだ?」
「意外とシンプルで、いつからか分からないけど、時折発生するようになった流砂がそ小規模な洞窟に流れこむようになってるらしいのです! その中に飛び込めば、そのまま大空洞へと辿り着くのさー!」
「ふむ、望海砂漠でもちょっとした変化があったって事か」
「アルさん、そういう事なのさー!」
へぇ、あちこちのエリアで変化があるとは聞いたけども、望海砂漠の地下にある大空洞に入るのはそういう手段になってるんだな。
あ、そういやレナさんとダイクさんは硬化草の群生地は見つけられたんだろうか? ハーレさんに話を聞いてからちょっと聞いてみようっと。まぁちゃんとログイン出来てたらになるけどさ。
それはそうとして、流砂が入るきっかけになっているのならこれは確認しておかないとね。流砂の発生を待つ必要の有無が決まってくるし。
「ハーレさん、それって俺の砂の操作で代用は可能か?」
「魔法産の砂は駄目らしいけど、天然産の砂ならいけるらしいです!」
「なら俺らはそれで――」
『「Monsters Evolve Online 」運営チームより、緊急のお知らせです』
ん? なんか男の人の声が響き渡ってきたけど……あれ、こんな風に音声で全体にアナウンスがあるって珍しいな。いや、珍しいどころじゃなく、初めてか?
思いっきり会話の途中だったけど、流石に話は中断してアナウンスを聞いておくべきだな。ログイン障害についての続報かもしれないしね。
てか、緊急のお知らせって言い方と、このタイミングで今までにない感じのアナウンスって事で、あんまり良い予感がしない……。
「これ、臨時メンテのお知らせか?」
「そうかもな。ちょうど止まってて良かったかもしれん」
「まずは内容を聞いてみるのさー!」
「それもそだね」
「……どうなるのかな?」
俺らプレイヤーがこういう風に反応するのを見越してか、続きを喋るのは待ってる感じだね。俺らは止まってたけど、人によっては戦闘中って事もあるだろうし、その辺への配慮なのだろう。
もう完全に悪い内容な気しかしないけど、まずは内容を聞かなければ何がなんだか分からない。今はとりあえず運営に人からのアナウンスを聞いていこう。考えるのはその後だ。
『19時42分頃から発生しているログイン障害について原因の調査を行ったところ、外部から不正なアクセスが多発している事が判明しました』
「え、不正なアクセス!?」
「混雑によるログイン障害でも、いったんの不具合でもなかっただと!?」
ちょ、ちょっと待った! この理由は想定してなかった!? え、それって今このゲームのサーバーが誰かから攻撃を受けてるって事か!? それが原因でアクセス障害が起きている!?
『運営チームとしましては、プレイヤーの皆様の安全を考慮して【セキュリティロック】の申請を行いました。つきましては、臨時メンテナンスとして24時間のサーバーへのアクセスが制限される事になります』
えーと、セキュリティロックって確か……フルダイブを使用しているオンラインサービスで不測の事態が発生した際に、フルダイブの認証を発行している公的機関がその権限でサービスを強制遮断する事だったっけ?
今まで何件か事例はあった気はするけど、両手で事足りるくらいしか発生してない事例のはず……。嘘だろ、確かこれって問題解決の為に最低でも24時間は閉鎖されるやつじゃん!? 情報を精査する為に新規のアクセスがあると困るからって理由と、状況悪化を防ぐ為って理由だったはず。
「ちっ、どんだけ厄介なことに……」
「えーと、どういう事なのさー!?」
「……確かセキュリティロックって、安全確保の為のオンラインサービスの強制閉鎖だよね?」
「あれって運営側から申請出来たのかな!?」
「……申請したって言ってたし、出来たんだろうな」
こりゃ、思いっきり面倒な事になってきた。……チョーチに聞いても答えてもらえなかったのは、まだ調査中で原因が特定出来てなかったからか。
『詳細につきましては公式サイトの方をご覧下さい。そして申し訳ありませんが、20時30分までに各自でログアウトをよろしくお願いします。既に新規のログインは停止しておりますので、ログアウトには支障はございません』
とりあえずログアウトは無事に出来るようである。てか、そういう事が出来るなら運営側で臨時メンテナンスにして、一時的にするだけじゃダメだったのか……?
「ケイ、気持ちは分かるがそれじゃ解決にはならんからな。ホームサーバーによる個人認証があるのにどうやったのか知らんが、フルダイブのVRで不正アクセスによる過負荷は洒落になってねぇ」
「あ、そうか。ログイン時間を制限する為に認証があるのに、不正なアクセスが多発って異常だもんな……」
なるほど、だから公的機関が動くセキュリティロックを申請したんだろう。……サーバーに攻撃を仕掛けてきているって事は、それはもう完全に犯罪行為だしね。
フルダイブでのオンラインゲームで聞いた事はないけど、旧来型のオンラインゲームではそれで逮捕者が出たって話は聞いた事がある。……警察が動く為のセキュリティロックか。
「……うーん、よく分からないのです」
「んー、少し違うけど、強盗が来たけど事件解決までシャッターを下ろして、警察が来るのを待ちますってところ?」
「……どちらかというと、自宅の前に犯罪者が居座ってるから、対処してもらう為の警察を待つって方が近いぞ」
「はっ!? どっちにしても良くない状況なのは分かったのです!」
まぁヨッシさんの例も、アルの例も、問題解決の為に一時的に閉鎖して、法的な対応が可能な所に対処を任せるという点は間違ってないはず。……俺もそこまで詳しく知ってる訳じゃないけどさ。
『この事態による補填は検討を行いますので、そちらの情報は公式サイトにて追ってお伝えします。お楽しみのところ、非常に申し訳ありませんがログアウトへご協力をお願いします』
あー、一応補填はしてくれる予定なんだな。……まぁここから最低でも24時間はログインが出来なくなるんだし、月額料金は払っているんだからそれは流石にしてもらわないと困る。
てか、明日は折角の経験値の稼ぎ時の日曜なのに、これからもLv上げに行く最中だったのに、この状況はないよ……。いや、運営が悪い訳じゃないんだけどさ。
『繰り返します。「Monsters Evolve Online 」運営チームより、緊急のお知らせです』
あ、どうやら緊急のお知らせの内容自体は終わったみたいで、同じ内容を再び繰り返し始めたね。……あーあ、折角の土曜の夜と日曜の大半が台無しじゃん。
「攻撃してきてる奴、ふざけんな!」
「そうなのさー! 明後日からは私達はテスト期間なのにふざけるなー!」
「……ケイ、ハーレ、落ち着いてかな?」
「……サヤ、言葉とは裏腹に声から苛立ちが隠せてないよ。まぁ気持ちは分かるけどさ」
「まぁ起こっちまってるもんはどうしようもねぇ。セキュリティロックまで使ってるんだ、早期の解決を待つしかない」
「……そう期待するしかないか」
こんな状況に陥っていても、ただのユーザーである俺らに出来る事は何もない。運営が警察とか他の公的機関に被害届を出して、動いてもらうしか対処方法もないからな。
でも、この流れって絶対に荒れるよな……。悪いのは運営じゃなくて、攻撃を仕掛けてきた方なのに、運営を悪し様に罵るような悪意のある……え、悪……意? ちょっと待って、嫌な連想が浮かんできたんだけど……。
いや、この可能性はここで言うべきじゃない。そもそも根拠がある訳でもないし、ただの思い過ごしの可能性だってある。
「ケイ、どうしたのかな?」
「あー、いや、なんでもない。アル、明日の夜は21時までには合流出来るようにするつもりでいこう」
「……まぁこの状況になったら、そんなとこか。24時間で片付けば良いんだが……」
「アルさん、24時間で片付かなかったらどうなるのー!?」
「フルダイブの安全性が確保出来ないって事で、期間が延長になるはずだ。……犯人の手口が分からんが、VR機器を一般普及させるのに尽力した人達が黙っちゃいないだろうがな」
うん、確かにそこらの人達は絶対に黙っていないはず。元々は医療用のAR機器から発展して一般普及までこぎつけたVR技術だけど、それを台無しにしかねないもんな。
今標的になっているのはゲームではあるけど、ゲームとして使えるようになるまでに大勢の人の尽力はあったはず。それらを蔑ろにするような犯罪行為は……許せる訳がない。
「うぅ、無事に解決してほしいのです……。今日のコンテストの締め切りとか、明日のタッグ戦、どうなるんだろ……」
「……色々と心配だね」
あー、そっか。明日はタッグ戦もあるんだった。予定時間は22時からだから、無事に解決すれば実行は可能なはず。……まぁその辺は、今考えてもどうしようもないな。
「とりあえず、ログアウトしろって促されてるし、今日は解散か」
「……望海砂漠に辿り着りつけなくてしょんぼりなのです。うぅ、明後日からはログイン出来ないのに、なんでなのさー!?」
「ハーレ、とりあえず落ち着いてかな!?」
「ハーレ、落ち着いて!」
「あぅ……明日は自棄食いなのさー!」
「ま、気持ちは分かるぜ、ハーレさん。折角の休日を台無しにしやがってよ!」
「おわっ!? アルまで荒ぶるなよ!?」
「あー、すまん……」
まぁハーレさんやアルの気持ちは分かるけどさ。俺だって正直、相当苛立ってるし
……。でも、だからって今どうにか出来る話じゃないからな。
「……まぁいつまでも残ってても運営を困らせるだけだな。それじゃ、また明日な」
「……それしかないかな」
「……そだね」
「……あぅ、気に入らないけど、どうしようもないのです」
「……だなー」
これから望海砂漠に突入やるつもりだった夜の部は、目的地のすぐ近くまで来て断念せざるを得ない。そして、最低でも明日の20時30分まではログイン出来ない事は確定。
あーあ、折角のテスト前の土日がこれって散々だな。明日のタッグ戦はあるし、みんなも楽しみにしてるだろうし、どうしたもんか……。
そんな風にみんなが気落ちしながら、ログアウトをしていく事になった。はぁ……なんでこんな事になったんだろ。
◇ ◇ ◇
憂鬱な気分になりながらも、いったんのいるログイン場面へとやってきた。既に新規のログインは遮断していると言っていたし、いったんへの処理し切れない負荷はなくなっているのだろう。
いつものようにいるいったんの胴体部分には『不正な多量のアクセスにより、【セキュリティロック】が実行になります。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません』と表示されている。……運営が悪い訳じゃないのに、お疲れ様です。
というか今回の件はちょっと心当たりがなくはないというか、タイミングと悪意全開のこの状況から考えたら、邪推ではあるけど……あのスライムの仕業な気もしてる。
ゲームから排除して終わったと思ってたけど、あの悪意の塊がレナさんに負けた状態で大人しくしているだけってのは楽観視し過ぎてたのかも……。でも、確証はないし、俺じゃどうしようもないからなぁ……。
「いったん、なんか面倒な事になってるな」
「折角の土日なのに、こんな状態でごめんね〜。あ、真面目モードに切り替えた方がいい〜?」
「いや、なんか気が滅入るからいつもの調子でいいや。ところで、ぶっちゃけどういう攻撃をされてるんだ?」
「後で正式に告知は出すけどDDoS攻撃だね〜。どういう手段かは分かってないんだけど、新規の認証データで大量にログイン申請をしてきて、正規データかどうかのチェックする部分に過負荷をかけられた感じだよ〜。そこからログイン処理が済んでも、何もせずにログアウトして、再度ログインしての繰り返し〜」
「……そういう内容か」
今って新規が一気にそんなに流入してくるような状況でもないし、そりゃ不正なアクセスの可能性を疑うか。……でも、それが正規のデータってどういう事だ? あ、そういう部分をチェックする為のセキュリティロックか?
それでDDoS攻撃ってのは確か過剰にアクセスをしまくって処理し切れない程の負荷を与える攻撃だっけ? まぁその辺は詳しくないから、ざっくりとした事しか知らないけど……。
「ここから先は警察のお仕事だね〜。ただ、これ以上は開示出来ない情報になるから言えないんだ〜。そこはごめんね〜」
「あー、まぁそこは仕方ないな」
とりあえず運営の方で既に手口の推測が出来ているのというのは一安心か。ある程度の解決の目処が立ってるって事だしね。
「あ、セキュリティロックが実行になったら、19時以降にここにアクセスしていた人への認証チェックの通知がホームサーバーに届いているはずだから、そこで本人の生体認証をお願いします〜」
「ほいよー」
ふむふむ、セキュリティロックになった場合ってそういう作業も必要になるんだな。まぁ再度の生体認証とか、一瞬で終わるから別に良いけどさ。
ん? もしかしてそれで不正なアクセス元を断定するのか? 運営自体にはその辺の個人情報は伝わらないようになってるはずだけど、セキュリティロックが働けば公的機関から警察への情報開示があるらしいしね。
まぁ詳しい内部事情は知らないし、何が出来るわけでもないからその辺は任せとこ。出来る事といえば、最短の24時間でセキュリティロックが解除になるのを願う事くらいか。
「それじゃ申し訳けど、ログアウトの処理をさせてもらうね〜。今回の補填については、内容が決まり次第、公式サイトの方でお知らせします〜」
「ほいよっと」
「今回は本当に申し訳ありませんでした」
そんな風にいったんに謝られながら、ログアウトになっていった。あー、思いっきり複雑な気分……。
運営は確実に悪くないけど、やらかした犯人はとっとと捕まってしまえ! ……明日の夜まで何をしてようかな。
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