第932話 移動をしながら


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『始まりの草原・灰の群集エリア3』に移動しました>


 ミズキの森林から森林深部に転移してから、更に草原へと転移してやってきた。それにしても、森林深部も草原も、群集拠点種の場所にしては随分と人が少ないな……。


「妙に人が少ないけど、ログイン障害ってまだ続いてるっぽい?」

「……確かにそんな感じはするな」

「でも、理由が分からないままなのさー!?」

「どうなってるのかな?」

「運営側で不具合が起きてるとか、そういう可能性は?」

「あー、そっちの可能性もあるのか」


 ふむ、普通に混雑している方向で考えてたけど、運営側の不具合が起きてる可能性もあるにはある。実際にいったんがバグって全面的にチョーチに担当が入れ替わってた事もあるし、ない可能性とはいえない。

 チョーチが担当になった俺はスムーズにログイン出来たし、いったんに不具合が発生中はありそうかも。……あー、今それを何とか調整中とかか?


「もしそうなら、酷ければ臨時メンテナンスの可能性もあるかな?」

「……今の状況では無いとは言えない可能性だな。告知なしで緊急メンテにはならないと思うが、そうなった場合の方針を決めとくか」

「だなー。あ、そういやサヤとヨッシさんはスクショのコンテストの応募は済ませたか?」

「うん、それは大丈夫かな!」

「私も大丈夫」

「それならとりあえずコンテストについては大丈夫だなー」


 もしログイン障害が改善しない状態が続けば、冗談抜きで臨時メンテになる可能性があるもんな。……なんというか、スクショのコンテストの受け付け最終日に運がないもんだよね。

 まぁ流石にコンテストの受け付け終了時間に重なるような事があれば、運営も何か補填やら受け付け終了の延期やらはするだろうけど、現状では運営からのアナウンスを待つしかないか。


「アル、とりあえず予定通り望海砂漠に向かう感じで! ただの俺らの無駄な心配の可能性もあるし、移動中に相談しよう」

「おうよ」


 今の時点で運営から混雑によるログイン障害という以上の情報はないから、ただ本当に混雑してるだけって可能性もあるからね。臨時メンテになった時の事を考えて、他の作業を止めるのはなしだ。

 という事で、アルのクジラに乗ったまま移動開始ー! まずは手前のエリアである『グラス平原』まで行かないとね。


「てか、よく考えたら俺以外はハーレさん経由で全員連絡が取れるのか……」

「あー、それはそうだけど、だからこそアルとは今のうちに話しといた方がいいんじゃね?」

「……そりゃそうだ。で、ぶっちゃけ本当に臨時メンテになったらどうするよ?」

「それは終わる時間にもよるんじゃないかな?」

「短時間で復旧すれば、そのまま予定通りLv上げは再開でいいよね」

「その場合はそれでいいと思います!」

「ま、その場合はそれでいいか」


 まだ20時を少し過ぎたくらいだし、1〜2時間くらいの臨時メンテならその後に集合し直してLv上げをしに行くのは問題ない。


「……問題は長引いた場合だな。ケイ達は何時までなら待てる?」

「んー、最悪で日付が変わるまでってとこだなー。明日が日曜だからもっと待てなくはないけど、それなら普通に明日の朝からやればいいし」

「私もケイさんに同意なのさー! でも、その場合はコンテストの扱いがどうなるのかが気になるのです!?」

「流石に明日まで受け付けは延期じゃない?」

「私もそう思うかな」

「うー、そうなりそうな気もするのさー! でも、最終日って意気込んでたのが空振りになったような気分になりそうなのです!?」

「あー、そりゃ確かにな……」


 まぁハーレさんの言う事も分からなくはない。コンテストの最終日だから意気込んで動いてる人も多いし、今日はあちこちで共同撮影会もしてるはず。

 それが明日までいけますよーとなったら、まぁちょっと台無し感はある。……つくづく最終日、それもこれから最後の最後の追い込みってタイミングでログイン障害になったもんだよなー。


「とりあえず日付が変わる時間が近ければ、今日はもう解散って事にしとくかー。アル、明日って何時にログイン出来る?」

「……そうだな。朝の9時にはいけるぜ」

「それじゃもし臨時メンテになって、今日に戻ってこれなければ明日の9時に集合って事で! 集合場所は……その時に共同体のチャットで考えよう」

「ま、それが無難なとこか」


 もし臨時メンテになったとしても流石に明日の朝まで続くとも思えないし、時間的にはこれで問題はないはず。まぁ一番良いのは、今のログイン障害がただの一時的な混雑で、臨時メンテにならない事だけどね。


「サヤとヨッシさんはそれで大丈夫?」

「ケイさん、なんで私には聞かないのー!?」

「……いや、どうせ起こしにくる気しかしないし」


 普段でさえやってくるんだから、今回みたいな特殊パターンでやってこないとは思えないもんな。まぁ目覚まし代わりになるから別にいいけど。


「確かにそれはやると思うけど、それはそうとして複雑な気分なのさー!?」

「あはは、楽しみがある時は早起きになるのはハーレらしいね。とりあえず私はその時間でも大丈夫だよ」

「私も大丈夫かな!」

「よし、それじゃ万が一の時はそういう事で!」


 これでもし臨時メンテになったとしても、その後の方針自体は決定だね。まぁあくまで念の為だから、ここからは普通に予定通りにやっていこう!


<『始まりの草原・灰の群集エリア3』から『グラス平原』に移動しました>


 おっと、そうしているうちにグラス平原へと辿り着いた。この先にある望海砂漠が目的地への入り口だから、そこへエリアの切り替えの時に乾燥への適応をしないとなー。使うのは纏火で……って、そういや俺って乾燥適応の特性の種を持ってた気がする?

 あ、インベントリの中を見たら普通にあった。そうだよ、なんか忘れてたけど、普通に前に望海砂漠に行った時に乾燥に適応する為に『特性の種:乾燥適応』を情報ポイントで交換してたじゃん。使う機会があんまりないから完全に忘れ切ってた!


「……ん? あれ、なんか妙な気がする?」

「ケイ、どうした?」

「あー、いや、前に望海砂漠に来た時に特性の種で適応してたのを今思い出したんだけどさ」

「……おいこら、適応手段を持ってたのを忘れてたのか?」

「思いっきり今の今まで忘れてたなー! まぁそれは良いとして、その時って何か効果時間が1時間だったような気もするんだけど……特性の種や特性の実の効果時間って2時間だよな?」


 んー? 正確に覚えてる訳じゃないんだけど、そんな事があったような気もするんだよなー。あー、これはあれか。またバグがあって、その修正を俺が見逃していたってヤツか?


「おう、ケイ、それが正解だ。一部の特性の種と特性の実で、効果時間が間違ってるってバグはあったぞ」

「あー、やっぱり?」

「え、そうなのかな?」

「私も初耳なのさー!?」

「……私も同じく」

「……まぁ、そもそも気付いてる人自体が少なかったみたいだからな。あれだ、進化の輝石……使い捨てじゃない輝く方な? まとめで誰かが間違えて記載してた事があって、あれの効果時間と混ざってた人が多いみたいだぜ」

「あー、そういう……」

「てか、致命的なバグ以外は報告者には直接連絡はあるが、それ以外は公式サイトの修正情報にしか載ってねぇからな……」

「まぁいったんから修正情報を聞かされ続けても面倒ではあるもんなー」


 公式サイトに修正情報はしっかり載っているなら、俺の……というか、今回はアル以外のみんなの確認不足なだけかー。みんなも苦笑いしてるけど、まぁ気持ちは俺も同じだよ。

 てか、適応の手段で効果時間がバラバラだから、まとめを編集した人も混乱して書き間違えたんだろうね。まぁ無償で手動でやってくれてるんだし、ミスがあっても仕方ない。


 えーと、俺も少し混乱してきてるから整理してみよう。とりあえず進化の軌跡と適応用のお茶の効果時間が30分、進化の輝石は1時間、適応の実や種が2時間だったはず。

 変なとこでバグが出てたり、まとめの編集にミスがあったり、俺自身が勘違いしてる事もある気がするけど、多分これで合ってるはず。


「ふー、とりあえず俺は望海砂漠に着いたら、2時間は乾燥適応は大丈夫だな!」

「そういえばお茶で乾燥への対応が出来るのってあるのー!?」

「えっと、その効果があるのは『硬化草茶』だね。『硬化草』の状態で使うと体表面が硬くなるんだけど、お茶にしたら乾燥に強くなるんだって」

「へぇ、そういう感じか」

「アルさん、少しクジラで食べてみる? 突撃系だとちょっとだけどダメージが増えるみたいだよ?」

「おっ、そりゃいいな。どっかで機会があれば使ってみるか」

「それじゃ、はい、これね」

「おう、ヨッシさん、サンキューな!」


 ふむふむ、地味に硬化草自体にスキルの『硬化』に近いような効果があるんだね。俺のロブスターにも使えそうな気もしないでもないけど、まぁ使う機会があれば使ってみるか。


「あ、ヨッシ! 桜花さんに頼まれてたあれ、忘れてるかな!」

「あ、そういえばそうだったね! 桜花さんからハーレにこれを渡すのを頼まれてたのを忘れてたよ。はい、ハーレ」

「これって、木の実ー? でも、普通のとは違う気がするけど、これって何ー?」

「硬化草と木の実を合成した、かなーり硬い木の実だって。普通の小石よりも硬いらしいから、少し試して欲しいってさ」

「おー、そうなんだ!? あんまり数はないけど、どこかで使ってみるのです!」

「うん、よろしくね、ハーレ」

「はーい!」


 そういや毒草と合成した木の実や、発光草と合成した木の実とかもあったもんな。その硬化草版の新しい特殊な投擲用の弾か。

 どれも個数がないから、全然使えてないんだよなー。まぁこうやって新しい弾の実験を頼まれるんだから、俺が知らない時に使ってるのかもしれないけど。


「さてと、とりあえず急ぎの案件はこれで終わりだなー。それじゃヨッシさんの相談とやらを聞いていこうか」

「あ、それもそだね」

「ヨッシのお悩みはなんですかー?」

「あはは、悩みって程でもないんだけどね。地味に支配進化の条件を満たせそうになったら、ちょっと他の選択肢が浮かんできてさ」

「ヨッシは合成進化から、支配進化に変えるのかな?」

「んー、厳密にはちょっと違うかも? ほら、3枠目が解放されるんじゃないかって推測もあったじゃない? ウニとその3枠目で合成進化して、その上で支配進化にするのも面白いかなーって思ってさ」

「……なるほど、そういうパターンか」


 確かに合成進化なら進化階位は上がらないし……あ、でも合成進化なら3枠目の種族も未成体の上限Lvにしないといけないはず? そうか、だから俺らに相談か。


「ヨッシさん、要するに3枠目をパワーレベリングしたいって認識でいい?」

「うん、そういう事になるね。その上で、ハチの支配進化にしたい感じ」

「へぇ、そりゃまた面白そうな事を考えたな、ヨッシさん。それは3枠目を決めたって事で良いのか?」

「まだ種族は確定はしてないんだけど、ウニを振り回してぶつけられるようにしてみたいんだよね。モーニングスターとかああいう鈍器みたいな感じにして、中距離からの物理攻撃にしたいんだ。ハチは魔法での状態異常を、振り回せるようにしたウニで物理毒を使う感じでさ」

「予想外の方向にきたな!?」


 あー、でもこれって支配進化の全体的なステータスの高さを活かす為の選択か。魔法よりは状態異常に寄せた方が良いだろうけど、物理での状態異常にも対応出来るようにしようって感じだな。


「ヨッシ、どういう種族を選ぶのかな?」

「えっと、伸縮する何かをウニに追加したいから、蔓系の植物か、触手のあるタコとかイカとかクラゲ辺りだね」

「おー! それならヨッシもクラゲにするのさー!」

「あはは、それも良いかもね」


 ふむふむ、要するに3枠目で育てる種族はあくまでも合成進化用の素材の種族であり、振り回す為の何かをウニに追加出来れば良い訳か。……あれ、それなら無理に3枠目はいらなくない?


「ヨッシさん、ちょい待った。それって『部位合成の種』でも良いやつじゃね?」

「うん、入手が出来ればそっちでも構わないよ。ただ、入手出来ないまま3枠目が解放になった時に手伝って欲しいって話」

「あー、そういう事か」


 別にヨッシさんは『部位合成の種』の存在を忘れていた訳じゃなくて、それが手に入れられなかった場合のパワーレベリングのお願いと、ちょっと進化の方向性を変える事について相談したかったんだな。

 てか、そういう方向性を考えていたのなら、ヨッシさんがいない時に『部位合成の種』を取り扱ってたヤナギさんが居たのが凄く惜しい! あのラインナップの中にあったのになー。


「それじゃ3枠目のパワーレベリングでの育成は、最終手段って認識で良いんだな? そういう事なら俺はいいぞ」

「私もなのさー!」

「俺も問題ねぇぜ」

「私もかな!」

「ありがと、みんな。まぁ出来れば『部位合成の種』で済ましたいんだけどね」

「まぁ、パワーレベリングをするって言ってもそれなりに時間はかかるだろうしなー」


 あくまでパワーレベリングは時間短縮にはなるけども、少なからず時間がかかるのは間違いないからね。そういう意味であれば、ウニに『部位合成の種』で欲しい部位を合成してしまう方が間違いなく早い。

 まぁ確実に『部位合成の種』が手に入る保証はないし、手に入らない場合の事を相談してくれるのはありがたいね。うーん、他に良い手段があれば……。


「……ん? ふと思ったんだけど、『進化の輝石・樹』か『進化の輝石・草』との合成進化は? 木なら根、草花なら蔓とかでいけない?」

「……どうだろ? 一度、ウニだけで纏樹と纏草を使ってみないと分からないね……」

「あー、それもそうか」


 というか思いつきで言ってみたけど、纏樹や纏草を使うウニってどんな姿か全然想像が出来ないな。うん、発案した俺が言うのもなんだけど、試してみないとなんとも言えない。

 まぁ俺がコケだけの時に纏樹を使った時はコケ玉みたいになってたし、合成進化をする時はその姿が定着するらしいから、実際に纏樹や纏草を使ってみればいいはず!


「とりあえずそれは後回しだね。今は共生進化の解除の為にログイン場面には戻りたくないし、そろそろ見えてきたしさ」

「おー! 望海砂漠が見えてきたのです!」

「目的地がある場所に到着かな!」

「一度止まるから、ケイ、ヨッシさん、適応しとけ」

「ほいよっと!」

「了解!」


 さて、臨時メンテへの不安は拭いきれないけども、とりあえず目的地の近くまでやってきた。ヨッシさんの相談も今の段階で言える事は言えたし、その辺は明日にでも続きをやればいいかもね。

 それじゃアルの言うように適応していきますか! そしてハーレさんが入り方を聞いているという望海砂漠の地下の大空洞へLv上げに行くぞー!

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