第921話 スクショの演出 前編


 発火草の群生地に辿り着いて、これからスクショの演出をするというところ。ウィルさん達は邪魔にならないように、掘られたばかりの不恰好なトンネルの前で待機してくれている。

 あ、でも演出を始める前にこれは聞いておかないとね。言い方は悪いけど、今のままじゃ俺らの演出に悪影響があるし……。


「ところで、ジェイさん。カニの背中が明るいな?」

「えぇ、まぁそうでしょうね」

「この発火草の群生地が、今明るいのってジェイさんがあちこちにコケを増殖させて発光で照らしてるって解釈で合ってる?」

「えぇ、合ってますよ。ケイさん、何か問題がありましたか?」

「ちょっと俺らのやる予定の演出には邪魔かもしれなくてな……」

「……なるほど、私は邪魔という訳ですね。ウィルさん、どうやら私は邪魔なようなので、樹洞の中に入れてもらえますか。投影は必要ありませんよ!」

「あー、まぁ了解だ。『樹洞展開』!」

「後は任せましたよ、斬雨、ウィルさん、ラックさん。私はケイさんに非常に警戒されてるようですし、樹洞の中で大人しくしておきますよ!」


 あ、なんかキレ気味にジェイさんがウィルさんの樹洞の中に入ってしまった……。うーん、別にそういうつもりじゃ……いや、少しホッとしたのも事実ではあるから何とも言えない。

 でも、発光を切ってもらえればそれだけで良かったし、ジェイさんを怒らせる気はなかったんだけどなぁ……。ちょっとジェイさんに悪い事をしてしまった気分……。


「あー、ケイさん。今のはジェイの演技だぞ? キレた振りして、堂々と見る気……って、ジェイ、うっせぇよ!? 過去に俺ら相手にやってた事があっただろうが! はぁ!? あの時は本気でって、いや、どっちにしても今回は……やっぱりそうなんじゃねぇか!?」


 なんだか斬雨さんとジェイさんがPT会話か何かで言い争いをし始めたんだけど……。えーと、この雰囲気としてはさっきのジェイさんがキレたっぽいのは演技という判断で良さそうだよな?


「……やっぱりジェイさん相手だと油断出来ないな」

「……あはは、確かにそうかな」


 まぁ結果としてジェイさんが樹洞の中へ移動して、俺らの状態が見れないのであればその方が安心出来る。というか、今のタイミングで演技をしてくるとか、全然俺ら相手に大人しくしてる気ないじゃん!?


「……まぁいいや。それじゃそれぞれの配置場所を……って、あれ!? みんなは!?」

「あはは、あっちかな?」

「もうみんな準備を始めてるね」

「ちょ、いつの間に!?」


 みんなが話してるとは思ってたけど、内容まではちゃんと聴こえてなかったー!? 竜だけになってるサヤと、ヨッシさん以外はもうみんな配置の調整をしてますよ。

 うん、みんな動き出すのが動きが早いね。弥生さんとシュウさんは、この発火草の群生地の上に開いている部分の方へと既に移動済みか。


 そして割と近くではスクショの撮影班であるハーレさんが空中に、ルストさんが地面に、煮付けさんは……あれ? 煮付けさんの大根の姿が見当たらない……って、葉っぱしか見えないって事は既に地面に植わってるー!?


「ルストさん、ハーレさん、どうっすか!?」

「……そうですね。具体的な皆さんの配置にもよりますが、全体像のスクショはこの辺りの位置で問題なさそうです。ハーレさんの方は如何ですか?」

「んー、空中からの撮影は……シュウさん、この辺りは光の操作の邪魔になりますかー!?」

「少し試してみるから待ってくれるかい? 『発光』『光の操作』! 今の明かりの動いた範囲に重ならない位置なら多分問題ないよ」

「はーい! えっと、この辺りは大丈夫だったのです! 『アースクリエイト』『土の操作』! これで、空中からの撮影場所は確保なのさー!」

「おいらは地面からだから、ここで問題ないっすね!」


 なるほど、スクショの撮影位置にに関してはそれぞれに任せたけど、上からと、普通の高さと、下から見上げるような3つの視点からスクショを撮るんだな。まぁこの辺は撮るのが得意な人に任せればいいや。

 シュウさんにはスポットライト的な感じの役目をお願いしたけど、ネコで発光を使うと全身が光るんだね。てか、今更だけど光属性への進化ってどうやるんだ……って、あ、『進化の輝石・光』は存在してるから普通に合成進化か。


 てか、呑気に見てないで俺も動いていかないと。俺は俺でやる事はあるからなー。


「ケイさん、私はどの辺りで氷雪の操作を使えば良い?」

「あー、この場合だとどうだろな……」


 ヨッシさんには神秘的な雰囲気を出す為に霧みたいな感じで氷雪の操作を使ってもらう予定である。イメージとしてはドライアイスを使うみたいなやつ。

 でも、演出としてはそれでいいんだけど、構図となると俺には手に余るし、ここは得意そうな人に投げちゃえ。ルストさんは……暴走しそうだから、今は完全に手が空いてる弥生さんに頼もう。


「弥生さん、全体の配置の調整やスキルの発動位置の調整を頼んでも良い? 俺じゃその辺はお手上げ!」

「あ、それなら任せてー! ルスト、ハーレさん、煮付けさん、私の方でみんなの位置調整をしていくから、微調整が必要だと思ったら言ってねー!」

「はーい!」

「えぇ、分かりました! 弥生さん、全力でやりましょう!」

「了解っす!」

「ヨッシさんは少し待ってねー。先にメインのアルマースさんの位置と、他のみんなの位置も決めちゃうから」

「あ、はい。分かりました」


 よし、これで配置絡みはその辺が得意そうな弥生さんに任せられる! さーて、俺もあちこちに演出の為のコケを増やしてきますか。

 シュウさんが既に光源を用意してくれているし、これから俺も発光を使うからねー。だからこそ、ジェイさんの発光してるコケが邪魔だったんだけど……別に俺らは見られても問題なかったのに、変に欲を出したジェイさんの自業自得って事で! というか、根本的な問題がまだ解決してない!


「斬雨さん、ジェイさんに発光を切ってもらっても良いか?」

「おう、伝えとくぜ。ジェイ、ケイさんが発光を切ってくれって……何でって文句を言うなら、変な事をしなきゃ良かっただけだろ!? 今回は間欠泉を用意しきれなかったからって焦ったジェイの自業自得だ! ともかくさっさと消せ!」

「斬雨さん、大変そうだなー」

「あー、俺もジェイにやり過ぎないように止められる事はあるからな。その辺は相棒って事でお互い様……だー! 今日のジェイは妙にしつこいな!? ケイさん、時間の都合もあるから俺らは放っておいてくれて構わんぞ」

「あー、うん。そうさせてもらうよ」


 どうやら今日のジェイさんは相棒の斬雨さんから見ても荒ぶっているようである。あ、それでもジェイさんのコケの発光が消えた。シュウさんの光の操作による明かりもあるし、そもそも曇り空なだけで真っ暗って訳でもないからこれでも問題はない。

 ジェイさんのコケは上からこの発火草の群生地を照らす為に高めの岩壁に増殖させてたみたいだけど、今回の俺らの演出でのその辺の調整はシュウさんの担当だ。


「えっと、アルマースさんはこの位置辺りで……撮影班のみんな、どうー?」

「大丈夫なのさー!」

「こちらも問題ありませんよ!」

「おいらも大丈夫っす!」

「それじゃ片方の主役のアルマースさんはそこで決定ねー! 次は『青の野菜畑』で纏瘴役の2人の位置を決めていくよー」

「「はい!」」

「纏瘴の方はアルマースさんの演出の補助だから、向きはアルマースさんとルスト達の間で近くに横に並ぶ感じ……いや、そうじゃないね。アルマースさんを視認出来て、スクショに写らない位置が良いから……アルマースさんが植わってる段の真後ろが良いね。うん、そこ。そこで植わってくれれば、多分写らないはず」

「それじゃ植わってみますね。『根下ろし』!」

「同じく『根下ろし』!」


 おぉ、スイカの人とカボチャの人だったから、地面に植わっておけば目立たないね。手前ではアルも纏瘴をしている事になるから、多分完全に見えなくなるはず。


「そこで2人でそれぞれにが風の操作をアルさんに使ってみてくれる? あ、お互いに邪魔にならないように気をつけてね」

「そこは気をつけないとね。『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」

「だねー。『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」


 おぉ、アルの周囲を回るように、2つの風の流れが出来ているね。ふむふむ、魔法での花火の件で操作精度は高いだろうとは思ったけど、これはお互いの邪魔にならないように上手く操作が出来ている。

 風の昇華ではないらしいからそれほど風の範囲は広くないけど、2人でやればその辺りは十分そうだ。うん、これは正直期待以上の操作精度だね!


「お、こりゃ良い感じだな」

「うん、本番はこれで瘴気属性を乗せていく感じでいくからね。その分制御がキツくなるけど、そこは任せるよー!」

「「はい!」」

「さて、それじゃ次は纏浄の3人の方の位置を決めていくよー!」

「「「はい!」」」


 そんな感じで弥生さんがテキパキと撮影班に確認を取りながら配置を決めていってくれている。いやー、こうやって一緒に動く時は頼りになりますなー。


「……しばらく私とサヤは暇みたいだね?」

「まぁ出番は後だから、仕方ないかな?」

「サヤの竜は演出の主役だし、ヨッシさんは実際にスクショを撮り出してからだもんな。さて、俺も下準備に行ってこよ」

「ケイさん、その位置指定は僕がやろうかい?」

「あ、そうしてくれると助かる! シュウさん、任せた!」

「それじゃ任されたよ」


 よし、俺が自分だけでやるよりは、シュウさんにコケを増殖させる位置を決めてもらった方が良いものになるはず。赤のサファリ同盟は、そういうのが得意なサファリ系プレイヤーの集団だしね。

 さて、その為にも下準備だなー。棚田で高低差がある場所だから、その辺も考慮しつつ動かないとね。飛行鎧だと今は不適格だから、ここは水のカーペットを使っていくか。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 70/83 → 70/81(上限値使用:2)


 生成した水のカーペットに飛び乗って、移動準備完了! さーて、それじゃ棚田の部分にコケを増殖させて……あ、その前にこれをしとかないとやりにくいな。


<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 66/81(上限値使用:2)


 地面への増殖をしやすいように、ロブスターのハサミの部分まで増殖をしていく。よし、これでロブスターのハサミの部分のコケに核を移動しておけば、ここから増殖していける。


 んー、棚田の部分って地味に水が溜まってるから、その中に増殖させる予定なんだけど上手くいくかな? 俺のコケは水中に適応してるから熱湯とかでない限り問題はないはず……。

 今更だけど、湯気は上がってないし、熱湯じゃないよね? もし駄目だったら、その時に対策を考えよ。


「ケイさん、今いる位置は角度的にルストからは写らないはずだから駄目だよ。やるならそこから左上の部分だね。群体数にも上限はあるし、一先ずは最小限の範囲でやっていこうか」

「ほいよっと!」


 ふぅ、ルストさんから見て写るかどうかとかその辺は考えてなかったし、シュウさんに任せるのは正解だったようだ。とりあえず指定されたのはここの左上だから、そこから増殖をやっていこう。

 流石にこの距離なら水のカーペットは不要な気もするけど、もう乗っちゃってるから移動はこれで! まぁすぐに辿り着いたから問題なし!


「シュウさん、ここで合ってるか?」

「うん、そこで合っているよ。とりあえずどの程度の増殖が必要なのかと、光源の強さを知りたいね。弥生、少しだけ中断して本番の環境を試してもらえるかい?」

「あ、シュウさん、了解ー! えっと、とりあえず纏浄の方はこれで良いと思うから、本番の時はその位置でよろしくね」

「「「はい!」」」


 おっと、『青の野菜畑』の纏浄を使う豆の人と、トウガラシの人と、トウモロコシの人の位置も決まったみたいだね。こっちは完全にスクショに写らない範囲で、分散して待機だなー。


「さてと、それじゃいくよー! 『暗黒空間』『闇の操作』!」


 そう弥生さんが発声してスキルを発動すれば、周囲に闇が広がっていき、それが闇の操作で制御されて曇り空が見えている岩山の穴を完全に覆い尽くし、光を遮断していく。

 おー、シュウさんの光の操作があるから完全な暗闇ではないけど、夜の日よりも真っ暗になった。


「……思った以上に暗くなったね。ケイさん、これは僕が個別のスポットライトを当てる感じだと暗くなり過ぎるよ」

「そうっぽいなー。シュウさん、光量は減るけど全体的に照らす感じにしてもらっていい?」

「その方が良いだろうね。えっと、こんなところかい?」


 全体的にさっきの曇り空より薄暗くなって、怪しげな雰囲気も出てきている。うん、さっきの曇り空よりも良い感じだね。


「それじゃケイさん、増殖をしていってくれるかい?」

「ほいよっと!」


 さーて、それじゃやっていきますか! とりあえず今いる場所の発火草の横でコケを増殖させるけど、どの程度あればいけるかな? 流石にLv1では少な過ぎる気がするからLv2で試してみるか。


<行動値を2消費して『増殖Lv2』を発動します>  行動値 64/81(上限値使用:2)


 ある程度コケを水が溜まった棚田の部分に増殖は出来たから、次は発光の発動だな。初めの段階では明る過ぎると駄目だから、適度に抑えて気味でやっていこう。

 かといって弱過ぎるても駄目だから、こっちもLv2でやってみるか。実際の撮影の時と同じ雰囲気にはならないだろうけど、それでも参考にはなるはず。


<行動値上限を2使用して『発光Lv2』を発動します>  行動値 64/81 → 64/79(上限値使用:4)


 これで発動は完了っと! おぉ、水の中にでぼんやり光が浮かび上がってる感じになってる! すぐ真横にある発火草が良い感じに照らし出せてるね。


「ルスト、ハーレさん、煮付けさん、それぞれの位置からはコケはどんな感じー?」

「今の位置からだと真上過ぎてちょっと微妙な感じです! ちょっと斜めからに撮影の向きを変えた方が良さそうなのさー!」

「正面からであれば、周囲も暗いのでこれで充分かと!」

「下からだと、そもそも見えないっすね! でも、この位置では無視で良いと思うっすよ!」

「うん、分かった! それはハーレさんは少し位置を変えて、斜めから撮っていこっか! ルストと煮付けさんはそのままでー!」

「はーい! この辺の位置が良さそうなのさー!」


 ふむふむ、まだ本番環境ではないけども、それでも確認は重要だね。実際こうして、さっきまでのハーレさんの位置だと微妙だったのが修正になったしさ。


「少しお願いなんっすけど、一度サヤさんの竜がアルマースさんのとこまで行く流れをやってみてもらって良いっすか?」

「あ、それもそだね。サヤさん、お願い出来る?」

「あ、はい! やっと出番だし、とりあえずやってみるかな。『大型化』!」

「えっと、まずは私の闇の操作を通り抜けて上に出てから、降りてくる感じでお願いねー! それでこの中をグルッと回りつつ、アルマースさんの所まで行って、寄り添うようにしてくれる?」

「分かったかな!」


 そのレナさんの指示を受けて、サヤは闇を通り抜けて上空へと飛んでいった。そしてすぐ引き返してきて、アルの木を探すような素振りな感じの動きで飛び回っていく。

 その結構、アルの木を見つけたという感じで近付いていき、アルの木に寄り添っていった。


「煮付けさん、どう?」

「問題ないっすね! これに色々な演出が加わるのが楽しみっす!」

「ルストとハーレさんはどう?」

「問題なしなのさー!」

「えぇ、私の方も問題ありません!」

「よーし、これで後は魔法での演出の発動位置を決めればOKだね」

「それとケイさんのコケの設置だね。ケイさん、行動値的にあと何ヵ所コケを増殖させられるんだい?」

「あー、後32カ所?」

「それだけあれば充分だね。それじゃ急いで仕上げていくよ!」

「目指せ、最優秀賞っすよ!」


 うん、ここまでやってるんだから最優秀賞は本気で狙いたいところだよな。さーて、とりあえず大急ぎでコケの増殖をやっていきますか! 時間が無限にある訳じゃないしね。

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