第920話 群生地でのスクショの準備


 フェニックスを利用した間欠泉の再現は無理。厳密には水の調達が追いつかないという事で、スクショの演出には使えないという事が判明した。

 まぁどう考えても大量の天然産の水が必要だし、そう気軽に発生させる事は難しいかー。どこかから水は流れ込んできてるはずだけど、すぐに必要量が溜まるって訳でもないんだろうね。


 それが分かってから、みんなで話し合っているうちに発火草の群生地の近くまで辿り着いた。さて、トンネルを掘ってたはずだけどどんな風になってるんだろうなー?

 あー、こりゃ随分と……雑な感じのトンネルが出来てるなー。とりあえず見栄えは関係なく、通れるだけの穴を貫通させただけって感じだね。しっかりと見た目を整えるだけの時間は無かったようである。


 そして入り口の付近には羅刹を筆頭に、無所属の人達が揃って受け付けみたいな事をしていた。ほほう、無所属の人は種族もバラバラで意外と人数はいそうだな。というか、受け付けみたいな場所が4かヶ所くらい離れて用意されてるのは何でだろ?


「おーい、次の人達はこっちで……って、グリーズ・リベルテか!? え、赤のサファリ同盟も一緒!?」

「お、イブキか。えっと、とりあえずそこに行けばいいのか?」

「おう、そうだぜ! とりあえず羅刹のとこに行って降りてくれや!」

「だそうだぞ、アル」

「聞こえてるっての。んじゃ降りるぜ」


 とりあえずイブキの誘導に従って羅刹が受け付けらしきものをしている場所へ降りていく。アルが着地したら俺とシュウさんで用意していた岩の足場も解除っと。ふぅ、何とか移動中に演出の話し合いも短時間だった割に大雑把だけど形にはなったし、無事に到着も出来た!


 あー、何ヵ所か待機場所を用意してるのは、連結PTが2組くるのを想定しての事か。演出は1つの連結PT毎にやるみたいだし、スクショを取り終わったPTがそこからどうするかの話し合いの場所にもなってるっぽいね。

 そこにいる人達へ水月さんやアーサーや琥珀さんが何か募集してる感じだもんなー。多分あれがレナさんに頼まれていた集合場所での時間潰しの演出をする人の募集なんだろう。


「お、来たな。ケイ達は少しここで待機しててもらうぜ」

「おっす、羅刹。待機は単純に前の人達の撮影終了待ちって認識で良い? ……意外と無所属っていたんだな?」

「おう、そういう事だな。無所属の人数に関してはこれでも急に増えたんだぜ」

「……え、増えた?」


 ちょっと待って、無所属が増えた? それってどういう意味……いや、意味自体は分かるけど何がどうしてそうなった? 理由の方がいまいち見当がつかないんだけど……。


「んー、シュウさん、無所属が増えたのってどう思う? もしかすると前々から気にしてた人達?」

「今日ので色々情勢が一気に変わったし、良い機会だと思ったのかもしれないね」

「弥生さん、シュウさん、どういう事だ?」

「簡単な事だよ、アルマースさん。群集に所属するのは性に合わないけど、ちょっと評判が悪い状態だった無所属に行くにも抵抗があるって状態の人が意外といたんだ。そういう人達が、無所属が気軽に集まれる場所が出来たこの機会に群集を抜けて来たんだと思うよ」

「あ、それは青の群集にもいたっすよ! まぁただ秘密主義なだけで、前の騒動の時みたいに他の人に情報公開しろとか、盗んだって難癖をつけるとか、そういう面倒事を起こす連中じゃないっすけど」

「……あー、秘密主義な人達かー」

「……なるほど、そういう感じか」


 まぁ煮付けさんが面倒事を起こす訳じゃないというのであれば、あのシュウさん達と粛清……あんまりそんな言い方は良くはないけど、内容としてはそうなるよなー。ともかく、ああいう問題を起こさない人達ではあるんだね。


 うーん、秘密主義な人にとっては根本的に群集での情報共有が推奨な仕様が合わないのか。無所属であれば聞く事も聞かれる事も基本的に面と向かってやる事になるだろうし、まとめ機能もないみたいだからなー。

 まぁオンラインゲームだと情報を秘匿して利益を得たいという人達は一定数は存在するし、そういう人達が悪い評判が薄れた無所属へと移っていったっぽい?

 

「そういえば赤の群集にも情報共有が重要な要素なのが気に入らないって秘密主義な人がいませんでしたっけ? まとめ機能も報告する風潮もいらんって感じで、確か灰の群集から移籍してきた人だったと思いますが……」


 ちょっと待って、今ルストさんが言った赤の群集に移籍していった元灰の群集のそういう人に心当たりはあるんだけど! 同じ人かは断定出来ないけど、あれだよな!? 紅焔さんが初期にPTを組んでて、紅焔さんが避けるようになってたキツネの人!

 こうして思い当たる実例で考えてみると、そりゃ移籍した先の赤の群集でも情報共有がされているんだから合わないままだよなー! 秘密主義とは完全に真逆の方向性だし……。


 そう考えてみると、群集のシステムと相容れない癖のある人達が無所属に流入していったという事になる。うん、正直に言えばあまり関わり合いたくない気がしてきた……。

 いや、でもそんな人ばっかでもないはず! 実際、今の受け付け自体はちゃんとやってるみたいだし、変に秘密主義の部分を刺激しなければ交流自体は出来そうな気はする。一部に難がある人はいるかもしれないけど、そっちは少数派だと信じたい。


 そして、事実上の無所属の代表者っぽい立場になった羅刹には、変な連中は抑えてもらいたいとこだね。折角、無所属への悪印象が無くなりそうなんだから、ここが踏ん張り時だよな!


「羅刹、頑張れよ!」

「なぜそこで応援されるのかが分からんが……まぁいいか。そろそろ前の集団のスクショの撮影も終わるだろうから、事前準備があれば今のうちにやっとけよ」

「ほいよっと」


 さて、それじゃ俺らも本格的に準備を始めていきますか! 少し行動値と魔力値は減ってるけど、まぁ俺の割り当てられた役目としては影響がない範囲だな。アルとシュウさんも役割的には行動値を大量に使う訳じゃないから問題ないはず。


「それじゃ私は竜だけに切り替えてくるかな!」

「俺も木だけに切り換えないとな」

「まぁ今回はアルさんの木と、サヤの竜がメインだもんね」

「ふっふっふ、腕が鳴るのです! 今回のは1枚のスクショじゃなくて、連続して撮るのが重要だもんねー!」

「ストーリー仕立てにはしてみたけど、これがコンテストとしてどう評価されるかだなー」


 今回演出として決めた内容としては、瘴気に侵されたアルの木を、大型化したサヤの竜が浄化していくという感じである。まぁそれほど考える時間もなかったから、ルストさんが撮ってみたいという案をそのまま採用した形だけど。

 という事で、アルとサヤは一旦ログアウトをしていった。まぁ共生進化を解除したらすぐに戻ってくるけどね。


 他にも細々とした演出はみんなで分担しているけど、上手くいけばいいんだけどね。ストーリー仕立てにして、ちょっとずつ雰囲気を変えていき、色んなスクショのパターンを作って出すという作戦だ。


 流石にクジラと木のセットや、クマと竜のセットだと変な感じになりそうだから、今回は共生進化を解除するという形になった。ここもルストさんの要望でもあるけど。

 まぁ戦闘をする訳じゃないから経験値が入らないし、このくらいの一時的な解除は問題なし。今のメンバーでそれが出来ないのは同調である俺だけだしね。


「ルスト、今回はルストの発案だし、全面的に撮影も任すんだから、暴走はなしだよー?」

「えぇ、分かっておりますとも! 私の全身全霊をもって撮らせていただきます! 共に頑張りましょう、ハーレさん! 煮付けさん!」

「もちろんなのさー!」

「頑張るっす!」


 そして各群集の団体部門に出す為に、赤の群集からはルストさん、灰の群集からはハーレさん、青の群集からは煮付けさんがスクショの撮影係となった。

 うん、ハーレさんと煮付けさんはスムーズに決まったけど、ルストさんが立候補からの有無を言わさずの自己主張には少し参ったよなー。まぁ今回はルストさんの発案だから撮影も一任するというシュウさんの一言であっさり片付いたけど。


 後のメンバーは細かい演出の担当である。間欠泉が使えなくとも、あの棚田という特殊な地形や、真っ赤な発火草という独特な雰囲気も使って、より神秘的なものにしていくのみ!

 『青の野菜畑』の面々は1つの魔法に特化している訳ではなく、各属性の魔法が使えるというのも今回は良い方向に働きそうだ。昇華魔法は使う予定にはなってないしね。


「ただいまかな!」

「お、サヤもちょうど戻ったとこか。俺もただいまだが、まずはこれか。『根脚移動』!」

「サヤ、アルさん、おかえりなのさー!」


 お、サヤは竜で、アルが木で戻ってきたね。……木だけでログインしてきたら地面に植わった状態で戻ってきたけど、水の底でやったらどうなるんだろ?

 うーん、ただの思いつきだったけどちょっと気になる。水中に放り出されるのか、水底の地面に植るのか、どっちになるんだろ? まぁ今考えるべき事じゃないから別にいいや。


 おっと、そんな事を考えてる間に不恰好なトンネルから先にスクショを撮ってた人達が出てきて、イブキによって空いている待機場所へと案内されていた。うん、イブキも普通にやれば出来るんじゃん。


 それにしてもコンテストの投票の際に他の人がどんな演出をしてたのかを見るのが楽しみだね。同じ場所ではあるけども、それぞれのメンバー構成やスキル構成や発想によって大きく変わってくるはず。

 だから、多分同じようなスクショは少ないとは思う。似たようなのはあるだろうけど、そういうのは運営の事前審査で弾かれそうだしね。


「おし、前の人達が出てきたな。それじゃ入ってくれ。必要な事があれば中にいるラックさんか、ジェイさんと斬雨さんのコンビか、ウィルに聞いてくれ」

「え、ラックさんと、ジェイさんと、斬雨さんと、ウィルさんが中にいるのか?」

「ウィルからどうしても今回はやらせてくれって懇願があったのと、それに難癖をつけてくる連中が来た場合に対処する為にジェイさんと斬雨さんが待機してくれてるんだよ。俺がやろうかと思ったんだが、ジェイさんに『無所属の方は今は戦闘になる可能性がある行為は控えた方が良いでしょう』って言われてな。ラックさんは赤の群集と青の群集だけじゃダメって事でいるぞ」

「あー、なるほどなー」


 うん、ジェイさんの事だからその言葉自体には嘘はない気はするけど、狙いはそれだけじゃない気がするね。トラブル防止という名目で、堂々と演出を見て情報収集を狙ってるとか、あり得そうだよなー。

 あー、ジェイさんのその辺の思惑を抑える為にもラックさんもいるのかも。ラックさん自身はそれほど強い訳じゃないけど、灰のサファリ同盟で指揮をしてたりするんだ。観察力は一級品だろう。


 よし、とりあえずジェイさんにはちょっとカマをかけてみようっと。間欠泉に件で悔しがってるなら、何かしら他の成果を欲しがってそうな気もするし。


「さてと、それじゃ行きますか!」

「「「「おー!」」」」

「最優秀賞を狙うつもりでいくよー!」

「まぁ狙うなら一番上だね」

「えぇ、そのつもりですとも!」

「おいら達も頑張るっすよ!」

「「「「「おー!」」」」」


 そんな風に全員の気合いは充分。スクショの撮影についてはルストさんは間違いなく相当凄いだろうし、ハーレさんも結構良いスクショを撮るもんな。

 それに煮付けさん達の連携は凄まじい水準だし、その辺の効果も期待は出来る。こりゃ、演出の出来次第では、最優秀賞も狙えるかもね! まぁ強敵は他にもいるけどさ。



 そうしてみんなで不恰好なトンネルを歩いて発火草の群生地の中へと進んでいく。……このトンネル、天井部分と壁の部分は削り出してそのままって感じだけど、地面の部分は出来るだけ平らになるようにはしてるんだな。


 おっと、そんな感想を思っていたら発火草の群生地へと辿り着いた。空は厚い黒い雲に覆われているから薄暗い……って、思ったら全然暗くないんだけど!? むしろ明るいんだけど!?

 あ、ジェイさんの赤いカニが背負っているコケが光ってる。なるほど、ここが今明るいのはジェイさんの仕込みか。


「……おや、次はケイさん達ですか」

「なんか露骨に不機嫌そうになってるのは何でさ、ジェイさん!?」

「……その理由、私に説明しろと?」

「あー、いや、なんとなく心当たりはあるからいいや……」


 フェニックスの昇華魔法の使用については俺らが見つけちゃったし、間欠泉の再現が思った通りのタイミングで実行出来なくて悔しがってたらしいもんな。どう考えてもそれが理由だよね。


「おい、ジェイ! それは単なる八つ当たりだろうが!」

「えぇ、分かってますよ! ……ふぅ、今のは少し取り乱して失礼しました」

「あー、まぁ気持ちは分からなくはないからいいけど……ジェイさん、ここでの観察の成果は何かあった?」

「ケイさん、私の事を何だと思っているんですか? 今回のような状況で流石にそれはやりませんよ!」

「……最初は計画してたけどなー」

「ちょ!? 斬雨、あなたは誰の味方ですか!? それはしないと誓ったでしょう!」

「相棒として言わせてもらうが、今回はそういう無粋な真似は許さねぇからな!」

「……分かっていますよ。今日は大人しくしているでしょう?」

「私は斬雨さんにジェイさんの監視を頼まれたんだよねー。ウィルさんもその為に木でログインしてるもんね」

「ラックさんか斬雨さんが変に思うか、スクショを撮る人達から希望があれば、俺以外は樹洞に入って待機する事にしてるからな。要望があれば俺も見ないようにするから、その辺を希望するなら言ってくれ」

「あ、そういう感じなのか」


 なるほど、そういう条件でやってるんだ。そして、元々はジェイさんはしっかり情報収集を計画してた訳かー。うん、ウィルさん、ラックさん、ナイス判断!


 とりあえずジェイさんに対する警戒度は下げても大丈夫そうだし、話し合った手順通りにやっていきますかー! まずはみんなの色々な配置決めからだな。

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