第910話 試したい事


 さて、万力鋏のチャージは終えたけど、最後に一気に挟み切る直前で止めてはいる。でもそう長くは保たないから、みんなも大体内容は察してくれている件を聞いていこう。


「ちょっと提案。もし俺の万力鋏で倒し切れなかった場合は、フェニックスが飛ぶ時の危険ラインを超えた敵にどう反応するか試してみてもいい?」

「そんな気はしたが、やっぱりか。まぁ今はフェニックスが空いているみたいだし、成熟体に横取りされても経験値はしっかり入ってくるから問題はないだろ。あれ、横取りされるまでどこまで弱らせたか経験値が貰えるらしいから、ここまで弱らせていたら充分な経験値は得られる筈だ」

「おー!? そういう仕様なんだー!?」

「お、そりゃ良い情報!」


 ほぼ倒せるだけのHPは削っているし、その経験値はほぼ無駄にはならないって事だね。経験値の部分が少し気掛かりだったんだけど、これでそこは単なる杞憂で済んだ。アル、情報収集ナイスだぜ!


「でも成熟体に横取りで倒された場合だと、ここのフィールドボスの討伐称号が手に入らないんじゃないかな?」

「……それはむしろ温存できると考えても良いんじゃない?」

「あ、確かにそれもそうかな」

「そこは地味に考えてなかったなー」


 今回のこのフィールドボスの竜の出現が毎回可能なのかどうかは不明ではある。でもヨッシさんの言うように、このグラナータ灼熱洞でのフィールドボスの討伐称号が温存しておけるなら、それはそれでありだ。

 成熟体に進化した時に空きのある称号があった方が都合は良い可能性もあるからねー。空白の称号は使っちゃって今は持ってない以上、温存出来るならその方が都合がいい。


「おし、問題点はなさそうな気がするし、それでやってみていいか?」

「ま、試すには良い機会だからな。俺は良いぜ」

「私も賛成なのさー!」

「私も賛成かな。あ、フェニックスがスルーしそうなら、しっかりとトドメは刺すかな!」

「そこはサヤに任せるって事で良いよね。私としても反対する理由もないから問題ないよ」

「おっしゃ、それじゃこの竜を上空に打ち上げてフェニックスがどう反応するか検証だ!」

「「「「おー!」」」」


 万力鋏の発動猶予の時間ももうそんなにないし、サクッと発動してから検証開始だ! さーて、検証までの間に死んでくれるなよ、竜さんよ!


「とはいえ、どう吹っ飛ばすかが問題か」


 変に物理攻撃でダメージを与え過ぎれば、そのまま仕留め切る可能性も否定出来ない。そうなるとかなりダメージが軽減される魔法で吹き飛ばすのが確実か。

 それならこの竜は風属性を持ってるし、効きにくい土属性のアップリフトで打ち上げ……いや、流石に属性の相性を考えても昇華魔法だと威力があり過ぎだな。魔法のダメージが通りにくいとはいえ全く効かない訳じゃないし、1割も削る事がないように……いや、万力鋏でダメージを与えるんだからもっと残りHPは少ないはずか。


「はい! いっそ、万力鋏は不発にしたらどうですか!?」

「あ、その手があったか!」

「……その手段はもったいなくねぇか?」

「いやいや、確実に生き残っててもらわないと困るんだし、それは手段としてあり!」


 うん、これはハーレさんのナイスアイデアだな。万力鋏のスキル自体は発動してるから熟練度は入ってるはずだし、検証の成功確率を上げるならその方が確実だ。そう考えると魔力集中が要らなかった気もするけど、まぁそこは過ぎた事だから気にしない!

 さて、万力鋏の一撃を与えないとして、竜に逃げられたら意味がなくなるから、そこの対策を考えないとなー。


「アル、少しの間で良いから竜の拘束を任せていい? その間に竜を空中に持っていく準備をするから」

「おう、その辺は任せとけ。この状態ならこっちでやってみるか。『多根縛槍』!」

「おー! 久々に見た気がするのさー!」

「これは捕縛性能は良いんだが、スキルの発動が遅いのが難点だからな。俺も使うのは久々だ」


 そう言いながら、複数の槍のように尖った根が竜に突き刺さっていき、そこから絡みつくように根が動きを縛っていく。これ、刺すまでが長いんだよなー。

 そのタイミングで万力鋏の発動猶予が過ぎて眩い銀光が消えていった。でもまぁ、竜は突き刺さって絡みつく根に動きを封じられて何も出来ないでいるから問題なし。


「そういやアル、それって任意のタイミングで拘束は解除出来るのか?」

「出来ないなら今のタイミングでは使ってねぇよ。ケイの合図に合わせて解放するからな」

「そりゃそうか」


 任意のタイミングで解放出来るなら特に問題はないね。でも、少なからずアルの根を突き刺した事でダメージはあるか。

 よし、この竜は風属性なんだし、打ち上げるのには土魔法でいこう。でも、瞬発的に打ち上げただけではフェニックスが間に合わない可能性もある。


「ヨッシさん、少し無茶な事を頼んでいい?」

「……もしかして、私がフェニックスを近くまで呼び寄せる役をやる感じ? まぁすぐに退避したら問題はなさそうだけど……」

「ぶっちゃけて言えばそうなるなー」

「そういう事なら私とサヤでしっかりと監視しておくのさー!」

「うん、そこは任せてかな!」

「あはは、それじゃ2人に任せるからね! ケイさん、その役目は引き受けるよ」

「ヨッシさん、ありがとな!」

「いえいえ、どういたしまして」


 さーて、これでそれぞれみんなの役割はある状態になった。ヨッシさんがフェニックスを誘き寄せる事になったけども、出来るだけ可能な限り上空へと打ち上げたい。


 この場合は土魔法の衝撃魔法か指向性を操作した爆発魔法で……いや、待て。俺は土の付与魔法は使えるようになってるし、衝撃魔法への付与魔法の強化は持続時間の延長だった筈。

 魔力値はまだまだあるし、行動値も何とか……あ、並列制御で使うには行動値が微妙に足りない!? くっ、仕方ない! こうなれば指向性を操作した爆発魔法で何とかしよう。


「サヤ、さっきフェニックスが通り過ぎて行った先を重点的にチェックなのさー!」

「そっちはハーレに任せるかな。私は他のルートがある可能性も考えて、やってきた下へ降りる方の通路を見張るね」

「あ、そっか! その可能性は失念していたのです!」

「確かにここの全体像と全経路の繋がりは把握してないからな。その方がいいだろう」

「よし、それじゃその方向性でやっていくか!」

「「「「おー!」」」」


 そうと決まれば、俺は魔法をいつでも発動出来る用意をしておいて――


「えっ!? フェニックスがこっちに迫って来てるのです!?」

「ちょ、このタイミングで!?」

「あ、ここの手前の広間の人達を炎の槍で襲ってるかな」

「……なんというか、ご愁傷様だな」

「……あはは、それは私達にはどうしようもないもんね」

「だなー。てか、それだけ近いならヨッシさんが瞬殺されかねないし、ヨッシさんの役割は中止で!」

「まぁこの場合はそうなるよね」


 手前の広間のPTが襲われて、ハーレさんとサヤがそれを視認しているなら、今からヨッシさんが危険ラインの越えるのはリスクがあり過ぎる。

 そして、そこまで近くにフェニックスが来ているなら、そもそもそのリスクを負う必要性自体が皆無だな。


「アル、拘束解除で!」

「おうよ!」


 よし、竜に絡みついている根が解けていってるけど、まだ串刺しになっている根が抜けていない。狙うなら串刺しになっている根が抜けた瞬間だ。


 まだ早い……まだだ。もう少し……よし、今!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値4と魔力値12消費して『土魔法Lv4:アースボム』は並列発動の待機になります> 行動値 12/38(上限値使用:44): 魔力値 185/224

197

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 6/38(上限値使用:44)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 うっわー、全然行動値に余裕がないんだけど! これで駄目なら……あ、まだアースインパクトは使えるか。それでも駄目ならみんなに任せようっと。

 とりあえず突き刺した根から抜け出して飛び上ろうとしている竜の下側……腹部から、上方向に向かって指向性を操作した爆発魔法をくらえ!


「ちっ、浮かび上がったけど、まだ低いか! なら、これだ!」


<行動値6と魔力値18消費して『土魔法Lv6:アースインパクト』を発動します> 行動値 0/38(上限値使用:44): 魔力値 167/224


 もう一撃、衝撃魔法を追加だ、おらぁ! おっし、ちゃんと直撃して、更に上へと吹っ飛ばせた。でも、危険ラインを少し超えた程度だから、安全圏に戻って来れる可能性もあるな。


「あっ! フェニックスが来たのさー!?」

「敵にも反応するので確定か!」

「でも、竜が降りてるかな!?」

「そうはさせないよ! 『ポイズンインパクト』!」

「私もやるかな! 『共生指示:登録3』!」

「おぉ!? 今回はウィンドボールの連射なのさー!?」


 ほほう、どうやらサヤはエレクトロボールやエレクトロボムの連射だけでなくウィンドボールの連射も登録していたっぽい。ふむふむ、これは中々サヤも色々と考えて戦法が増えてきているね。


 それはともかくとして、ヨッシさんのポイズンインパクトは竜に回避行動を取られて掠った程度だけど、サヤが真下からウィンドボールの連射を次々と当てていき、竜が高度を下げてくるのを防いでいる。

 流石に多少のダメージの蓄積はあるけど、やっぱり魔法の効きが悪いからまだHPは残っているね。そして、そこにフェニックスがやってきた。


「サヤ、もういい! 無駄撃ちで良いから、地面にでも向けて残弾は撃っといてくれ! これ以上は下手にフェニックスに当てたりしたら危険過ぎる!」

「分かったかな!」


 そうしてサヤは即座に風の弾を吐き出し続けている竜の口を地面に向けて、残った弾を次々と撃ち出していく。これ、登録したスキルが全部発動し終わるまで止められないのが難点なんだよなー。


「……このフェニックスの動き、炎の収束じゃねぇぞ?」


 ん? 嘴の先に火の弾が生成され、滞空している状態で尾羽が嘴の前に伸びてきてその先に火の弾が生成されて……って、これは!?


「魔法砲撃にした昇華魔法だよな、これ!?」

「わー!? 炎の槍じゃないのです!?」

「……もしかして、敵を攻撃する時には昇華魔法を使うの?」

「そんな気がするのかな!?」

「へぇ、これでフェニックスが昇華魔法を使うのか」


 そんな事を言ってる間に、フェニックスの嘴の先から放たれた猛烈な炎……いや、最早これは熱線とでも言うべき炎が収束された放射であった。

 うっわ、耐性がある筈のあの竜のHPが一瞬で消し飛んで、ポリゴンとなって砕け散っていったよ。そして、もう用済みとばかりにフェニックスは……あ、飛び去らずにマグマの中に突っ込んで……マグマの中にいた小動物系の何かを咥えていった。なるほど、あれで魔力値を回復するってとこか。


 ともかくこれで予定外のフィールドボス戦は最後こそフェニックスに任せたけど戦闘終了! 予定外のフィールドボス戦だけど、フェニックスが危険ラインを超えた空中にいる敵を仕留めに動くのが分かったのは大収穫だ。


 討伐報酬やこのグラナータ灼熱洞でのフィールドボスの討伐称号は得られなかったけど、大量の経験値が一気に入ったからそこは問題ないけどね。

 いやー、まさかここでLv26までの経験値の半分を超えるとは。これ、上手くいけばスクショの撮影会までにLvが上がるんじゃないか?


「あ、そういえばアルとヨッシさんはLvは今ので上がったか?」

「……それなら今の戦闘前に上がってたぞ」

「私も同じくだね」

「俺、その辺は完全に確認し忘れてたっぽいな!?」

「あはは、まぁそういう事もあるかな!」

「そうなのさー!」

「……話題に出てなかったって事は、サヤとハーレさんも気にしてなかったんじゃ?」

「「ギクッ!?」」

「やっぱりかー!?」


 その状態で他人事のように言うのはどうかと思うんだけど!? いやまぁ、絶対にLvが上がった直後に反応しなけりゃいけない決まりとかはないけどさ。


「まぁその辺は別に良いだろ。それにしても、今の竜の経験値は美味かったな」

「あ、それは確かに。Lv26までの経験値、半分くらい行ったしなー」

「今更言っても遅いけど、経験値の増加アイテムを使っておけば良かったのです!?」

「……あはは、確かにそれは今更かな?」

「うーん、ちょっと勿体ない事をしちゃったね」

「まぁ過ぎたもんは仕方ねぇよ」


 うーん、それについては本当に勿体ない事をしてしまった気がする。もし使っていたら、Lvが上がっていた可能性は高そうだもんなー。それはそうとして……。


「もう一度同じように水をマグマの中に放り込んだらフィールドボスが出てくると思う?」

「……流石にフィールドボスの出現方法としては破格過ぎるし、そう簡単には出てこないだろ」

「多分そんな気はするけど、次の1戦で一応試してみるのさー!」

「ダメ元で試してみるのもありかな?」

「うん、私はそれで良いと思うよ」

「それもそうだなー。それじゃ次も同じようにやってみるかー!」


 駄目で元々だけど、だからといって試さない理由はどこにもない。まぁ正直、これまで通りに5体の通常の敵が出てくるだけな気はしてるけどね。

 

「ところで、地味に青の群集が検証してたっていうフェニックスの昇華魔法の発動条件、今ので判明したんじゃねぇか?」

「あ、そういやそうなるのさ!?」

「敵を危険ラインに投げ出して、フェニックスに察知させて攻撃させる事かな?」

「そんな気がするね」

「あー、ちょっとこれは情報共有板に情報を上げとくべき案件か」


 うん、青の群集の人が主導でやってたらしい検証だけど、少なからず灰の群集の人もその場にはいるはず。そこら辺の人達にこの情報は伝えておいた方がいいかもしれないね。

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