第911話 次の1戦までに


 マグマに天然産の水をぶっかけたら出てきたフィールドボスの竜を、フェニックスに倒させる事に成功した。

 ぶっちゃけ『横取りされたモノ』の称号を取るにはここが楽かもしれないね。まぁ既に取得済みだから俺らには関係ないけども。


「それにしても、フェニックスの定位置ってのは本当だったんだなー」

「……あはは、そうみたいかな?」


 上にも広いこの場所を見上げてみれば、突き出た岩の上でフェニックスが止まって羽を休めている。

 さっきマグマの中から咥えていった小動物っぽい敵を食べて……いや、燃やしてその火を呑み込んでる? んー、でも食べてるという認識で間違ってはない……はず! うーん、なんか違う気もするけど、見た事がない状態だからなんとも言えない。


「あれって、前に土属性のドラゴンが周囲の土属性の敵を食べて魔力値を回復させるスキル……で、いいのか?」

「……何か違う気もするけど、そんなのもあったね。確かスキル名は『同属喰い』だったよね?」

「うん、そんな名前だったかな!」


 そう、確かにそんなスキルはあった。あの時は青の群集のマムシさんから聞いた情報だったはず。……今、目の前のフェニックスが使っているのが『同属喰い』なのかは分からないけども。

 えっと、『同属喰い』って、そもそもどんな条件のスキルだっけ? 応用スキルだったのと、魔力値の回復をするのは覚えてるけど……必要な特性ってなんだっけ。


「あれって確か、大食いの特性が必要だった筈なのさー!」

「あ、それだ! って事は、このフェニックスは大食いの特性を持ってるのか」

「まぁ多分そういう事になるだろう……が、何か違和感はあるな」


 うん、何か違和感があるのは俺も同じ。だけど、それは今の状況でははっきりとはしない。それを確認出来る可能性があるとしたら、識別で特性を調べるくらいだけど……。


「……識別すると、確実に死ぬよな?」

「やるなら、ケイだけPTから外れて俺らが通路に退避してからにしてくれ」

「俺だけ死ねと!?」

「ケイも同じ事をハーレさんに言ってたろ?」

「うぐっ、確かに言ったけども……」


 ハーレさんが死ぬ気でフェニックスのスクショを撮ろうとしてた時に、それを止める形で言ったんだったっけ。

 くっ、ここで俺が言った言葉が自分に返ってくるとは思わなかった! あ、でも俺の場合はそれでもすぐにアルの木から復活出来るし問題はないのか。


「ケイさん、こうなれば一緒に死ぬのです!」

「ハーレさん、覚悟決め過ぎじゃね!? まぁここでのLv上げを終える時になら良いけどさ」

「えー!? 今ここにフェニックスがいるんだから、今やりたいのです!」

「いや、俺はそれでもすぐ復活出来るから良いけど、ハーレさんは共生進化が解除になるぞ? ログアウトしたら入り口に戻されるし、共生進化には戻せないけど良いのか?」

「はっ!? そういえばそうなのさー!?」


 どうやらハーレさんは共生進化に戻せないという部分を失念していたっぽい。こういう部分が共生進化で同時に育てている場合でのデメリットになるんだろうな。

 どの進化にも一長一短があるし、その辺は好みが分かれるとこだよなー。3rdが解放になったら何か作る気ではいるけど、枠の都合で単独進化になるのは確定だろうし、何に特化させるかが悩むところ。んー、バランス型でもありか?


「ハーレ、狩りを終えた後じゃ駄目なの?」

「うー! それだとここにフェニックスがいるかが不確定なのさー!?」

「それなら単純にさっきの竜みたいに敵を放り投げたらどうかな?」

「あ、その手があったのさー!?」

「……それをするには、普通の敵に対しても同じように反応するかが問題か」

「そうなりそうだな。その辺の検証も含めて報告に行くのがいいかもなー」

「しばらく休憩は必要だし、今はそうするか」


 とりあえず俺は行動値を完全に使い切ってるし、フェニックスが羽を休めている状態で戦闘をしたくもない。流れ弾が当たってフェニックスと戦闘開始とか冗談でも勘弁願いたいしね。


「あ、フェニックスが飛び立ったかな!」

「下に向かう通路の方に飛んでいったね」

「あー、青の群集主導の検証が再開になったのかもな」

「アルの意見に同意っと。でもまぁ、変な緊張感は無くなって良かったとこかー」

「でも、これだと他の普通の敵にも反応するのかの検証が出来ないのさー!?」

「そこはほら、主導している青の群集に試してもらうって事で、情報を流してもらおう!」

「ま、ケイの案が無難か」


 何も全て俺達だけでやる必要もないからね。多分、フェニックスが昇華魔法を使う条件を探っている理由はあの大規模な間欠泉の再現の為のはず。

 そしてそれを今検証している理由は、17時からの全群集のスクショの合同撮影会で大規模な間欠泉を再現したいんだろうね。そうでなければ今急いで検証する必要もないしさ。


「さて、それじゃ情報共有板に情報提供をしに行く……前に、大型化は解除しといた方が良いっぽい? 次の1戦で……多分出てこないとは思うけど、またフィールドボスが出てくるか試すなら元に戻っといた方が良いよな?」

「……可能性は相当低いとは思うが、絶対じゃないからな」

「ケイには行動値の余裕を作ってもらった方が良いと思うかな」

「だよなー。んじゃ、今回は大型化を解除しとくわ」


 もし大型化が必要になるとしたら、その時にまた発動すれば良いだけだしね。出来ればそこまでの間に、無駄になる行動値を使った上で。という事で、大型化は解除!


<『大型化Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 0/38 → 0/79(上限値使用:3)

 

 よし、とりあえずこれで元のサイズには戻った。ちょいちょい大型化は使ってるし、そろそろLv2に上がったりしないもんかな?

 そうすればもっと大きくなって、敵を抑え込みやすくなりそうだしね。ま、使ってればそのうちLv2にもなるだろうし、そうなった時に考えよ。


 それにしても流石に行動値0はあれだよなー。どうせ攻撃はしないんだし、いっそ暴発で行動値の回復だけさせとこうか。

 いや、それは流石にやめとこう。そういう手段に慣れると博打頼りになりそうで、色々危ない気もする……。


「さてと、俺は情報共有板に行くけど、他に行きたい人ー?」

「はい! 見に行きたいです!」

「あー、今回は俺はパスしとくわ。周囲の警戒をしとく」

「そういう事なら、私は見に行こうかな?」

「んー、4人も行く必要はないだろうし、私はアルさんと一緒に警戒をしておくね」

「ほいよっと。それじゃサヤ、ハーレさん、報告しに行くぞー!」

「「おー!」」

「ヨッシさん、別に俺1人でも警戒は問題ねぇぞ?」

「あはは、だからってアルさんだけに任せっきりってのもね?」

「……まぁヨッシさんがそれで良いなら俺は構わんが」

「うん、それじゃそういう事でね」


 どうやらヨッシさんはアルだけに周囲の警戒を任せるようにならないように気を遣ってくれたみたいだね。

 情報確認と報告に行くのは重要ではあるけども、だからといってそれ以外の部分をアルに甘え過ぎも良くはないか。ヨッシさん、ナイス気遣い!


 アルやヨッシさんの気遣いを無駄にしない為にも、しっかりと情報提供と最新情報を仕入れてきますか! ……どうしても魔力集中の効果時間は無駄にはなるけど、行動値の回復は必須だし仕方ないな。


 それじゃ情報共有板へレッツゴー! さて、今はどんな会話をしてるんだろう?


 オオカミ  : 午前の件は大体、沈静化したか。この様子なら17時からの合同撮影会に支障はなさそうだな。


 リス2   : 一時はどうなるかと思ったー! とりあえず灰のサファリ同盟から人員は出して、発火草の群生地へのトンネルの工事は順調だよー!


 リス    : 各群集からも手伝いは来てるし、無所属でも交流する気がある人は結構行ってるもんね。わたしの方でもソロの人に声をかけて、手伝いに行ってもらってはいるしさー。

 

 クマ    : 妙に無口だけど凄い勢いで穴を掘ってるオオカミの人はリスの人が送り込んできた人か!?

 キツネ   : うへぇ、相変わらず凄い人脈だなー。

 ヘビ    : ま、思った以上に無所属の人がいるってのは分かったしな。あー、楽しみだぜ、夕方からの合同撮影会!


 オオカミ  : そういえば、青の群集に任せたフェニックスの昇華魔法の発動条件の検証はどうなっている?


 フクロウ  : まだ判明してないみたいだぜ。さっき、他の誰かが飛んでたみたいでフェニックスがどこかに飛んでいって、少し中断になってた。


 クジラ   : 面白い事になってるみたいだけど、これって海エリアから参加しに行ってもいいやつ?

 マグロ   : 洞窟の中で空中を泳ぐ魚やクジラってのも良さそうだしな。

 クジラ2  : そんな建前はどうでも良いから、普通に参加したいんだよー!

 リス    : その辺は大丈夫! だよね、リス2の人?

 リス2   : 特に参加制限はないから、17時に集合場所まで来てくれれば問題ないよー! ただし、地上への適応は自前で用意してねー!


 クジラ   : あ、やった!

 クジラ2  : それなら準備してから行くまでだね!

 マグロ   : だなー。


 ほほう、海エリアの人達も発火草の群生地での合同撮影会にやってくるのか。今日がスクショのコンテストの応募が最終日って事もあって、思ってる以上に大規模になりそうだな。

 うん、これは人数が多くて班分けになりそうな予感。多分、最大でもフル連結PTくらいには抑えるだろうけど、赤の群集や青の群集の人と混在した連結PTになりそうだよな。


 リス3   : そのフェニックスが飛んでいった時に遭遇して試した件があるので報告なのさー!

 オオカミ  : ほう? 何があった、リス3の人。

 リス3   : それはコケの人から説明してもらうのです!

 コケ    : おいこら、そこで俺にぶん投げるんかい!?

 リス    : およ? あ、これはいつものコケの人だねー!

 フクロウ  : もしかしてフェニックスに狙われたのはコケの人やリス3の人のPTか?

 ヘビ    : おーい、また襲われたのか?


 ヘビの人の言い方からして、どう考えてもディールさんだよなー!? いや、まぁそこは大して重要でないから別に良いか。


 コケ    : フェニックスに狙われたのは俺達じゃないぞ。すぐ横の広間にいたPTが全滅しただけで。


 ヘビ    : すぐ近くだったんかい! で、報告って何があった?

 オオカミ  : わざわざまとめへの報告でなく、こっちに来たとなると重要案件か?

 コケ    : この情報は重要だと思う。単刀直入に言うけど、フェニックスの昇華魔法の発動条件らしきものを見つけたから、その検証をやってみてほしい。


 オオカミ  : ほう? それはまた急ぎで検証している最中の情報だな。

 フクロウ  : マジで!? 具体的にどんな内容!?

 リス3   : ふっふっふ、フェニックスにフィールドボスを倒させるのです! それも空中のフェニックスからの攻撃が発生する位置でなのさー!


 コケ    : 一度は説明をぶん投げたのに、そこは説明するんかい!

 木     : そういえば、天然産の水をマグマに放り込めば魔法に強いフィールドボスが出てくるって情報があったな。


 コケ    : あ、それそれ! それを高い位置まで打ち上げたら、フェニックスが魔法砲撃にした昇華魔法で焼き殺してさ。それで1つ仮説を立てた。


 というか、あの竜は黒の暴走種だったし、地味に誰にも倒されてなかったっぽい? あ、もしかしたらマグマから出てきた敵は弱るとマグマの中に逃げ込む特徴もあったし、逃げられて倒せてなかった可能性もありそうだね。

 あの竜は決して弱くはなかったし、発見したPTが魔法を主力にしているPTであればそういう事もあるかもしれない。


 オオカミ  : なるほど、検証内容としては普通の敵を危険ラインを超える高さまで打ち上げた場合はどうなるかだな? それと、今の段階でマグマに水を放り込んでフィールドボスが出てくるかの確認もか。


 リス3   : 先に言われたのさー!?

 ヘビ2   : ……ん? これ、今は何の話? 危険ラインを超えるとかって話なら、フェニックスに焼き殺される直前にマグマから飛び出てきた龍に捕まってたなー。いやー、あの時は焦った! 今考えると、フェニックスの行動パターンってあの時にもう変わってたのかー。


 イノシシ : はい?

 キツネ  : ちょい待った、ヘビ2の人。フェニックスに焼き殺された時に、龍に捕まってた?


 ヘビ2  : おう、そうだぜ! もう少しで『格上に抗うモノ』の達成間近だったのに龍に捕まって、焦って炎の槍を避けるために苦し紛れにだけど、その状態で龍ごと自分自身を爆発魔法で上空に吹っ飛ばしてな! その直後に取得を達成して、フェニックスの昇華魔法に焼き殺されたぜ!


 フクロウ  : 間違いなく昇華魔法の発動条件ってそれじゃん!?

 キツネ   : そうなると、フェニックスは龍とヘビ2の人のどっちを仕留めようとしたのかがよく分からねぇな……。

 草花    : 行動パターンが変わったって事だし、プレイヤーよりも敵の排除が優先?

 フクロウ  : あ、そうなるのか。ふむ、興味深いな。

 ヘビ2   : ……そもそもこれって何の話?

 イノシシ  : あー、そもそも何の検証かを知らないのか。

 ヘビ2   : って、軽くログを見てきたけど、フェニックスの昇華魔法の発動条件を調べてんの!? え、それなら俺の状況って重要情報じゃね!?


 オオカミ  : ……まぁ今の段階で判明したから、それはいい。フクロウの人、リス2の人は現地にいたな。今の情報を主導している青の群集に伝えてくれるか?


 リス2   : うん、了解!

 フクロウ  : とりあえず、普通の敵で昇華魔法の誘発が出来るかの確認からだな。


 ふー、これで必要な情報は伝え終わったね。それにしても、ディールさんとフェニックスに焼き殺されたヘビの人はやっぱり別人だったみたいだなー。

 さて、この情報が青の群集が主導している検証の方に伝われば、間欠泉の再現についての検証も進むはず。


 それにしてもヘビ2の人が凄い重要な情報を持っていて、今ここにやってくるまで不明だったというのが惜しかったかもね。あの情報があれば、そこから推測して条件の絞っていけただろうにさ。

 まぁその辺については必要な情報が常にある訳じゃないし、仕方ない部分でもあるか。むしろ今のタイミングで推測を補強する材料にはなったしね。

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