第908話 少し気になった事


 さて、とりあえず昼からのLv上げの1戦目が終わって休憩中である。ちょっと反省点はあったものの、みんなが臨機応変に動けていたし、敵同士をぶつけるのもありなのもよく分かった。


「アルさんに質問です!」

「ん? どうした、ハーレさん?」

「タイドプールって何ですか!?」

「あー、それか。タイドプールってのは、潮が引いた後に陸地に残された潮だまりの事だな。ま、複合魔法としては電気が流れている海水の水たまりってとこだろ」

「おー! そうなんだー!」


 あー、タイドプールってそういう意味か。どっかで聞いた覚えがある気はしてたけど、磯場とかの窪みに海水が残って、その中に魚とかが取り残されてるとかってやつか。

 隣の家の釣り好きのおじさんに以前、潮だまりに偶にとんでもない大物がいるとか聞いた事があるのを思い出した。小規模なら天然の生け簀にもなるって言ってたっけ。


「……ふと思ったんだけど、そのタイドプールがあるエリアってのも存在する?」

「あー、調べてみた事はないが、潮の満ち引き自体はあるから海岸沿いのエリアにはあるかもしれんな」

「潮干狩りに近い部分もあるし、磯場とかさえあればあるんじゃない?」

「それは、興味深いかな?」

「うー! その内、その辺も探しに行くのさー!」

「それも良いかもなー」


 海岸沿いにはまだ全然行ってないし、テスト明けに砂浜に行こうとは話してたし、そのまま海岸沿いに進んで探索というのも面白いかもね。


「ところで、次の1戦もこんな感じでやっていくか?」

「特に問題はなかったと思うし、それで良いと思うぞー。それともアルとしては何か不安要素ってある?」

「……あえて言うなら、ケイ、行動値を使い過ぎだ。ほぼ使い切っただろ?」

「……そこは俺も失敗したと思ってるから、次は気をつける」

「それなら他には特にねぇな」


 ふー、とりあえず並列制御でチャージを使うのは無し! でも双打連破の吹き飛ばし効果で距離を取りつつ、その後の追撃で連強衝打を使うのはありだよな。

 それに今度は初めから大型化を使うつもりだから、その辺も大きさ的な優位性は高くなるはず。シンプルな体当たりとかでも、割と有効な気はする。


「あ、そうだ。さっきは流石に試さなかったんだけど、気になった事が1つある」

「ほう? それなら俺も1つ気になってる事があるな」

「え、アルもか?」

「……同じ内容とは限らんがな」

「確かにそりゃそうだ。んじゃ、アルからどうぞ」

「そうさせてもらうか。俺が気になったのは魔法産ではない水がこのエリアでどう扱われるかだな」

「あ、俺とは全然違う内容だなー」

「ほう、そうだったか」


 ふむ、でもそう言われてみれば確かに気にはなる。魔法産の水と天然産の水は決して同じものじゃないしね。

 魔法産の水は少し蒸発する程度だけど、天然産の水だとどうなるかが分からない。……いや、間欠泉の事を考えればそうでもない?


「間欠泉があるし、天然の水ならあっという間に蒸発するとか?」

「はっ!? マグマに放り込んだら水蒸気爆発とか発生しそうな気もするのです!」

「そういえばマグマの中に魔法産の水を入れるのも試してないかな?」

「あー、そういえばそうだよなー」

「俺はその辺が気になってな」

「……なるほど」


 午前中に使ったウォーターフォールも水流に操作も、どっちもマグマに触れさせてはいないもんな。ましてや天然産の水をここで出す事は考えてもいなかった。

 でも、これはどうなるかは試してみる価値はありそうだ。まぁ回復中だから今すぐに試す訳にもいかないけども。


「それでケイの方は何が気になったんだ?」

「ほら、さっきの戦闘中って敵同士をぶつけたり、攻撃させたりしたじゃん? それと龍が意外と高くは飛んでなかった気がするから、フェニックスが襲いかかってくる高さまで敵を放り投げたらどうなるのかなーって?」

「あー、敵もフェニックスに攻撃される可能性か……。『横取りされてモノ』って称号も存在してるんだから、それはあり得るな」

「でも、それって今は試してみるのはマズイんじゃない?」

「今は青の群集がフェニックスで色々試してる最中って言ってたもんね!」

「今やればただの邪魔になりそうかな? 事故でとか、試さないと危険って状態ならまだしも、好奇心から試して妨害になる可能性があるなら私は反対かな」

「あー、確かにそれはサヤの言う通りだなー」


 午前中にヘビのディールさんの邪魔になる可能性があったのは分かった上で危険ラインの確認はしたけども、今回俺が気になってる件については俺の好奇心でしかない部分だしね。

 フェニックスが検証に使われてない状態なら試してみるけど、他の人の邪魔になる可能性があるならやめておこうか。


「ケイ、それを試すならフェニックスが俺らのとこを通り過ぎる事があればでどうだ? その状況なら、他の誰かが飛んで呼び寄せてる状態だから問題はないだろ」

「あ、その手があった! アル、ナイス!」


 とはいえ、それは色々とタイミングが重ならなければ無理な話でもある。ま、そこはここでの戦闘をしてる間にチャンスがあればやってみるって事でいいか。


「アルが気になった事についてはどうするかな?」

「それなら次の戦闘の開始前にやれば良いと思います! ケイさんかアルさんが天然産の水を出して、操作をすればいいのさー!」

「インベントリから水を出した時点でどうなるかが気になるね」

「確かにな。とりあえず天然産の水をインベントリから出して、その様子を見ながらマグマに突っ込ませてみるか」

「それじゃそういう方向性でいくかー」


 これに関しても実際にやってみないと分からないもんな。天然産の水がマグマの熱量に負けてあっという間に蒸発する可能性もあるし、ハーレさんが言ってたように水蒸気爆発の可能性も否定出来ない。

 逆に水が勝ってマグマが固まるという可能性もあるんだよなー。まぁこれはどっちかというと天然産の水じゃなくて、魔法産の水でなりそうだけど。


「てか、その場合って敵はどうなるんだろうな?」

「うーん、水がどう変わるか次第だけど、場合によっては襲ってきそうかな?」

「私もそう思うのさー!」

「だよなー」


 うん、やっぱりその危険性がある限りは次の戦闘開始の時にやるのが安全だな。敵が襲ってこないなら今からでもいい。

 だけど、敵が襲ってくる可能性を排除出来ないなら安全策を取るべきだ。変なミスをして死にたくはないからねー。




 そんな風に雑談をしつつ、俺の行動値は全快になった。とはいえ、俺は大型化している関係で行動値の最大値は思いっきり減ってるんだけどね。

 んー、自己強化の効果時間が切れるにはもう少し時間がかかりそうだなー。みんなの回復具合はどんなもんだろ?


「俺は全快したけど、みんなはどんな感じ?」

「あー、俺はもうちょいってとこだな。てか、全快までが早いな、ケイ?」

「ケイさんは大型化してて上限値が低いからなのさー! 私は行動値はもうちょいで回復だけど、魔力値が間に合いそうにないのでレモンを齧っておくのです!」

「私も魔力値はアイテムを使った方が良さそうだね」

「私は普通に全快出来そうかな?」


 ふむふむ、それじゃもう少し休憩してからみんなの行動値が全快した時点で魔力値の足らずはレモンを使って回復してしまえばいいか。

 午前中はアルと俺が魔力値をレモンで回復しまくってたんだし、その辺の使用については問題なしだな。


「よし、今のうちに俺が天然産の水を試してみてもいい?」

「……流石に待て。何があるかわからんから、全員が全快するまでは待て」

「あー、やっぱ駄目?」

「俺らが全快する間、もし敵が出てくる事があってもケイ1人で対処するなら構わんが?」

「……死にそうだから、やっぱりやめとく」


 うん、冗談混じりで言ってみたけど、これ以上言えば本気で出てくる敵を1人で全て相手する事になりそうだから、もうやめとこ。まぁ敵が出てくるかどうかも分からないけどね。


「こうしてると、戦闘以外での行動値や魔力値の回復速度も上がって欲しいかな。少なからずLvが上がった際に回復速度は上がってるみたいだけど、まだまだ遅いよね……」

「あー、確かになー」


 俺はコケの養分吸収で少し行動値の回復速度を上げられるけども、他の種族だとそうでもない。……魔力値は最悪アイテムを使えば回復は出来るけど、行動値はそうじゃないからね。


「あ、行動値が全快になったので、レモンを齧っておくのです!」

「私もかな!」

「同じくっと」


 そうしてサヤ達がレモンを取り出して、魔力を回復させていく。サヤとハーレさんは簡略指示で魔法を発動してたから、魔力値そのものが少ない物理型のクマとリスで魔力値を消費してるもんなー。多分俺のコケに比べると魔力値自体の回復速度が遅いはず。

 ヨッシさんのハチは魔法寄りだから結構魔力値はあるだろうけど、まぁどういう形であれ、大体は魔力値よりも行動値の方が先に回復するもんな。これが回復用のアイテムの有無の差か。


「おし、俺も全快だし、これで全員全快だな。それじゃ水を試してみるか」

「だなー。それじゃ俺が――」

「ケイ、待て。今回は俺がやる。大型化してんだから、行動値は節約しとけ」

「……クジラを小型化してるアルも同じじゃね? 今回、制限時間を気にしなくて良いように簡略指示で発動してるよな?」

「それはそうだが、俺は海水の操作がメインだからそれほど消費しねぇし、逆にケイは近接だから普段よりも使うだろ?」

「あー、確かにそりゃそうかー。そういう事なら、アルに任せた!」

「おう、任せとけ!」


 という事で、一体どうなるかが完全に未知数なグラナータ灼熱洞で普通の天然の水を出してみる実験。そもそもやる意味があるのかすら不明だけど、まぁどういう結果になるかはやってみないと分からないもんな。


 あ、そういや魔力集中が再使用可能になってるね。んー、でもまだ自己強化の効果時間は残ってるし、この水の実験で敵が出てくるとも限らないしなー。

 またさっきの1戦みたいに逃げ回って引きつける必要があるかもしれないし、必要にならない限りは自己強化の時間切れまではこのままでいくか。


「それじゃ、実験開始なのです! 私はマグマに触れた瞬間に水蒸気爆発に1票です!」

「うーん、どうなるかな? 私はマグマまで辿り着けず蒸発に1票かな」

「それじゃ私はマグマを一時的に冷やして固めるに1票で」


 お、サヤ達の意見が見事に割れたな。確かにどれになってもおかしくはないけど、ここは敵が出てくる可能性も考えて……うん、俺はこれにしようっと。


「俺はマグマに触れた水に反応して、敵が一気に出現に一票!」

「お、ケイはそうきたか。それなら俺は大穴狙いで、ケイの案に追加でフィールドボスが出現に一票だ!」

「「「「フィールドボス!?」」」」

「……声を揃えて驚き過ぎだろ。ま、どうなるかは試してみてだな」


 いやいや、いくらなんでも敵が出てくるにしてもフィールドボスが出現って事は……うん、否定出来る根拠もなかった!?

 え、アルは大穴狙いとは言ってたけど、よく考えたら可能性としては本当に否定が出来ない!? そもそもこのグラナータ灼熱洞での自然発生のフィールドボスがどんなのか未知数過ぎる……。


「さて、その辺はやってみれば分かることだ。おらよっと!」


 そう掛け声を出しながらアルがインベントリの中から天然の水を出してくるけど、落下しながら思いっきり水蒸気を上げて蒸発してますがな! あ、蒸発しきって水が無くなった。


「……思った以上に蒸発が早いな」

「私の予想が当たりかな?」

「まだ早いのです! アルさん、もっと大量の水を次々と出して操作するのさー!」

「あっ、それは悪足掻きかな!?」

「ハーレもサヤも落ち着いてね? 水量が違えば結果も違うかもしれないしさ」

「ま、俺もヨッシさんに同感だぜ。まだ試す余地は充分にあるし、当たりが1つとは限らんからな」

「……それもそうかな」


 あ、サヤが少し不満そうではあるけど、とりあえずはハーレさんとヨッシさんの主張は飲み込んだようである。

 まぁ決してサヤの予想が外れた訳でもないし、アルも言ってるけど水量が増えれば別の結果になる可能性はある。……まぁマグマが冷えて固まるか、水蒸気爆発が発生するかは流石に両立しないだろうけど。


「それじゃ、アルさん、一気にやっていくのさー!」

「……ハーレさん、負けたくないだけじゃね?」

「えっへん!」

「否定はしないんかい! まぁ別に良いけど……とりあえずアル、やってみよう!」

「だな。 ほい、ほい、ほい、ほいっと! そんで『水の操作』!」


 アルがインベントリの水が出したところで重なるように4つほど取り出して、それをまとめて水の操作の支配下に置いていく。

 操作した水は凄い勢いで蒸発してるけど、水量がある分だけすぐには全部はなくならないようだね。これならマグマのとこまで持っていけるか?


「さて、これでどうなるか……おらよっと!」


 そうしてアルが操作した水をマグマに向けて叩き込ん――


「おわっ!?」

「あ、爆発したね」

「水蒸気爆発なのさー!」

「……あはは、水量が少なければ私が正解で、水量が多ければハーレが正解だったみたいかな?」

「あー、どうもそれだけじゃないっぽいぞ」

「はっ!? アルさんの木の方に危機察知が反応ありなのさー!?」

「マジか!? 『並列制御』『アクアウォール』『アクアウォール』!」

「って、マグマの中から何か出てきたぞ!」


 これは俺の敵が出てくるっていう予想も当たりだった――


<ケイが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


 って、発見報酬が出たのは良いけど、出てきたのは東洋系の竜じゃん!? でも、首回りには赤い模様はあるけど、全身は真っ赤だけという訳ではなく、風属性の緑色と混ざった模様になっていて、その上でマグマ適応の証の模様がついてるっぽい。


「ちょ!? 黒い王冠マークがあるからフィールドボスじゃん!?」

「アルの大穴の予想まで大当たりかな!?」

「おし、大当たり! って、言ってる場合か! すぐに戦闘を始めんぞ!」

「だな! どうも他の敵は出てくる様子はなさそうだし、良い経験値になりそうだからぶっ倒すぞ!」

「「「おー!」」」

「ちょ、俺は余裕がなさそうなんだが!? 『並列制御』『アクアウォール』『アクアウォール』!」


 大穴の予想が当たったのにはびっくりしたし、ここでのフィールドボス戦は嫌な気はしてたけど、こうやって出てきた以上は戦うまでだな。

 この竜は誰かが誕生させたフィールドボスか、それとも自然発生のフィールドボスかは分からないけど、厄介そうだ。てか、マグマに適応してるこの状態は自然発生っぽい気がする。


 とりあえずアクアプロテクションで防御しているアルを攻撃している、竜の口から放たれ続けている風の球をどうにかしないとな! てか、8連発くらいになってる気がするから、これって風の付与魔法での弾数増加とかしてない!?

 

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