第905話 空いてる場所を探して


 それからしばらくグラナータ灼熱洞の中で空いているスペースを探して進んでいく。何ヵ所か広間を通り抜けてきたけど、まだ空いてる場所は見つかっていない。

 ヨッシさんと2回ほど交代しつつ、今は俺がアルのクジラの頭の上で群集内交流板を眺めてはいるけど、狩りを止めるという情報はなかった。中々都合よく見つからないかー。


「あー、こりゃ行き止まりっぽいとこに出そうだな」

「ん? あ、マジだ」


 アルが行き止まりと言うから気になって前を見てみれば……あぁ、通路から次の広場が見えるけど、その先の通路が見当たらない。

 んー、緩やかに下ってそれなりに移動してきたけど、こっちのルートはハズレか? いや、あくまで今の通路から見える範囲だし、通路は左右が岩壁に覆われてるんだから行き止まりだと決めつけるのは早いな。


「ここからだと行き止まりに見えるが、広間まで行っとくか? 先客が既にいるっぽいが……」

「むしろ方向転換をする場所の可能性もあるのさー!」

「というか、今までの広間よりもかなり広そうなのも気になるとこだな」

「それは確かにそうだね。あれ、もしかしてここがフェニックスの定位置だったりする?」

「あ、その可能性はありそうかな!」


 そういや元々フェニックスは定位置にいたって話だし、この先のこれまでよりも広い場所ならその場所だという可能性は高いか。

 グラナータ灼熱洞って、洞窟だから周囲は岩壁に囲まれてるけど、高さは割とあるんだよなー。……まぁ飛ばせてもらえないんだから、そこはフェニックス専用って感じではあるけども。


「……ところで、戦ってるPTの人達の種族構成に心当たりがあるのは気のせいかな?」


 ん? 既に戦っている人がいるのは見たけど具体的な種族まではしっかり見てなかったね。サヤがそういう事を言うなら、もしかして知り合いか? どれどれ?


「ヒツジの人と、トンボの人と、リスの人と、クマの人が2人……って、ツキノワさん達じゃね!?」

「ちょっと確認してくるのです!」

「あ、ハーレ、私も行くよ!」

「私も行くかな!」

 

 あ、ハーレさんが巣から降りて駆け出していったかと思えば、サヤとヨッシさんもハーレさんを追いかけていった。

 うん、まぁ敵も出てこなかったし、知り合いの可能性が高いなら別に良いか。無駄に近付き過ぎなければ特に邪魔にはならないし、声をかけるタイミングを間違える事もないだろ。


「アル、俺らも行こうぜー」

「だなー」


 ちょっと置いてけぼりにされた感じはするけども、まぁこのくらいの事はたまにある。アルと2人の状況で通路で敵に襲われても……正直、1体ずつはそんなに強くもないから問題はないか。

 いや、でもなんだか疎外感が出てくるから早めに移動だー! 通路で襲われるかどうかの法則はいまいち分からないし、どうも通路に関しては運っぽいんだよな。


 という事で、先に駆けていったハーレさん達を追いかけて俺とアルも広間へと突入! ほほう? ここはどうも広いだけじゃなく、上にもかなり高いようだね。

 それに……やっぱりあったか、折り返しになって、更に地下へと続いている下り坂のルートが! 


「チャージ完了だよ、ツキノワ!」

「行くぜ、黒曜! 『連強衝打』!」

「これで、終わり!」


 お、銀光を強めながら連打を繰り広げていくツキノワさんと、右脚から眩い銀光を放っている黒曜さんが、赤い敵のクマを倒したところのようである。

 

「おっし、撃破完了っと! あー、でも敵の数が減ってきたか」

「もうすぐ2時間だし、それは仕方ないよ」

「そうだよねー! みんな、そろそろここは切り上げて他の場所に行こうよ!」

「アリスに賛成だね!」

「モコモコに同意ー!」

「ま、一旦ここは切り上げか」

「それじゃちょっとその件を群集内交流板で伝えて――」

「あ、シオカラ、それはストップ!」

「え、黒曜、なんで止め……あ、誰か来てるねー?」


 どうやら敵を仕留め終わったタイミングだったみたいだね。そして名前が見える位置までやってきたけど、うん、やっぱりツキノワさん達だった。

 しかも今聞こえてきた内容的に俺らにとって非常にありがたいタイミングな気がするよ。


「やっぱりアリスさん達だったのさー! こんにちはー!」

「あ、ハーレさん!? え、サヤさんとヨッシさんもだ!? やっほー!」

「モコモコさんとシオカラさんもこんにちは」

「こんにちはかな!」

「ヨッシさん、サヤさん、こんちは! すっげぇタイミング!」

「こんにちはー! あはは、ナイスタイミングだね!」


 あ、アリスさんとハーレさんがわちゃわちゃとじゃれ合いながら、サヤとヨッシさんがモコモコさんとシオカラさんに挨拶をしてるね。


 確かツキノワさんが打撃メインで、黒曜さんが蹴りメインの近接だったっけ? アリスさんはハーレさんの投擲に憧れて投擲メインにしたとかだったし、モコモコさんとシオカラさんは魔法メインだった気がする。

 まぁ今の戦闘直後の位置関係と、前にチラッと見た時の情報で判断してるけど。あ、ツキノワさんと黒曜さんが俺とアルの方にやってきた。


「おっす、アルマースさんとケイさん! 空いてる場所を探してた感じか?」

「2人ともどうも。狩りに来てるのであれば、本当にナイスタイミングだよ。そろそろ切り上げようとしてたしね」

「おっす、ツキノワさん、黒曜さん! どうもそうっぽいなー!」

「そっちの下への通路の先にも興味があるとこではあるんだが、そっちはあくまでおまけで、Lv上げの為の空き場所を探してたとこだな」

「ん? アルマースさん、そっちの奥に興味があんの? 少しならそっちに行ったから、なんか興味があるなら教えられるぜ?」

「ほう、そうなのか? ケイ、どうする? 俺は別に聞いても良いと思うが……」


 ふむ、ツキノワさん達はナイスタイミングって言ってるし、場所を交代してくれそうな感じだよなー。そうなるとここで狩りをする事になるから、この奥には行けないそうにない。

 もう3時も近付いてきてるし、2時間狩ってからその後に見に行くというのもスクショの合同撮影会の事を考えると厳しそうか……。アルもその辺を考慮した上で言ってるんだろうね。


「サヤ、ハーレさん、ヨッシさん、この下っていく通路の先の情報を聞いても良いかー?」

「それは後で……あ、地味にその時間はなさそうなのです!?」

「あ、その反応って事はハーレさん達も17時からのスクショの撮影会に行くの?」

「はっ!? アリスさん達も!?」

「その通り! いやー、私達はスクショを撮るのが得意じゃないから、便乗させてもらいに行くのですよ!」

「アリス、いらん事まで言わんでいい!」

「あいたー!? モコモコ、何するのー!?」

「アーリースー? 上空に投げちゃうよー?」

「シオカラ!? 待って、それは待って!?」


 うん、なんというかヒツジに蹴られ、トンボに持ち上げられて投げ飛ばされそうになっているリスという変な状況になっている。

 まぁ本気で怒っているようにも嫌がってるようにも聞こえないし、これがアリスさん達の日常なのかもね。って、本題から逸れてますがな!?


「んー、あるかないかだけを聞いておいて、実物を見にくるのは改めてにすればいいんじゃない?」

「それもそうかな。今日の夜とか、明日でも良いしね」

「その方向で良いのさー!」

「ほいよっと。それじゃその方向性でいきますか」


 今回の時間の範囲では無理そうだけど、そこに無理してこだわる必要もない。間欠泉のあの場所がこの先にあるかないかだけ分かれば、次に来る時の時間短縮にもなるしね。

 実物を見るのは、改めてその機会を作る事にして、ここはツキノワさん達に間欠泉のあの場所がこの先かどうかだけを教えてもらおうっと。


「ツキノワさん、黒曜さん、この先に洞窟の天井付近にいける場所ってあるか?」

「あぁ、午前中の例の間欠泉のやつだね。うん、それはあるよ」

「あー、ありゃ当分は行かない方がいいぜ? 直接見た訳じゃないんだが、聞いた話ではフェニックスをからかって遊ぶ場所になってるらしいからよ」

「はい!?」

「……ツキノワさん、フェニックスをからかって遊んでる場所ってどういう事だ?」


 例の間欠泉がある場所ってのは分かったけども、フェニックスをからかって遊んでる場所って何!? 成熟体相手に一体何をやってんの!?


「まぁ遊ぶって言っても検証の一環らしいけどな。あれだ、上の見えにくい水が流れ込んでる場所って、フェニックスに襲われない安全地帯になってるらしくてな。そこから少し飛んで出たら、フェニックスがすっ飛んでくるらしいんだよ」

「……あー、どこまでなら安全か確かめてるって感じ?」

「んー、少し違うね。ケイさん達が報告を上げてた大規模な間欠泉の再現を試してるんだってさ。ただ、フェニックスに炎の槍じゃなくて昇華魔法を使わせる条件が中々分からないみたいでね」

「あ、そっちか!」


 そういえば俺らが見た大規模な間欠泉のきっかけはヘビの人が昇華魔法で焼かれた事だっけ。なるほど、その条件がはっきりと判明してなくて、それを探っているんだな。


「ちょっと質問良いかな?」

「おう、良いけど気になる事があるのか、サヤさん?」

「それって近付かない方がいいのは、巻き込まれるからかな? それとも他の理由があったりするのかな?」

「あー、ぶっちゃけ主導をしてんのが青の群集だそうでな? 別に他の群集も混ざってるから見てても問題がある訳じゃないそうなんだが、まぁ今から行ってもただの見物しか出来ねぇだろうな」

「あ、そういう事かな。ツキノワさん、ありがとうかな!

「いやいや、良いって事よ! まぁ俺らも奥から戻ってきた人から聞いた話だがな。あ、でも間欠泉の場所については俺らが見てきたから間違いはないぜ?」

「ほいよっと。その辺の事情は了解!」


 あくまで伝聞だから、その辺は注意しろって事だね。それにしても青の群集が主導でやっているのであれば、灰の群集の俺らが後から混ざるのも難しいだろうなー。

 その検証が終わらない限り、行ったところで他に人はいるし、ただ見物しか出来ないし、旨味もないか。


 Lv上げはしたいし、今のタイミングで行くべきではなさそうだね。あ、そういえばこれはしっかり確認しておかないとマズいかも? 多分ツキノワさん達もそのつもりだとは思うけど、ここは聞いておかないとね。


「ツキノワ、ハーレさん達にこの場所を譲るのでいいよねー!?」

「おう、問題ねぇぞ、アリス! って事だが、ケイさん達もそれで良いか?」


 あ、確認しようと思ったら先に聞かれた。ま、断る理由は欠片もないし、むしろありがたい! 全く見知らぬ人からよりも、こうやって知り合いの人からだと気兼ねなくやれるしね!


「そうしてもらえるとありがたい!」

「おっし、それじゃ交渉成立って事で! あ、そういやマグマ適応の特性の実はいるか? かなり余ってるんだが……」

「ここまでの道中で1個しか手に入ってないから、貰えると助かる……」

「おう、それなら貰ってくれ! 消えるのも勿体ねぇからな!」

「サンキュー、ツキノワさん!」


 どうにも通路から出てくる敵からは、全く落ちない訳じゃないけど、かなり確率が低いみたいなんだよなー。いや、ただ単純に敵と戦う回数自体が少ないせいってのもありそうだけどさ。

 てか、絶対に余るように設定されていて、こういう風に特性の実と共に狩りを交代するのが推奨みたいな仕様だよね。まぁ狩場の独占って、古いオンラインゲームだと問題視されてたらしいけど。



 そうして、ツキノワさん達からマグマ適応の為の特性の実と、この狩場を譲り受ける事が出来た! 地味にここに来るまでに20分くらい経っているけど、まだ15時は来てないから17時まで2時間……いや、移動の時間を考えたらちょっと短くはなるかな?

 でも、かなり上限に近い時間で狩りが可能なタイミングである。おっし、なんだかんだで運が良かった!


「あ、そうそう。ここってフェニックスの定位置ではあるから、そこは要注意。まぁ今はフェニックスはこの奥で釘付けにされてるはずだから大丈夫だと思うけどね」

「おぉ!? ここなんだー!?」

「ハーレさん、上の方にちょっと突き出てる岩があるじゃない? 誰も襲いに行ってない時のフェニックスはあそこに上にいるんだよー!」

「その様子、スクショで撮りたいのさー!」

「死ぬ覚悟をすれば、可能だね!」

「ふっふっふ、私も死を覚悟してやるのもありなのさー!」


 あ、ハーレさんがスクショを撮りたいモードになってる。まぁこの他の広間より特別に広い場所かつ、上にも開けている場所ならかなり見栄えは良いだろうなー。


「ハーレさん、死ぬ時はPTを解除して俺らは通路の方に待機しとくからなー!」

「ケイさんにあっさりと切り捨てられたのです!?」

「いやー、巻き添えで死ぬのはごめんだし、今は成熟体と戦闘しても旨味皆無だし?」

「あぅ、確かにそうなのです……」

「こう考えてみると、新しく空白の称号が欲しいとこかな?」

「今の環境で手に入れるとしたらトーナメント戦でだよね」

「……明日にでも空白の称号狙いでトーナメント戦にでも参加してみるか?」

「あー、全員で同じトーナメント戦に出てみるってのもありだよなー。ぶっちゃけ、みんなと一度戦ってみたいぞ」


 これについては偽りのない本音なんだよなー。大々的にみんなと戦ってみた事ってまだないし、実力比べはしてみたい。


「ケイ、それだと全員分の空白の称号を手に入れるのは難しいぞ? ……だが、それを抜きにしてやってみたくはあるな」

「私もやってみたいのさー!」

「……確かに興味はあるかも?」

「すぐにではなくても、どこかでやってみたいかな!」

「ほほう、面白そうな話じゃねぇか。なぁ、黒曜」

「そうだね。空白の称号を狙うならそれなりに参加者は必要だろうし、もしやる時があれば参加させてもらってもいい?」

「あ、私も参加したい! ハーレさんと投擲対決をやりたいよ!」

「僕も興味はあるね」

「私もー!」


 ふむふむ、ツキノワさん達も俺らと一緒にトーナメント戦をやってみたいのか。……それならいっそ、スキル強化の種を取得出来る設定でやるのもありかもなー。


「その辺はどこかの共同体に開催を頼まないといけないから、また後日って事で!」

「そりゃそうだ! おし、それじゃ俺らはそろそろ行くわ! ケイさん達、Lv上げを頑張れよー!」

「おうよ! ツキノワさん達もLv上げ頑張れ!」

「おう! それじゃまたスクショの合同撮影会でな!」

「また後でなー!」


 そうしてツキノワさん達は一度ログアウトをして、グラナータ灼熱洞からは出ていった。他の場所でLv上げをしようかと言ってたけど、どこに行くんだろうね?

 ま、他の適正Lvの狩場に行くのかもしれないし、フィールドボスの連戦をするのかもしれないし、まだ具体的に決まってない可能性もあるし、俺らが気にしても仕方ない。


「おっし、それじゃマグマ適応をしてから、Lv上げを始めるぞー!」

「「「「おー!」」」」


 色々と運良く今回の狩場は確保出来た! それじゃ午後のLv上げをやっていこうじゃないか! 目指せ、今日中にLv26!




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