第903話 無所属達と発火草の群生地


 赤の群集であるラインハルトことライさんが一時的に同行する事になった。とは言っても、もうすぐ近くまで来ている発火草の群生地までだけどね。

 もう距離も距離なのでさっきのサヤ達の勝負は中断で、完全に上空からの移動となった。


 そして非常に珍しく、ライさんは擬態をせずに普通のカメレオンの姿を現していた。……うん、天候が悪いままだし、こりゃ大雨でも降りそうだなー。


「うっわ、高いなー! アルマースさん、これってあの妙に高い山の上まで行けるのか?」

「おう、いけるぞ」

「ほぉ! あの中にアルマースさんがどうやって入ったのかが気になってたけど、ルストみたいに木の根で岩壁登りをしたって訳じゃねぇんだな! すっげーな、空飛ぶクジラ!」


 なんだかライさんのテンションが妙に上がってるけど、赤の群集には空飛ぶクジラっていないのか? 青の群集の方では以前、空飛ぶクジラ軍団が誕生したとかどうとか聞いた覚えはあるけどなー。


「ライさん、赤の群集には空飛ぶクジラはいないのー!?」

「ん? 結構いるにはいるぜ! だけど、活動拠点が海エリアでなー!」

「空飛ぶクジラなのに海が拠点なのー!?」

「いやな、陸エリアの奴が2ndで海エリアにクジラを作るじゃん? ある程度は海エリアで育てる必要があるじゃん? その間に海エリアが気に入ってそのまま定着して、飛べるようになっても用事がない限り戻ってこなくてな!」

「あー、そういう……」

「まさかの海エリアへの転向だったのさー!?」


 そっか、陸エリアの人が海エリアの方に流出しちゃってた訳か。うん、なんというか赤の群集の陸エリアの人達、ドンマイ!

 おっと、そうしている間に発火草の群生地がある妙に高い山に近付いてきた。


「ま、今日の一件で多少はその辺も変化はあるとは思うんだが……お、見えてきたぜ!」

「ケイ、獲物察知の反応はどうだ?」

「結構反応あり。全群集から人も集まってきてるみたいだけど……あれ?」


 今は妨害されていないので、獲物察知には赤も青も灰も白もどの矢印も表示されている。一応ざっと見た限りでは白の矢印が一番少ないけども、それでも10本くらいはありそうだな。こりゃ、思ったほどは無所属で話せる人は少なくもなさそうだ。


 思ったよりもかなり大人数が揃ってるみたいだけど、発火草の群生地の中じゃないとこにも混在した一団がいる? これは……岩山の中の群生地ではなく、その外側に集まってる?


「ケイ、どうしたのかな?」

「あー、なんか外側の方にも人が集まってるけど、何をやってんのかなーって?」

「それなら知ってるぜー! あれだ、あれ! 発火草の群生地に入る為のルートが結構面倒だから、岩山にトンネルを作ろうとしてんだよ。その掘削作業班だと思うぜ!」

「あー、なるほどね」


 そっか。確かに上から飛んでいく……もしくは山登りをしていくか、間欠泉の縦穴を降りていくか、グラナータ灼熱洞から縦穴に続く道を通っていく必要があるもんな。

 そういやグラナータ灼熱洞の入り口から見て東側に位置する訳だけど、どういう経路で行けばあそこに辿り着くんだろうか? ……空いてる場所を探すついでに、グラナータ灼熱洞そのものの道がどうなってるかを確認したいところだね。


「位置的には貫通してる洞窟は避けるようにしてたはずだぜ。まだ俺も具体的にどうやってんのか見てねぇんだけどな」

「確かに位置はあの俺らが縦穴を見つけた洞窟じゃなくて、発火草の群生地の南側っぽいな。アル、少し南に進路変更!」

「おうよ! それで、俺らも降りてトンネルを掘ってる様子をしっかり確認するか?」


 あー、そういや様子を見たいからこうやって見に来たけど、出入りをしやすくする為のトンネルを掘ってる最中なら変に降りていけば邪魔かもなー。


「んー、みんなはどうしたい? 俺としては邪魔はしたくないから、忙しそうならライさんを降ろしてそのままグラナータ灼熱洞に行くので良い気がするけど」

「邪魔をするのは本意じゃないから、それに賛成なのさー!」

「……ケイ、人手が足りてないって可能性はあるかな?」

「あ、その場合は私達も手伝うのもあり?」


 ふむ、確かにサヤとヨッシさんのその懸念はもっともだね。羅刹とイブキは知らない仲じゃないし、見た感じでは赤の群集の反応が特に多いから人手が足りないって事は無さそうな気がするけど。

 この赤の群集の人達って、今日の件で無所属から赤の群集に戻れた人の割合が高そうな気がする。んー、直接見てみないと断言は出来ないけど、人手不足の心配はいらなさそう。


「ザッと見た限り、その心配はいらないとは思う。多分だけど……」

「それなら、軽く上から眺めてグラナータ灼熱洞に行くに一票かな」

「別に私達が監督役って訳でもないし、人手が足りてるなら私もサヤと同じだね」

「おし、それなら俺らはライさんを無事に送り届けたら、少し眺める程度にしてLv上げに行くって事で!」

「「「「おー!」」」」


 よし、これでとりあえず方針は決定っと! さて、トンネルを掘っている様子を眺めてから、グラナータ灼熱洞までの移動の間に狩りを終えて空きが出来るかどうか、群集内交流板でチェックしないとなー。


「おっ、グラナータ灼熱洞って午前中からパターンが変わって経験値が激増してるってとこだよな! まだ俺は行ってないんだけど、ぶっちゃけどんなもん?」

「あー、あれは完全にPT推奨の狩場だなー。そういやライさんって1人でいる事が多いし、共同体にも入ってないみたいだけど、ソロなのか?」

「いんや、基本的にはルアー達とPTは組むぜ? だけどまぁルアー達は色々奔走してるから、ソロが多いっちゃ多いな」

「あ、そういやそうか!」


 ライさんと会う時は1人の時が多いけど、よく考えたら初対面の時って競争クエストの初対戦の相手であるルアーさんのPTの一員だったっけ。うん、今の今まで普通に忘れてた。


「ちなみに共同体はいくつか勧誘がきてて、どこにするか悩んでる最中だ!」

「おー、勧誘がいくつかあるんだな?」

「まぁ無難にルアーと同じってのでもいいけど、あちこち放浪しながらってのも考えてる最中だなー」


 あぁ、他のオンラインゲームをしてた時にもいたけど、あちこちのギルドを渡り歩いて遊んでる人もいたっけ。そっか、ライさんはそういう方向性で遊んでるんだな。


「話してるとこ悪いが、そろそろ到着するから速度を落とすぞ」

「ほいよっと!」

「おっし、送ってくれてサンキューな! そんじゃまた、どっかで会った時にな! 『保護色』『飛翔疾走』!」

「そこで擬態していく意味ー!?」


 思わず突っ込んでしまったけど、ライさんは保護色を使って擬態をしていき、空を駆けていった。……うっわ、空中を走られるとどこにいるのかが全然分からん!


「あぅ!? 空中だとかなり分かりにくいのです!?」

「……あはは、私にはどうやって見つけようとしてるのかがさっぱりだよ」

「少し強めの風でもあれば、不自然に周囲の葉っぱとかが乱れるからそれが目印にはなるかな?」

「うん、私には無理そうだね」

「……俺も出来る気はしねぇなー」

「同じく俺もー」


 見つけるのに何らかのスキルを使ってもいいなら手段はいくつか思いつくけど、スキルなしでの洞察力で見つけるのはサヤとハーレさんには敵いそうにない。

 というか、一度サヤとハーレさんのどっちの方が洞察力が上なのか試してみたいね。……どうやって試すのか、全然思いつかないけど。


「おー! ケイさん、それは面白そうなのです!」

「ケイ、手段を思いついたら教えてかな! そうしたらハーレ、勝負かな!」

「望むところなのさー!」

「……多分また声に出てたんだと思うけど、普通に会話に繋げるんだなー」


 うん、まぁこれも今まで何度もあった事だし、気にしない! ……思いっきり意識した時は声に出ないように出来てきている気もするけど、それでもちょっと気を抜くとこれだもんなー。

 はぁ、中々この癖を無くすのは大変みたいだよ。でも、少なからず改善の兆しはあるから、そこは頑張るのみだ!


「まぁとりあえずそれは考えとくけど……お、結構人が集まってるな!」


 移動を止めて少し高度を下げたアルのクジラの上から、妙に高い岩山の南側の岩壁の近くに人が多く集まっている。

 あ、このタイミングで獲物察知が切れたか。まぁ、もう目視は出来るし別に良いか。


「モンスターズ・サバイバルのみんながいるのさー!」

「あ、ほんとかな!」

「あそこで岩壁を斬り刻んでるのは、水月さんじゃねぇか?」

「トンネルを掘るのに切り出した岩を運んでるのは灰のサファリ同盟のみんなみたい?」

「あー! 多分、あれはラックなのさー!」

「地味にジェイさんもいるなー。でも斬雨さんの姿が見えない?」

「それなりにトンネルは掘れてるみたいだし、斬雨さんは見えないとこで岩山をくり抜いてんじゃねぇか?」

「あ、ジェイさんが掘ってる洞窟の奥に入っていったからそうかもなー」


 知っている人達だけでもそれくらいいるし、あんまり知らない赤の群集の人達も大雑把に切り崩した岩壁を整えていたりもする。

 その中にチラホラと無所属の人達も混ざってるし、今ここにいる無所属の人達は、交流が苦手って訳でもなさそうだね。……むしろ張り切って動きまくってるから、羅刹やイブキと同じような理由で無所属にいる人達かも?


「あ、トンネルから掘り出した岩や土を固めて、スロープみたいにしてるのです!」

「入り口の位置が少し高い気もしたけど、そう来たか!」

「なるほど、飛べなくても入っていけるようにか」


 ふむふむ、予想以上にスムーズな全勢力の共同作業になってるっぽい。……こりゃ人手不足の心配はいらなさそうだね。

 それにしても、これは冗談抜きでで便利な場所になりそうな予感だなー。しっかりと出入りがしやすいように考えられてるっぽい。


「あはは、これは夕方からのスクショの共同撮影会が楽しみかな?」

「んー、間に合うかどうかが少し心配だけどね?」

「それはみんなの頑張り次第なのさー!」

「ま、これだけのメンバーが揃ってりゃ大丈夫だろ」

「だなー! それじゃ様子は見れたし、改めてグラナータ灼熱洞に向けて出発!」

「「「「おー!」」」」


 アルは一時的に止まっていたものの、何もスキルは解除していなかったのでそのままスムーズに移動再開である。


「さてと、それじゃちょっと群集内交流板で狩りを切り上げる人がいないか見てくるわ」

「おう、任せたぞ、ケイ!」

「ほいよっと。サヤとヨッシさんとハーレさんは、それほど必要性はないと思うけど周囲の警戒を頼む!」

「任せてかな!」

「了解なのさー!」

「了解!」


 流石に今日2度目の野放しになってるフィールドボスがいるとも思えないけど、万が一って事もあるからね。

 何が起こるかは起こってみるまで分からないし、警戒はみんなに任せて情報収集は俺だけでやっておこうっと。という事で、久々に群集内交流板をチェックだな!


 イガグリ  : ザッタ平原で、Lv15付近のフィールドボスの連戦PTを募集中! 瘴気石持ち込み、成長体の持ち込み大歓迎! 詳細は取引コールでよろしく!


 蒼弦    : 最近、フィールドボスの連戦が増えてきたもんだな。

 カイン   : ま、今は何もない強化期間だしなー。

 葉桜    : それにしても今日の午前中は騒動が多かったもんだ。

 招き猫   : でもまぁ、何とか片付いて良かったよねー。反省してない連中が暴れてたのは面倒だったけどさー。


 ローズ   : そのような小物は気にしなくて良いのですわ!

 マヨネーズ : ま、風雷コンビとオオカミ組が鎮圧してくれたしなー。

 スライス  : とりあえず、17時からのスクショの撮影会が楽しみだ。

 葉桜    : スクショのコンテストの受付は今日で最後だし、最後に良いのが撮れればいいが……。


 ローズ   : 結果はどうなっても、楽しんだもの勝ちですわよ!

 マウンテン : そりゃ違いねぇな!

 セリア   : カイヨウ渓谷で、『烏合の衆の足掻き』の取得PTを募集中! まとめで必要上件を確認した上で、問題なく参加出来る方は取引コールを下さい!


 ふむふむ、チラホラと知ってる人もいれば、全然知らない人もいるなー。そして雑談をしている合間に募集の呼びかけもあるけど、目的のグラナータ灼熱洞に関する話はないか。

 うーん、そこまで都合よく空きが出るとは限らないけど、到着するまではチェックしていこうっと。少し目を離した隙に、狙っている情報が出てくるかもしれないしね。




 それからしばらくの間、群集内交流板を眺めていたけどもグラナータ灼熱洞で狩りを切り上げるという情報は1つもなかった。……まぁ、これは完全に運だから仕方ないけどなー。


「ケイ、到着したけどそっちはどうだ?」

「あ、もう到着か!」


 どうやら俺が群集内交流板を確認している間にグラナータ灼熱洞の入り口に到着して、アルも地面に降りているようだ。


 周囲を見回してみれば、各群集のPTが何PTかいるっぽい。……ふむ、これから中に入る為に適応をしているPTもいれば、狩りを終えてこれからの予定を話し合ってるPTもいる。

 その狩りを終えてきたPTに戦ってた場所が空いてないか聞いてみるのも……あ、他のPTに先を越された!? でも、既に譲ってきたらしくて撃沈だったみたいだね。


「おーい、ケイ?」

「あ、悪い! 残念ながら、俺の方は収穫はなしだなー」

「あぅ、残念なのです……」

「それじゃ普通に空いてる場所を探すしかないかな?」

「うん、それしかないね」


 空きが出来て交代する状況にならなかった以上はそうするしかないもんな。まぁ午前中は中の探索はろくに出来なかったから、探索しつつ空いてる場所を探していけばいいか。


「あ、そうだ。可能だったらで良いんだけど、ハーレさんが一度入った間欠泉の部分になる場所に行ってみたいんだけど」

「……ふむ、ただ闇雲に適当に彷徨きながら空き場所を探すよりはそれが良いかもな」

「ハーレが一度行ってる場所だから、マップには表示されてるよね?」

「表示はされてるけど、途中の経路がどうなってるかは分かんないよー!?」

「あはは、まぁそれでも良いんじゃないかな? それはそれで楽しそうだよ?」

「はっ、確かにそうなのです! フェニックスには要注意だけど、色々スクショも撮りたいのさー!」


 ま、明確な目的地が決まってないし、入ったらすぐに3方向に分かれてるんだ。ある程度、向かう先の設定をしておいた方が気分よく進めるはず!

 もしどこも空いてなかったとしても、間欠泉に関する部分を見れたらそれなりに満足は出来そうだしなー! そもそもこっちから行かないとアルは辿り着けない場所だしね。


「おし、それじゃ適応したらその方向性で探索していくぞー!」

「「「「おー!」」」」


 さーて、まずはグラナータ灼熱洞の中に入る為に適応をしていこう! もし可能であれば、途中で会ったPTに余ってるマグマ適応の特性の実貰えたらありがたいけどね。

 それじゃLv上げ、昼の部を頑張っていきますか! 空いてる場所があれば良いんだけどね。

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