第902話 思わぬ遭遇
午後からのLv上げという事で再び封熱の霊峰へやってきた。今は発火草の群生地の様子を……正確にはそこにいる無所属の人の様子を見る為に移動中。
そして、その移動中にサヤとハーレさんとヨッシさんによる、敵が突っ込んできた場合に誰が1番先に攻撃を当てるかという勝負をしている。……まぁ敵が出てくるかは運次第なとこはあるけどね。
「ケイ、敵はいるか?」
「んー、あちこちにいるにはいるんだけど、俺らの進行方向にはいないんだよなー」
獲物察知で確認してはいるんだけど、ちょうど良い場所にはいないっぽい。もっと地上に近付けば進行方向にもいるんだけど、赤の群集のPTが戦ってるとこもあるし、単純に岩壁のすぐ側でアルに乗ったままだと通れない場所だったりするんだよね。
まぁ少し速度を落としたとはいえそれなりの速度での移動中だし、その移動経路にそう都合良く敵は見つからない――
「って、あれ!? 獲物察知の矢印が全部消えた!?」
「……なんだと? ケイ、時間切れじゃないのか?」
「まだそれなりに残ってたからそれはない!」
今の感じだと色に関係なく獲物察知そのものの効果を打ち消されたみたいだし、やっぱり何かそういうスキルがありそうだな。……これ、近くにそれを実行したプレイヤーがいる?
もしくはそういう応用スキルを持った敵が……フィールドボスか、あんまり考えたくはないけど成熟体がいる?
「「あっ!」」
「どうしたの、ハーレ、サヤ?」
「今、そこの岩場から見えない小さな何かが跳んだかな!」
「それが、多分だけどアルさんの真正面に来てるのさー!」
「……あはは、良く気付くね、2人とも。でも、今それを言っていいの?」
「多分、海水に当たって擬態は解除になるから問題ないのさー!」
「流石に直前まで敵を確認出来ないのはヨッシが不利過ぎかな!」
「そういう事なら、遠慮はいらないね! サヤ、ハーレ、勝負!」
ヨッシさんが一番操作が上手いから有利かと思ってたけど、根本的にサヤとハーレさんの方が敵の発見が早かったよ。しかもこのタイミングで擬態持ちの敵とはね。
「ん? げっ、周囲を確認してなかった!?」
あれ? ちょっと待って、アルの前から聞き覚えのある声がしたんだけど!? この声って、ライさんなんじゃ!?
「おわっ!? って、アルマースさんじゃ――」
「わー!? ライさんなのさー!?」
「あ、待ってかな!」
「なんでこのタイミングでライさんが!?」
「って、ぎゃー!?」
あ、既にサヤもハーレさんもヨッシさんも臨戦態勢に入ってたから、アルの海水に当たって擬態が解除になったライさんに向けて3人のそれぞれの操作で攻撃をして、それが直撃した。……うん、早さを競ってたから、タイミングが悪すぎたな。
勝負の結果として一番早かったのはヨッシさん、その次がハーレさん、最後にサヤだったけど……そんなことを考えてる場合じゃないな! 思いっきりライさんのHPが削れてるし、麻痺が入ってんじゃん!
「アル、ストップ!」
「分かってる!」
流石にあの状態でライさんを地面に落下させるのはマズい! 完全に事故とはいえ、こんな形で知り合いと倒したとかは勘弁だぞ!
「ケイ!?」
あ、ヤバッ! アルの急停止で俺まで落ちそうじゃん!? くっ、今回は固定してなかったからそれが仇になったか。
ともかく落ちかけてるライさんと一緒に俺自身も落ちないように大急ぎで対処しないと! サヤ達は……問題なさそうだな。
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 76/82: 魔力値 221/224
<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します> 行動値 73/82
よし、可能な限り大規模に水を生成して、俺とライさんの両方が落ちない部分に反発力を強めにして水のマットを生成! よし、間に合った!
「ふぅ、何とかセーフ!」
「し、痺れて……動けん……」
「……ドンマイ、ライさん」
「とりあえず……助かった……」
いや、別に痺れてても普通に喋れはするはずだけど、ライさん、この状況でちょっと遊んでない?
あれ? そういえば獲物察知の矢印が復活してる? ……もしかして、さっき獲物察知の矢印が消えたのってライさんの仕業かー!?
「おーい、ケイ! 大丈夫か!?」
「ライさんは死んでないし、俺も大丈夫だ!」
「ライさん、ごめんなさいなのさ!」
「まさかライさんだとは思わなかったかな……? ごめんなさい!」
「悪気はなかったんだけど、ライさん、ごめんなさい!」
「あー、いや、今のは俺の不注意だから問題ねぇぜ! ……それにしても、この麻痺は強力!?」
うん、まぁ麻痺になったのは多分ヨッシさんの電気魔法だしね。……ライさんには電気魔法による麻痺が有効だと覚えておこうっと。
「アル、とりあえずそっちにライさんを連れて戻る! ライさんの回復を頼んだ!」
「おう、任せとけ! って、そうなると一度降りた方がいいな」
「あ、それもそうか」
麻痺したままのライさんを回復させるのならアルのスキルの使用が必要だし、色々と話も聞きたいとこだから、一度地面に降りるべきだな。
よし、アルが地面に向かって降りていってるし、俺もライさんを連れて降りていこう。そこからアルのクジラに戻ればいいや。
「おぉ、そりゃ助かる! いやー、無所属のとこに回復アイテムの輸送を頼まれてたのに自分で使う訳にもいかんしな! 大量に持っていきたかったから、自前のは預けて来ちまって!」
「あー、なるほどね」
そういや発火草の群生地で無所属が回復アイテムも取り扱うって言ってたもんな。それを輸送中だったのがライさんだった訳か。
ふむふむ、とりあえず事情は何となく分かった。さて、それじゃもう1つの気になる件を聞いてみようか。まぁ普通に聞いて教えてくれるか分からないから、ここはカマをかけてみようっと。
「で、獲物察知を応用スキルまで使って妨害してた理由は?」
「あー、ここって爬虫類系の種族だと、獲物察知系のスキルを使うタカとかトンビに狙われやすかったりするもんでな! ちょいちょい看破も使ってくるし、それ対策だ!」
「なるほど、そういう理由か! てか、やっぱりあるのか、獲物察知を妨害する応用スキル!」
「……え? もしかして、灰の群集にその情報はなかったり……?」
「ありがとな、ライさん!」
「謀られたー!?」
よし、見事に引っ掛かってくれて情報ゲット! スキル名は分からないけど、応用スキルである事と、獲物察知系のスキルって言ってたから鷹の目もか。あれらを完全に無効化する事が出来るのも確定。てか、ここって敵が看破を使ってくるのか。
ついでに、このスキルは相当効果が強い分だけ被弾したら解除になるっぽい。うん、貴重な情報を入手っと。……看破でも解除出来そうだし、広範囲に砂の操作や氷雪の操作とかが有効そうだね。
「まぁいっか。どうせレナさんには知られてたしなー」
「……ん? レナさんは知ってたんだ?」
「そういう条件で手伝ったからな、午前中のあの件」
「……はい?」
「お、その反応は、未だに気付いてなかったって感じだな!」
えーと、とりあえずアルのクジラは地面に降りて、俺はライさんを連れてクジラの背中の上には戻って、水のマットは解除っと。
それはそうとして……ライさんは何を言っている? 午前中のあの件って……え? 今こうしてライさんが発火草の群生地に向かっているって事は、少なからずライさんはあの騒動に関係している?
「え、どういう事かな?」
「ライさん、どういう事ー!?」
「お、サヤさん、ハーレさん、今はいつも通りみたいで安心したぜ! いやー、小型化してレナさんの肩にずーっと乗ってたのに、2人とも全然気付かないんだから心配はしてたんだぞ!」
「「えぇ!?」」
「……もしかしてライさん、レナさんとずっと一緒にいたの?」
「ヨッシさん、大正解だ!」
「……マジかよ」
「おう、大マジだぜ、アルマースさん!」
うっわ、思いもよらないとこからの新情報が出てきた!? 俺ら全員あの時は冷静だったとは言えないけど、まさかレナさんに肩にずっと小型化したライさんがいたとか想像出来んわ!
「……あー、もしかしてさっきの獲物察知の妨害のスキル、あの時も使ってた?」
「おうよ! あのカガミモチって奴、2ndにタカを持ってたらしいのに、いつからかそっちの目撃情報が無くなってたらしくてよ。合成進化か融合進化を警戒して、ちょっと前に鷹の目封じの手段を探してたレナさんに相談されてな!」
「……それで擬態を常用してるライさんに白羽の矢が立った?」
「ま、今日はたまたま近くにいたってのもあるがな! いやー、取得して間もない頃に狙いすましたかのように聞かれて焦ったけど、レナっぽくない必死さと他言無用って条件で、行ける場所なら協力するって事になってたんだよ! 俺、ウィルとは知らない仲じゃないしな!」
「あー、なるほど、そういう感じか」
そっか、ライさんが俺らに声をかけてこなかったのはライさん自身があそこにいるのを、妨害の為にいる事を知られたくなかったからか。そしてウィルさんの事もあったから……。
あー、しまったな。そういう事情を聞いてしまうと……その場に関わっていた身としては、カマをかけて得た情報として群集への開示は出来ないぞ。
「みんな、悪いんだけど、さっき俺がカマをかけて得た情報は他言無用で頼む……」
「ま、そういう事情じゃ仕方ねぇな」
「群集のみんなには申し訳ないけど、賛成かな」
「同じくなのさー!」
「まぁ、そういう理由なら言えないよね」
あ、良かった。みんなもその辺は同じ心境みたいで、群集の報告に上げる気は全く無さそうだね。
流石にレナさんがそこまでして協力を頼んでいたのに、関係していた俺らがそれを報告する気にはなれないよなー。
「お、それなら助かるわ! そんじゃ俺も気になる部分があるから聞きたいんだが、ケイさんがさっきカマをかけたのって何でだ? これってある程度変動が可能な効果範囲があるんだが、その範囲内の矢印を非表示にするってだけで、獲物察知そのものを問答無用で全て消す訳じゃねぇぜ?」
「……そうなのか? え、でもさっき獲物察知を使ってたけど全部消えたぞ? 多分、発火草の群生地でも……」
「あー、そういう事か! それならさっきのはケイさんが効果範囲内に入っちまってたからだろうな! 発火草の群生地ではあれだ! 近付いてる無所属勢の全員を表示しないように範囲指定してたからだな!」
「……なるほど」
ふむふむ、それなら近付いてきている無所属勢の姿が獲物察知に表示されなかった理由にはなるんだな。
元々、PTメンバーや視認出来ているプレイヤーには矢印は邪魔なだけだから表示はされていないしね。黒い矢印は近くでも表示されるけど。
そうやってライさんが獲物察知から非表示にしてる間に、俺の獲物察知は時間切れになってたってとこか。なるほど、色々と謎だったけど、これで納得。
「とりあえずライさん、回復しとくぜ。『果実生成』『枝の操作』!」
「おっ、ありがとよ、アルマースさん! さーて、麻痺も解けたし、俺は運送に戻るか!」
「それなら俺らも発火草の群生地の様子は見に行くつもりだから、一緒に乗っていくか?」
「お、アルマースさん、そりゃありがたい提案だ! でも、ケイさん達はそれでいいのか?」
「俺は特に問題ないぞー!」
「同じくなのさー! というか、思いっきり攻撃してしまったお詫びをさせてください!」
「断る理由も特にないし、ハーレに同意かな」
「まぁ私達も盛大に攻撃しちゃったしね」
あ、思いっきりライさんに次々と攻撃を叩き込んだ事は気にしてるんだ。まぁあれは完全に事故とはいえ、撃ち落とすとこだったんだから気にはするか。
「ありゃ完全に移動速度を優先して、周囲の確認を怠った俺が原因なんだが……まぁ送ってもらえるので気が済むならそれでチャラって事でいいぜ!」
「まぁ、実際に送るのは俺だが、ここは共同体の連帯責任ってとこか」
「その辺の判断は任せる! ところで、元々攻撃の用意をしてたっぽいが、何をやってたんだ?」
あ、そういえばライさんは俺らが何をしてたかは知らないのか。まぁ知る訳がないのは当然だけど、そこに説明はしといた方が良いよな。
「移動中に遭遇した敵に、操作系スキルを誰が一番先に当てるかの勝負をしていたのです!」
「そこにやってきたのが、ライさんだったって感じかな?」
「私とサヤとハーレの3人でやってたんだけど、いつでも攻撃出来る準備をしてたから、ライさんって気付いた時には遅くてね……」
「あー、そりゃ俺も悪い事をした気がすんなー。あー、そういう事なら確か着弾順は……電気の球が3発が1番で、次が風の球の2発で、最後は電気の球が1発だったはずだぜ!」
お、あの状況でライさんはどれがどういう順番で直撃したのかはちゃんと把握してたんだ。……ふむ、ライさんの咄嗟の把握能力も高めだな。
「それなら私が1番だね」
「私が2番なのさー!」
「……私が負けかな!」
「お、そういう結果だったんだな! それにしても移動中に面白い事を考えるもんだな。今度PTで動く時にでもやってみるか」
なんというか事故とはいえ、倒されかけた割にアッサリとしたライさんの反応のおかげで、険悪な雰囲気にならなくて済んだよな。
というか、なんだかライさんは事故慣れしてる気もするのは気のせい? いや、絶対にこれは事故慣れしてるよな。相変わらずの擬態の常用っぽいし。
「おし、ライさんも発火草の群生地までは同行するって事でいいか。『略:高速遊泳』『並列制御』『シーウォータークリエイト』『アクアクリエイト』『並列制御』『海水の操作』『水の操作』! それじゃ出発するぞ! 」
「「「「おー!」」」」
「いやー、乗せていってもらえるのは楽だねぇー!」
そうして少しの間ではあるけども、ライさんを乗せて発火草の群生地への移動を再開だね。ライさんを事故で仕留めかけたのは焦ったけど、何とか無事でよかった、よかった。
こうして赤の群集のライさんが回復アイテムの運送をしているのなら、赤の群集に戻れた反省していた無所属勢……いや、今は元無所属勢と言うべきか。その人達が手伝ってる可能性もありそうだね。
ま、その辺については辿り着いてみれば分かる事だよな。さーて、どうなってるものか?
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