第899話 ケイの弟子


 ケインとの模擬戦を手早く終えて、アル達のいる桜花さんの所まで戻ってきた。一緒にケインが来ているのが地味に面倒だったけど!

 ぶっちゃけ、水のカーペットで振り切ろうとした。だけど、距離が短過ぎたのもあるけど普通に操作が上手くて振り切れなかったんだよ、こいつ!


 よし、桜花さんの樹洞まで辿りついた! ここならケインと同じ共同体のプロメテウスさん達がいるから、さっさと回収していってもらおう! 


「ケイのアニキ、再戦してくれー!」

「断るって言ってるだろ、いい加減しつこいわ!」

「あー、何がどうなってんだ、ケイさん?」


 不思議そうに桜花さんが聞いてくるけど、そりゃそうだよねー!? 俺だってなんでこんな状況になってるのか、正直よく分からん!


「なぜか俺への敵意やライバル心が、尊敬に変わったっぽい!」

「……あはは、断片的にPT会話で聞こえてた内容ってそういう感じなのかな?」

「はい、ストップ! ケインさん、どういう事かなー?」

「おぉ、レナさんか! レナさんにも今回は感謝してもしたりない! ありがとうございました!」

「およ!? え、本当に少しの間に何があったの!?」

「これからはレナの姉御って呼ばせてください!」

「却下! それは却下! わたしはそんな呼ばれ方は認めないよ! ケイさん、これってどうなってるのー!?」

「俺が知りたいくらいだよ!?」


 レナさんにまで俺と同じように飛び火したけど、これって俺のせいじゃないよね!? あー、でも今回の件でレナさんに助力を求めたのは俺だった……。すまん、レナさん!

 でも、こんな変貌っぷりは……そういやアーサーの時にあったっけ。あの時は水月さんが保護者だったし、今回の保護者枠ー! そうだ、プロメテウスさんに後始末を押し付けに来たんだった!


「プロメテウスさん、こいつどうにかしてくれ!」

「おい、ケイン! ケイさんに迷惑かけんな! そもそもお礼や謝罪は――」

「それならしたぜ! だからこそ、俺はケイのアニキを目標にすると決めた!」

「あー、別の方向性で面倒くさい事になった気がする……。まぁ今までに比べりゃ害はないし……」


 おーい!? そこでプロメテウスさんが呆れて、諦め始めてどうする! 保護者、なんとかしろー!


「プロメテウスさん、俺に思いっきり害が出てるから!? こいつを止めてくれ!」

「そうですよ! 元々因縁をつけてきてたはずなのに、なんでそうなるんですか!?」


 ん? この声はフーリエさんだけど……あれ、もしかしてここに居るって事はさっきの模擬戦を見にきてた? まぁ俺の弟子になってるフーリエさんなら、時間が合いさえすれば見にきても何の不思議でもないか。

 いや、だからってそこでフーリエさんが口を挟むとフーリエさんにまで変に飛び火しかねない! ここはフーリエさんの師匠になったんだし、俺が抑えておかないと……。


「フーリエさ――」

「ケイ、待ったかな」

「……サヤ? なんで止める?」

「フーリエさんに頼まれてたかな。対戦が終わってケイ達がここにきたら、理不尽な因縁をつけてきた相手に一言言ってやるんだって」

「フーリエさんとしては、ケインの八つ当たりが気に入らなかったんだとよ」

「自分に親切にしてくれた人に、身勝手な理由でこんな大々的な騒動にさせたのを謝らせるんだってさ」

「……あ、そうなのか」


 そっか、フーリエさんは俺への八つ当たりから始まった今回の模擬戦の件で、ケインに対して腹を立てているんだな。……なんというか、少し心が暖まった感じがする。

 それにしてもPT会話でそんな内容の話は一切聞こえてなかったから、模擬戦の最中に話してたんだろうな。


「さぁ、場外乱闘へと突入し、今度はケイさんの愛弟子であるフーリエさんと、何故かケイさんの事をアニキ呼びへと変えてやってきたケインが睨み合っていくー!」

「え、ハーレ!? これを実況するの!?」

「そこで困惑するのは、姉御と呼ばれそうになっているレナさんだー! 紅焔さん、この状況をどう見ますか!?」

「カオスだなとしか思えねぇよ!?」

「ですよねー!? 正直、私も混乱しているのです!」

「混乱しながら実況しなくていいから! ハーレはとりあえず、サヤさんとヨッシさんの方へ行く!」

「はーい!」


 ハーレさん、レナさんも言ってたけど、混乱したからって無茶な実況はしなくていいからなー。……さて、この状況はどうやって収めればいいんだろ?

 てか、まずはフーリエさんとケインが睨み合ってるのを何とか止めないと……。


「ケイのアニキの愛弟子だと……? お前がか?」

「そうですよ、ケイさんから正式に弟子にしてもらいましたからね。そもそもあなたはなんなんですか? 聞きましたよ、ケイさんに八つ当たりだって言って突っかかったそうじゃないですか!」

「それは今は関係ないだろ! その件は謝ったぜ!?」

「謝ってそれで全てが『はい、そうですか』で済むんですか!? ケイさんとケインさんを間違えた人が全員謝りもしなかったとは思えないんですけど、その辺はどうなんです?」

「……全員じゃないけど、謝った奴もそりゃ……」

「もの凄い不服そうですね。それでケインさん自身はその人達は許したんですか?」

「間違って勧誘しといて、乗りかけたら『間違ってた、すまん』なんて、謝ったからって許せるか! ……あっ」

「そういう事ですよ! あなたが謝ろうが、最終的に許すかどうかを決めるのはケイさんなんです! それなのにケイさんが迷惑そうにしてるのに、アニキ呼びなんて、弟子の僕が許しませんからね!」

「うぐっ、確かにそれは……」


 おぉ、フーリエさんが思いっきりケインを言い負かしている! 許す許さないで言うなら一応許す方にはなってるんだけど、まぁケインにアニキ呼びをされたくないのはその辺の悪印象が強いってのはあるからなぁ……。

 今回の模擬戦だって、ウィルさんを連れてきてくれた件で帳消しにしただけだし、個人的にケインと親しくしたいかといえば、迷う余地なくお断り。


「レナさんに対してのさっきの発言もそうですよ! 人違いが発生するのを解消する為に動いてくれたのに、レナさんが嫌がる呼び名にして恩を仇で返す気なんですか?」

「い、いや、そんなつもりは欠片も……俺は、良かれと思って……」

「良かれと思ってじゃないですよ! レナさん、嫌がってたじゃないですか! 自分の基準が、誰もが喜ぶと思わないで下さいよ! 今回の件、どれだけの人が手を貸してくれてると思ってるんですか!? その結果がこんな恥さらしみたいな真似はやめて下さい!」

「…………」


 あ、遂にケインは反論出来なくなったみたいで、沈黙した。うん、まぁ確かに今回の件は大勢の人達が関わっているもんな。

 それこそ俺によく似た構成のプレイヤーがいると広める為に、他の群集にも見えるように中継もした。……それがやらなきゃ良かったと思うような結果だと、フーリエさんは言っている。


「ケイン、何か反論はあるか?」

「……ねぇよ、プロメテウス」

「だったら、今度こそ言う事は分かってるな?」

「ここまで言われて分かってなけりゃ、恥の上塗りじゃねぇか……」


 そう言いながら、ケインは俺の方を向いてきた。あー、これは事態が解決しそうな流れ……? いくらなんでもここから悪化してくる事はないはず。……悪化したら本当にどうしようもなさ過ぎるぞ。

 あ、ザリガニの両方のハサミを樹洞の床につけて、頭を下げている。……雰囲気的にこれは土下座か。


「ケイさん、午前中の事といい、さっきの事といい、本当にすまなかった! 言い負かされて気付く有様で、許してくれなんて言えねぇ……。だけど、これは言わせてくれ! 今回の件、本当に感謝してる!」

「あー、今度はその謝罪も、礼もちゃんと受け取っとく。だけど、礼に関しては俺だけじゃないからな」

「……分かってる。いや、さっきまでは何も分かっちゃいなかったのにこれは言ったら駄目か。レナさん、それに他に協力してくれた人達、本当にありがとう!」

「んー、まぁフーリエさんに免じて、受け取っときましょうかねー。みんな、今ここで見た事は口外禁止でお願いねー!」

「助かる、レナさん」

「プロメテウスさん、今回はおまけだからねー? ケインさん、流石に次はないから」

「……あぁ、分かった」

 

 おぉ、レナさんのその最後の一言は時々出る怖い感じの声だった。おー、怖っ! でも、とりあえず今回はこれで終わりってとこか。


「おら、行くぞ、ケイン。お前らも!」

「お、おう!」


 そうしてプロメテウスさん達の共同体は、桜花さんの樹洞から揃って出ていった。はぁ、なんとかなったー!

 てか、今回は完全にフーリエさんに助けられたな。あー、本気で一時はどうなる事かと思ったよ……。


「フーリエさん、ありがとな」

「いえ、僕に出来る事なんて大してないですし、僕が納得する為にやった事なんでケイさんは気にしないで下さい!」

「それでもありがとな!」

「は、はい!」


 フーリエさんはそんな風に言ってるけど、誰か他の人の為に怒れるって早々出来る事でもないからね。今回は俺の件で怒ってくれたんだし、俺がフーリエさんに言うべき事はこれでいい。


「とりあえず一件落着かな?」

「一時はどうなるかと思ったぞ……」

「フーリエさん、ナイスなのです!」

「うん、今のは中々出来ることじゃないよね」


 うんうん、それはまさしくハーレさんやヨッシさんの言う通り! 他に集まってる人達も思いっきり頷いているし、みんなそう思うよな。


「よーし、事態を収拾したフーリエさんには、わたしから報酬をあげようじゃないかー! んー、これから色々と使う機会もあるだろうから、瘴気石辺りが良いかな?」

「お、そりゃいいな。俺も乗ったぜ、レナさん!」

「ディールが乗るなら、『飛翔連隊』からも出すぜ!」

「良いもん見たし、俺もだ!」

「え、えっ!?」


 あ、この流れなら俺達からも瘴気石を出そうかな? フーリエさんのおかげで事態の悪化を防げて丸く収まったんだし、ケインも完全に反省したっぽいから今後の心配も必要なさそう。

 うん、みんなを見てみれば頷いてくれてるし、俺らからも瘴気石を――


「おっと、グリーズ・リベルテは出すんじゃねぇぞ! お前らは巻き込まれた側だからな!」

「そうだよー! はい、私も1個提供っと!」

「ま、色々ケインって奴の気持ちも分からなくはないが、八つ当たりとか、相手の都合無視はなー。ほれ、俺も1個提供だ!」

「災難だったな、コケの人! 俺は2個いくかー!」

「あ、それはややこしくなるから1人1個までにしとこうぜ。ま、ケインはケインで災難だったんだろうがなー」

「……そりゃそう思ったらから協力してたんだが、さっきのはなぁ。ほれっ」

「あれは流石になぁ……。ほいよっと」


 あらま、俺らには出すなときたか。それにしても次々と瘴気石が積み上がっていくね。みんなもあのケインの様子については、流石に思うところはあったらしい。フーリエさんが経緯を知ってたし、その辺については多分実況の中で話してたんだろう。

 結果としてはフーリエさんが、みんなの不満に思った部分を代弁した形になったのかもね。だからこその今の状況か。


 ふぅ、多分フーリエさんの性格的にこの後で素直に受け取るとも思えないし、そこで後押ししますかね。


「桜花さん、ここでみんなが提供したのを、いくつか強化済みのとトレードはお願い出来る?」

「おう、そこは任しとけ! フーリエさんはまだそうLvは高くはなかったから、少し控えめの強化具合のを複数って形にしとくか」


 お、流石は商人プレイの桜花さん。しっかりと強化度合いの違う瘴気石の在庫もしっかり揃っているっぽいね。

 あ、そういや桜花さんの樹洞に戻ってきた時には纏瘴は解除になってたのか。その辺を気にする余裕が無かったから、解除になってたのは今気付いたよ。


「えぇ!? 僕は受け取れませんよ、皆さん!?」

「フーリエさん、これはみんなの気持ちだし、受け取っとけ」

「ケイさん!? でも、僕はこういう風に何かを貰うつもりなんて欠片も無かったですよ!?」

「だからこそだよ。下心がないからこそ、言葉が通じたんだし、みんなもこうやって動いてるんだ」

「……そういうものですか?」

「そういうもんだ。それにこういうのは受け取りを断られる方が、あげようとした側としては複雑な心境になるからなー」


 お、みんなが頷いてるね。うんうん、変に拒み続けられて渡せなくなったとしても、その後に回収していくのはなんとなく気まずいからねー。


「どうしても気になるなら、パーっとPTで使ってくれていいからねー! ほら、成熟体への進化が近いわたし達から、フーリエさん達のLv帯への支援って事でね!」

「おう、レナさんの言う通りだ! それを使ってLvを上げて、戦力の底上げをしてこいよ!」

「その度胸、期待してるぜ!」

「そうそう、自分だけってのが気になるならそれでも良いからね!」

「……はい、分かりました! それじゃこの瘴気石は、PTを組んでフィールドボス戦でLvを上げる時に使わせて貰います!」

「よしきた! おらよ、フーリエさん!」

「桜花さん、ありがとうございます! 皆さんもありがとうございます! 無駄にならないよう、しっかり使わせてもらいます!」


 うん、フーリエさん、それで良い! よし、これでとりあえずこの件は完全に片付いたな!


 あ、そういえば風雷コンビと十六夜さんの参加しているトーナメント戦ってどうなってるんだろ? いや、そもそも見るかどうかの前に、みんなに見ていっても良いものかを確認するのが先かー。

 Lv上げは絶対にしておきたいからトーナメント戦を全部見ていくのは厳しいし、せめて決勝……いや、十六夜さんがいるから未知数なんだよなー。だからこそ気になるんだけど……。とりあえずみんなと相談かなー。

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