第898話 ケイとケインの対決


 もう待ち切れないと言わんばかりのケインからの模擬戦のとりあえず了承をして、エンの樹洞の中にやってきた。そこで対戦の項目の設定中である。


「おい、対戦エリアはどうすんよ!? なぁ、どこがいいと思う!? あれか、ロブスターとザリガニの対決なら水中か!? いや、でも俺は海水は無理だから、それ以外のとこでだな! 湖はどうだ!? あ、淡水はいけんのか!?」

「いや、俺は淡水は大丈夫――」

「お、マジか! それなら湖で……いや、お互いにコケもあるんだからここは森林対決ってのも捨てがたい!」

「……それならもう、海以外でランダムでいいんじゃね?」

「よし、それだ! 陸地でランダムだ、そうしよう!」


 え、何このケインのハイテンション……。こいつ、もしかして俺との対戦が実現した事で、俺に何を言ったか忘れてないか……?

 後からライバル宣言はしてきてたけど、その前に八つ当たりだと堂々と宣言して、その撤回をしてないのを理解してる……?


「次は天候だよな! こっちはどうする!? 一騎打ちならあえて悪天候の中で、因縁の対決って感じでよ! あ、でも晴れでも曇りでもいけるよな!」

「……そこもランダムでいいよ」

「おぉ、それもそうだな! こういう演出は運に任せようぜ! よし、次だ次!」


 駄目だ、どうもこの妙なハイテンションは苦手……。なんというか鬱陶しい時のフラムの様子がチラつく。もしくは初対面の時のイブキ……。


「アイテムの使用は無しだよな! 模擬戦でそんな無粋なもんは必要ねぇ!」

「あー、そうだなー」

「だよな! よし、それで決定だ! 次は中継の設定だな!」

「……中継は今回は全群集でやるからなー」

「おうよ! いやー、こんな手があるとは思わなかったぜ! がっはっはっ!」


 おーい、そこで尽力している俺や大々的に動いてくれてるレナさん達へのお礼の言葉は出てこないのかー? 俺が今回模擬戦を受けてる理由も、他のみんながどういう動きをしているのか自体は把握してるよなー!?


「実況はあれだな! 中継を見てる時は良いけど、模擬戦中は邪魔だからオフだな!」

「……だなー」


 とりあえず今回は陸地でランダム、天候もランダム、アイテムの使用はなし、中継は全群集を対象、外部からの音声はなしになったか。

 もう、なんか、設定をしてるだけで気分的に疲れてしまってるんだけど……。うん、一刻も早く終わらせたい。


 でもケインの戦い方次第ではあるけど、今回は目的が目的だから中継は全群集が対象だし、可能な限りで手札は温存はしといた方がいいんだよなー。……めんどくさ!


 それにしても……構成が似ている云々での何か言ってきたのは関係なく、単純にケインの事が苦手かもしれない。

 まだ八つ当たり発言に対しての謝罪がないというのも原因の一つなんだろうけど、シンプルにちょっとうるさくて鬱陶しいのが……。


「おーし、これで設定完了だな!」

「……さーて、始めるかー」

「なんかケイさんのテンションがどんどん下がっているのです!?」

「なんつーか、ケイ、出ていった時よりどんどんやる気がなくなってねぇか?」

「もうケイとケインさんの似た構成の2人がいる情報は広まってきてるから、目的自体は達成してるからかな?」

「……あはは、確かにそれはありそうだね」


 とりあえず今自分のテンションが低い自覚はあるけど、テンションが上がりそうにないからどうしようもないって感じだな。みんなにはケインのこの妙なテンションが伝わってないから、俺のテンションが下がっている理由は伝わりにくいかー。

 あー、早くLv上げに行きたい! もしくは風雷コンビと十六夜さんが出てるトーナメント戦を見に行きたい!


 サヤの言うようにもう一番の目的を果たしてるし、エリア次第では速攻で終わらしても良いよね? 背中のコケ狙いで瞬殺……って、ケインは共生進化だったっけ。ん? でも名前はログイン側の表記が出るし、ログイン側を潰せば普通に勝ちか。


 ケインの名前に2ndの表記は出てないし、俺と被っていたんだから1stはコケで確定。なんだ、結局コケを殺せば俺の勝ちじゃん。

 よし、それでいこう。瞬殺で終わらせる手段もあるにはあるから、後はそれをどうにか実行に移せるように動こうか。


「ハーレさん、開始するからそっちの準備をよろしくー」

「あ、ケイさん、待ったなのです! やっぱレナさんが2時までは待ってってさー!」

「……マジで? マジで!?」

「あぅ、2回聞かれて、マジなのです!」


 うわっ、マジで? 多少時間は経って、2時まではあと10分ってとこだけど、この状況で10分待たないといけないのか……。

 あー、大々的に宣伝しちゃってるからやっぱり時間の前倒しは出来なかったか。エンの前でうるさかったのは現状では解消しちゃってるし……。


「あー、ケイン。とりあえず2時まではこのまま待機だ……」

「なんでだよ!? 揃ってんだからもうやろうぜ!」

「……はぁ」

「なんかさっきからそんな調子だけど、やる気があんのか!?」

「……殺る気ならしっかりあるから心配すんな。今回のは色々やってる都合で前倒しが出来ないから、2時までは待ってくれ……」

「お、そういやそうか! なら仕方ないか!」


 うん、速攻で殺す気ではいるから、間違ってはない。というか、今の微妙な言い方の違いはみんなだと普通に勘付くけど、ケインは気付きもしないんだなー。

 そもそも誰の為にこの前倒し出来ない状況になっていると思ってんだよ!? あー、もう絶対に瞬殺してやる。


「……ケイ、速攻で終わらせる気かな?」

「……今のやる気は殺すの殺る気だったよね?」

「間違いなくそっちの方の意味だろうな」

「さぁ、ケイ選手! なんだか模擬戦の開始前からウンザリしており、ケイン選手を瞬殺を目論んでいるようですが、果たしてこの対決はどうなるのかー! 模擬戦は2時より開始となりますので、皆様もうしばらくお待ちください!」


 あ、やっぱりみんなは普通に気付いてるし、思いっきりハーレさんはその状況で実況を既に開始しているよ。まぁ事実、その通りだし、別に問題はないけどね。

 まぁレナさんの力を借りて人違い問題は出来る限りの範囲の対策はしたし、その一環としてこの模擬戦は受けたけど、今後はライバル視されていたとしても対戦を断ればいい。……逃げたと言わせない為にも、今回は全力を持ってぶっ殺しておこう。


「っ!? おぉ、武者振るいがしたぜ!」


 そこの殺気には気付くんかい! もっと他の事に気付け! 色々とお前は気付かないまま迷惑をかけてる事を自覚しろー!



 そんな風にちょっとイライラとしながら2時になるまで待機をしておく。その間にハーレさんが実況で、今までの事の顛末を説明していたようだね。PT会話で聞こえてるだけだからレナさんと紅焔さんの声は聞こえなくて断片的ではあったけども。

 さて、ようやく2時がきた。……ソワソワ、ソワソワとケインが地味に鬱陶しかった!


「ケイさん、2時になったから開始なのさー! さぁ、コケを背負ったロブスターとザリガニの大喧嘩、これより開幕です!」

「そんじゃ始めるぞー」

「おっしゃ、対戦開始だ!」


 とりあえずエンの樹洞の中にある光の中へと進んでいく。これで模擬戦の対戦エリアに行くけど、エリアと天候と昼夜はどうなったかな?


<『模擬戦エリア:草原』へと移動しました。模擬戦の開始のカウントダウンを開始します>


 なるほど、夜で雨の草原になったんだな。エリア自体は見通しが良いけど、天候と夜で環境自体は悪いな。

 月明かりもないし、こりゃ初手で夜目か暗視が必要っぽい。……へぇ、こりゃいいや。


「うへぇ!? 悪天候じゃねぇか! だが、一騎打ちにはもってこいの舞台だよなぁ!」

「……まぁここまでの悪天候を引くのは予想してなかったな」


 ぶっちゃけ、夜で雨となると火や日光の集束からのコケの撃破は難しくなる。そういや、草原は前に紅焔さんと模擬戦をした事があったっけなー。

 模擬戦ってこのカウント時間中に移動しなけりゃ、互いの初期位置の間隔は一緒っぽいし、大体の距離は感覚で分かる。……初手から仕掛けて終わらせるか?


「開始までの間に移動はどうすんよ?」

「好きな方でいいぞー」

「おし、それなら移動は無しで頼むぜ!」

「……ほいよっと」


 ケインは移動せずに開始を選んだか。……ふむ、この悪天候と薄暗さを利用して、夜目や暗視を使うタイミングを狙ってくる可能性もありそうだ。

 よし、ちょっと予定変更。油断は一切無しで全力でいくけど、まずはケインの出方を見る。その上で奇襲が出来そうなら思考操作で一気にコケを潰す!


 そして、模擬戦開始のカウントダウンが進んでいく。残り5……4……3……2……1……0。……さて、ケインはどう動く?


<模擬戦を開始します>


「先手はもらったぜ! 『並列制御』『アースクリエイト』」


 あ、やっぱり何か狙ってた。でも、まぁ何か仕掛けてくる事自体は想定通り。しかも並列制御なら……あ、これって場合によっては回避の仕方を間違えるとヤバいかも?


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 82/82 → 76/76(上限値使用:6)


 とりあえず飛行鎧……の完全展開は間に合わないな。乗れる程度の岩を生成して真上に……いや、少し後ろにも下がっとくか。アースクリエイトでどこに生成されたかが微妙に視認出来てないし、自分ならどこから狙うかで回避しよう。


「『共生指示:登録1』! って、初手で空中に逃げただと!?」


 あー、ケインが発動したのはデブリスフロウだけど、これってあれだな。前にジェイさんがやってた、共生指示での魔力値の消費が再使用時間に加算される仕様を利用した、単独での発動なのに2人で発動したのと同等の威力になるやつ。

 でもまぁどんなに威力が高かろうが、昇華魔法の発動の最中には動けないのは変わらない。その威力、まともに決まれば良かったんだろうけどなー。


 さてと、本当は俺が初手でこれを使いたかったんだけど、甘く見過ぎてなくて良かったよ。まさか、初手から全力の一手を使ってくるとはね。

 とりあえず飛行鎧を完全に展開して、普通に飛ぶ状況へと変更。よし、これで動きは安定した。それじゃやっていきますか。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 75/76(上限値使用:6): 魔力値 221/224

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 73/76(上限値使用:6): 魔力値 218/224

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 ケインのザリガニの足元と上部に2つの小石を生成。俺にはまだまだ行動値があるし、この天候でコケを潰すのはある程度手段は限定されてくる。

 だから、ひたすらに無防備なだけのケインは一気にここで仕留めるのみ! あー、楽で良いよ、この状況。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 54/76(上限値使用:6)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を38消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 16/76(上限値使用:6)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 これからケインのザリガニを固定する岩と、背中のコケをすり潰す為の岩の準備は完了。うん、この状況でサクッと終わらせるのにはこれが早い。


「ちょ、待て!? いや、いや、いや、ここで終わるのは早過ぎるよなぁ!? まだ初手じゃん!?」

「初手で全力で潰しに動いたお前がそれを言っても説得力ないから。じゃ、これで終わりって事で」

「ま、待ってくれー!?」

「いや、待たないから」


 なんで模擬戦で対決してて、盛大に隙を作ってるのを見逃さなきゃいけないんだよ。という事で、素早く足元の岩を追加生成して一気にザリガニを固めていき、コケだけ露出させた状態で頭上の岩で塞いでいく。

 そんでもって、ザリガニの固定側は左回転、上部を覆う側は右回転で、最大加速! 一気にコケをすり潰せ!


「ぎゃー!? 『増殖』『増殖』『増殖』『増――」


<ケインが生存不能になったため、模擬戦を終了します。勝者:ケイ>


 昇華魔法がダメージによって強制解除になってすぐにコケを増殖してなんとか凌ごうとしてたみたいだけど、それよりも早くにコケを全部すり潰せたみたいだね。

 おっと、俺の岩の操作も割と時間はギリギリで消滅していった。最大加速をしたらそりゃそうか。まぁあそこから逃げ出せても、速攻でアースインパクト辺りで叩き潰すだけだったけど。


<模擬戦が終了しましたので、10秒後に外部へと転送されます>


 いやー、それにしても速攻でぶっ殺す気で初手から今のを狙っていたけど、わざわざ大きな隙を自分で作ってくれて楽だった!

 あ、復活したケインが悔しそうにハサミで地面を叩いている。いや、悔しいのは分からなくもないけど、ちょっと攻撃が短絡的過ぎたしね。


「チクショー! いくらなんでも早過ぎるだろ!? 今の、俺のとっておきだったんだぞ!」

「……あー、悪いけど、あれのやり方は知ってた。あと、動かないのを選んだ時点で何か仕掛けてくるのも予想出来たし」

「な、な、な、な――」


<『模擬戦エリア』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 おし、これで面倒な模擬戦は完了っと。あー、手早く終わって良かった! よし、時間も2時2分ってとこか。

 風雷コンビと十六夜さんの参加したトーナメントの方はどうなったんだろ? まだ枠は結構あったみたいだし、まだ埋まってない可能性もあったりするのかな?


「ケイ、もう一度勝負だ!」

「え、絶対に嫌だけど?」

「なんでだよ!?」

「もう俺の方にはやる意味ないしなー。……そもそも俺はお前から聞くべき事をまだ聞いてないんだけど?」

「……聞くべき事? ……あっ!?」


 おいおい、ケインのこの反応って本気で完全に忘れてたのか!? えー、もう何も対処せずにスルーしとけば良かったかもしれない……。


「す、すまなかった! 八つ当たりだとか失礼な事を言ったまま、そのままだった! それにそんな状態だったのに、人違いの問題の対処までしてくれてたのに……俺は何やってんだ! 馬鹿じゃねぇの、俺! どんだけ、短絡的に行動してんの!?」


 うおっ!? 今度は自虐的になりながらハサミで地面を叩き出した!? ちょ、待って!? ここ、エンの前だから思いっきり人が見てるんだけど!? くそっ、また悪目立ちじゃん!?

 あぁ!? どんどん人が集まってきて、人集りが出来て囲まれたんだけど!? ちょ、俺はもう関係ないから立ち去らせてー!?


「……すまねぇ! ホントにすまねぇ! ケイ……いや、ケイのアニキと呼ばせてくれ! 今回の件は本当に感謝しかねぇ!」

「呼ばんでいい! あー、もう俺は行くからな!」


 俺をアニキと呼んでくるのはアーサーだけで良いよ! ケインにそう呼ばれるのはなんか嫌だ! てか、態度が一気に変わり過ぎだろ!


「おっし! 俺はケイのアニキを目指して、頑張っていくぜー!」


 ぎゃー!? エンの前でそんな内容を大声で叫ぶなー! くっそ、ある意味で前より面倒な状況になったんじゃないのか、これ!

 あー、とりあえず桜花さんのとこに戻って、ちゃんと話の通じるプロメテウスさんに相談しよう。うん、同じ共同体なんだし、その辺の後始末は押し付ける!

 


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