第897話 模擬戦の開始までに
桜花さんの樹洞の中に辿り着けば、もう色々とやる気でいっぱいのみんなが揃っている。別に悪い訳じゃないんだけど、思った以上に盛り上がってんなー!
「さーて、今回はあちこちで中継を盛大にやるからねー! ここでの実況はハーレ、解説はわたしがやるけど、ゲスト枠へ立候補はいるー!? いなかったら、わたしの独断で勝手に決めるからねー!」
「おっしゃ、そういう事なら俺がやるぜ!」
「お、紅焔さんが立候補だね! 他にはいないー?」
レナさんのその言葉に他の人達がざわついてはいるけども、特に他に立候補する人はいないようである。これはゲスト枠は紅焔さんで決まりかな?
「よーし、それじゃゲスト枠は紅焔さんで決定!」
「紅焔さん、よろしくなのです!」
「おう、レナさん、ハーレさん、よろしくな!」
あ、いつの間にかハーレさんがレナさんのとこまで行ってるよ。さてと、俺はとりあえずアル達のとこに行きますか。
「みんな、お待たせ。てか、思った以上に大盛り上がりでびっくりなんだけど……」
「あー、レナさんが『いつもの調子に戻すぞー!』って張り切ってたからなー。結構良いタイミングだったみたいだぜ、似通った種族同士での因縁の対決ってよ」
「片方がケイなのも大きかったみたいかな?」
「それと午前中の件の当事者ってのも大きいみたいだよ。ほら、ウィルさんと裏工作してたのも明るみに出ちゃったしね」
「そういう感じかー。そういやあの裏工作って、他の人達にはどう捉えられてんの?」
地味にその辺の反応は掲示板であまり見つけられなかったから、気になるところではあるんだよな。
あの時は表沙汰に出来ない状況だったから仕方ないけど、大勢に対して隠し事をしていたのも事実ではある。……あんまり考えたくはないけど、そこら辺を不快に思う人もいる可能性はあるよね。
「……中には隠し事が気に入らねぇって奴もいるみたいだが、それは少数派っぽいな。ウィルさんの時の件はベスタも加わっていたし、結果的にはアレの悪意ある行動を途中で阻止したってので評価されてる方が多いぞ」
「あー、それはちょっとホッとした」
少なからず不満に思ってる人がいるのはどうしようもないとして、全体的には好意的に受け止められているようで良かった。
そっか、本当の黒幕が存在する事には気付かなかったけど、アレの思い通りの展開にはさせなかったって事だもんな。
「あ、でも、赤の群集の強化に繋がったのには不満の声は出てたよ?」
「……そこだけは、俺としても不満はあるとこだからどうしようもないなー」
色々と心境的には良かったと思える結果にはなったけど、そこについては俺自身も唯一良くない部分だと思ってるし……うん、どうしようもない。
あー、今後は弥生さんの参戦も確定してるのに、ウィルさんを筆頭にBANの覚悟まで決めた反省勢が加わるんだもんな。……一度痛い目を見てからの成長だから、冗談抜きで色々と脅威なはず。
「あ、それとルアーさんからケイ宛に伝言があったかな」
「お、そうなんだ? どういう内容?」
「えっと、『今回の件で不快な思いをしただろうが、本当の意味で片付けてくれて感謝する。その返礼というのも変な話だが、次に戦う時は一方的に負けるような戦いにはしない。その時に全身全霊で戦おう』って言ってたかな」
「お礼に見せかけての挑戦状じゃん!? でも、それでこそやり甲斐もあるってもんか!」
ただ単にお礼を言われて何かをしてもらうよりも、対戦型のクエストで全力で戦おうっていうのは良いね! 前回の競争クエストでは途中から赤の群集は滅茶苦茶だったけど、今度はそんな事にはならないだろう。
だからこそ、真っ当に全力で競い合おうっていうのが最大の返礼になるか。いいじゃん、今から次の競争クエストが楽しみになってきた!
「おっと、そうだ。今のうちに、これな」
「ん? あ、PTか」
<アルマース様のPTに加入しました>
よし、これでPTの結成は完了っと。これで模擬戦の開始のタイミングとかは調整が出来るね。この辺は共同体のチャットでも出来ない訳じゃないけど、PT会話の方が楽だもんな。
「紅焔、ソラ、カステラ、お待たせしました」
「お、ケイさんは今はまだこっちで待機中か。いやー、似てる時は本当に似てるもんだな!」
「あ、ライルさん、辛子さん」
あれ、ライルさんは今回は木じゃなくて小鳥の方で来てるんだな。俺らよりも結構遅れて来たのはその辺が理由?
「そういやライルさん達、さっきの俺らの光景を中継してたって?」
「あー、勝手にするのもどうかと思ったんだが、あのケインって奴が面白かったからなー」
「今回はレナさんが大々的に、見た目が似ている2人がいるという情報を広めるのが目的の1つだと聞いていたので絶好の機会かと思いまして」
「……まぁ、確かにあれは絶好の機会かー」
うん、俺とケインが共に映せるタイミングだったもんな。それにその対決がもう少ししたら始まるし、コケを背負うロブスターとザリガニの大喧嘩と宣伝されているんだから、むしろ中継をしない理由がないか。
勝手に中継されるの普段であれば文句を言ってもいいとこだけど、今回については目的と合致するから問題はない。……むしろケインが文句を言おうもんなら、俺がケインに文句を言ってやる。
「ケイさん、全力でぶっ飛ばしてくるのさー!」
「ま、言われなくてもそのつもりだけど……」
「おう! 自信を木っ端微塵に砕いてやってくれ、ケイさん!」
「木っ端微塵って、それは大袈裟過ぎ……って、プロメテウスさん!?」
桜花さんの樹洞の中にキツネのプロメテウスさんと、その共同体のメンバーが揃って入ってきたよ。あれ、プロメテウスさん達って桜花さんの常連だったりする?
「えーと、桜花さんって人のの樹洞って話だから、ここで合ってるよな?」
「初めましてだな、プロメテウスさん」
「お、桜花さんってあんたか。色々凄いって噂は聞いてるぜ!」
「ま、これも何かの縁だ。用事があったら寄ってくれ」
「おう、そうさせてもらうわ! で、俺らを呼び出してきたレナさんはどこだ?」
「来たね、プロメテウスさん。こっちだよ!」
「お、レナさん! 今回はお招きありがとよ」
「いえいえ、どういたしまして!」
えーと、どうもプロメテウスさん達をここに呼んだのはレナさんっぽい。あー、俺らとケインの共同体のメンバーが一緒に観戦出来るようにっていう心遣いなのかもしれないね。
それにしてもケインの姿はない。……あれ、もしかしてまたエンの前に戻って待ってるとかそういう事か? まだ予定の2時まで20分くらいあるけど……その可能性は否定出来ないな。うん、一応そこは確認しとこうか。
「プロメテウスさん、ケインは……?」
「あー、まだ時間があるから俺らと来いって言ったんだが……ケイさんが来るまで待つって言い張って、またエンの前だ」
「やっぱりかー!?」
そんな気はしたけど、やっぱりケインはエンの前で待ってるのか! ついさっき悪目立ちしてたばっかじゃん!?
えー、このまま20分も待ってる気なの? それはそれでなんか他の人への迷惑な気がしてくるんだけど……。あー、面倒くさ!
「レナさん、今の模擬戦の混雑具合って分かる? ほら、順番待ちの数とか、その辺の状況」
「えーと、ちょっと確認するから待ってねー。あ、今のエンでの模擬戦の混雑状況の確認をお願い出来る? うん、うん、そう、お願いねー!」
そう言いながらレナさんは誰かにフレンドコールをかけて、状況の確認を行なっている。なるほど、エンの近くで今の混雑状況を確認している人がいるんだな。
相変わらずレナさんの人脈は凄まじいものがあるもんだ。……冗談抜きでレナさんは敵に回したくないね。
「うん、うん、分かった! それじゃ確認ありがとねー! えっと、今は特に待ち時間はないみたいだから、開始しようと思えばすぐに開始は出来る状態だよー。あと、このケイさん達の1戦と、風雷コンビが参加するトーナメント戦の開催の影響で、観戦したいから模擬戦をやろうって人自体が今は少ないみたいだね」
「あー、なるほど」
ここで風雷コンビと十六夜さんが参戦しているトーナメント戦の話が出てくるんだなー。あれ、俺も見たかったんだけどなー。
「風雷コンビがトーナメント戦に出てんのか!?」
「ちょ、それは思いっきり見たいんだけど!?」
「いや、でもこっちはこっちで見逃せない……」
「今、フレンドに確認してみたけど、風雷コンビの対決は決勝になる可能性が高いってよ!」
「あー、それならこっちが終わってからでも問題はないか」
「あの2人、問題行動は多いけど、実力は確実だもんなー」
「決勝が長引きそうなトーナメント戦だな」
ん? あぁ、そうか。十六夜さんって表立って動いてはいないから、風雷コンビ以外に相当強い人も参加しているのは気付かれてないのか。
確かに風雷コンビは強いけど、十六夜さんも相当な強さである。十六夜さんは岩の操作を使うし、風雷コンビとは相性もいいしなー。
「ケイ、風雷コンビの参戦のトーナメントがどうかしたのかな?」
あー、普通に喋っても良いけど、ここは十六夜さんの存在を知らないっぽい……いや、今この場に居る人達は結構な割合で十六夜さんの事を知ってるか。
イブキがトーナメント戦に参加したがって、俺らが開催した時に観戦してた人も結構いるしね。……ここは十六夜さんの参戦を伏せておいた方が面白いかも?
よし、みんなには共同体のチャットで教えとこ。それなら他の人には気付かれないしね。
ケイ : 偶然居合せただけなんだけど、そのトーナメント戦に十六夜さんが参戦してたぞ。
ハーレ : 場合によっては、決勝は風雷コンビの対戦じゃないのです!
サヤ : え、そうなのかな!?
アルマース : なんでこっちかと思ったが、そういう事か。隠しておく気だな?
ヨッシ : 確かにそれは知る人ぞ知るダークホースになりそうだね。
ケイ : そういう事。折角だから、その辺は驚いてもらおうかなーって思ってね。
アルマース : やっぱりか。
ヨッシ : あはは、ここにいる人達って十六夜さんの強さを知ってる人が多いもんね。
とりあえずみんなへ十六夜さんの参戦は伝えたけど、2時までどうするかなー。少し前倒しにして、早めにケインとの模擬戦を開始するか?
んー、Lv上げの時間を確保するならそれも良い気はするけど、観戦を待ってる人達に急な時間変更をするのは大丈夫なのかな? それにエンの周辺にいる人達に迷惑がかかってないかも気になる。
「レナさん、模擬戦の開始時間の前倒しって、やっぱりちょっと問題があるよな?」
「んー、普通は時間を予め指定してる場合はそうなるねー。あー、でも今回は場合によってはいけるかも?」
「……それってどういう事?」
「あはは、ケインが目立ち過ぎちゃっててねー? あちこちの中継場所から、思った以上に早くやれって待ち兼ねてる人が多いみたい?」
「……えぇ? そんなのあり?」
「ケイさんがここに来る前に、エンの前で啖呵を切ってたのも大きいみたいだねー! あのコケの人に、全力で挑んだ似た奴がいるって一気に広まっちゃったみたい。凄い勢いでわたしの拡散よりも広まってるかも?」
「それってちょっと広まり過ぎじゃない!?」
あのケインの行動でレナさんの拡散力を上回って一気に話が広まってるとか、それは予想外過ぎる!? あー、でも思いっきり悪目立ちではあるけど、目立ってたもんなー。赤の群集の人も青の群集の人もいたし、口コミでの広がり方はとんでもないのか。
あれ、ここまで俺に似た人がいるって情報が広がれば、もう俺が戦う必要もないんじゃね? いや、でもここで戦うのをやめましたは流石にマズいか。同意してなかった最初の時はどうとでもなるけど、同意した今だと逃げたと言われても仕方なくなる。
「……よし、決めた。レナさん、俺はこれからエンのとこまで行くから、模擬戦の準備が終わり次第、前倒しで開始でも良いか?」
「うーん、一応わたしの方で少し調整してみるね。でももう時間を決めて告知しちゃってるし、その辺の都合で前倒しは出来ない可能性もあるから、開始の直前に確認してもらえる?」
「了解っと! それじゃ、ちょっと行ってくる!」
「おう、行ってこい!」
「ケイ、ファイトかな!」
「全力でぶっ飛ばすのさー!」
「ケイさん、頑張って!」
さーて、みんなは応援してくれているし、遠慮なくケインをぶっ飛ばしてきますか。そういやプロメテウスさん達はどういう反応をしてるんだろ?
「さて、ぼろ負けしてきたケインをどうからかってやるか」
「からかう前に、まずは謝罪とお礼をさせるべきじゃない? 今の時点でも、相当あの状況の改善にはなってるよね」
「だなー。それにあいつ、ケイさんに八つ当たりだって言ってから謝ってねぇもんな」
「ま、完膚なきまで叩き潰されれば、スッキリもするだろ」
「そもそも無視されても当然な、一方的で身勝手な模擬戦の申し込みだったしなー」
あ、誰1人としてケインの勝ちは考えてないみたいだし、そもそも身勝手な行動ってのは理解してるんだな。……まぁまさしくその通りだけど。
ま、その辺についてはケインを負かせた後にプロメテウスさん達の方から諭してくれそうだし、今は俺はエンの元に向かいますか。
そうして桜花さんの樹洞を出て、エンの元へと飛んでいく。水のカーペットを出しっぱなしにしてたけど、やっぱり移動は飛ぶ方が楽だよねー。
おっと、あっという間に辿り着いたね。……うん、またケインの周辺に人集りが出来ている。ただ突っ立ってるだけではそう注目も集めない気はするんだけど、何か特に目立つような行動でもしてるのか?
「だぁー! 2時はまだかー!」
あ、なんかいきなり叫び出した。……うん、これは間違いなく目立つ。というか、思いっきり悪目立ちしてるし、地味に引いてる人もいませんかねー?
これ、人違い問題って逆に俺側にも発生したりしないよね!? こんな悪目立ちしてるケインに間違えられたくないぞ!
正直色々とドン引きなんだけど、今からここに降りていかなきゃいけないの? ……やっぱり開始時間まで桜花さんのとこで待ってれば良かったかもしれないなー。
「あ、いたな、ケイ! 早く俺と勝負しやがれ」
「……やっぱりそう言ってくるかー」
こんな状態でエンの前にいたら悪目立ちもするよな。これ、前倒しに問題があったとしてもさっさと終わらせた方が迷惑にならなくて済む気がする。……でもそこはレナさんの調整次第か。
少なくとも、模擬戦自体は受けて待機場所になるエンの樹洞の中には入っとくべきだな。あー、なんか段々面倒くさくなってきた……。
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