第896話 森林深部へ戻って


 さてと、既にアル達は桜花さんの所に集まってるみたいだし、俺とハーレさんも森林深部に向かうとしますか。

 いつまでも溶岩の洞窟……グラナータ灼熱洞の入り口の前で突っ立ってても仕方ないしね。うーん、命名クエストが終わって名前が変わったばかりだとどうしても少し違和感があるな。


「それにしても、いつの間にか地味に人が集まってるよなー」

「みんな、適応の準備をしてるのさー!?」


 ログインした直後はそうでもなかったけど、共同体のチャットで会話をしている間に赤の群集の1PTや青の群集の1PTが、近くで纏火や発火草茶を飲んでいた。

 まぁ中に入る直前にこうやって準備をしなければ、元々火属性持ちの人以外はあっという間に死ぬもんな。俺らだってやったんだし、入り口の前で適応していくのが当たり前か。


「あ、そういやアル達は転移の実ってどうしたんだ?」

「はっ!? 上書きをしてるのかどうかが分からないのです!?」

「……だよなぁ。さっきの今だけど、確認しとくか」

「後々困るから、確認は賛成なのさー!」


 まぁ最悪、別々の場所に登録していたとしてもここと上書きする前の場所でなら、合流自体はそう難しくもないだろうけどね。でも、こういうのはちゃんと確認して情報は相互に共有しとかないとなー。


 ケイ    : ちょっと確認のし忘れー! みんなは転移の実の場所の上書きってしたか?

 ヨッシ   : あっ!

 サヤ    : ……あはは?

 アルマース : ……そういやしてねぇな。

 ハーレ   : 了解なのさー!

 ケイ    : 3人とも上書きはしてないんだな。んじゃ上書きはしないでおくわ。


 うん、これはちゃんと聞いて確認して正解だったね。俺とハーレさんが転移の実の登録場所を上書きをしていたら、次に転移してくる時に二手に分かれる事になってたよ。

 でもまぁこの3人が揃って忘れる事もあるんだなー。人間、誰しもミスはあるって事か。


 アルマース : まぁ、移動してもそう時間がかかるほどの距離じゃねぇから問題ないだろ。

 ハーレ   : 確かにそれはそうなのです! あ、そうそう! 戻ってから聞こうと思ってたけど、今回の模擬戦は実況とか解説はどうなりますか!?

 ヨッシ   : 実況はハーレがやりたがるだろうから、もうハーレに決まってるけど問題ないよね?

 ハーレ   : それは問題なしなのです!

 サヤ    : 解説はレナさんだね。ゲスト枠はまだ未定かな?

 ハーレ   : 了解なのさー!

 ケイ    : ハーレさんが確認したい事も分かったみたいだし、これから戻るわ。


 さてと、これでとりあえず確認すべき内容は終了っと。今回のケインとの模擬戦は俺との勝負ではあるけど、どちらかといえば俺と似たような構成の人がいるってのを沢山の人に認識させるのが主な目的だしね。ぶっちゃけ、勝負自体はおまけ。

 その為にレナさんの力も貸してもらうんだし、ここは盛大にケインを散らせてやるのが俺に出来る事だな。……とか言いながら、俺が負けたら大恥だな、これ。


「……ともかく戻るか。あー、ハーレさん、俺は新しい森林深部への帰還の実はもらってはいるけど今は使いたくないから、他のとこの帰還の実を使ってから転移して戻ろうと思うけど、どうする?」

「私もそうするのさー! とりあえず草原エリアでどうですか!?」

「まぁそこはどこでも良いから、草原エリアでいいか」

「了解です!」


 すぐに森林深部に転移するんだから、そこは深く考えても仕方ないもんな。さて、それじゃ草原エリアへの帰還の実を使って移動しますか。


<『封熱の霊峰』から『始まりの草原・灰の群集エリア3』に移動しました>


 よし、草原エリアにやってきた……って、今は大雨じゃん!? うわっ、ここで天候が盛大に違う事は想定してなかった!


「わー!? 雷が鳴ってるのです!?」

「あー、これはヨッシさんが雷の昇華になってたら、良い機会だったかもな……」


 まぁまだヨッシさんは電気の昇華になってないから、そこは仕方ない。それにしても、土曜の昼ともなると人が多いなー。

 あ、忘れないうちに新しい帰還の実を貰っとこ。森林深部への帰還の実を使っていても、こうやって他のとこのを持ってれば転移で帰れるしね。


「風雷コンビが参戦するトーナメント戦、参加者はいないかー! 32枠の参加枠はあと10枠は空いてるぞー! 優勝すればスキル強化の種も狙えるぜ!」

「……あの2人には勝てる気がしない」

「空白の称号とかスキル強化の種は欲しいけど、相手が悪いよな……」

「……そのトーナメント、参加させてもらおうか」

「おし、そこのヤドカリの人は参加決定だな! 他に参戦しようって度胸のあるやつはいないかー!?」


 おっと、風雷コンビが参戦するトーナメント戦があるっぽいのが聞こえてきたね。ちょっとこれは気になる……って、ヤドカリの人って十六夜さんじゃん!? ほほう、これは完全にスキル強化の種が目的で優勝を狙って十六夜さんが参戦ってところか。

 風雷コンビも相当強いけど、あの2人の強さはコンビネーションの部分がかなり大きいもんな。まぁ決して単独で弱い訳じゃないだろうけどさ。そこにソロで相当強い十六夜さんも参戦するなら凄い激戦が見れそうではある。


「……このトーナメント、かなり見ていきたいんだけど」

「ケイさんも模擬戦があるし、流石にそれは却下なのさー!」

「あぁ!? 予定が被ってるのが悔しい!」


 とはいえ、レナさんの力を借りているんだからドタキャンは流石に出来ないよな……。くっ、ケインだけであれば無視してでもこのトーナメント戦を見ていくのに!

 ふぅ、駄々をこねても仕方ないから、エンまで転移しようっと。あー、後ろ髪が引かれていくー!


<『始まりの草原・灰の群集エリア3』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 思いっきり心残りはありつつも、森林深部まで戻ってきた。こっちは普通に快晴だねー。ふむふむ、エンの周囲も結構混雑してるけど……何か人集りが出来てるな?


「あの人集りってなんだ?」

「分かんないのさー! ケイさん、ちょっと見ていきますか!?」

「そうするかー」


 群集拠点種の周りで人が多いのはよくある事だけど、誰かを囲んだ人集りっていうのは珍しいもんな。ちょっと何が起きているのか、気にはなるし確認していこうっと。

 えーと、この状況なら上から見るのが分かりやすいし、水のカーペットを展開して飛んで確認しようか。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 82/82 → 80/80(上限値使用:2)


 よし、水のカーペットの展開完了っと。ハーレさんは何も言わないうちに、素早く乗ってきたね。うん、行動が素早い。

 さて、少し飛んでみて、どういう状況か確認を……げっ!? なんでもうケインがここに居るんだよ!? しかも人集りの中心はお前かい!


「あ、有名な方のコケの人だ。……ほんと、近い名前だよなー」

「うわー、見た目、マジで似てるな!?」

「あー、こりゃ間違える奴も出てくるわ」

「あれ? コケを背負ったロブスターとザリガニの大喧嘩の模擬戦って2時からじゃなかった?」

「今転移してきたとこみたいだし、下準備じゃね?」

「構成が被ってる人って、珍しい訳じゃないのにややこしい事になってるねー」


 なるほど、この人集りはレナさんの宣伝の結果か。少なくとも今、この場にいる人達には俺とケインという見た目が似ている2人が存在しているという認識はされているみたいである。

 しかも地味に赤の群集の人や、青の群集の人も混じってるしね。まぁ全群集にこの情報は広まってもらいたいから、それ自体は問題ないか。


「あぁ、そうだよ! 構成が被ってるのは他にも色々いるのに、なんで俺ばっか人違いで殺されたり、二番煎じだとか言われなきゃならねぇんだよ!」


 うん、まぁその気持ちは分かるし、ウィルさんを連れてきてくれた事に免じて模擬戦や情報の拡散の協力はしてもらっている。

 だけどここで俺にまた難癖をつけるような事をすれば、今からでも取り止めにするからな。ぶっちゃけ風雷コンビと十六夜さんの参戦するトーナメント戦を見たい気持ちが強いしね。


「だが、それはもう良い! 俺は単純にケイとの全力での勝負を望む! 俺は俺だと、この模擬戦で証明してやる!」


 おー、見事な啖呵を切ってくれたね。午前中には盛大に八つ当たりだと堂々とふざけた宣言をしていたとは思えないくらいだ。

 ここまで言われちゃ引き下がる方が無粋ってもんだな。まぁ無粋ではあるんだけど……時間はまだ早いんだよなー。


「アホか、ケイン!」

「痛っ!? 何すんだよ、プロメテウス!」


 あ、人集りの中からキツネのプロメテウスさんが出てきて、ケインのザリガニの頭を思いっきり殴っていた。

 プロメテウスさん、近くにいたんだな。あ、プロメテウスさんの共同体の他のメンバーも一緒にいるっぽい。


「時間を考えろ、時間を! 待ちきれなくてもう30分以上も待っているのは分かるが、まだ1時半も来てねぇからな!? そういうのは模擬戦が始まってからやれ!」

「……え? え? うぎゃー!?」


 どうやらケインは先程の発言が恥ずかしくなったのか、周囲を見回してから飛行鎧を展開して飛び去っていった。……うん、待ち切れずに30分以上前からここにいたんだな。


「あー、ケイさん、なんか悪いな」

「俺は別に問題ないけど、プロメテウスさん、ケインは大丈夫か?」

「時間になればケロッと何事もなかったように戻ってくるだろうから、そこは問題ねぇぜ。それよりケイさん、本当に相手をしてもらっても良いのか?」

「ぶっちゃけ、最初に会った時のままなら無視してたよ。だけど、まぁ本人からライバル宣言をされて、ウィルさんのあの件もあったからなー。人違いの件は可能な限り手は貸すし、模擬戦はおまけではあるけど、やるからには本気でやらしてもらうぞ」

「わっ!? ケイさんの本気宣言なのさー!? ケインさん、ご愁傷様なのです!」

「ははっ、そりゃいいや! ケイさん、あの馬鹿の相手や、情報を広めてくれた事、感謝する」

「……そればっかりは本人から言って欲しいもんだけどな」

「そりゃ違いねぇ! あいつはその辺は素直じゃねぇけど、なんとかしてみるわ」

「そこについてじゃ期待しないで待っとくわ」

「こりゃ手厳しいな! ま、仕方ねぇけど。そんじゃまた後でな!」

「ほいよっと」


 そうしてプロメテウスさんや共同体の他のメンバーも立ち去っていき、ケインの周りにいた人集りも散っていったね。


 って、あれ? ふと目に入ったけど、エンの中継している終了済みの模擬戦のダイジェストにプロメテウスさんが映ってたな。

 なるほど、ずっとケインと一緒に待っていた訳ではなく、模擬戦をやってたりしただけっぽい。まぁ何もせずにただ待つだけじゃつまらないもんな。


「ケイさん、そろそろ急がないと遅刻なのさー!」

「え? げっ、もうすぐ1時半じゃん!? ハーレさん、飛ばすからしっかり捕まってろよ!」

「はーい!」


 転移する度にちょっと思わぬ状況があったりしたから、余裕があったはずの時間がいつの間にか無くなってしまっていたようである。

 予め行くのはみんなに伝えてあるし、事情が事情だから少しの遅刻くらいは見逃してくれるだろうけど、可能な限り遅刻はしたくない! という事で、桜花さんのとこまで大急ぎで移動だー!



 そうして水のカーペットに乗って大急ぎで桜花さんの元へと辿り着く。お、桜花さんの見た目が禍々しくなってるって事は纏瘴中か。

 それは良いとして、ギリギリ1時半には間に合ったー! あー、遅刻はせずに済んだし、とりあえず桜花さんの桜の木の樹洞に入ろうっと。


「あ、ケイとハーレが来たかな!」

「ケイさん、お疲れ様」

「あれは遅くなっても仕方ねぇけど、ギリギリ間に合ったな」

「やっほー、ケイさん! サヤさんも大丈夫みたいだし、ハーレもすっかり元気みたいだね」

「ふっふっふ、レナさん、私は完全復活なのです!」

「……てか、その反応ってもしかしてさっきの、誰かが見てたのか?」


 さっきの俺とケインの遭遇した現場を見ていた人がいるような感じの反応だけど……うん、本当に見てた人はいるかもしれない。


「ケイさん、悪いな! ライルと辛子が近くにいたから、桜花さんに中継してもらって再現はしたぜ! 面白いな、あのケインって奴!」

「ま、そういう事だな」

「桜花さんと飛翔連隊の仕業かー!? いや、まぁ別に良いけど」


 さっきの光景で変な風に目立つのは俺じゃなくてケインの方だし、俺とよく似た構成のケインという存在を認知してもらうのにも有効だろうしね。

 それにしても、既にそれなりの人数が集まってるなー。アル達やレナさんがいるのは当然だけど、紅焔さん、ソラさん、カステラさんを筆頭に、ここでよく会う人達が結構集まっている。多分、ライルさんと辛子さんもすぐに来そうだな。


「お、午前中はどうもな! お陰で良いスクショが取れたぜ!」

「あ、ディールさん」


 ウネウネと動く枝の人が話しかけてきたと思ったら、俺らに飛行制限の事を教えてくれて、フェニックスのスクショを撮ってたヘビの人のディールさんだ。お礼が言いたかったから、ここで会えたのはありがたい!


「フェニックスが襲ってくる件、教えてくれて助かったよ。ありがとな!」

「いやいや、良いって事よ! あれだろ、フェニックスの行動パターンの変化を知らずに来てたって聞いたぜ。ありゃ仕方ねぇってもんだ。ま、俺としても灰の群集の人にそれが発生するのを狙ってたとこはあるからな!」

「あー、そういう狙いだったのか」


 ふむふむ、ディールさんはどのタイミングからフェニックスの行動パターンの変化を把握していたのかは分からないけど、飛行している相手を狙うところのスクショを撮るタイミングを狙ってたんだな。

 この感じだと、情報共有板でよく見かけるヘビの人とは別の人っぽい気がするね。まぁなんとなくだけどさ。


「さてと、今回の主役はやってきたし、事前情報の拡散も上々! ロブスター対ザリガニの勝負、色々と騒動の混乱を吹っ飛ばす為にも盛り上げていくよー!」


 レナさんのその言葉に、この場にいるみんなが歓声を上げていく。てか、騒動の混乱を掻き消す為の手段にも使われてるの!? そういう目的も含まれているなら、そりゃ気合いも入ってるよね!

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る