第886話 赤いオオカミ
マグマの中に何かいる可能性は考えてたけど、まさか赤いオオカミが出てくるとは思わなかった! っていうか、頭だけ出してきて俺のロブスターのハサミの身に噛み付いてるって事は、そこまで深くはないのか、マグマの中!?
いや、ただ陸地との境目だから浅いだけかもしれないし、油断は大敵だ。それ以前に、まずこのオオカミをどうにかしないと。何は手段は……あ、この手があった。
「ケイ、大丈夫かな!?」
「今すぐ引き上げるから待ってろ!」
「アル、それはいらん! それより、迎撃準備を頼む!」
「……よし、自力でどうにかする手段があるんだな。サヤ、ハーレさん、ヨッシさん、迎撃準備!」
「分かったかな!」
「了解なのさー! 『魔力集中』!」
「了解!」
よし、みんなは迎撃態勢に移行してくれたね。これで俺はこのオオカミの対処に動ける。……てか、急がないとヤバいか。
さてと、ロブスターの視点からだとオオカミにマグマに引き摺り込まれかけていて変に視線を移動が出来ないし、足場から目を離すのも危険過ぎる。
でも、今は表示は小さいけど遠隔同調のおかげでコケの視点も同時表示されているんだよね。ほんと、全く想定してなかったけど、ナイスだよ、この状況!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 46/63(上限値使用:18): 魔力値 147/222
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します> 行動値 27/63(上限値使用:18)
おっし、表示の小さいコケの視点からだけど岩の生成と操作の指定がちゃんと出来た! これで俺のロブスター自体を引き摺り込まれないように耐えながら、ハサミの身に噛み付いている赤いオオカミも岩で固めてやる!
よし、俺のロブスターに噛みついたまま岩で包み込む感じに口を閉じてやったぞ! ふっふっふ、よくもやってくれたな、赤いオオカミめ。ここから反撃開始だ!
「おっらぁ!」
おっしゃ、ロブスターごとマグマの側から引き離して、逆に赤いオオカミをマグマの中から引っ張り出してやった!
そのまま引き抜いた勢いを使って、地面に叩きつけてやる! おっし、一気に岩の操作の時間を使い切ったけど、狙い自体は大成功! 噛みつかれたハサミも離したな!
でも、俺の方も結構ダメージがあったよ。うわっ、ロブスターの脚の先の方がマグマに浸かって少し溶けてるし、HPの3割くらい減ってるんだけど……。
「さーて、次は私達の攻撃かな?」
「ふっふっふ、逃がさないのです!」
「ケイさん、大丈夫?」
「俺らに任せてケイは回復してろ」
「ほいよっと。それじゃ任せた!」
今のタイミングで岩の操作を使うつもりはなかったけど使っちゃったし、思った以上にダメージを受けたからね。
自然回復でも溶けたハサミは元に戻るだろうけど、ここは脱皮ですぐに治してしまおう。赤いオオカミの討伐についてはみんなに任せても大丈夫だろうしね。
「ケイが朦朧を入れているが、俺の方で改めて拘束しておくぞ! 『根の操作』!」
「今回は私が仕留めるのです! 『アースクリエイト』『操作属性付与』『アースクリエイト』『爆散投擲・土』!」
あ、どうも俺がオオカミを地面に叩きつけた時に朦朧が入ってたっぽいね。まぁ岩の操作の操作時間を一気に使い切る勢いで叩きつけたら、そりゃ普通の雑魚敵なら朦朧くらいは入るか。
とりあえずアルが木の根で動きを更に制限して、そこからハーレさんのチャージした攻撃を加えていく感じか。……うん、それは良いけど早めに脱皮を使って回復しとこ。
<『脱皮』が変異して『急速脱皮』へと変化しました>
<変異したため『脱皮』は失われます>
「はい!?」
「ケイ、どうした!?」
「あー、ものすごく久々にスキルが変異した。これ、脱皮が一時的にでも無くなったら同調共有の登録ってどうなるんだ……?」
「……そういやあったな。スキルの変異って要素」
「私はいきなり変異した時は慌てたのさー!」
「とりあえず俺は良いから、戦闘よろしく!」
今は俺のスキルが変異した事よりも、あのオオカミを倒し切る方が先決だ。俺のは……ロブスターのスキル登録のし直しをしなきゃ使えないとかは勘弁してくれよ。
確か纏属進化はログアウトしたら強制的に解除だったはずだし、今のタイミングで登録のし直しとか絶対に嫌なんだけど。
「ヨッシさん、朦朧が解除になりそうだ。何か毒を試してくれ!」
「了解! でもそれなりに消耗してるから控えめでいくよ。麻痺毒の『ポイズンボム』!」
「麻痺毒は効いてないみたいかな?」
「あっ、動き出したのです!? まだチャージは終わってないのさー!?」
「それなら……朦朧は確実に入るのは確定かな! 『連強衝打』!」
おー、サヤが朦朧で動けずに倒れている赤いオオカミの頭を目掛けて、思いっきり銀光を強化しつつ連打だなー。うん、既にオオカミのHPが4割くらいまで減ってるね。
そうやってダメージを稼ぎつつ、ハーレさんのチャージも済んだようである。……ふむ、物理ダメージの通りが良いとは言えないし、この赤いオオカミは物理型だな。
「チャージ完了なのさー! いっけー!」
そうしてアルの木にある巣の中から、ハーレさんの茶色が混ざった強く輝く銀光が投げ放たれ、赤いオオカミに直撃すると同時に爆散していく。てか、地味にLv2で発動してたっぽいね。
そのハーレさんの強力な一撃でHPの全てを削り取りポリゴンとなって砕け散っていった。うん、Lv2での発動はナイス威力だね!
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<『特性の実:マグマ適応』を1個獲得しました>
お、思ったよりもかなり良い感じに経験値が多い気がする。というか、普通にあったよ、マグマに適応する為の消費アイテム!
どう考えてもこれだよね、マグマに潜れるようにするアイテムって。
「結構、経験値は良い感じかな?」
「カイヨウ渓谷の敵よりかなり経験値は良いね。ワニとオオカミだけが特別経験値が多いとかじゃなければだけど……」
「エリア自体にクセがあるから、その分だけ経験値が多いんじゃねぇか?」
「それはありそうな気がするのさー!?」
「……ケイ? どうしたのかな?」
「あー、いや、ちょっと今拾ったアイテムがあってさ。『特性の実:マグマ適応』って言うんだけど」
「はっ!? それがあればマグマの中に行けそうなのです!?」
「……ありそうな気はしたが、やっぱあったのか」
「まぁそういう事みたいだけど、これってどうする?」
ぶっちゃけ少し使ってみたい気持ちはある。とはいえ、入手率がどの程度のものか分からないし、迂闊に使って良いものか悩むんだよなー。
うーん、これはどうしたものか。……てか、俺はさっき変異した脱皮の事も考えないといけないんだよね。
「……少し試してみたいけど、使うとしてももう1個手に入れてからで良いんじゃないかな?」
「サヤに賛成なのさー! 数が手に入るようなら、どんどん使うのです!」
「ま、効果は大体想像が出来るし、焦る必要もないだろ」
「私としては纏火との併用も気になるよ。それ、場合によっては纏火は無しでもここに適応出来るんじゃない?」
「あ、そういえばその可能性はあるのか」
ふむふむ、確かにヨッシさんの言うように、纏火を使わなくてもこの溶岩の洞窟そのものに適応出来る可能性はある。
みんなも焦って使う必要はないという判断だし、使うとしても複数個手に入ってからか、纏火の効果が切れたタイミングでいいか。
「よし、んじゃ俺の纏火が切れた時点で使ってみるわ」
「うん、それが良いと思うよ」
「それはそうとして、ケイは脱皮で回復をしないのかな?」
「あー、その脱皮が変異しちゃってな……。まだそっちの確認が出来てないんだよ。根本的に同調共有の登録がどうなってるかが……」
「あ、確かにそれは確認が必須かな?」
そもそも、脱皮が変異したスキル……えーと、『急速脱皮』だっけ? これ、そもそもどんなスキル?
変異は上位のスキルにはなるはずだけど、具体的にどういう効果だ? 特に急速の部分の意味! とりあえずスキルの説明を見てみよ。
『急速脱皮』
脱皮から派生した、脱皮を行う種族の固有スキル。
傷付いた外皮を新たなものへと換えるが、再生速度を早める為に通常の脱皮よりは回復量は下がる。
一定時間、防御が下がる代わりにHPを30%回復。
消費行動値はLv×3。Lv上昇により回復量の増加。
ん? ちょっと待って。上位のスキルの筈なのにHPの回復量が20%も減ってるんですけど……? あ、でもこれってもしかして防御の低下幅が脱皮よりも少ない? 確か脱皮は大幅に下がるって表記だった気がする。
それに再生速度を早めるって事は、ひょっとすると防御の低下時間も短くなるのか、これ! 急速ってそういう意味か。
「これ……『急速脱皮』ってスキルに変異したんだけど、意外と使えそうだ。回復量は下がるけど、他の部分の性能が向上してるっぽい」
「お、そりゃ良いんじゃねぇか?」
「ケイさんが被弾する事は少ないから、ありだと思うのです!」
「だなー。さて、問題は……」
この『急速脱皮』は新たに取得した訳ではなく、『脱皮』が変異したスキルだ。そのまま脱皮を登録していた枠に登録されている可能性はあるはず。
そうでなければログアウトしてからロブスター側で登録する必要があるけど、まぁそれは同調共有への登録がどうなっているかを確かめてからでもいい。さて、ちょっと試してみますかね。
<行動値を3消費して『急速脱皮Lv1』を発動します> 行動値 22/63(上限値使用:18)
<HPを30%回復します> HP 7655/8850
<防御が30%低下します>
お、普通に使えたって事は、登録枠は脱皮の枠そのままになるんだな。ちょっと消費行動値は増えたけど、防御30%低下でこれなら悪くはない気がする。
「お、ハサミが再生したか。でも、一部が欠けてるから全快じゃないんだな」
「今回は思った以上にダメージを受けてたから、まぁそこは仕方ないって。とりあえず即座にHP30%の回復と、防御の低下が30%で済むのはありがたい」
「おー!? 確か普通の脱皮は防御は80%低下だったよねー!?」
「それを考えると、かなり良くなったかな!」
「……でも30%の防御低下は、決して甘くはないよなー」
「そりゃ違いねぇな。ケイ、その辺は気を付けろよ!」
「分かってるって!」
今までの脱皮での80%の防御の低下幅が大きかったから麻痺しそうにはなるけど、防御30%の低下だって結構なリスクにはなる。
少なくとも使うとしたら咄嗟にHPの回復が必須な状況が多いだろうし、そういう相手に防御が30%下がった状態は詰んでこそいないが、非常にリスクのある状態だ。……ま、そうそうそんな状況はないだろうけどさ。
「とりあえず残りのHPは蜜柑で回復しとくか」
「うん、その方が良いと思うかな」
「さて、移動はどうする? ケイが回復するまで待ってから移動を再開でも良いが……」
「ちょっと提案があるのです!」
「ハーレ、どんな提案?」
「マグマの中に散弾投擲を無差別に投げ込むのはどうですか!? それで敵を誘き出すのです!」
おー、こりゃまた大胆な発想をしてきたな、ハーレさん。でもまぁどうも地面のある部分にはまともに敵が見当たらないし、他のPTが移動しながら戦っている様子もない。
これは戦う場所を固定して、敵をマグマの中から誘き出して戦っていくのが正解なのかもしれないね。……今までの戦い方とはまた違った感じだな。
「……危なくねぇか、それ?」
「んー、作戦自体は賛成。だけど、全員の回復を待つ方が良いと思う」
「私もそれは同感かな?」
「……ふむ、サヤとハーレさんとヨッシさんが同じ意見か。ケイはどう思う?」
「んー、Lv上げの推奨場所になってた割に他のプレイヤーとあんまりすれ違わないし、ワニもオオカミも思ったほどの強さじゃなかったし、固定位置で戦うのが正解な気がしてる。って事で、俺も賛成」
「……なるほど、確かにその可能性はありそうか」
今いるちょっと広くなっている場所は、そういう視点で考えるなら戦闘用の場所とも考えられる。
逆に通路みたいに狭い場所は敵からの奇襲が多い場所の可能性がある。あくまで推測だけど、ここのエリアは妙に行動の制限をかけたがってる雰囲気があるからなー。
変に動き回って奇襲されるよりは、同時に襲いかかってくる敵が多くても万全の状況で迎撃出来る方がいい。もし読みが外れた場合は、昼から行動方針を変えれば良いしね。
「アルは反対か?」
「……いや、それでいこう。その為にもまずは全員の回復だな」
「よし、それじゃ決定!」
俺は蜜柑を食べつつ回復をしていたけど……って、あー!? しまった、折角なら治癒活性を使って回復量を上げておくべき……!
くっ、普段使う事がないから、存在をすっかり忘れてたー! あー、済んだ事は仕方ないや。次の機会には忘れないように気をつけよ。
「ケイ、どうしたのかな?」
「あー、ちょっとスキルの使用を忘れて凹んでただけ……。治癒活性の存在、ついさっきまで忘れてた……」
「あ、そういえばケイって治癒活性を持ってたかな? 言われるまで忘れてたよ」
「地味に使ってるとこを見た覚えがない気がするのです!?」
「……纏浄中に使ってダメージを受けてなかったか? まぁその後のアイテムでの回復で問題なかった気もするが」
「あ、そういえばそんな事もあった気がするね?」
「……あったっけ?」
ぶっちゃけ、自分でも前にいつ使ったかとか覚えてないんだよなー。基本的に後衛で動くから被弾が少なくて必要性が薄いんだけどね。
でも最近はちょいちょい前衛もやるから、この辺の回復スキルも上げていくべきかもしれないね。俺の成熟体への進化先は今出てるので確定でいいし、そういう他のスキルの強化も考えてみるか。
「さてと、とりあえず全員が全快したらここでの戦闘のやり方の模索をしていくって事で、頑張っていくぞ!」
「「「「おー!」」」」
みんなの気合は充分! ま、その前に回復が必須だから、ひとまずはまったりとだね。HPが回復してきたら、急速脱皮では回復しきれなかった欠けた部分のあるハサミも無事に戻った!
まぁ防御が低下しているけど、攻撃に使う部位は柔らかかったりしてないだけマシである。脱皮では攻撃の威力の低下はないからね。
さて、早く全快しないかなー? 敵を複数集めての討伐かつ、敵が火属性メインなら、俺とアルで2人発動のウォーターフォールが効果的なはず!
それで倒し切れなかったのは、サヤとヨッシさんとハーレさんに手分けをして倒してもらうのが良さそうだよなー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます