第885話 マグマの中の敵


 さて、成熟体のフェニックスが常駐しているエリアという事で獲物察知が使えないというのが痛いところ。しかも、まともに見通せないマグマの中をワニが泳ぐとは……。


 ん? ちょっと待て!? マグマの中をワニが泳いでいるって事は、魚系の敵が泳いでいる可能性もある? ……マズい、今日はハーレさんに気遣って魚が出てこない場所を選んだつもりが、もし魚系の種族が多く出てくるなら予定が狂う!

 あー、くっそ! そうなると今日は徹底的に予定が狂う日だな。……いや、そうとまだ決まった訳じゃない。まだ焦るには早いぞ。


「っ! サヤ、右側から狙われているのです!」

「右側だね、分かったかな! 『魔力集中』『略:自己強化』!」

「お、クマと竜の同時強化か!」

「確実に捕まえるかな! 『略:雷纏い』!」


 おー、完全にサヤはワニを捕まえる気で動いているね。そういやサヤは発火草茶で適応してるから、見た目はいつも通りか。

 竜で雷纏いを発動したから帯電はしてるけど。ふむ、クマで受け止めて、竜で巻きついて押さえ込む気か。


「そこかな! 『強爪撃』!」


 おっ、ワニからの突撃は守勢付与の自動防御で防ぎ、そこから追撃で噛みつこうとしたワニをクマの爪で顎の下から切り上げ、ワニの口を竜で巻きつく形で塞いでいく。

 ハーレさんの危機察知と俺の守勢付与を利用し、クマと竜を同時に使った上手い捕まえ方だな! ただ、雷纏いだけでは麻痺は入ってくれずにワニは暴れている。……このワニ、麻痺が効くのか効かないのか、そこをはっきりさせたいな。


「アル、拘束をお願いかな!」

「よし、ナイスだ、サヤ! そうだな、この状況なら……ケイ、海水の拘束魔法でいく!」

「え、なんで……って、麻痺狙いか! よし、それを採用!」

「よしきた! 『シーウォータープリズン』!」

「あ、麻痺が入ったのさー!」

「おし、このワニには麻痺は有効か!」


 アルの発動した海水の球に覆われて、サヤの竜が帯電していた電気がワニに流れていったようで、さっきまでは効かなかった麻痺が効いたね。サヤ単独では足りなかったけど、海水と合わせる事で効果が増したっぽい。


「よし、今のうちにここの敵を識別しとくぞ!」

「ケイさん、お願いなのさー!」


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 56/78(上限値使用:3)


『耐熱牙突ワニ』Lv23

 種族:黒の瘴気強化種(耐熱牙突種)

 進化階位:未成体・黒の瘴気強化種

 属性:火

 特性:マグマ適応、突撃、牙撃



 あー、なんとなく予想はしてたけど、このマグマ適応ってのがマグマの中でも泳げるようになってる特性みたいだね。……他には特筆すべき点はないか。


「『耐熱牙突ワニ』でLv23の瘴気強化種! 属性は火で、特性はマグマ適応、突撃、牙撃! マグマの中を動けるってだけで、特別厄介な特性はないっぽい!」

「了解だ! ケイ、ここからどうする?」

「このワニ、火属性は持ってるけど物理寄りっぽいし、ヨッシさんの電気魔法で……あ、ちょい待った! どうせなら俺の付与魔法で水属性を付与して、ダメージを増やそう」

「あ、それはありかな!」

「ケイさん、消耗は大丈夫ですか!?」

「次の1戦で回復させてもらうから、そこは問題ない!」

「なら、その方向で決定だな。ケイ、俺はこのまま拘束か?」

「私もかな?」

「おう、アルとサヤはそのままで頼んだ!」

「了解だ!」

「分かったかな!」


 サヤの竜の雷纏いとアルの海水魔法のコンボで見事に麻痺が効いているし、ここでヨッシさんの電気魔法を叩き込めばかなりのダメージになるだろう。

 そこに水属性を強制的に付与して、電気魔法を弱点化してやれば効果絶大なはず!


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 49/78(上限値使用:3): 魔力値 150/222


 よし、これで真っ赤なワニに水属性を示す青い模様が入ったから付与は成功! この効果が出るのは次に発動するスキルからで、今の俺だと攻撃3回分だな。


「ヨッシさん、一気に仕留めよう! エレクトロインパクト、3連発くらいで!」

「了解! 『エレクトロインパクト』『エレクトロインパクト』『エレクトロインパクト』!」


 おぉ、見事な程に一気にワニのHPが削れていく。1発のエレクトロインパクトでHPの3割以上が消し飛んでるし、これはあっという間に決着がつきそうだ。

 あ、ワニのHPが全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。よし、思ったより楽勝!


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 瘴気強化種だったから進化ポイントも無事確保っと。ふぅ、水の付与魔法と電気魔法と海水魔法の連携は意外と使えるね。

 それにかなり経験値が多いような気もする。うん、経験値が多い事については文句なし!


「ケイ、ヨッシ、ナイスかな!」

「撃破完了っと。それなりに消費はするけど、これは結構良い感じだね」

「そうなのさー! でも次の敵は私とサヤがメインで仕留めるのです!」

「俺は回復をさせときたいから、任せるぞー! まぁ敵の種類にもよるけど」

「ま、そりゃそうだ。とりあえずこのエリアはハーレさんの危機察知頼りになりそうだな」

「ふっふっふ、私の大活躍の機会なのさー!」

「こら、あんまり調子に乗りすぎないの。油断してると足元を掬われるよ?」

「それでマグマの中に落ちて、死亡かな?」

「あぅ!? それは嫌なのさー!?」


 あー、そういやマグマ適応って特性があるなら、それが無いと死ぬのか? うーん、これはちょっと試しておきたいけど、どうなんだ?


「……ちょっとマグマの中に落ちてみるとどうなるか、試してみるか」

「それはいいが、ケイ、どうやって試す気だ?」

「それが問題なんだよなー」


 そもそもの話、俺とアルとヨッシさんはここの暑さに耐えられない可能性が極めて高いから纏火で適応している。その上で種族的な弱点は残っているし、他の属性との兼ね合いもあって純粋な火属性よりも適応性能は低い。

 かと言って、ハーレさんやサヤについては纏火ではなく発火草茶での適応だから、ほぼ確実に耐えられない。……うん、ここまで考えたら落ちたら死ぬってのが大前提になるか。


「……遠隔同調でコケを安全圏に置いた上で、ロブスターで突っ込んでみるか? 即死さえしなけりゃ、脱皮で何とかなるし……」

「正直そこまでする必要も無い気はするが、やるというなら止めはしないぞ」

「いや、落ちたらどのくらいやばいかは確認したいんだよ。ほら、まともに飛ばしてくれないし、不意に落ちたらやばそうじゃん?」

「……確かにそれはそうかな」

「はい! ケイさんの意見に賛成です!」

「……そだね。万が一には備えておきたいかも」


 まぁ今言った事は事実ではあるけども、それ以上に魚系の敵がマグマの中に潜んでいないかを確認したいんだよね。……正直、見えるかどうか怪しいとは思うけど。

 うーん、まぁ魚系の敵についてはオマケとしても、万が一には備えておくべきか。ハーレさんの危機察知があるとはいえ、出てくる敵が1体ずつとも限らないしね。


「……とりあえずやるだけやってみる。あ、そっちの広いとこに移動してからにするか」

「それもそうだな。通路みたいな狭い場所だと対応しきれんし」

「それじゃ少しだけど移動なのです!」


 とりあえずすぐ先に見えてた広間っぽいとこに到着。狭い通路みたいな場所と、今いる広間みたいな場所が交互に設置されてるっぽいね。


「さてと、それじゃ実験を始めますか」


 マグマに触れたらどうなるかも気になるけど、それで自分自身を殺せるかどうかも気になるところ。

 もしこれで死ねるのなら、進化の時が楽にはなる。……フェニックスに焼き殺されても良いけどねー。


 というか、このマグマに飛び込みまくって死にまくれば、マグマへの適応の為の適応進化は発生しそうだよね。……ここは仲間の呼び声を使って、幼生体の時に火属性へ適応進化させるのに良さそうな気がする。


「ケイさん、ファイト!」

「ほいよっと。あ、敵が出てきたら、対応は頼むぞー!」

「了解なのさー!」

「任せてかな!」

「おう、任せとけ!」


 よし、それじゃやってみますかね。まぁロブスターの全身でマグマに潜る必要もないから、ハサミを着けてみるだけでもいいのか。

 でもまぁ、コケが焼け死んで全滅したら厄介だから、安全策を取って遠隔同調でコケは安全圏に退避させとこう。


「サヤ、1個小石をくれー! てか、近くで持っててくれ」

「あ、コケの核の待避場所かな?」

「おう、そんな感じ」

「えっと、これでいいかな?」

「お、サンキュー!」


 流石に熱されている感じのある地面には直接コケを増殖するのは怖いからね。ここ、俺のコケにとってはとんでもなく危険なエリアなのでは……?

 まぁ植物系の種族全般にとって危険なエリアか。……一応後で地面にコケを増殖させても大丈夫なのかも試しとこ。


 さて、まずはマグマの危険性の調査からだな。とりあえず遠隔同調の発動から!


<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します>  行動値 49/78 → 49/63(上限値使用:18):効果時間 5分


 よし、次はサヤが俺のロブスターの背の上に置いてくれている小石にコケを増殖させて核の移動だ!


<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 48/63(上限値使用:18)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 47/63(上限値使用:18)

<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>


 行動値の消費は出来るだけ抑える為にLv1での発動っと。コケの核のすぐ近くに置いてくれた石に移動するにはこれで充分だね。

 それにコケの核を小石に移動した事で、視覚の分割も問題なし。とりあえずコケの視点はあまり必要ないから、ロブスターの視点をメインで。


「よし、それじゃサヤはコケの核を頼んだ! さーて、ロブスターの即死だけは避けないとな」

「ケイさん、ちょっと良いですか!?」

「ん? どうした、ハーレさん?」

「ロブスターが死んだら大幅に弱体化するよねー!? コケの核だけ安全な場所に退避して意味あるのですか!?」

「そりゃ……そういや意味ないな。むしろコケも死んでアルの木からリスポーンした方がマシ……って、あー!? そういやアルにリスポーン位置の設定をし直してない!?」

「あ、そういえばそうかな!?」

「昨日、オオサンショウウオと戦闘する時にミズキの森林に設定したままだよね?」

「そういえばそうだったのです!?」

「……完全に忘れてたな」


 うっわ、危なー! 遠隔同調はぶっちゃけ無意味な気もしてきたけど、結果的にはもっと重要な事を思い出すきっかけになって良かった!


「マグマがどうとか言う前に、忘れないうちにアルの木にリスポーン位置を再設定しとくぞ」

「「「おー!」」」

「……フェニックスの時、死ななくてよかったな」

「だよなー!?」


 冗談抜きであの時は完全にリスポーン位置の再設定の事が抜け落ちていたから、誰も死なずに済んで良かったよ。

 もし死んでたらアルの木から復活するつもりで、ミズキの森林で復活する事になってた訳だしね。あー、色々と何事もなくて良かった。



 という事で、大急ぎでみんながアルの木へとリスポーン位置の再設定をしていき、アルの木が死なない限りはすぐに復活してこれるようにはなった。うん、ホッとしたよ。


「で、ケイ? 結局マグマはどうすんだ?」

「んー、まぁ遠隔同調は無意味だったっぽいけど、ロブスターのハサミをマグマに突っ込んでみるわ。脱皮するのを大前提で」

「おし、そういう方針だな。ハーレさん、危機察知は頼むぜ?」

「ふっふっふ、そこは任せてなのさー!」

「よし、それじゃ行ってくる」


 ロブスターの片方のハサミとしばらくの防御の低下を代償にしての確認を開始だな! それにしてもゲームとはいえ、マグマに自ら手……いや、ハサミだけど、まぁ自分から突っ込む事になるとは思わなかったね。

 ま、そこは気にしても仕方ないので、思いきってハサミをマグマの中へと突入! んー、意外と平気っぽいような……。


「って、少しは耐えれるけど、一気にHPが減り出した!?」


 慌ててハサミを引き抜けば、ロブスターのハサミの甲殻部分は完全に熱で溶けている。……てか、ハサミの身が剥き出しになるって事があるんだね。

 ふむ、この状態って攻撃に使えるのか? うーん、一応部位としてはハサミだけど、挟む攻撃は無理そう。打撃が発動出来れば御の字ってとこ?


 あー、ともかく火属性にしただけだとマグマには耐えられないのはよく分かった。特に暑さが明確な弱点ではないロブスターで無理なら、元々弱点として持っている俺のコケや、アルの木や、ヨッシさんのハチは絶対に無理だ。

 このエリアで活動している間は、このマグマの位置には要注意だな。……死ぬかどうかまでは試せないけど、これは多分普通に死ぬ。どう見てもエリア的に殺しにかかってきてるし。


「……じゅるり」

「おい、ハーレさん!? 今、思いっきり美味そうって思っただろ!?」

「もちろんなのさー! そう思うなと言う方が無茶なのです!」

「堂々と言い切った!?」


 いや、まぁ気持ちは分からなくはないけどさ。そこで堂々と言い切るのがハーレさんらしいというか、食い意地が張ってるというか……。

 まぁハーレさんらしさが出てていいか。特に今日は朝から色々とあったしね。


「はっ!? ケイさん、マグマの中から危機察知に反応です!」

「え、ちょ!? マジか!?」


 くっ、マグマの中から出てきたのは赤いオオカミだと!? そんなのがこのマグマの中にいるのかよ! いや、今日については魚じゃなくて良かったけども!

 しかも俺のロブスターのハサミの身に噛み付いてきた!? ヤバい、このオオカミ、俺をマグマの中へと引き摺り込むつもりっぽい!? くそっ、どうにか逃げないと!


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