第884話 フェニックスの魔法
サヤがフェニックスを目視で確認し、俺らにもその姿が見え始めてきた。……凄い勢いで近付いてきてはいるけど、様子としては入ってきた時と同じような感じか。
「ハーレさん、危機察知に反応は!?」
「なしです! 多分ここまで来たら大丈夫なのさー!」
「おわっ!? 振り下ろそうったってそうはいくか! 狙ってた絶好のスクショチャンスは逃さねぇぜ!」
ん? えーと、なんとか俺らは攻撃される事なくフェニックスは通り過ぎていったけど、その脚に巻きついていた赤いウネウネ動く枝……って、この声はさっきのヘビの人!? え、何やってんの!?
「ふっはっはっ! 飛行する相手を狙いに行くフェニックスのスクショは撮ったぞー!」
あ、ヘビの人がフェニックスを探していたのってそういう理由なのか。なんというか、邪魔になるどころか、絶好の撮影チャンスを作った形になったみたいだね。
でも、フェニックスの脚に絡みついている状態って大丈夫なのか? あ、そもそも成熟体相手にスクショを撮ろうとした時点でほぼ死亡は確定みたいなもんか。
「……これ、私達が攻撃に巻き込まれたりはしないかな?」
「その可能性があったー!? みんな、退避ー!」
「おおう!? 俺の行動の巻き添えで死なせるという訳にはいかねぇな! おらよ、フェニックス! 殺してぇのは俺だけだよなぁ!?」
あ、そんな事を言いながらヘビの人は俺らのいない方に向けて飛び降りて、地面へと着地した。……なるほど、このヘビの人はディールさんっていうのか。
でも、この状況はのんびり話せる状態じゃないな。……俺らを巻き込まない為に、わざわざ離れた位置に移動してくれてみたいだし。
「あ、フェニックスが止まったかな」
「おぉ、殺意が漲ってんな、おい!」
あ、そうしている間にフェニックスが動きを止めて、滞空し、嘴の前に火の玉を収束させている? え、火属性の魔法っぽいけど、魔法砲撃……じゃないな!?
これってもしかして成熟体からの未知の魔法の1つか!? てか、完全にヘビの人は死ぬ気だな。
「死んで悔いなし! 既に俺は目的を果たした!」
そしてフェニックスが収束させた火の玉は多数の槍状の炎へと変わり、ヘビの人を次々と貫いていき、HPは全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。
「今の躊躇のない死にっぷり、ザックさんを連想したかな」
「あ、それは私も思った」
「私もなのです! というか、今のヘビの人の撮ったスクショが地味に見たいのさー!?」
「あー、角度次第ではあるが俺らも写ってんじゃねぇか?」
「はっ!? アルさん、それは確かにありそうなのです! もしスクショの承諾が来たら貰っとくのさー!」
「このタイミングで撮ったならスクショのコンテストにも出してきそうだよなー。俺らが見れるかどうかは運営の事前選考次第ではあるけど」
「うーむ、それはそれでライバルになるのです……!」
ま、ヘビのディールさんは灰の群集の人だったし、個人だったから出すとしたら個人部門か。俺は個人部門は取れるとは思っていないから初めから諦めてるけど、ハーレさんは地味に狙ってやってるもんな。
「それにしても、今のは成熟体からの魔法だろうなー。うん、あの魔法はカッコいいな!」
「見た感じでは炎の槍を複数作り出し、それを撃ち出す魔法か。あれは紅焔さんが取りたがりそうだな」
「……炎の槍の本数が地味に厄介そうかな? 10本くらいあったよね?」
「サヤだったら、今のはどう対処する?」
「うーん、根本的に撃たせないかな? 溜めの時間があったし、そこで潰す方が確実だと思う」
「でもアンモナイトみたいにそれが出来ない場合もありそうなのです!」
「……流石にそうなると、対応が厳しいかな」
近接が得意なサヤから見ても、さっきの炎の槍の魔法の対処は難しいようである。……うーん、溜めがあるならそこを狙うのが常套手段って気はするけど、アンモナイトの砂の散弾は発光する謎のスキルでそれが出来ない事もあったしなー。
何かしら対応策はあるような気もするけど……んー、分からん! オオサンショウウオが使ってた黒いあれが何か関係してそうな気がするけど、あれは俺らの方の操作の支配権を強引に無くすものだったしなー。
そうしている間にフェニックスが別の方向へと凄い勢いで飛んでいき、その少し後に叫び声らしきものが響いてきた。
誰かが飛んでいて、フェニックスに殺されたか。うん、このエリア、飛ぶのは超危険。それについてはよーく分かった。
「ふぅ、地味に危なかったみたいだな、俺ら。特にアルの状態が……」
「……正直、俺は心底ホッとしてるぜ。ギリギリもギリギリじゃねぇか」
「……あはは、アルさんが1番危険な状態だったとはねー」
「試しておいて良かったのです!」
「確認せずに下手に移動してたら、それこそ全滅する可能性があったかな」
「だなー」
「……だな」
とりあえずアルの今の高さが、とんでもなくギリギリのラインだったのが分かったのは本当に良かったよ。うん、冗談抜きで色々と心構えを含めた上で下準備をして確認していなければ、不意を突かれて全滅の可能性もあり得た。
フェニックスがさっきの魔法を使う条件は一定以上の高さにいる事かどうかは分からないけど、未知の魔法の1つが見れたのも良かったかもしれない。いやー、ほんと良いものを見た。
「よし、俺は今回は飛ばずにいくぜ。……いや、厳密には小型化したクジラで移動して、大々的には飛ばないだな」
「その方が良いだろうなー」
クジラの背の上に木がある状態かつ、全然浮かび上がってない状態でギリギリなら、今の状態で少しでも飛べばアウトである。そりゃ飛ばない方が安全だよね。
「上限発動指示だと時間制限が地味に危険だから、行動値の上限値が大幅に減るが簡略指示の方で発動するぞ。良いよな?」
「……根脚移動と空中浮遊でも上限値は減るよね? アルさん、攻撃出来る余裕はある?」
「あー、まぁ頻繁に回復は必要にはなるが、応用スキルの操作1発くらいは問題ねぇよ。ケイ、俺は魔力値が余り気味になると思うから、必要なら昇華魔法をどんどん使う指示そ出してくれていいぞ」
「ほいよっと。あー、魔力値が尽きて行動値が残ってたら、俺の攻勢付与を使うのもありか?」
「そうか、その手もあったか。よし、それじゃ俺は今回はそういう方向性でいくぞ。『略:小型化』『根脚移動』!」
よし、これでアルのクジラが小型化して牽引していく感じの移動方法に変更だな。これならクジラの体高分だけ低くなったから安全になった。
その代わりにアルの行動値の上限がかなり使用されている状態だから、戦い方は工夫していかないとね。
でもまぁ適時回復しながらの戦闘なら使える行動値の総量はそう変わらないから、一気に大量の行動値を消費する戦い方以外では問題はないか。
「アルさん! この高さなら私は巣に戻っても平気だよねー!?」
「あー、多分大丈夫だとは思うが……」
「ハーレさん、危ないと判断したら即座に降りろよー」
「はーい!」
「一応周囲は警戒しておくかな」
ハーレさんの場合は巣の中にいた方がボーナスダメージもあるから、そっちの方が良いもんな。流石にこれがアウト判定って事はないはず。
「よいしょ! 大丈夫みたいなのさー!」
「うん、こっちも大丈夫そうかな」
「よし、それじゃハーレさんは巣から攻撃をメインでなー!」
「了解です!」
さてと、いつまでも入り口で止まっていても仕方ないし、ここからの方針は移動しながら考えようか。おっと、その前に決めておくべき事を忘れていた。
今いる場所は『名も無き溶岩洞』の入り口であり、広々とした地面のある場所である。そして、進めそうな道は真っ正面、左方向、右方向へと分岐している。
一応、進めそうな道は岩壁で覆われていて、他の道が見通せるようにはなってないっぽいね。
初めに俺らに反応してフェニックスがやってきたのは左方向からで、さっきのヘビの人がスクショを撮った時のは右方向から来た感じだな。
「細かい行動方針は移動しながら決めるとして、どの方向に行きたいか、誰か希望はある?」
「進めるのは前か、左か、右か……。3方向のどこに進むのかが問題だな」
「はい!」
「はい、ハーレさん、希望があればどうぞ」
「左に進むのを希望します!」
「ハーレ、それって理由はある?」
「左方向はさっき悲鳴が聞こえたから、戦ってた人が死んで場所が空いてると思うのさー!」
「あ、確かにそれはそうかな」
「そりゃそうだ。んじゃ、左方向に行きますか!」
「「「「おー!」」」」
確かにハーレさんの着眼点は良いかもしれない。ここにどの程度の人が集まっていてLv上げをしてるか分からないもんな。
フェニックスに仕留められていなくなったとは断定は出来ないけど、空いたという可能性は十分ある。ここのエリア内の情報をろくに持ってない以上は貴重な情報だよね。
「そういや、ハーレさんは巣にいるとして、ケイ達はどうすんだ?」
「私はすぐに対応出来るように、自分で歩いていくかな」
「……俺はどうするかなー。ヨッシさん、氷ってどの程度使えそう?」
「多分、全然使えないと思うよ。ハーレと縦穴の調査をした時に、あっという間に溶けちゃったから……」
「あー、そういやそうだっけ」
ふむ、そうなるとヨッシさんの氷は今回のLv上げでは使い物にならないと考えた方がいいか。まぁヨッシさんには毒や電気もあるから、攻撃手段自体は問題ないな。
サヤが近接、ハーレさんとヨッシさんは遠距離、アルは状況に応じてだけどどっちでもいける。俺も近接と遠距離はどっちでもいけるけど……。
「サヤ、敵の種類次第だけど、近接は全面的に任せていいか? 今回、状況次第ではあるけど俺はアルのクジラの頭の上で補助に回るつもりでいく」
「あ、うん、分かったかな!」
「基本的にアルを中心に戦闘でいくぞ。ヨッシさんは毒と電気魔法を中心で、ハーレさんはいつも通り投擲。アルと俺で必要な時に魔法弾は用意する」
「了解! それじゃ私もアルさんの木にいた方が良さそうだね」
「分かったのさー!」
「アルは行動値に余裕がある時は拘束メインで頼む。戦闘時はあんまり場所を移動しないでやるから」
「その辺は敵次第だろうが、了解だ!」
大雑把にだけど役割を決めたら、サヤが少し先行しつつ、アルがその後ろを進んでいくという形になった。俺はアルの小型化したクジラの頭の上で、ハーレさんとヨッシさんは木の上から周囲の警戒を行っている。
うん、通れる道が広くなったり、狭くなったり、これは地味に厄介な地形だね。今いる場所は狭めだし、両側にはマグマが流れているもんなー。体感温度はないけど、見た目が熱いよ!
さて、ここのエリアではどういう風に敵が出てくるか、そこが問題だな。どうにも普通に地面のある場所では敵の姿が見えないんだけど、どこに敵がいるんだ? さっき、マグマの中にワニっぽいのがいるのは見たけども……。
よし、こういう時こそ役立つのが獲物察知……って、ちょっと待て、嫌な可能性に気付いてしまったんだけど!?
「なぁ、みんな。……ここってフェニックスがいるけど、獲物察知を使っても大丈夫だと思う? 近くにいたらヤバくない?」
「……それはヤバい気しかしねぇな」
「成熟体相手にスキルの使用は……危険過ぎるかな?」
「フェニックスが範囲内にいなければ良いけど、範囲内にいたら……」
「今回は獲物察知は封印なのさー!」
「やっぱりそうなるよなー!?」
あー、そりゃそうなるよ! 擬態して隠れてる系統の成熟体以外にスキルを使えば、その時点で問答無用の戦闘開始だしな!
くっそ、この溶岩の洞窟はフェニックスが色々な意味で厄介過ぎる。ここまで面倒なエリアで経験値が少なかったりしたらキレるぞ!
あ、そうだ。獲物察知っていえば、発火草の群生地での効果が短かった件が気になるけど……ふぅ、折角みんながいつも通りに戻ってるのに、ここであそこの話は蒸し返したくないな。
よし、あの件に関してはみんながいない時に理由をちょっと調べてみよう。……可能性として考えてるのは、察知を妨害するようなスキルの存在。ある意味、獲物察知での索敵は破格といえば破格だしね。それを妨害するスキルが存在しても不思議ではない。
擬態する系統のスキルの応用スキルとかで、察知出来なくするようなスキルが存在しないか調べてみようっと。
「はっ!? 危機察知に反応なのです! サヤ、左側のマグマの中からなのさー!」
「マグマの中かな!?」
ハーレさんの危機察知に反応があり、サヤがその警告に合わせて後方の俺らの目前まで飛び退く。その直後に真横を流れていたマグマから真っ赤なワニが、さっきまでサヤがいた場所へと飛びかかり、噛みつきを空振りしていた。
なるほど、ここの敵はマグマの中から飛び出てくる感じか。あー、こりゃまったく、獲物察知は使わせてくれないし、飛ばせてもくれないし、とことん面倒なエリアだな!
「あ、マグマの中に戻ったかな!?」
「サヤ、次にワニが攻撃してきたら防御は守勢付与に任せてカウンターを入れろ! アル、そのタイミングに合わせて根で捕獲!」
「分かったかな!」
「おうよ!」
マグマの中に戻るというのであれば、まずは捕獲してそれを阻止するのが最優先。そこからの攻撃は……色々と考えられるけど、とにかく捕まえてからだな。
「はっ!? ワニがマグマの中で泳げるって事は、プレイヤーも泳ごうと思えば泳げるのー!?」
「……その発想はなかった」
「でも、可能性としてはあるんじゃねぇか?」
うーん、確かにこういう戦い方になるのであれば、それが出来る可能性は無いとは言えない。でも、纏火でどうにかなるもんなのか?
他の専用の適応方法が必要という可能性も否定は出来ないような気もする。それこそ、深海に行くのに深海耐性が必要だって感じでさ。
「まぁその確認は後でだな。ハーレさん、今は危機察知が頼りだから頼むぞ」
「責任重大なのさー!? でも頑張るのです!」
「いつでもかかってきてかな!」
さて、さっさとワニを捕獲してからぶっ倒して、ここのエリアに向いた戦闘方法を確立していこうじゃないか。Lv上げをしていく以上、雑魚敵を相手に苦戦なんかしてられない!
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