第887話 色々と特殊なエリア


 行動値を回復させている間に、変異で手に入れた急速脱皮による防御低下は解除になった。流石に戦闘中に使えばその間に解除は難しいだろうけど、これは脱皮よりも使い勝手は良いかもしれない。


<『遠隔同調Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 30/78(上限値使用:3)

<『遠隔同調』の効果による視界を分割表示を終了します>


 あ、遠隔同調の方も解除になったね。元々コケの視点に本格的に切り替えてなかったから、ロブスターの背中のコケに核が戻ってきて、コケ側の視点の同時表示が無くなった。

 まぁ遠隔同調の役目は済んだし、これで特に問題はなし! さっきのオオカミ相手には役立ってくれたしねー! それはそれで良いんだけど……。


「……ここって、俺らから何もしなかったら全然敵は襲ってこない?」

「マグマに近付かないと襲ってはこないみたいだな。……時々顔を出してはいるが」


 今いる場所はさっきの赤いオオカミと戦った場所ではあるけど、それなりに広い足場で、俺らはその真ん中で回復中。綺麗に円形になってる訳じゃないけど、大雑把な目測としては半径3メートルって感じの広さか。

 そして、その回復の間でちょっと意外だったのが敵が全然襲って来なかった事。……逆に言えば、こうやって回復に専念する必要性がある状況になりそうって気がするなぁ。


 実際、周囲に敵が全くいない訳じゃなく、アルが言っているように周囲のマグマの中から頭だけが見えていたりするし……。


「あ、今度は燃えてる松の木かな?」

「おー! 松の木って、凄いのがマグマの中にいるのさ!?」

「……あはは、木が普通にマグマの中を歩いてるのはびっくりだね」

「……だなぁ」

「他の場所も割となんでもありだが、ここはそれ以上に無茶苦茶だな」


 うん、その辺はアルに全面的に同意だよ。今の松の木を筆頭に、大根とか、スイカとか見かけたからね。既に戦ったワニとかオオカミとかが普通に思えるのは凄いよ。

 まぁ心配していた魚系が多いかもという心配は要らなかったようだから、その辺はありがたいけどさ。


「なぁ、アル」

「なんだ、ケイ?」

「こういう場所で位置を固定するなら、根下ろししても良いんじゃね?」

「あー、確かにその手はありか。その方が根脚移動の分だけ上限値の使用も減るし、そうするか」

「……ここって根を下ろしても大丈夫なのかな?」

「……その不安も無くはないが、そこはやってみるしかないだろうな。『根下ろし』!」


 そう言いながらクジラに牽引されて根で歩いている状態のアルの蜜柑の木が、地面の中へと根を伸ばしていく。おー、ここの足場のど真ん中へ無事に根が地面に埋まっていったね。

 ふむ、纏火と発火を使っているままだから周囲がマグマに囲まれたこの足場に割と良い感じに馴染んでるな。特に根下ろし自体も問題は無さそうだ。


 そういやこの状態だとクジラってどうなるんだ? アルの木がクジラと共生進化するようになってから殆ど根下ろしをする機会って無くなってたけど……お、クジラの尾ビレに根が巻きつく形で繋がってるのか。


「アル、その状態でクジラはどの程度動けるんだ?」

「前に試した事はあるが、その時は小型化してなかったから正確には分からんな……。今の状態で試してみたいが、まだ全快してないから今は動けん」

「……まずは回復が優先かー」


 今の状態でアルのクジラの移動範囲を調べようとして、周囲の敵がやってきた方が面倒だもんな。……根本的にここは敵の数が多い気もするし。


「……こうなってくると、マグマの中がどうなってるのかが気になってくるかな?」

「下手に突っ込めば、周囲が敵だらけってのもありそうだよね」

「群がられて、危険な気がするのさー!?」

「逆に、適応してたら何もされないってのもあるかもしれないけどな」

「これも実際に試してみないと不明かー。……この洞窟、ちょっと特殊な要素が多過ぎないか?」

「それは私も思ったかな。かなり行動に制限がかかってるよね」

「……飛ぶ高さの制限はあるし、移動中には奇襲されやすいし、マグマに近づけば引き摺り込まれるし、かなり厄介だよね」

「でもその分、経験値は良さそうなのさー! まだ2体分だけだから絶対とは言えないけど!」

「……これで経験値が少なかったら、フィールドボスの連戦に切り替えだなー」

「……あはは、確かにその場合はその方がいいかな?」


 でもまぁ俺らのLv帯でのおすすめのLv上げ場所になってたから、経験値が少ないって事はないはず。……うん、おすすめとは見たけど、ここまで特殊だとは思ってなかった。


<規定数のフィールドボスの討伐を達成しました>

<命名クエスト『命名せよ:名も無き溶岩洞』を開始します>

<本クエストは現在該当エリアに滞在中のプレイヤーが対象になります>

<以下の選択肢より、30分以内に好きなものを選んでください。一番多かった選択肢が新しいエリア名となります>


【命名候補】

 1:ルーフス洞穴

 2:グラナータ灼熱洞

 3:溶岩参道

 4:ラーヴァラヴァ洞窟



 うおっ!? いきなり目の前にメッセージが表示されてびっくりした!? いきなりなんだ……って、命名クエストの発生か。

 これ、戦闘中じゃなくて良かったー! 戦闘中にこのメッセージが出てきたら、大きな隙が出来るぞ、これ! 


「命名クエストが発生したって事はフィールドボスが倒されたんだよなー。……このエリアでフィールドボス戦とかしたくないんだけど!?」

「ケイ、俺らがフィールドボス戦をする訳じゃないから落ち着け。……まぁ気持ちは分かるが」

「そこは自然発生のフィールドボスか、プレイヤーが生み出したフィールドボスか、どっちなのかが重要じゃないかな? 自然発生の場合なら遭遇する可能性もあるし」

「詳細が分からないと何とも言えないのさー!?」

「まぁ命名クエストが発生したばっかなら、すぐに自然発生はないだろうし、大丈夫じゃない?」

「……そう思いたいけど、ここのエリアは油断しない方が良い気がする。対処を間違えたら死ぬ要素、既にいくつもあったし」

「……あはは、確かにそれも否定出来ないね」


 思いっきり初見殺しの要素があちこちにあるから、自然発生のフィールドボスがその辺のマグマから出てきたとしても驚かないぞ。

 まぁもし仮に出てきたとしても、同じ進化階位の相手なら絶対に勝てないようなバランスにはなっていないはず。……多分。


「とりあえず命名クエストをやるかー。みんな、どれにする?」

「はい! 私はネタっぽい『ラーヴァラヴァ洞窟』にします!」

「『ラヴァ』が溶岩だったか。……繰り返して伸ばしてるとなると、確かにネタ選択肢だな」

「そういうアルさんは何にするのー!?」

「……俺はどうするか。『ルーフス洞穴』は……なんだか地味だか。『溶岩参道』は……参道って、この通り道や広間みたいな場所の事を示してそうだな。ふむ、『グラナータ灼熱洞』にするか。いや、だがこれは……」

「ん? アル、『グラナータ灼熱洞』って何か問題あるのか?」

「いや、グラナータって果物のザクロ……そうでないならザクロ石、ガーネットとも言うからな。赤を連想するのは……いや、それで考えるとルーフスも赤色か」

「あー、赤の群集を連想する感じになるのか」


 というか、ルーフスは赤色で、グラナータはザクロとかガーネットなんだ。相変わらずアルは色々と知ってるもんだな。俺はその辺、全然知らなかったよ。

 うーん、語感的には『グラナータ灼熱洞』を選びたかったけど、そう聞くと少し悩むね。エリア的には合ってるような気はするけど……赤の群集を連想するって理由はちょっと気にし過ぎか?


「んー、ここで赤の群集を気にしてても仕方ないし、私は『グラナータ灼熱洞』にしようっと」

「私も『グラナータ灼熱洞』が良いかな」


 ふむふむ、サヤとヨッシさんは『グラナータ灼熱洞』か。ネタ枠の『ラーヴァラヴァ洞窟』を選んで後々の人達に初見殺しのエリアを油断してもらうという手も……うん、そういう理由で選ぶのはやめとこ。

 赤を連想すると言っても、根本的にはマグマの色に対してのものだろうし、深く考えても仕方ないな。単純に語感で気に入った『グラナータ灼熱洞』に投票しようっと。


「ケイはどうすんだ?」

「ヨッシさんの言う通り、赤の群集の事を気にしても仕方ないから、シンプルに気に入った『グラナータ灼熱洞』にしたぞ」

「まぁそれが選ぶ理由としては無難なとこか」

「それでアルさんは結局どうするのー!?」

「……そうだな。俺は『溶岩参道』にしておくか」

「その心はなんですか!?」

「見方によっては溶岩の中にある参道っぽいだろ、このエリア」

「おー! なるほど!」


 ふむふむ、確かに明確に通る場所を決められていて、周囲には溶岩……まぁマグマで満ちてるもんな。参道と言われれば、確かにそんな感じもする。


「この先にでも、フェニックスの巣でもあればそれっぽいかな?」

「あはは、確かにそれがあれば祀られてるみたいで本当に参道っぽいよね」

「あれか、もしかするとあの間欠泉がそれに相当してるとか?」


 うん、思いつきで言ってみただけだけど、割とあり得る可能性かもしれない。ハーレさん以外は直接見てないけど、あそこはどう考えても結構特殊なはず。

 根本的に高さの制限がかかるエリアにある、特殊な事象を起こす為の洞窟の天井に近い高い部分にある場所だもんな。


「はっ!? 確かにあれはあれで、特殊なものではあるのさー!?」

「……そういやハーレさんは洞窟の高い位置にいたはずだが、あそこはフェニックスの標的にならなかったのか?」

「あ、そうなるのか。ハーレさん、あの時フェニックスって見た?」

「見てないのさー! 見える位置にフェニックスがいたら、絶対に見落とさないのさー!」

「ま、そりゃそうだ」


 となると、ハーレさんが確認したあの場所はこの溶岩の洞窟の中でも特殊な場所であるのは間違いないっぽいね。ま、だからといって何か他にあるとも限らないし、今は深く考えなくてもいいな。

 それにこうやって話している間で行動値は全快したし、纏火の効果時間も勿体ない。既に効果時間の半分の15分は使ってるしね。命名クエストが回復中に発生だったのもありがたかった。


「おっし、命名クエストの選択は終わったし、そろそろ戦闘再開だな。みんな、そろそろ全快したよな?」

「おう、問題ねぇぜ」

「準備はばっちりです!」

「大量の敵でもどんとこいかな!」

「まぁ出来れば1人1体くらいまでにしておいて欲しいけどね」

「確かにそりゃそうだ。あ、サヤ、ハーレさん、魔力集中や自己強化の残り時間は?」

「まだ5分くらいはいけるかな」

「私も同じくらいなのさー!」

「あー、残り時間はそんなもんか」


 途中で休憩を挟んでしまった以上、そこで制限時間を無駄に消費してしまったのは仕方ないな。まぁ自己強化が切れたら魔力集中に切り替えて、魔力集中が切れたら自己強化に切り替えてしまえば問題はない。

 どちらかと言えば、戦闘中の応用スキルの再使用時間の方が問題か。どの程度の数まで敵が出てくるか分からないけど、温存する時と、盛大に叩き込むタイミングは計らないとね。


 さて、敵を誘き出すのにハーレさんの投擲を使う予定だったけど、回復を待ってる間の様子を見てたら、その必要ってなさそうな気がするんだよな。そうなると……これは試しておくべきだろう。


「とりあえず様子を見ながらやっていくか! アル、とりあえずクジラの移動範囲を確認するついでで、この広間をぐるっと移動してくれ。おまけで初っ端から応用スキルをぶっ放しちまえ!」

「そうしたいとこだが、クジラはチャージだけで連撃は持ってねぇぞ!?」

「あ、そういやそうだった。んじゃ、自己強化で翻弄しつつ引きつけるって感じで!」

「……要は俺が囮って訳か。おし、任せとけ。『略:自己強化』!」


 アルのクジラが自己強化を発動して、マグマへと近付いていった。まだ速度は上げておらず、ゆっくりと、ゆっくりと、移動出来る範囲を探りながらマグマに向けて泳いでいく。

 クジラの尾ビレに絡まっている木の根が伸びていきながら……根が伸び切って、クジラの泳ぎが止まったね。


「アル、そこら辺が限界っぽい?」

「……そうみたいだな。最大で根の長さが2メートルってとこだが、充分っぽいな!」

「わっ!? マグマからカエルが飛び出て来たのさー!?」

「小型化してもクジラの体長が1メートルくらいはあるから、今は距離的には十分みたいだね!」

「だな! んじゃ次々行くぜ!」

「おうよ! みんな、アルが1周したら戦闘開始で!」

「「「おー!」」」


 そうしてアルが根を下ろした木を中心に円を描くようにクジラで泳いでいく。ちょっとマグマには遠い部分もあったけど、近い部分の付近を通れば次々とマグマの中から敵が現れてくる。

 なるほど、やっぱりマグマに近付けば敵の方から出てきて襲いかかってくるんだな。ここはそういうエリアか。


「ちょ、これってさっきの松の木か!」

「あっ、次に出てきたのは大根かな!」

「次はリスなのさー!? あ、見た目が赤いし、なんかレナさんに似てるのです!」

「今度はイノシシだね!」

「おし、1周したぞ! とりあえずは5体同時か」

「みたいだなー。俺らと同じ数なのはただ偶然か、それとも意図的にそうなるように調整されているのか、そこが気になるとこだけど……」

「それはこれからどんどん戦っていけば分かるのです!」

「ま、そりゃそうだ! それじゃ戦闘開始!」

「「「「おー!」」」」


 この何か意図のある感じのする敵の数については、何度も戦闘を繰り返せば分かってくる話だ。だったら、今は目の前に出てきた敵を倒すまで!

 5体ともアルのクジラを追いかけてきた形になっているから固まってはいる。数を減らす為にアルと2人で昇華魔法をぶっ放すのは確定としても、他にも手は打っておきたいところ。さーて、どう動きますか!

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