第879話 無所属達は……


 以前、ウィルさんが絡んでいた赤の群集の騒動。あれに黒幕がいたのは欠片も想像していなかった。

 でも、レナさんを筆頭に、元赤の群集で今は無所属になっている人の一部がその存在を見つけ出して、始末を終えたのが今回の顛末……。


「ちょっと待った! え、さっきの音声ありでの中継してたって事で良いんだよな!? そもそも無所属だと音声がカットされないって仕様自体を初めて知ったけど、いや、言いたいのはそこじゃない!」

「ケイ、少し落ち着け。その仕様に関しては……レナは言ってはいなかったが、おそらくそれはバグの可能性がある」

「ちょ、ベスタ!? それってレナさん達、余計にマズくない!?」

「……だから覚悟の上だって言ったんだろう。俺も含めて、中継を頼まれた側は困惑してたからな」

「……マジか」


 あのスライム……黒幕だと自分から暴露したカガミモチを出し抜く為にはそうするしかなかったのだろうか……。

 その無所属からの中継だと音声込みになる仕様が普通に知られていたら、あんな風に自分からやった事を言う訳もないよな……。それがバグである可能性か。

 バグの意図的な利用と、それを使っての晒し上げ。……それをやった理由は理由だけど、決して褒められた手段ではないし、運営としても判断が難しいところな気がする。


「……ベスタ、少し聞きたい」

「なんだ、羅刹?」

「……お前は今回の件、どこまで知っていた?」

「俺が知っていたのは、黒幕が存在するかもしれないという部分までだな。具体的に情報を集めて、それを統合して、共通する人物を炙り出し、カガミモチ1人に断定したのはレナだからな。ただ、個人の特定に至ったのはつい最近らしいが……」

「……そう、か。ウィルには……伝わってないよな?」

「それは……」


 ベスタが言い淀んでいるけども、ウィルさんに今後この事が伝わらないという事はないだろう。……全てあのスライムが喋ってしまい、それが中継によって広まってしまった筈だしな。


「……羅刹、気にするな。途中から聞いていた」

「ウィル!? お前、なんでもうここに!?」

「……カガミモチから、この場所は聞いていてな。近場で採集をしてたんだが、そこの灰の群集のPTが気付かれないように溶岩の洞窟の方からすぐに現場に行けと……。そうか、俺が火種なのは変わりないが……カガミモチが裏でそんな事を……」

「……ふん!」


 そこにはクマのウィルさんと、ボロボロになっているプロメテウスさんやケイン達のPTがいた。……HPがギリギリまで減っていて死にかけてるじゃん!?

 どうやら群生地の洞窟の下側から来ていて、岩を生成してその影に隠れていたっぽい。てか、俺の獲物察知、いつ効果が切れてたんだよ。全然察知出来てないじゃん。羅刹がカメレオンで来た頃には周囲に反応はあったけど……その後くらいから反応してないような?

 いや、それは今はいいや。それよりも何がどうしてこういう状態になってるんだ?


「プロメテウスさん、一体何が……?」

「あー、ケイさん達が情報共有板から離れた後、岩の崩れた音がしなかった件について色々と話し合ってた時に、レナさんが知り合い……まぁ今考えると中継をしてた無所属の連中からだったんだろうよ。そこから情報を仕入れて……一気に今回の発見に何か裏があるって不穏な流れになってな」

「……なるほど」

「そこで手が空いていた我らが戦力として呼ばれたのだ! なぁ、疾風の!」

「そういう事だぜ! なぁ、迅雷の!」


 そっか、俺らが情報共有板から離れた後にそんな事があったのか。でも、それがプロメテウスさん……いや、隠していた大岩はケインのものか。

 近くにいたという事なんだろうけど、なんで一緒に来ているんだろうか。……溶岩の洞窟を抜けてきたっぽいけど適正Lvじゃないはずだし、そこまでするウィルさんとの関係性があったとも思えない。


「俺が無茶をしたのが不思議だって様子だな! ……そのウィルって奴と、ケイ! そこにリーダーが混ざって何か裏工作してたくらいは見抜いてんだよ! 本当に悪意を持っただけの奴に情けをかける真似をするはずがねぇのくらいは分かるし、それなら放っておけるわけがねぇだろ!」

「……そうか、そうだったんだな」

「ふん! テメェにどうこう言われる筋合いはねぇよ!」


 ははっ、単に八つ当たりで難癖をつけてくるだけの嫌な奴かと思ったけど、ケインにも良いとこもあるみたいじゃん。

 そっか、ウィルさんの件に何かあると分かっていて、当事者が関わるべきだと無茶をして連れてきたくれたんだな。


「……ウィル、大丈夫か?」

「……イブキか。正直に言えば、割とショックがある。まさか、また滅茶苦茶にしようと画策してる奴が……俺が人と馴染めるようにと気にかけていた人物だったとは……な」


 それは確かにショックだろうし、火種を作ってしまった事を後悔して責任感からどうにかしようと動いていたのに、そもそもその時点からずっと黒幕がいた事自体にもショックなんだろうな。

 何というか、これはどう声をかけていいのかわからない。少なからず俺らの関与していたとはいえ、本質的には赤の群集の内部で起こった事だしな。


「んなもん、気にし過ぎてんじゃねぇよ、このバカウィルが!」

「……ガスト!? なんでここに!?」

「あんな中継を見せられて大人しくしとけるか! あー、良かったぜ、近くに登録してる転移の実があってよ!」

「そうだよ、ウィルさん。ちなみに今は赤の群集は、あの件に黒幕がいた事が判明して大混乱中だねー」

「しばらくしたら落ち着くとは思うけどね」


 あ、空からガストさんが凄い勢いで突っ込んできて、その後に続くように弥生さんとシュウさんも落下してきて華麗に着地をしていた。

 このタイミングで赤のサファリ同盟もやってきたか。……まぁ中継を見ていれば放っておける状態ではないよな。


「……ガストに、弥生に、シュウか」

「やぁ、ベスタ。突然で悪いけど、レナさんがどうなったか分かるかい? あの中継、多分だけど色々とマズい事をしていたよね?」

「……レナを筆頭にして無所属側の中継役は、今は運営からのバグ利用も含めての判定を受けに行っている」

「なるほど、そういう事かい。弥生、ルアーさんに連絡して状況を説明していくよ。流石にバグ利用の可能性があったとしても、今回の件でレナさん達の処罰があるのは許容出来ない。運営に嘆願を出すよ」

「了解、シュウさん! フラム君にも連絡して、正しい情報を広めて貰うね。ベスタさん、灰の群集の方でも同じ事をお願い出来る?」

「それは当然だ。……そうなると青の群集にも動いてもらいたいとこだな」


 確かにこの状況を好転させるには、数が必要なのは間違いない。それに……あの様子だと、下手すれば青の群集での騒動にも裏から関与していた可能性すらある。

 って、上から影が落ちてきた? あ、岩にタチウオが突き刺さっている状態って事はジェイさんと斬雨さんか! 良いタイミングで……いや、中継を見てやってきたという方が正しいか。


「発火草の群生地が見つかったから全群集で共同撮影会をしようという話が来て、調整をしていたらとんでもない事になったものですね」

「まったく、とんでもねぇ奴が潜んでいたもんだぜ」

「……私達、青の群集も無関係ではなそうな予感がするのも嫌な話ですよ。ベスタさん、青の群集で情報を広めるのは私達の方で請け負いましょう」

「あぁ、そうしてもらえると助かる」

「では、すぐに動きますよ。斬雨はまずジャックに連絡を。私は青のサファリ同盟に話を通します」

「おうよ!」


 なんというか、共同のスクショの撮影会で動いていた事が良い感じに噛み合って動き出しているような気がする。

 てか、俺らはする事がなくて蚊帳の外って感じになってるな……。今すぐに何が出来るって訳でもないけど、俺らも運営への嘆願は送っておくべきだ。


「……なんだか大事になってきたな」

「そりゃあれだけの事があればなぁ……」

「……私がもっと冷静に対処出来ていれば、レナさんは無茶をしなくて済んだのかな……」

「……あぅ、私もなのです」

「それは……」


 流石にヨッシさんも言葉が出ないようである。俺もまさかレナさんがバグの可能性が高いものを利用しているとは思わなかったし、流石にここで気の利いた言葉は出てこない……。

 あぁ、くっそ! あの悪意塗れのカガミモチとかいうスライム、滅茶苦茶な事をしやがって! 


「たっだいまー! いやー、流石に晒し上げ行為とバグ利用は怒られたけど、今後の運営上の問題点の解消って事で相殺してもらっちゃった! あはは、やっぱりあの音声が出る仕様はバグだってさー」

「「「レナさん!?」」」

「およ? あー、心配かけちゃった? うん、ペナルティはなくて済んだから、サヤさんもハーレもヨッシさんもそんなに泣きそうな声を出さないの。ほら、みんなで楽しくゲームが出来るように対処したんだから、暗い雰囲気は無しだよ!」

「……うん、分かったかな!」

「レナさん、無茶させてごめんなさいー! でも、ありがとー!」

「無茶をし過ぎだよ、レナさん……」


 なんというか、いつもの雰囲気のレナさんが戻ってきて気が抜けた。ははっ、運営も中継後すぐにあのスライムのBANに動いた以上は、相当あの言動は問題視したんだろうね。

 それこそ本来ならバグを利用して音声を含めた晒し上げなんて真似は、下手すれば実行した側がBANされる可能性も否定出来ないくらいの事なのに……。


「……あはは、こりゃ困っちゃったなー。あ、弥生とシュウさんも来てたの? およ? ジェイさんと斬雨さんもいるねー。あ、そっか。途中からすっかり忘れてたけど、共同撮影会のお誘いをしてたんだったっけ」

「……忘れていたのですか。こちらは急に変な中継が始まって、その内容を見て焦ってやってきたんですけどね」

「あはは、ジェイさん、ごめん、ごめん。あ、そうそう。青の群集での騒動もあったじゃない? あれにも裏から余計な事を吹き込んでた疑惑はあったよ。こっちは確証までは掴めなかったけど、一応伝えとくね」

「……そうでしたか。その辺りの調査、感謝しておきますよ」

「この件についてはそんなのはどうでも良いよ。わたしは、わたしの意思で、わたしが気に入らない相手を排除しただけだからね。お礼も何も受け取る理由はないから」

「……これ以上何かを言うのは、余計な事になりそうですね。では、そのようにさせていただきますけど、今回の件の全貌を伝えるのは構いませんよね?」

「うん、そこの判断は任せるよー」

「了解しました。羅刹さん、イブキさん、可能な限りで構いませんので、分かる範囲の情報を教えていただけますか?」

「あ、赤の群集の方にも事情説明をお願い出来る?」

「あぁ、それは問題ない。イブキ、お前は赤の群集の方に行け。俺は青の群集の方に行く」

「ま、この状況じゃそうなるよな」

「いえ、赤の群集と一緒で構いませんよ」

「うん、この場合はその方がいいね。それでいい? 羅刹さん、イブキさん?」

「……あぁ、構わん」

「文句を言える状況でもねぇしな……」


 そうして、羅刹とイブキが赤の群集と青の群集へと、今回の事の顛末を説明しに行った。

 まぁ大体は中継での音声で伝わってはいるんだろうけど、抜けがある情報もあるかもしれないし、後始末を行うには重要か。


 そして多分、今回の件で一番ショックを受けているウィルさんの近くにはガストさんがいた。そういやガストさんだっけ、ウィルさんの決意を受け取って赤のサファリ同盟を表舞台に出るように動いたのは。

 うん、ここはガストさんに任せておくのが良いのかもしれないね。


「……ガスト、俺が……俺が火種を作ってなきゃ、こうはなってなかったんだよな……」

「あぁ、初めはそうだったかもな。だけどよ、あいつは他に火種を見つけたら絶対に同じ事をやってたぜ?」

「だけど、俺はその後も……何も気付かずに、利用されて!」

「……ウィル、そう自分を責めるな。黒幕がいた事に気付けなかった、俺ら全員の責任だ。お前だけが背負う事じゃない」

「それで『はい、そうですか』で済ませられる訳がないだろう!」

「本当にそう思うのか? ウィル、お前の周りには誰がいる?」

「……俺の周り? ……あっ」


 そのガストさんの言葉を裏付けるように、レナさんと同様にログイン状態に戻った無所属の人達がウィルさんの元へと集まっていく。


「ウィルさんが悪いってんなら、あっさり乗せられた俺らの方がもっと悪いんだぜ」

「そうそう、勝手に1人で背負いこんでんじゃねぇよ、ウィル!」

「……俺ら、ウィルさんには助けられたんだ。自業自得で居場所を無くして、もうゲームをやめようって思ってた時に、居場所を作ってくれたのはウィルさんなんだよ!」

「ウィルさん、俺らはレナさんから黒幕の話は聞いていた。でも、あんたにだけは片付くまでは伝える気はなかった」

「ま、身近にいたイブキと羅刹にも伝えられない状況にはなってたけどな」

「俺らがやった事は、消えはしねぇ。だけど、二度と起こさないように動く事は出来る」

「……お、お前ら」


 そっか、ウィルさんが騒動の火種にはなったけども、騒動が落ち着いた後に反省した人達の居場所を作り上げたのもウィルさんなんだな。

 

「ウィル、今回の件でお前がやった事は全て表沙汰になる。そうするしか、もうどうしようもない。あの時に便乗して騒いでたそこの連中も、今は反省して処罰を受ける覚悟で動いた。もう、自罰的に動くのは良いんじゃねぇか?」

「……だけど、俺は……」

「ウィルさんちょっといいー?」

「……弥生さん?」

「責任を感じてるなら、私達、赤のサファリ同盟を引っ張り出した事にも責任は取ってもらえない? 私達って本来は自由気ままに探索したい集団なんだけど、今は不本意に群集のまとめ役をする状況になってて、それなりに大変なんだよねー?」

「……それは、その……」

「これまでは戻って来れる状況じゃなかったから仕方ないけど、こうなったらもう戻って来れるよねー? という事で、責任を感じているなら戻ってきて、ルアーさんと一緒に赤の群集のまとめ役をやりなさい! 拒否権は認めないからね!」

「……ははっ、そうか。赤のサファリ同盟のリーダーにそれを言われたら、断る方が無責任か」

「はい、それじゃそれで決定! 今回の件で覚悟を見せた人達も戻ってきておいで。完全にわだかまりが無くなるには少し時間はかかるだろうけど、そもそも赤の群集には色々と足りてないからね。態度で示して、信頼を取り戻しなさい!」

「「「「「「おう!」」」」」」


 これでウィルさんと、反省はしてたけど赤の群集には戻れなかった人達が赤の群集に戻れるようになるのか。そっか、妙な状況になった今回の騒動だけど、それなりに事情を知ってた身としては良かったと思える結果になったね。

 ん? あれ、ちょっと待って! 心境的には良かった結果だとは思えるけど、これって赤の群集の戦力や不足している部分の増強に繋がる事になるよね!? 単純に良かっただけで済ませちゃ駄目じゃん!?

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