第880話 無所属の居場所


 なんだか妙な騒動に巻き込まれたかと思えば、ウィルさんを筆頭に反省済みとなった元赤の群集の無所属の人達が、赤の群集へと戻れる事になった。

 うん、元々の原因を考えれば戻るのは難しかっただろうけど……今回の一件が大事過ぎたね。あー、これで赤の群集の戦力が大幅増強かー。


「なんか途中からはただ見てただけだけど、何とか落ち着いて安心した……」

「……だな。一時はどうなる事かと思ったぞ」

「なんだか盛大に気疲れしたのです」

「私も同感かな……」

「発火草の群生地の探索だけのつもりだったのに、こうなったら疲れるよね……」


 ふー、脱線も脱線。ちょっとした寄り道のつもりが、予定外なんて規模じゃないレベルで大幅に予定が狂い過ぎだ。


「おうおう、あのコケの人ともあろう者がこの程度で伸びてんのかよ?」

「……見直したと思ったら、そうくるか、ケイン」

「はっ! プロメテウスが色々言ったみたいだが、もういい。俺の口から直接言ってやる。俺はテメェをライバル視している! 改めて言うぞ、俺と勝負しろ!」

「……ちょっと前までなら面倒だから嫌だって言ってたとこだけど、ウィルさんを無茶してでも連れてきてくれた事に免じて受けてやるよ」

「ははっ、そうこなくっちゃな! 時間は一度言ったが、今日の昼の2時からだ! 森林深部、エンの前で待つ!」

「おう、完膚なきまで叩き潰してやる」


 少し前なら絶対にケインとの勝負なんて相手にしなかったけども、あのBANされたスライムとは違い、悪意からの発言ではないのも、他の人の気持ちを考えられないような相手ではない事も分かった。

 だったら……俺の事を自らの言葉で正面かたライバルだと思っていると宣言して、勝負を挑んできたのであれば、受けて立つまで! 負ける気は一切ないけどね。

 それに模擬戦で同じような構成と名前が2人いるという事実が広まれば、変に絡まれる可能性も減るかもしれないし。


「楽しみにしてるぜ、ケイ! いくぞ、お前ら! 『移動操作制御』!」

「え、ちょっと待って! スクショの撮影会に参加したいんだけど!?」

「行くならケインだけにしてくれよ」

「問題が片付いたんだし、撮影会ってやるよな? あー、でも出来るのか?」

「これを撮らないのは損だろ! つっても状況が状況だしなー。とりあえず待機じゃね?」

「ケイン、みんなはそう言ってるがどうする?」

「っ! くっそー!」


 そうして、ケインだけがバツが悪そうに岩に乗って飛び去っていき、プロメテウスさんを筆頭に他の4人のPTメンバーはこの場に残っていった。


「……プロメテウスさん、あれは放っておいていいのか?」

「あー、問題ねぇよ。放っておけば寂しくなって……って、うるさいわ! まぁ勝手に戻ってくるから心配いらん」

「……なるほど」


 なんというか、今のプロメテウスさんの対応的に割と良くある光景っぽい気がするね。まぁそういう事なら気兼ねしなくて済むからいいけど。


「って事は、昼には一度森林深部へ戻るんだな」

「あ、勝手に決めちゃったけど、みんなはそれでいいか?」

「うん、それは問題ないかな」

「はい! 私が中継をやります!」

「あはは、いつものハーレの要望だね」

「およ? なんか面白そうだねー? その件、私も絡んでいいー?」

「レナさん、歓迎なのさー!」


 おっと、ここでレナさんが俺とケインとの勝負に関わってくるのか。そういう事であれば、少しレナさんの力を借りたいとこだね。


「レナさん、それならちょっと頼みがあるんだけど、いいか?」

「およ? このタイミングでケイさんからの頼みって何かなー?」

「さっき、俺にライバル宣言をしたケインって、どうも俺と間違えられてる事があるみたいでさ。その辺ってどうにかしてやれない?」

「あー、それね。うん、そういう事が起こってるのは知ってたけど、ケイさんに八つ当たりで敵意を向けてたから放置してたんだけど……まぁさっきの活躍に免じて、何とか手を打ってあげようじゃない!」

「そうしてもらえると助かる! ありがとな、レナさん」

「あはは、そのお礼を言うべきはケイさんじゃないんだけどなー。まぁ今回はそれで良しとしましょう!」


 よし、これでレナさんの人脈の力を借りる事が出来る。影響力のあるレナさんから間違われて迷惑に感じているという話を流してもらえれば、状況の改善の余地はあるはず。


「レナさん、後で俺の方からその件は伝えとく。それとあいつの代わりに言わせてくれ。ありがとう」

「あはは、プロメテウスさん、それを言うのはまだ早いって。そういうのは解決してから、本人からね?」

「……それもそうだな」


 さーて、ケインとの勝負についてはとりあえずこれでいい。今の時刻が10時半だから、12時くらいに一度中断するとしてもまだ1時間は戦えそうだ。

 とはいえ、まだ今日は全然Lv上げになってないんだよなー。封熱の霊峰に転移してきて早々に戦った2対の鎌を持ったフィールドボスのカマキリを倒したくらいか。


 そんな話をしているうちに羅刹とイブキは説明を終えたようでこっちに集まってきてるね。ウィルさんとガストさんもだな。

 てか、俺らを中心にみんな集まり過ぎじゃない? いや、確かに騒動が始まったのは俺らがいた場所だからある意味必然ではあるのか。


「ウィル! 話は聞こえてたけど、お前が戻ったら俺らどうすんの!?」

「……イブキか。それなら一緒に来るか?」

「え? ……あ、確かにそれもありか?」

「おいこら、待て、イブキ。ウィルと赤の群集に戻れなくなった連中以外にも、無所属はいるだろうが!」

「そりゃ俺らみたいなのもいるけどよー。羅刹、他に訳ありで戻れねぇ奴っては、本当に問題がある奴で単独で動いてるやつばっかじゃねぇか。今回ので戻れるようになった連中が居なくなったら、元々そんなに多くないのに人数激減だぜ?」

「……まぁ現状ではそうなるが、受け皿は必要だと思うぜ。どうしても合わずに出てくる奴はいるし、他に移籍するとしても吟味する時間も必要だろうよ。なぁ、ベスタ?」


 あー、確かに群集を離れる理由次第では、一時的にでも無所属にある集団というのも必要なのかもしれない。

 嫌な話ではあるけど、群集を離れる理由は悪意のあるプレイヤーが原因という事例もあり得るわけだしね。今回の件でそれは痛感した。


 急な群集からの離脱ともなれば、すぐに他の群集への移籍を決めるのも難しい場合もあるだろう。かと言って、完全にソロで放り出される事態になるのも良くない。

 そういう意味では集団の中でルールを設定して、まとめる人のいる無所属の集団もあった方が良いのか。


「その理屈は分かるが……何が狙いだ、羅刹?」

「俺らが一時的な受け皿になる代わりに……この場所の利用の優先権を求める。雪山で全部の群集の同意で中立地帯とか作ってんだ。無理とは言わせねぇぜ」

「おぉ!? 羅刹、それは良いアイデアじゃねぇか!」

「……なるほど、そうきたか。ジェイ、弥生、少し意見を聞きたい。羅刹の提案はどう思う?」

「んー、私は基本的にはありだと思うよ。ただ、少し条件はつけさせて欲しいね」

「奇遇ですね、弥生さん。私も基本的には反対の意思はありませんが、条件をつけたいというのは同意ですよ」

「条件に関しては俺も同意だ」

「ま、そうくると思ったぜ。条件ってのはあれだろ。ここに立ち入らせろって事だろ? そりゃ群生地なんだ、無所属で独占は見逃せねぇわな」


 そこは当然だけど見逃せる内容ではない。羅刹もその辺は折り込み済みで考えているようだけど、ベスタと弥生さんとジェイさんが想定しているものと完全に同じとは限らないけど……。


「えぇ、条件はそこの部分ですね。雪山の中立地点と同様の扱いを求めるのであれば、出入りに関しての制限は許容出来ません」

「うん、そこはそうだねー。まぁ一部の特訓用の場所の立ち入り制限くらいはいいけど、基本的に群生地への立ち入りと、採集は許可してもらうよ」

「俺からはもう1つ付け加えさせてもらおうか。黒の統率種……より正確に言えば、PKを繰り返した結果で進化したやつの立ち入りは不許可にしてもらおうか」


 ふむふむ、まだどっちの条件ももっともな内容ではあるよね。PKで黒の統率種に進化するような奴に提供するような場所はないって事で。


「あー、黒の統率種については考えてなかったが……そこは俺らにとっても利益はない。条件は基本的に立ち入り制限はかけない事と、PKによって黒の統率種はその例外として扱い立ち入りを禁じる、その2つの条件で良いか?」

「あぁ、問題ない」

「えぇ、構いませんけど……意図せず黒の統率種に進化した場合はどうしましょう?」

「んー、あれは話せないからねー。その場合は各群集に通達してもらう感じで良いんじゃない?」

「……それもそうですね。では、そういう方向性で行きましょうか」


 とりあえずこれで条件のすり合わせは終わりかな? まぁここにいる人に他のプレイヤーへの強制力のある決定権がある訳ではない。

 だから、あくまでそういう方針で動いてほしいという依頼の形にはなるけど、各群集で影響力の大きな人達だからね。それなりの効果はあるだろう。


「よし、それでこちらは条件を受け入れて入れようと思うが、イブキ、お前は何か意見はあるか?」

「あー、そういうのは考えるのは面倒だから全面的に任せた」

「……まぁそう言う気はしていたが、やはり丸投げか。あー、俺の方からもう1つ決定したい内容があるんだが……」

「言ってみろ、羅刹。無茶な内容で無ければ考慮はする」

「んじゃ言わせてもらうか。俺ら無所属は群集に所属するよりもデメリットが多い。可能な限り発火草の保全はするから、それをトレード材料にさせてくれ。もちろん、自力で採集に来るのを邪魔する気はないから、すぐに欲しいという奴向けに茶に加工したものを用意する形にする」

「……なるほど、必要な場所のすぐ近くで加工した茶を提供する場を設けさせてくれという事か。俺は飲んでもいい条件だと思うが、弥生、ジェイ、そっちはどうだ?」

「んー、確かに採集したいなら普通に採集が出来て、その上でこの先の溶岩のとこの適応用のアイテムを置いてくれるのはメリットもあるから、良いと思うよ」

「それでしたら、羅刹さん達に各群集から火の進化の軌跡を取り扱ってもらうというのもありですね。それはどうでしょうか?」

「あぁ、トレードとして持ってきてくれるのであればそれも請け負おう。……いっそ、ここで溶岩の洞窟向けの補給場所というのもありか」


 なんか着々と交渉が進んでいってるね。ふむふむ、この溶岩の洞窟に近い場所にある発火草の群生地で、それ用の補給場所が出来るというのも地味にありがたいかも?


 それに、今までは明確な固定された居場所がなかった無所属勢が集まる場所が出来るというのは悪い話ではない。

 これまでは何か用があっても個人的に接点を持っていなかったら接触が不可能だったけど、明確にいる場所……これは赤のサファリ同盟の本拠地みたいな形になるんだろうね。

 うん、ウィルさん達の件が解決する流れになったのならば、無所属の本拠地が出来てもトラブルは一気に減るはず。……多分ソロで動いている無所属の人がここに居座る事は少ないだろうしね。


「さーて、大体それぞれの主張はまとまったみたいだし、特に反対意見はなさそうだねー! まぁそれも大事なんだけど、後始末が少しは進んだから報告していくねー!」


 おっと、ここでレナさんが話に混ざっていった。……さっきまであちこちにフレンドコールをしてたみたいだけど、そっちは片付いたっぽい?


「とりあえずウィルさんの件も含めて、赤の群集の騒動についての全貌は広めてもらったよ。あ、ちなみに模擬戦機能で、全群集に対して公開する形でやってもらったからねー!」


 あ、なるほど、そういう手段があったか! 模擬戦機能を使って戦闘はせずに、全群集から中継が見れるように設定して、それを不動種の人に中継してもらえれば伝える手段としては有効だよな。


「少なからず混乱はしてるみたいだけど、赤の群集の人達が特にだね。でも、ウィルさんや今回BANすらも覚悟して動いた事、そもそも黒幕がいて良いように扱われていた事、後はこれが決め手なんだけど弥生が戻ってこいって言ったのが大きかったみたい。ウィルさんや反省した人達が戻ってくる事に対して、殆ど文句は出てきてないね」


 ほっ、それは良かった。あくまでさっきまではウィルさん達が戻る決意をしたまでだったけど、これでウィルさんと反省した人達が戻れるのは確定となった訳だね。

 まぁ文句については殆どって部分が気にはなるけど、これは反省もせずに他の群集に移籍したり、そのまま居残ってる人のような気がする。


「今はこの場所を無所属の溜まり場としての件を伝えてもらってるけど、こっちも反対意見はほぼないね。まぁ雪山エリアの中立地点の件や、発火草茶が必要な場所の近くで手に入る事に魅力を感じてる人も多いみたいだね」

「おし、それは良い状況になってきたじゃねぇか」

「羅刹……これって、色々あったけど隠れ家計画が成功って事か!? それも大勢から認められた上で!?」

「あぁ、そういう事だ。ま、こうなると隠れ家じゃねぇがな」

「そこは問題じゃねぇよ! おっしゃー! なんかテンション上がってきたぜ!」

「ちょ、おいこら!? 俺を乗せたまま飛び上がるな!?」

「今はそれくらい良いじゃねぇか!」


 そう言いながら、イブキは本当にテンションが上がったようでカメレオンの羅刹を乗せたまま発火草の群生地の洞窟から飛び上がり、岩山の上空を盛大に飛び回っていた。

 あはは、まぁ無所属は元々隠れ家を計画してたみたいだし、それが他の群集に認められる形で実現したら、そりゃテンションも上がるか。


 さーて、これで一連のトラブルも完全に終結だな。全然Lv上げになってないから、少し休憩したらLv上げをしていきますかね!

 あ、そういえばヨッシさんに同族統率の強化についての情報を話せてないままの気がする。……騒動のせいでそんな時間なかったし、少し休憩する間に話しておこうっと。

 

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