第877話 無所属が狙った場所


「イブキさん、何がどういう事なんですか!? 私、この状況は全然納得してないんですけど! 隠れ家計画の最有力候補を見つけたばっかなのにー!」

「あー、うるせぇな! 羅刹が来るまで待てってんだ! むしろこの場に居合わせたのが灰の群集のグリーズ・リベルテでラッキーだったと思え!」

「私、灰の群集って好きじゃないんですけど!?」

「カガミモチはどこの群集でもトラブル起こしてたんだから、そりゃ好きな場所はねぇよな!」

「あー! 無所属になった理由には触れないってルールを破りましたねー!」

「普段はびっくりするくらい静かなのに、今日はとことんうるせぇな!?」

「こういう性格なんですよーっだ!」


 うん、何というか、このカガミモチさんが無所属にいる理由がなんとなく分かった。この人、自分が気に入らないと思った事には一切譲る気がないっぽい。

 なんか無所属になった理由は聞かないみたいなルールがあるっぽいけど、まぁこの調子ではトラブルになるよなぁ……。今日は何? 面倒な人によく遭遇する日なの?


「……ケイ、この状況はどうすんだ?」

「……俺に聞かれてもなぁ。アルこそどうするのが良いと思う?」

「まぁ羅刹が来るなら、それを待つのが一番だとは思うが……」

「そこは俺も同感だけど――」

「そこのクジラとザリガニ! 何をコソコソ喋ってるんですかねー!? さては私の悪口かー!? 悪口だなー!?」

「「うわっ、めんどくさっ!?」」

「……アル、ケイ、本音が思いっきり被ってるかな」


 そう言われても、今のは言いたくなっても仕方ないと思うんだけど……。いや、流石にアルと思いっきり被るとは思わなかったけども。


「はい! カガミモチさん、ちょっと良いですかー!?」

「なに、そこの変なの被ってるリスの人」

「変!? あぅ、何か話す気が無くなったのです……」

「あー、どいつもこいつも、邪魔した時はいつもそう! 勝手な事ばっか言って、人の事を排斥してさー!」


 あー、うん、早く羅刹さん、来てくれないかなー。根本的に話し合いの相手として成立しないよ、この人。


「ケイさん、羅刹さんの反応はまだ?」

「あー、まだ羅刹の反応はないけど――」

「ヨッシさん、ケイさん、呼んだか?」

「おわっ!?」


 って、羅刹の声が聞こえてきた!? え、あれ? あの巨体なティラノの姿が見えない? え、発動中の獲物察知にも反応はないし……そもそも下の方から声が聞こえたような?


「あー!? 羅刹さんがカメレオンになってるー!?」

「……これは2ndかな?」

「お、あっさり見破られたか。イブキ!」

「おうよ!」


 羅刹の2ndのカメレオンが擬態を解除して、イブキの龍の背中の上まで空中を駆けていく。なんというか、初めっからこの状態で来たら良かったんじゃ?

 それにしても羅刹が下から来るとは全然考えてなかったし、擬態をしてくる事はもっと想定していなかった。そりゃ獲物察知には反応がない訳だ。


「羅刹、カガミモチをどうにかしてくれー。ぶっちゃけ面倒……」

「……カガミモチが面倒な事になってんのか」

「面倒ってなんですか、イブキさん? 何ですかー、羅刹さん? 私、何か悪い事でもしましたかねー?」

「あー、とりあえず少し落ち着け、カガミモチ。イブキに面倒って言われるのは相当だぞ」

「その俺の扱いは酷くねぇ!?」

「えー、最近は比較的大人しくなったとはいえ、ウィルさんと羅刹さんがいなけりゃ間違いなく黒の統率種に進化してたイブキさんと比べるって失礼じゃないですかねー?」

「おーい!? その内容は否定出来んけど、カガミモチも大概俺に失礼じゃねぇ!?」


 うん、なんだろう。このイブキとカガミモチさんの比較は方向性が違うだけで、面倒という部分においては大差ない気がする。いや、多少大人しくなった分だけイブキの方がマシかもしれない。

 あー、ウィルさんと羅刹さん、こういう人も無所属にはいるんだね。なんというか、ご苦労さまです。


「はぁ、とりあえずカガミモチ、何があっても具体的にどうしたいんだ?」

「そんなのもちろん、予定通りにここを隠れ家にする事ですよ、羅刹さん! 見つけて2時間ですけど、ここ気に入ったんです! なのに、そこの縦穴から間欠泉が噴き出したかと思えば、岩の操作を移動操作制御で使って隠してたのに破壊されますしねー! 壊したの、そこの灰の群集の人でしょー?」

「……間欠泉? あぁ、地下のあそこに水が流れ込んでたな。ここに噴き出すのか?」

「そっちにある縦穴から1時間周期くらいで出てますよー。でも、ここを見つけた時にぶっ壊した上の岩までは届いてなかったですもん! あれ、そこの連中がやったんですよ! その後にここに乗り込んできて、無差別攻撃を計画してたんですし、怒って当然じゃないですかね!?」

「……という主張なんだが、ケイさん達、その辺の話を聞かせてもらえるか?」

「ほいよっと。なんか盛大に認識の食い違いがある気がするよ……」


 カガミモチさんから見たら、俺らがここに攻め込んできたように見えたって事か。……大規模な間欠泉は特殊条件から発生するものだし、あれは俺らは関係ないんだよな。

 まぁこの地下の溶岩の洞窟でフェニックスと戦っていたヘビの人は無関係とは言い切れないけど、それを考慮したとしてもあくまで事故でしかないはずだ。……てか、これって無所属に教えちゃって良いやつ?


「……アル、言っても大丈夫だと思う?」

「言わずにこの状況を収めるのは無理だろ。それにあの間欠泉そのものの仕掛けは、ここを発見した後にはあまり意味はない」

「あー! あの間欠泉とか言ってるし、やっぱりわざとなんじゃん!」

「カガミモチ、ちょっと黙ってろ」

「えー、でも――」

「でもじゃねぇよ。いいから黙ってろ」

「……はーい」


 おぉ、羅刹さんがカガミモチさんを見事に黙らせた! ティラノの時なら迫力があるんだろうけど、今の羅刹さんはカメレオンだからその辺は迫力不足だけどね。

 って、そこはどうでもいい。とりあえず、カガミモチさん……この場合は無所属の人達と敵対しようとした訳じゃない事を説明しとかないと面倒な事になりそうだ。


「カガミモチさんが言ってる移動操作制御での岩を破壊した間欠泉は、俺らがやったものじゃないぞ。一部、発生原因に灰の群集の人は絡んでるけど、攻撃する意図は皆無だ。そもそもそういう状況になる事すら知らなかった」

「……ほう? 原因は分かっているが、攻撃の意図はないのはどういう事だ?」

「その大規模な間欠泉、この場所を見つける為のギミックだったっぽいんだよ。ほら、さっき地下に水が流れ込んでるとか言ってたろ? あの部分に、あのエリアにいるフェニックスの昇華魔法を当てさせると発生するみたいなんだよ」

「……なるほどな。その後にここへの経路を見つけて、調査に来たってとこか?」

「そういう事。それで何か違和感があったから、擬態の敵がいないかを確認しようとして広範囲の攻撃をしようと考えはした。そこが気に障ったなら、実行には移してないけどそこは謝るよ」

「……カガミモチ? 無差別攻撃は未遂だそうだが?」

「私が声をあげなきゃやってたんだから、未遂も何もないですよーだ!」


 一応これであの大規模な間欠泉の説明はしたけど、イラッとくるな、この態度! 相手がプレイヤーだったら揉めそうだったから実行に移す前に声をかけたのに、そこら辺の考慮は無しかよ!


 それはそうとして……根本的にあの規模の間欠泉をプレイヤーが発生させる事って出来るのか? うーん、天然産の水を魔法の火で熱して、その状態で水流の操作を使う? 出来るのか、それ? やれたとしても面倒なだけな気もする。


「イブキ、カガミモチを連れて今の件を再現しに行けるか?」

「何で私も行かないといけないの? 死ぬならイブキさんだけで良いじゃん」

「……なんで俺が当たり前のように死んでくる事が前提なんだ?」

「え、イブキさん、よく死んでるじゃないですか?」

「難癖つけてるカガミモチが行けば良いだろ!?」

「え、嫌ですけど」

「……羅刹、俺、カガミモチを殺ってもいいよな?」

「イブキ、余計面倒な事になるからやめろ。……カガミモチ、今の説明で納得は?」

「えー、嘘くさいー。そもそも本当だったとしても、納得しなきゃいけない理由ってあるんです?」

「……お前な、どこの群集も優先的に使ってる未占有のエリアがあるから、話し合いで――」

「話し合いなんかいらないでしょ。なんで私達が他の連中から許可を得なきゃいけないの? 私達が隠れ家にしたいんだから、こいつら追い出して終わりでいいじゃないですか」


 思いっきり遮られたけど、羅刹さんとしては雪山エリアの中立地点みたいに他のプレイヤー達に認知してもらった上でここを使えるように話を持っていこうと考えてたみたいだけど……。

 てか、よくここまで自分本位に好き勝手言ってくれるもんだな。その理屈なら、普通に探索してただけの俺らに対して――


「……ふーん、そういう事を言うのかな。それなら……こっちも実力行使でも文句はないよね?」

「待て、サヤ!?」

「サヤ!?」

「わー!? サヤが怒ったのさー!?」

「ちょ、サヤ!?」


 くっ、ここでサヤがキレるとは思わなかった!? 無発声の思考操作で魔力集中と連撃の応用スキルを発動してるっぽいし、完全にカガミモチさんを仕留める気だ!


「ちっ、気持ちは分かるが、流石に見過ごせん! イブキ、今の俺じゃ対処し切れんから任せる!」

「分かってるっての! 『並列制御』『ウィンドエンチャント』『ウィンドプリズン』!」

「邪魔しないでかな、イブキさん!」

「今のは完全にこっちが悪いけど、サヤさん、やめてくれって! 俺らはここで全面的に争う気はねぇよ!?」


 そんな風に言い争いになりながらも、サヤがイブキの風の拘束を斬り裂き、銀光どんどん強めていく。……うーん、心境的にはサヤに近いんだけど、ここはどうするべきか。

 この状況、羅刹とイブキは何も悪くない。ただ、カガミモチ……さん付けする気も起きないな。カガミモチが好き勝手な事を言い放ったのは、正直俺も苛立ってはいる。


「……少し悪い事をしたと思ったし、だから羅刹さんを待って落とし所を探そうとしてたのに……それを一切無視してそういう態度なら、ここで私達が何をしていたとしても、そこのスライムには何一つ文句を言われる筋合いはないかな!」

「ひゃ!? ら、乱暴者ー!」

「……一方的に私達を追い出すと言っておいて、その言葉はどこから出てくるのかな! イブキさん、邪魔をするならまとめて倒すかな!」

「ひぃ!」

「ちょ!? カガミモチのせいでこうなってんのに、俺を盾にすんな!? てか、どうすりゃ良いんだよ、この状況!」

「くそっ、面倒くせぇな、この状況!」


 サヤの怒声が怖いんですけど……。え、この状況、どうすりゃいいの? サヤを止めた方が良いような気はするけど、心境的にはあのスライムをぶっ殺してしまいたいのもまた事実……。

 オンラインゲームをやってたら一定数は話の通じない腹立たしい相手というのに遭遇する事もあるけど、その類の人だよな、このスライム。でもこの程度では運営は流石に動かないだろうし……。


「サヤ、待ってなのさー!」

「ハーレ、止めないでかな!」

「止めないのです! さっき変なのと言われた恨み、今ここで返すのさー!」

「ハーレ!? サヤ、ハーレ、待って! 気持ちは分かるけど、そういうトラブルは駄目だって!」

「ケイ、サヤを岩で拘束しろ! ヨッシさんはハーレさんを頼む! これ以上ここにいない方がいい、すぐにここから離れるぞ!」

「……それしかないか」


 完全に頭に血が上っている状態でこの場に居続けたら、酷い乱戦にしかならない。サヤとハーレさんが怒る気持ちはよく分かるけど、そういう理由で戦わせたくはないし、アルの判断が今は正しいはず。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 69/80(上限値使用:1): 魔力値 207/222

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 50/80(上限値使用:1)


 こんな真似はしたくないけど、サヤを岩で強引に固めて……くっ、盛大に暴れて抑えが難しい! サヤぐらいの近接でのプレイヤースキルの持ち主を抑え込むのってこんなに厳しいのか!? あぁ、もう! こんな状況で知りたくなかったわ!


「ケイ、邪魔しないでかな!?」

「ハーレ、ごめん! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」

「ヨッシ、離してー! ああいうのは一度痛い目を見るべきなのです!」

「ひぃ!? 居なくなるなら、さっさと居なくなれよー!」

「黙ってろ、カガミモチ!」

「羅刹、イブキ! この件は一旦頭を冷やしてから改めて――」


「風雷コンビ、今は意識を散らすだけでいい。盛大にやれ」

「「おう! 『エレクトロクリエイト』!」」


 おわっ!? な、なんだ!? 急に岩山の上の方で盛大に落雷が……それに今の声って……岩山の頂上部分にオオカミのベスタと、風雷コンビが並んでるね。

 あ、レナさんもいるのか。でもなんで接近に……って、あ、いつの間にか獲物察知の効果は切れてたっぽい。


 とりあえず風雷コンビの昇華魔法で変な空気はぶち壊れて、サヤが暴れなくなったから助かったけど、なんでこの4人組?

 下見に来るのなら灰のサファリ同盟の人とか、もう少し大勢でやって来そうだけど、何か違和感がある。


「なるほど、レナの嫌な予感とやらは当たりのようだな」

「……当たって欲しくはなかったんだけどね。今回は逃さないよ、色々とやらかしてくれてるカガミモチさん」

「灰の群集のベスタ、風雷コンビ、それにレナ!?」


 ん? なんだかあのスライムの雰囲気というか語気が変わった? なんというか……レナさんに対して異常に警戒しているような声音だったよな。

 それにレナさんもいつもの軽い雰囲気ではなく、怒っているような感じがする。これ、一体どういう状況だ?

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る