第876話 発火草の群生地


 元々簡単に通り抜ける為に山越えはせずに洞窟を通って来たはずだけど、予定外に岩山の上まで登る事になってしまった。まぁそういう予定外も時にはあるし、発火草の群生地を発見したんだから良しとしよう。


「うっわ、すごいな、これ!」

「これは見応えがあるかな!」

「思ったほど、広くはないか。……だが、絶景なのは確かだな」


 妙に高い岩山の頂上にポツンと口を開けた空洞と、見つけた縦穴らしき穴、そこから東側に一旦熱湯が貯まるような窪みがあり、そこから溢れた熱湯が滝のように流れている。縦穴の東側が縦に向けた洞窟みたいになってるのか。

 その下の方には棚田のような岩場があり、ズラッと生えている燃えるように群生している赤い草花があった。流石に全体的にって訳じゃなく、塊が分散しているっぽいけど、それでもかなりの量がある。


 アルも言っていたけど、クジラで入れるくらいではあるけども決して広くはない。なるほど、緩やかに東に向けて傾斜になってるのか。……これはハーレさんが下から登った時に結構東に移動してたっぽいな。

 そして、全く違う部分で大きく気になる点が1つ。フェニックスが要因の大規模な間欠泉があったのは間違いなさそうだし、それで吹き飛ばされたっぽい隠していた岩が落下して砕けたような跡が明確に残っている。だけど、これは……。


「アル、サヤ、要警戒だ。これ、多分俺らが初めて来たんじゃないぞ」

「……うん、流石にこの大きさの岩が砕け散ったとしたら、気付かないのはおかしいかな」

「俺もその点は同意だ。ヨッシさん、ハーレさん、そっちはどうだ?」

「はっ!? 思いっきりスクショを撮ってました!?」

「……確かに言われてみれば妙だね?」


 うん、今日についてはいつも通りのハーレさんに戻っていてくれて良かったと思うべきかな。

 さて、ここに誰かがいた……いや、場合によっては今もいるかもしれないのか。その可能性を考慮した上で行動するべきかもしれない。


「……可能性が高そうなのは、この上空で戦ってたっていう青の群集か?」

「俺もそれは考えたけど、今確かめるからちょい待って」

「獲物察知かな?」

「まぁな。これで反応があれば良いんだけど……」


 今の場所から見える範囲では、棚田っぽい発火草の群生地の上の方までやってきたヨッシさんとハーレさんがいるくらいだしな。

 ともかく、今は獲物察知で他のプレイヤーの動向を確認しよう……って、今は水のカーペットは手動発動だったー!? くっ、このままじゃ使えないじゃん。


「アル、悪いけど水のカーペットは自分で頼む」

「……元々俺が自力でやっとくべきだったかもな」

「今更言っても仕方ないっての! ほい、解除!」

「ちょ、せめて新しく生成してから解除しろ! 『アクアクリエイト』『水の操作』!」

「……あれ?」

「ん? サヤ、どうした?」

「……うーん、ちょっと自信がないから今は言うのはやめておくかな。ほら、ケイ。獲物察知をお願いかな!」

「まぁいいけど……」


 サヤが何かを見つけた感じはするんだけど、この自信の無さはサヤっぽくない反応だな? うーん、サヤだってミスをしない訳じゃないから見間違えたか何かか?

 よし、少なくともサヤは何かしらの意図を持って言っているのは間違いなさそうだし、俺はその為に実行をすればいい。


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 71/80(上限値使用:1)


 さてと、反応はどうだ? 割と近くに灰色の矢印があるのはプロメテウスさん達だろう。……近付いてくる気配はないから、ケインには俺らが発火草の群生地を見つけたという情報は伝わってないっぽいね。

 さっきの今だから、知ったら因縁つけにやってきそう……。うん、その辺はプロメテウスさんが情報を伏せるとかはしてそうだよな。まぁそこは良いや。


 今肝心なのは他の反応だ。黒い矢印はちらほらと近いとこにも離れたとこにもあるけど、すぐ近くではないからこれは無視でいい。

 青い矢印は……目立つのではここから西の方に1PT分が移動中か。他にもさっきより増えているけど、黒い矢印の近くばっかだから戦闘中っぽいな。赤い矢印も似たようなものか。

 ふむ、ここから西の方へ移動している青の群集のPTを示す矢印は空中に向かっているし、これがフィールドボス戦をしてたPTか? 確定とは言えないけど、その可能性は高そうな気がする。


「うーん、青の群集でフィールドボス戦をしてたっぽいPTはここから西に向かってるっぽい? これ、溶岩の洞窟に向かってるような気がする」

「まぁ青の群集にも俺らくらいのLv帯のプレイヤーはいるだろうし、それ自体は不思議じゃねぇな」

「でも、それなら少し違和感もあるかな?」

「……確実にここの存在は気付いているはずだしな」


 青の群集のPTがどのタイミングでいなくなったかは分からないけど、この場所を隠していた岩が崩れた時に確実に音が発生していたはず。

 青の群集は既にここの存在を知っていて、どうでも良かったという可能性もない訳じゃない。だけど、それだと俺らが音に気付かなかった理由が説明出来ない。


 元々崩れていて、たまたま俺ら灰の群集が見落とし続けていた……? 見つけられていなかったとはいえ洞窟内の調査はしたのに、こんな山の頂上に行けば一目瞭然の空洞に気付かないなんてあり得るか?

 うーん、タイミングの問題はあるから絶対に無いとは言い切れないけど、この可能性は高いとは思えない。それに、さっきのサヤの反応も気になる。


「サヤ、さっきは何を見間違えた?」

「……見間違えたんじゃなくて、少し違和感のある物音が聞こえたかな?」

「……音?」

「サヤ、どういう音だ?」

「えっと、小石が岩壁に当たって落ちていくような音が、急に途絶えるような感じかな? ……正確な位置は分からないけど、ケイの獲物察知ではっきりしたよ。ここ、擬態した何かがいるかな」

「……なるほどね」


 サヤが俺に獲物察知を急かした理由は、何かを察知する為じゃなくて、察知出来ない何かがいるかを確認する為か。獲物察知に反応がないという事は、察知出来ない何かをしてるって事だしね。

 普通の敵という可能性も否定は出来ないけど、この岩の落ちて砕ける音がしなかったという違和感がある状態ではその楽観視は出来ないな。ここは隠れているプレイヤーがいると考えるべきだ。


「ヨッシさん、ハーレさん、とりあえず合流するぞ」

「はーい! 奇襲に備えておきます!」

「私達が上に行けばいい? それともアルさんが降りてくる?」

「アルが降りていく方で! いけるよな、アル?」

「あぁ、それ自体は問題ねぇ。だが、攻撃があれば対処は任せるぞ」

「そこは任せてかな!」

「だな。あー、それなら付与魔法で守勢付与をしとくか」

「……それもそうだな。それじゃ水で頼む」

「ほいよっと」


 どういう相手がいるのかが全くの未知数の状況なら、防御を固めておくのが確実だ。特にアルは移動に専念している上に、決して広い場所ではないから回避行動自体が難しい。こういう時こそ守勢付与での自動防御の出番だね。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 64/80(上限値使用:1): 魔力値 198/222


 これで3つの水球がアルの周りを漂い始めて、守勢付与は完了っと。サヤと俺にも守勢付与をかけておくか? いや、でも付与魔法は消耗が結構激しいし、見破るのに看破を使う必要がありそうな状態では消耗は出来るだけ避けておいたほうがいいかもしれない。


「サヤ、何があるか分からないから行動値と魔力値は温存気味で。アル、移動は頼んだ」

「うん、分かったかな」

「おし、任せとけ」


 そうしてヨッシさんとハーレさんと合流する為に、縦に伸びた洞窟を降りていく。まぁアルのクジラの背に乗った状態でだけどね。

 

「ところでサヤ、相手の位置の見当はつく?」

「……うーん、何とも言えないかな? 音から正確な距離を割り出すみたいなのは得意じゃないし……」

「あー、まぁそりゃそうだよな」


 そういうのが得意な人もいるのは知ってるけど、あれはあれで結構凄いプレイヤースキルではあるもんな。サヤが得意なのは観察眼と近接での操作だし、得意な方向性とは違うものだ。

 俺が得意なのは視界からの位置把握とか操作の精度とかその辺りだから、音からの細かな位置把握は無理。あんなのどうやんの?


「……ねぇ、サヤ。音が消えたみたいだったって言ってたよね?」

「あ、うん、言ったかな」

「どういう種族なら、そういう状況になると思う? 岩に擬態とかだと無理だよね?」

「あー、言われてみれば確かに……」

「……確かにそうだな。サヤ、その音が消えた後に、また落ちていくような音はしたか?」

「……聞こえなかったかな? あ、それなら底の部分にいるのかな!?」

「もしくは、小石を乗せたままになってるかなのさー!」


 ふむふむ、それなりに居そうな場所が絞り込めるか? うーん、でもこれじゃ絞り切るには少し要素が足りないな。まだ岩壁全てと棚田みたいになってる底が全て対象だしね。

 そうなると、ちょっと炙り出す方法を考えようか。擬態をしている状態を解除させるには、看破を使うか、攻撃を当ててしまえばいい。……もし成熟体だったとしても、まぁ擬態してる奴なら大丈夫だろ。


「ヨッシさん、合流したら砂の操作と氷雪の操作で交代しながら無差別に攻撃してみるぞ。下手に看破を連発するよりは、こっちの方が早いだろ」

「それはそだね。うん、そうしよっか」

「……プレイヤーだった場合は、どうすんだ? 流石にそれで死にはしないだろうが、いきなり攻撃する事になるぞ?」

「あー、そういやそうなるのかー」


 うーん、別にプレイヤーを無差別に攻撃したいって訳じゃないんだけどね。ただ、意図せずともそういう結果になってしまうのも間違いではない。

 攻撃を無しで穏便に済ませるなら、サヤかハーレさんに見つけてもらうか、手当たり次第に看破を使うか……向こうから出てきてもらうか、選択肢はそのくらいだよな。


「それじゃ素直に呼びかけてみるのはどうですか!?」

「……出てくるのか、それ?」

「やってみないと分からないのです!」

「……だよなー」


 もう既に灰の群集のみんな……スクショの撮影も絡んでいるから場合によっては赤の群集や青の群集もやってくる計画は今進行中なんだよね。

 あー、誰かが隠れているかもしれないって状況なら、その確認が終わってから報告をすれば良かった。……もしくは気付かないまま、知らない状況が良かったなー。


「仕方ない、ダメ元で呼びかけてみるか」

「はい! それなら私がやるのです!」

「それじゃハーレさんに任した。あ、この後スクショの撮影会の場所になるかもって事も含めて――」

「えぇ!?」


 ちょい待った。何か割と近くから、全然知らない声が聞こえて来たんだけど!? え、俺らの会話が聞こえる位置にいたのか!


「アル、止まれ! サヤ、位置の確定を頼む!」

「おう!」

「分かったかな! ……かなり分かりにくいけど、そこ! 『看破』!」

「あぁ、しまったー!?」


 流石にそんな声を上げられたら大体の方向性は分かった。間髪を入れずに位置を特定したサヤが看破を使って、擬態を明確に破っていく。

 あー、なるほど、こういう種族か。なんというか、サヤが今分かりにくいって言った理由が分かった。こりゃ独特だから仕方ないな。


「なるほど、岩の模様に擬態してたスライムか」

「そうみたいだな」

「あ、上に小石が乗ってるかな」

「そんな事はどうでも良いですよ!? いきなりやってきて、これから他の群集もどんどん来るってなんなんですか!? あー、もう、予定が滅茶苦茶ー!」

「いや、そんな事を言われても……」


 別に競争クエストで勝ち取って占有権があるエリアじゃないし……って、このスライムの人のカーソルは白いから無所属の人か!? 

 おっと、俺らが止まったからか、ハーレさんとヨッシさんの方から飛んできてくれたみたいだね。とりあえずこれで合流は完了か。


「到着なのさー! あ、無所属のスライムの人だー!?」

「え、あ、ほんとだ」

「『ほんとだ』じゃないですよー! ここを隠されてた状態に偽装して、隠れ家にしようって計画してたのに、2時間で破綻ってなんですか!? なんですか、あの間欠泉! 恨みますよ、灰の群集!」


 あー、えーと? 何かこの無所属のスライムの人……カガミモチさんか。なんだか取り乱してるみたいだけど、どういう状況でこうなってるんだ?

 っ!? ちょっ、いきなり獲物察知の反応に白い矢印が出現してきた!? くっ、これは他の無所属の人がここに向かって飛んできてる!?


「おーい、カガミモチ! 良い隠れ家になりそうな場所ってここか!?」

「イブキさん、この人達が台無しにしたんですよ! ぶっ飛ばしちゃって下さいよ!」


 そこに飛んできた白い矢印の正体は緑色をした龍のイブキであった。なんというか、普段なら面倒な気になるイブキの登場だけど、今回に限って言えば知ってる相手でホッとしたぞ。


「おうおうおう、ここは無所属の隠れ家にしようって計画を……って、なんでグリーズ・リベルテがいんの!?」

「おっす、イブキ。ぶっちゃけ俺らもこの状況がよく分かってないんだけど、お互いの状況について情報交換をする気はある?」

「あー、もう少ししたら羅刹も来るから、それまで待ってもらってもいいか?」

「……よし、それなら羅刹さんが来るまで待たせてもらうわ」


 今回はイブキでも話が通じそうな雰囲気ではあるけど、より話がしやすい羅刹さんが来るなら待った方がスムーズに話が進みそうだ。なんかスライムのカガミモチさんからの敵意を感じるし……。


「ちょっとイブキさん! なんで待機に入ってんですかー!? 隠れ家計画、台無しにされたんですよ!?」

「あー、なんとなく羅刹が俺を怒ってくる心境が分かった気がする……。ややこしくなるからちょっと黙ってろ、カガミモチ」

「ひぇ!? いつも怒られてるイブキさんに怒られた!?」


 うん、普段からどういう状況なんだよ、白の無所属勢! とりあえず断片的な情報として、無所属勢が隠れ家を作ろうしていたのが今回の件に関わっている感じか。

 もうちょい具体的な話を聞きたいから、早く羅刹さんが来てくれませんかねー? 

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