第873話 洞窟にあった縦穴


 何かありそうな予感がした岩山を通り抜ける洞窟の途中で、薄っすらと水蒸気が上がってきている謎の縦穴を発見した。

 なんだかよく見ると濡れているっぽいけど、これってどうなってるんだろ? 上にも下にも縦穴が伸びているみたいだし、水が落ちてきているのか? それにしては全体的に濡れていて――


「ちょっと中を覗いてみても良いですか!?」

「折角見つけたんだし、私も見てみるよ」

「あー、それなら俺が足場を出して一緒に行くよ」

「ケイさん、よろしくなのさー!」


 何かあるんじゃないかと怪しんでいても灰の群集では誰もまだ見つけたという情報が出ていない謎の縦穴である。Lv上げを優先したいとはいえ、ここで見つけたのを放置して先に進むという選択肢はないだろう。

 それにしても、雪山の氷結洞にあった縦穴を彷彿とさせる縦穴だな。大型の種族は通れないという特徴も一致している。


「サヤとアルは入れそうにないし、悪いけど少し待っててもらえるか? 俺とヨッシさんとハーレさんで中を確認してくる」

「うん、分かった……ちょっと待ってかな? なんだか少し揺れてない?」

「確かに微妙な振動が地面からしてるが……」

「そうなのー? あ、ホントだ!」


 ハーレさんが地面に降りてみたらすぐに感じ取れる程度の微妙な振動? アルの上に乗っている俺には特に揺れは感じない。地震か? そもそもこのゲームに地震って設定されているのか? イベント演出で地面が揺れる事はあっても……って、演出?

 ちょっと待てよ。この地下には溶岩の洞窟が広がっていて、湿った縦穴があり、蒸気が上がっていて、地面が微妙に揺れている?


「これってもしかして間欠泉が噴き出そうとしてる!?」

「……なるほど、間欠泉か。確かにその可能性はあるが、それならここに横穴を空けたのは大丈夫だったのか?」

「そういやそうなるよなー!? ヨッシさん、氷で穴を覆ってくれ!」

「え、あ、うん! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」


 咄嗟に視界の確保も考えて氷にしてもらったけど、よく考えたら間欠泉ってお湯だし大丈夫か? あー、まぁそこは本当に間欠泉なのかが確定してないし、まだ――


「わっ!? 凄いのさー!?」

「下から噴き上がっているかな」

「本当に間欠泉だったか。そうなるとこの下は地下水で、上にどこか噴出口が空いてるかもな」

「でも、この噴出の勢いじゃ確認のしようがないよな……。ヨッシさん、氷塊の操作は?」

「少しずつ溶かされてるけど、追加生成でどうにかなる範囲だよ。あんまり横には出てこないようになってるみたい」

「なるほど、それなら氷でも大丈夫みたいだな」


 とりあえず水蒸気が増してから一気に噴き上がり、今も縦穴を上り続けている大量のお湯がヨッシさんの氷越しに見えている。

 ヨッシさんの氷塊の操作には思ったほどの影響はないみたいだし、かなりの勢いで噴き上がっているのを考えれば、このくらいの横穴は問題ではないっぽい。


「……で、これっていつまで続くんだ?」

「さぁな?」

「アル、即答過ぎない!?」

「……誰も確認してねぇのに、どうやって判別しろってんだよ」

「あ、確かにそりゃそうだ。……どうする、これ?」

「噴き上がりが終わるのを待つか、このままスルーして進むかの2択かな?」

「はい! 最後まで見ていきたいです!」

「私もハーレに賛成だね。Lv上げばっかもあれだし、上の様子も気になるからさ」


 確かにこの上の様子というのも気にはなる。というか、よくこれが今まで見つからずにあったもんだな? 

 土属性のドラゴンがこの洞窟を潰した事でこの縦穴が洞窟側から見つけられなくなってた可能性はあるけど、間欠泉ならそれなりの頻度で噴き上がってはいるはず。……多少制限はあっても、この上の岩山は決して登れない場所ではない。


「俺もこの間欠泉の噴き上がる条件が気になるとこだし、最後まで見ていくのは賛成」

「あー、それは確かに気になる部分だな。普通の間欠泉なら定期的に噴き上がりそうだが……何かあるかもしれん」

「はっ!? 少し思いついた可能性があるのです!」

「ほほう? どんな内容だ、ハーレさん?」

「ふっふっふ、ケイさん、この地下の溶岩の洞窟には特別な敵がいるのさー!」

「あ、フェニックスか!」

「……そうか、フェニックスの攻撃が地下水を一気に蒸発させている可能性ってとこか」


 なるほど、固定位置にいる成熟体がギミックの中に組み込まれている可能性は確かに否定出来ない。

 だけど、まだ俺らは直接フェニックスを見ている訳でもなければ、溶岩の洞窟に入った訳でもない。可能性を推察するのはいいが、断定するには不充分過ぎる。


「ヨッシさん、溶岩の洞窟の中に水場があるって情報は聞いてない?」

「んー、ごめん、聞いた覚えはないかも。聞くのは必要最低限の情報だけに絞ってたし……」

「あー、まぁそりゃそうか」


 流石にそこまで詳細な情報は仕入れてはいないんだな。まぁ俺でも溶岩の洞窟の中に水場があるかどうかは聞かないだろうしね。さて、そうなると……少し情報収集をしますか。


「よし、間近でフェニックスと戦ってた人がいないか情報共有板で聞いてみる。ついでに水場があるかどうかも確認してくるよ。あ、この場所についての情報は上げるけど良いよな?」

「上に何かあるかを確認してからにしたいとこではあるが、まぁ噴き上がりが収まらないとどうしようもねぇしな。おし、俺もそっちを見に行く」

「アルも情報共有板だな。サヤ達はどうする?」

「周囲の警戒は必要だし、そこは私がやっておくかな」

「私は氷塊の操作をしながら他の事をする余裕はないよ?」

「私は間欠泉の経過観察をしておくのです!」

「ほいよっと」


 とりあえず情報共有板に行くのは俺とアルになったか。まぁ周囲の警戒も経過観察も必要ではあるから、サヤ達にそこら辺は任せておけばいいね。


「あ、獲物察知の方に特に異変はないからな。んじゃアル、行こう」

「おうよ」

「了解です!」


 さて、情報共有板で有力な情報があればいいけど、フェニックスとの戦闘があったとしてもそれを知っている人が丁度今いるとも限らないんだよなー。

 ま、こういう情報は確認してみないとなんとも言えないから、まずは聞いてみるべし! それで駄目なら、検証案件に加えてもらえばいい。


 ヘビ    : あー、死んだ、死んだ! でも、なんとか『格上に抗うモノ』は取れたぜ!

 イノシシ  : ヘビの人、ご苦労さん。次は『烏合の衆の足掻き』だな。

 木2    : 条件は分かっても『烏合の衆の足掻き』は取るのは難しいな。

 木     : だよなー。成熟体、強過ぎる。

 キツネ   : ま、仕方ないんじゃね? あれは高難易度で上級者向けって感じだしよ。


 ネズミ   : 『格上に抗うモノ』でも結構キツいもんなー。

 草花    : あ、新しく興味深い情報が上がってるね。えーと、特性に統率と擬態を持つ融合種のフィールドボスかー。


 木     : お、そういう情報が上がってるのか。どれどれ……。

 キツネ   : おう、それを上げたのは俺だ、俺!

 ネズミ   : 情報を上げた張本人がいた!


 ふむ、ちょっと別の話題になっていて今は聞けそうにないな。でも、ヘビの人が『格上に抗うモノ』の取得をしていたなら、少なからずフェニックスが関与している可能性はある。


「ケイさん、噴き上がるのが止まったのさー!」

「げっ、マジか!?」

「まだ何の情報も得てないぞ?」

「時間的にそうだと思ったのです! という事で、ヨッシと2人で穴の中を見に行ってきて良いですか!? 情報は多い方が良いよね!?」

「あー、まぁその方がいいか。ヨッシさん、サヤ、それでいいか?」

「うん、私は問題ないよ」

「私も大丈夫かな!」

「それじゃ穴の中の追加の情報収集はハーレさんとヨッシさんに任せた!」

「任されました!」

「了解! 行くよ、ハーレ。『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「はーい!」


 ヨッシさんがハーレさんを乗せる為の小さめな氷の器を作り、ハーレさんはその中に入っていった。その状態で2人は縦穴の中へと飛び込んでいく。

 噴き上がりは収まったばかりだから、すぐには同じように噴き上がってくる事はないはず。……収まった直後にまた噴き上がってくるなら、中には入れないという事にもなりそうだしね。

 

「ところで、アル。このキツネの人って、もしかしてプロメテウスさん?」

「……タイミング的にそうかもな。これがケイが気にしてたフィールドボスの情報か」

「……ちょっとまとめの報告欄を見てくるか」


 ケインとかいう難癖をつけてきた奴が原因で直接聞く事は出来なかった情報だもんな。……まぁ情報の報告は任意だから、強制的に聞き出すのも無しなんだけどさー。

 ふぅ、まぁそれは良いや。報告に上がった情報には罪はないし、プロメテウスさんが上げてくれているならありがたく確認させてもらおう。


 えーと、擬態を持ってたカタツムリと、統率を持っていたバッタが共生進化していた瘴気強化種を、フィールドボスに進化させたら誕生した融合種のフィールドボスか。メインはバッタの方で、カタツムリの殻を被ったバッタになったんだな。

 そこから……ふむふむ、成長体の統率個体を生み出して、本体は擬態で隠れまくって、看破の多用が必要になった訳か。なるほど、俺の獲物察知から反応が消えたり戻ったりしてたのはこの行動パターンだったんだな。

 バッタの機動力と擬態の特性が合わさって見つけるのが面倒な状態になった上に、統率で成長体を生成されたのも見失う要因になってたのか。他に書いてある事は……。


「ん? 同族統率の強化スキルがある可能性?」

「なるほど、生成された個体の強さに差があったとあるな」

「ケイさん、アルさん、その辺りの情報の確認をお願い出来る?」

「あー、ヨッシさんは気になる情報か。その辺も確認しとく」

「うん、よろしくね」


 さて、軽く流し見た程度ではあるけど報告の概要は把握した。同族統率で生成される個体は進化階位が1段階下がるものだったはずだけど、そこの強化スキルがあるのならヨッシさんにとっては貴重な情報にはなるよね。


 ネズミ   : あー、同族統率の強化スキルがある可能性かー。同族統率は持ってるけど、生成出来る統率個体は進化階位が1段階下がるから使い勝手が良いとは言えなくて全然育ててないや。


 ヘビ    : あんまり使ってる人いないよな、同族統率。

 木2    : 囮には便利だとは聞くけど、それ以外は特に情報はないか。

 ハチ    : 同族統率なら状態異常とのコンボで割と凶悪にはなるぜ。毒を持たせて刺しまくるとかな。


 イノシシ  : お、そうなのか? ふむ、確かにハチの数を増やして刺すのはありか。

 ハチ    : まぁ統率個体に持たせた毒が効くなら本体で毒を使う方が早いけどな。

 草花    : 有用性を言って人が、即座に使い道を否定したー!?

 ヘビ    : でも、毒が効くなら本体でやればいいってのは分からなくもない。

 ネズミ   : プレイヤーが未成体で生成しても、生成されるのは成長体相当だしな。逆に言えば、ここが強化出来るなら使い勝手は良くなりそうではある。


 サル    : お、なんかあんまり検証されてない内容が上がってんじゃん。誰か使い込んで育ってる奴とかいねぇの?


 イルカ   : 昇華や凝縮破壊や連鎖増強みたいな強化があっても不思議ではないよね?

 木     : 確かにそうだな。だが、分かってる範囲だと主力にし辛いから情報が不足している感じか。


 ふむふむ、同族統率に関しては育ててる人がそんなにいない感じか。まぁヨッシさんもそれほど重点的に育ててはいないし、同族統率だけでは主力にはなり得ないのも事実か。


 イノシシ2 : そういやどっかのボスで同族統率の個体が4体のがいなかったか?

 サル    : 森林エリアで一番強いボスの鳥カブトがそうだったろ。草花なのに毒と統率がセットになってて面倒なやつ。


 ヘビ    : 確か種を撒く感じだったよな。

 リス    : およ? 同族統率を使うボスの話? それについてはどこの群集の森林エリアでも、種族は違っても属性と特性は同じになってるからねー! ただし、種族由来の草属性と樹属性は除く!


 イルカ   : あ、どこの群集でも同じになってるんだ?

 イカ    : なるほど、納得。

 イノシシ  : 共闘イベントの時に行ってないと、他の群集のエリアのボスに瘴気石を使ってまで戦う機会ってないもんなー。


 ふむ、確かに自分の群集のエリアで戦う方が効率がいいし、共闘イベントみたいな事が無ければ機会はないよね。

 そういや赤の群集の森林エリアのボスって俺らは戦いに行ってたじゃん! いや、陥没エリアの外周部で瘴気の除去をしてただけな気もするけど。


 うーん、中々書き込むタイミングが掴めないなー。というか、このキツネの人がプロメテウスさんだとすると、面倒なのが出てくる可能性もあるから書き込むのに躊躇する。


「……アル、悪いんだけど書き込むのは任せてもいいか? なんか俺が書き込むのは、少し嫌な予感がする」

「確かにそれはあるかもしれんな。だが、俺が書き込んでも場所については書き込むんだからバレバレだぞ?」

「あー、そういやそうか……」


 今ちょうど獲物察知の効果が切れたとこだけど、プロメテウスさん達はまだこの近場からそう動いていないのは確認出来ている。というか、この書き込みをする為に移動していないんだろうな。

 そして俺らが向かった先も知っているんだから、ここの報告をした時点でアルが書き込んだ事はほぼ確定で分かるだろう。……あー、地味にめんどくさ!


 リス    : ふむふむ、とりあえずログを流し読むしてきたー! 要するに同族統率を強化するスキルがありそうな感じはするけど、情報が不足してるって事だね!


 キツネ   : まぁ簡単に言うとそうなるか。

 イカ    : 何か2ndを作ろうと思ってたとこだし、その辺を検証してみようか?

 イルカ   : お、イカの人、ナイス!

 リス    : イカの人、やる気だねー! まぁそれだと時間かかるから、わたしの知り合いに普段は報告は上げない人だけど、知ってそうな人に心当たりがあるから少し聞いてくるよー!


 ヘビ    : 顔の広そうなリスの人、それは灰の群集の人?

 リス    : およ? そういや所属はどこだっけ……? ちょっと待ってね、そこは確認しておかないとまずいし……。


 うん、このリスの人は間違いなくレナさんだな。そして、ヘビの人はナイスアシスト! これで心当たりが他の群集だとなれば面倒ではあるからね。

 さて、レナさんが確認するという事になれば少し時間が空きそうではある。今のうちに俺らの方の報告と情報収集をさせてもらおうかな。


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