第872話 岩山を貫通する洞窟
とりあえず変な理由で絡んできたケインの言葉は無視するとして……岩山を通り抜けられる洞窟の入り口の前へと辿り着いた。辿り着いたけど……そうか、前に見た時は既に埋まってたから……。
「あー、これは思ったより狭いな……。俺のクジラはそのままじゃ通れそうにないか」
「みたいだなー。木でギリギリってとこか」
「でも、これなら小型化でなんとか通れるんじゃないかな?」
「確かに入り口の感じでは行けそうだが……ヨッシさん、途中で狭くなったりはしてないよな?」
「……真っ直ぐな洞窟で入り口から出口まで見通せるとは聞いてたけど、狭くなるとは聞いてないよ。でも、そもそも入り口が狭いのは確認してなかったから……」
「見通せるなら確認してくるのです! ケイさん、固定を解除なのさー!」
「あ、ハーレ、確認に行くなら私も行くかな」
「ほいよっと。サヤ、ハーレさん、確認は任せた!」
「任されました!」
「分かったかな!」
落下防止の岩での固定を解除すれば、すぐにサヤとハーレさんがアルのクジラから飛び降りて、洞窟の様子を確認しに行った。ハーレさんは少し意識して元気に振る舞おうという感じもなくはないけど、まぁとりあえずは大丈夫そうだね。
洞窟の入り口から出口が見えるのであれば、流石に通れないほど異常に狭くなっている場所があれば分かるはず。
「アル、どっちにしても地面には降りとこう」
「そうだな。『略:小型化』『根脚移動』!」
アルのクジラが小型化しながら、木を牽引する状態へと変化していく。さて、種族的な大きさとしてはクジラが最大級だからそのままでは制限がかかる場所が出てくるのは仕方ないとして……。
「ハーレさんが妙に気にしてたけど、これはなんかありそうな気がしてきたな」
「……ケイもか? 奇遇だな、俺もだ」
「あはは、ケイさんとアルさんもなんだね? 私もそんな気がしてるよ」
「2人も同感かー」
反対側へ移動するには飛行手段を持たないと迂回は面倒な妙に高い岩山にある、真っ直ぐな通り抜けるだけの洞窟。一応、そのままの役割という可能性も否定は出来ない。
だけど、通り抜けられる種族が限られる洞窟という部分に少し覚えがある。それこそ氷結草の群生地を見つけた時の、あの雪山の氷結洞にあった縦穴に条件が似ている。そこが気になってきた。
「ヨッシさん、発火草の群生地ってもう見つかってたりする?」
「ううん、まだだったはずだよ。これから行く溶岩のある洞窟にそれなりに生えてはいるそうだけど、群生地って言うほどではないみたい」
「……前例で考えるなら、どこかに縦穴でもあるのか?」
「ありそうな気はするけど、まだ誰も見つけてないってのが気になるとこだなー」
可能性としては辿り着く為には何らかの条件がある可能性か。氷結草の群生地なら夜の日には外側からは氷の壁が出来て、氷結洞の内部の縦穴からしか行けなかった。
ここのエリア自体は例の土属性のドラゴンが猛威を振るっていたし、俺らが倒した時にはこの洞窟は埋まっていた。木曜日の定期メンテで埋まった洞窟は復活したらしいけど、条件があるなら発見が出来なかった可能性もあり得るね。
「みんな、変に狭くなってるとこはないから通れそうだよー!」
「逆に入り口より中の方が少し広くなってる感じかな」
「ほいよっと。とりあえず確認しながら進んでいきますか」
「だな」
「そだね」
サヤとハーレさんが洞窟の様子を確認してくれたし、下手に考えるよりも実際に確認しながら進んで行く方が確実だな。ま、何かあれば儲けものくらいの気楽さでいきますか。
という事で、すぐにサヤとハーレさんと合流して洞窟の中へと足を踏み入れていく。今回はサヤは自分で歩いて移動し、ハーレさんも巣ではなくアルのクジラの頭の上に乗っている。俺はクジラの背の上で、ヨッシさんがハーレさんの巣にいるって感じだな。
それにしてもこの洞窟、薄暗くはあるけど比較的視界は良好である。……ふむ、入り口と出口の両方が見えてるからか? んー、まぁこの辺はゲーム的な処置かな?
「サヤ、足元を重点的に任せたのさー! 私は左右を確認するのです!」
「うん、分かったかな!」
「ヨッシは上をお願いねー!」
「……あはは、あんまり自信はないけど了解」
「アルは移動に専念するとして……ハーレさん、俺は?」
「ケイさんは獲物察知をお願いなのさー! 敵もだけど、アルさんみたいに大きい種族の人が前から来たら困るのです!」
「あー、なるほどね。確かにそりゃ獲物察知は必要だな」
なんかこの洞窟では敵が出てこないみたいな事を勝手に思ってたけど、よく考えなくてもそんな保証はないし、他のプレイヤーが反対側から来る可能性は十分ある。……プレイヤーだと思わず、敵だと判断されたら厄介ではあるもんな。
この狭い洞窟の中では動き回りにくいんだからより敵には警戒をすべきだし、もし敵がいないとしても近くにいる他のプレイヤーについては可能な限り把握しておいた方がいいか。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 50/80(上限値使用:1)
あ、魔法砲撃を発動したままだけど、まぁ特に負担になる訳じゃないし……そういや魔法砲撃ってLvが上がるとどうなるんだろ?
うーん、威力とか弾速が上がりそうではあるよね。まぁ使っていればいつかは上がるだろうし、今はそれはいいか。
それよりも獲物察知の反応の確認が先だね。えーと、黒い矢印は薄いのと濃いのが洞窟の外に向けて伸びている。いくつか灰色のカーソルが背後にあるのはプロメテウスさん達だろう。
他には……真上の方に青の群集と黒い王冠のあるカーソルが激しく動き回っているから、あの妙に高い岩山の上でフィールドボス戦中か? まぁこれも直接は関係ない。とりあえずすぐに影響がありそうなのは特にはないか。
「今のところ、特に問題はなさそうだぞ」
「了解です! それじゃ洞窟をチェックしながら進んでいくのさー!」
「ねぇヨッシ、ちなみにだけど溶岩の洞窟って事は地下になるのかな?」
「あ、うん、そうらしいよ。入り口から少し下っていけば、川みたいに溶岩が流れている場所に出るんだって。結構広いし、まだ全体は探索し切れてないんだって」
「ほほう、そうなんだ? どっちの方向に広がってるとかは?」
「んー、特に特定の方向に向かって広がってる訳じゃないらしいよ」
「……なるほど」
という事は、極端な事を言ってしまえば俺らのいるこの洞窟の真下に溶岩の洞窟がある可能性もある訳だ。足元のチェック担当はサヤだったな。
「サヤ、地面のチェックは念入りに頼む」
「ここの地面から、溶岩の洞窟に繋がる縦穴があるって読みかな?」
「ま、そういうとこ。ただ、そう見せかけて側面にあるって可能性もあるから、ハーレさんも任せるぞ!」
「さっきはみっともない所を見せちゃったので、頑張るのです!」
「よし、その意気だ。アルも歩いてて違和感があったら教えてくれ。俺も獲物察知に変わった反応が出たら報告する」
「おう、了解だ。んじゃ、そんなに長くもないが洞窟を通り抜けていくか」
「「「「おー!」」」」
さて、それじゃ洞窟の中を進んでいこう。これで発火草の群生地でも見つけられたら嬉しいけど、今日の目的はLv上げだからその探索はあくまでおまけだけどね。
「ところで、ケイ。さっきのケインって奴が最後に言ってた件だが――」
「あー! それは聞きたくない! あれの相手はしたくない!」
「……まぁそうだろうが、あの感じだと遭遇する度に面倒な事になるぞ?」
「うぐっ……」
確かにそれはそうだとは思うし、俺に全面的な責任があるとは思わないけど、人違いで困った状況があったという事には思うところがない訳ではない。
でも、あの一方的な敵視はなぁ……。あれさえなければ、俺だってそれなりに対策を考える気にもなるし、場合によってはベスタやレナさんを筆頭に影響力の大きい人の力を借りて解決の相談をする手はあるんだけどね。
「ケイ、レナさんやベスタさんの力を借りる訳にはいかないのかな?」
「……それは考えたけど、向こうが態度を変えない限りお断り。なんで敵意を向けてくる相手の為に動かなきゃならないんだ……」
「……あはは、確かにそれはそうかな」
「とりあえずケインの話はこれで終わり! しつこいようなら運営に通報するだけだ!」
「まぁあの様子なら、通報されても文句は言えないよね」
「完全に自滅へ進んでいるのです!」
ぶっちゃけ、現時点で迷惑行為として通報してしまっても構わないとは思うくらいだしなー。流石にBANはされなくても、運営から警告くらいは行くはず。
えぇい、あのケインについてはこれ以上考えたくはない! みんなは話しながらでも周囲の確認をしているけど、この話題だと俺の集中力が無駄に削られていくしね!
「よし、話題を変えよう! ちょっと言い忘れてたけど、カマキリと戦った時の俺がミスった時の事な」
「あー、そういやアイシクルを発動した時に変にミスってたな? あれはどうしたんだ?」
「単純に言えば、威力の想定ミス。……貫通するとまでは思ってなかったんだけど、昇華魔法の威力が上がってるっぽい」
「……そういえば、最近のLv上げで魔力値自体は前より増えてるもんね」
「なるほど、そういう理由か。そりゃミスにもなるか」
「ま、そういう事。極端に変わってたって程じゃないんだけど、移動操作制御を使ってる時に影響範囲内にいたのが最大のミスだな。次からはもっと距離を取るようにするよ」
「……その時々の消費した魔力値で威力が変わるんだから、その方が良いかもね」
「だな。毎回、消費魔力値が同じって訳じゃねぇし、それが安全か」
ふー、とりあえずちゃんと理由を説明したらアルもヨッシさんも納得してくれたみたいだね。原因をちゃんと把握して、それをみんなに説明をするのは大事!
これからは移動操作制御を使っている時は、味方の昇華魔法の範囲になりそうな場所からは出来るだけ離れるように気をつけよう。それが大きな隙になって負けたら意味がないしね。
「みんな、ちょっとストップかな!」
「サヤ、何かあったのか!?」
「……地面か?」
「ううん、地面と壁の境目の辺りかな。この辺りだよ」
「あー!? ちょびっとだけど、煙が出てるー!?」
「あ、ほんとだね。煙というより、水蒸気……?」
おぉう!? すごい分かりにくいけど、言われてみれば確かに蒸気らしきものがあるような気がしないでもない。……相変わらず凄い観察力をしてるね、サヤ。
「確実にこの奥に何かあるけど、壁を壊してみる?」
「何かあるのが分かっているのに、確認せずスルーは無理なのです!」
「……確かにそりゃそうだ。サヤ、岩壁の破壊を頼める?」
「それなら任せてかな!」
「ケイさん、獲物察知の反応は?」
「特に変化はないけど……ヨッシさん、何か気になる事でもある?」
「えっと、単なる思い過ごしなら良いんだけど、擬態してる敵が塞いでいる可能性ってない?」
「……あー、その可能性もないとは言えないか」
それについてはヨッシさんに言われるまで思いついていなかった可能性だね。確かに擬態した敵なら獲物察知には引っかからないし、岩に擬態した種族であれば今までに何度か見ている。
サヤとハーレさんなら擬態も素で見抜きそうだけど、それも絶対とは言えない。もし成熟体の擬態に特化したやつなら見破れない可能性もあるし、ここは確かめておく価値はあるかもしれないね。ま、もし成熟体だとしたら擬態のは逃げるから大丈夫だろ。
「よし、先に看破を使うか。アル、ここでの戦闘は動きにくいだろうし、看破を任せていいか?」
「あー、場所を考えたら後の役目が少ない俺が適任だな。おう、任せとけ」
「それじゃみんな、アルが看破を使って、もし成熟体なら放置で、未成体なら戦闘って感じで良いか?」
「多分普通の岩だとは思うけど、成熟体の擬態なら見抜けてない可能性もあるからそれで問題なしです!」
「私もハーレに同感かな」
「……敵でない方が嬉しいけどね」
まぁこの狭い洞窟の中で盛大に戦いたいとも思わないから、俺としても塞いでいるのはただの岩壁であってほしい。でも、それを確認していかないと先に進めないしね。
「みんな、警戒態勢! アル、頼んだ!」
「おうよ! んじゃ、いくぜ! 『看破』!」
さて、反応は……特になしか。ふぅ、どうやら擬態した敵ではなかったようである。発動中の獲物察知にも特に反応はなし。
「……ただの杞憂だったみたいだね」
「そうみたいなのさー!」
「ま、少しホッとしたぞ」
「あはは、確かにそれはそうかな」
「まぁこの洞窟内ではあんまり戦いたくないもんなー。よし、それじゃサヤ、岩壁の破壊をよろしく」
「うん、任せてかな! えっと、連撃だとただの岩相手だと回数が稼げないからこっちかな。 『魔力集中』『略:ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『殴打重衝撃・風』!」
敵ではない事の確認が終わってから、サヤが風属性を付与して速度を上げながら……って、殴打重衝撃!? あれ、サヤってこの応用スキルは持ってなかった気がするんだけど!?
「サヤ、殴打重衝撃って持ってたっけ?」
「今日の単独行動の時に取ったかな! 竜との連携攻撃も考えてるんだよ」
「あー、なるほど。サヤが後で見せるって言ってたのはこういう事か」
「ケイ、正解は正解だけど、まだ全貌は見せてないかな?」
「ほほう? それじゃその全貌とやらは楽しみにしとく」
なんというかサヤはクマの集まりには行ったけど、確実にスクショではなく戦法の強化をしてきてるっぽいね。
まぁそれが悪い訳ではないし、使える戦法が増えるのはむしろ良いことだ。うん、竜とどういう組み合わせで連携攻撃をするのかが楽しみだね。
「あー、まぁそれはそれで興味深いんだが、なんでチャージの打撃なんだ?」
「アル、やっぱりそこは気になるかな?」
「まぁな。既に持ってた重硬爪撃や断刀じゃ駄目なのか?」
「単純に言えば斬撃と打撃の使い分けかな。ほら、今みたいな場合だと斬撃より打撃の方がいいしね」
「……確かにそりゃそうか」
うん、それについてはごもっとも。連撃ではこういう破壊の時はカウントが稼げないし、斬撃だと岩壁に斬り込みを入れるだけになる可能性がある。
って、サヤが新たにスキルを取ってきてたから上手くいきそうだけど、そう考えると俺がやった方が良かったのか! うん、今更言っても遅いね。もうサヤのチャージも完了しそうだしさ。
「それじゃチャージが終わったから、やるかな!」
「サヤ、ファイトなのさー!」
「先に何かあればいいんだけどね」
そうしてチャージを終えたサヤが洞窟の岩壁に向かって、眩い銀光を放つ打撃を叩き込んでいく。すると、岩が砕け散る音が響き渡り……砕けた岩壁の先にはちょっとした空洞が広がっていた。
おっしゃ、隠しの空洞を見つけた! さーて、ちょっと寄り道にはなるけどこの中がどうなっているのか、確認していこう! Lv上げも大事だけど、1日中それだけじゃ飽きるしね!
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