第868話 手助けをして 後編


 全滅しかけていたPTの手助けに入って2対の鎌を持つフィールドボスのカマキリとの戦闘になったのはいいけど、カマキリの鎌が千切れかかったら暴れ出したのにはビックリしたー。てか、今は完全に千切れかかってたのが千切れてるし。


「ケイさん、少し下がって体制を立て直すのさー! 『連速投擲』!」

「……ほいよっと」


 俺の拘束を振り解いたカマキリが残っている2本の鎌の両方から銀光を放ち出しているし、ここはハーレさんが引きつけてくれている間に距離を取った方がいいな。

 カマキリの残りHPは3割を切ってるけど、俺の単独での昇華魔法だと削り切るには心許ないとこだしね。という事で、一旦アルのところまで後退だ。


「……今のミスはらしくねぇな?」

「あー、その辺はもう単純なミス……。それはいいからとりあえず倒そう」

「ま、そういう事もあるか」

「……あはは、まぁそうさよね」

「それはそうかな」


 思いっきりミスはミスだけど、部位破壊の見誤りなんてミスは、赤の群集や青の群集の人がいる時にはちょうど良かったはず。

 聞いているほど大した事はなさそうだと判断してくれる方が、後々の事を考えるとありがたい。ふっふっふ、何せさっきのは何一つ偽りなく、純粋なミスだから演技なんて……なんか考えてて虚しくなってきた。あー、戦闘中なんだから意識を切り替えていこう!


「あぅ!? あのカマキリ、投擲の弾を斬り裂いてくるのです!? 」

「……どうも1つの鎌で連撃を、もう1つの鎌でチャージをしてるっぽいな」

「ケイが2本の鎌を千切ったのは有効だったっぽいかな?」

「そうっぽいな。ハーレさん、そのまま連撃の方は相殺し続けてくれ! チャージの方は俺が潰す!」

「了解です!」


 アルはさっき昇華魔法を使ってしまったから遠距離からの魔法攻撃は使えない。サヤにまた突撃してもらうという手もなくはないけど、距離が詰まるまではハーレさんに任せる方が良いだろう。

 現状で遠距離から狙いをつけやすいのは俺かヨッシさんだけど、ここは俺がやろう。さて、見られても問題ない範囲での遠距離攻撃……出来れば威力も欲しいし、可能ならそのまま残った鎌も破壊してしまいたい。よし、これでいくか。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 20/77(上限値使用:4): 魔力値 198/222

<行動値を3消費して『土の操作Lv6』を発動します>  行動値 17/77(上限値使用:4)


 よし、これで石のナイフを3本生成完了だ。……出来れば岩の大剣で盛大に切断といきたいとこだけど、あのカマキリは鎌の攻撃速度も速いけど、回避速度も悪くはないんだよね。

 流石に鎌が万全な状態ならこっちの手数が足りずに迎撃される可能性は高いけど、ハーレさんが連撃を相殺している状況であれば問題はない。


「やるぞ、ハーレさん!」

「いつでもどうぞー! えいや!」


 ハーレさんの投げ放つ銀光の弾も、カマキリの連撃もチャージの銀光ももう最大強化に近付いている。……軽く当たるだけで、こっちの岩のナイフは壊されそうだな、おい!

 でもまぁ、ここは操作技術の見せ所だ。……迎撃をしにくくする為に1本はハーレさんの投擲に合わせて動かし、残る2本は左右へと別々に動かしていく。


 攻撃を仕掛けるタイミングは……ハーレさんの投擲を迎撃する為に鎌が動いた直後の今だ! ハーレさんの弾に合わせて動かした岩のナイフでの狙いはチャージをしている鎌!


「おし、チャージの妨害成功!」

「ナイスだ、ケイ!」


 よし、狙い通りチャージは妨害出来たから次は……あ、ヤバい。チャージをキャンセルさせた事で、連撃の方の手数が増えた!?

 てか、最大強化の目前っぽいけど、最後は2発同時に仕掛けてくるっぽい。しかも一気に距離を詰めてきた。くっ、ハーレさんの連速投擲では2発同時は対処出来ないぞ。


「予定変更! 俺が連撃を受け止めて無駄撃ちにするから、ハーレさんはその後に最大強化のを叩き込め!」

「了解です!」


 俺の石のナイフは破壊されても、それで連撃を無駄撃ちさせられるなら問題はない。って事で、覚悟しろや、カマキリ!

 左右に展開していた2本の石のナイフで挟撃するように鎌を狙って……よし、当てられた。でも、この2本の石のナイフは破壊されてしまったか。


「これで、どうだー!」

「あ、鎌が千切れそうかな!」

「ケイさんの万力鋏で切れ目が入ってたみたいだね」

「そうみたいだが、ちょっと足りないな」

「そうっぽいけど、石のナイフはまだ1本残ってる!」


 先にチャージを妨害した時の石のナイフは破壊されずに残ってるからね。それを一気に急加速して、千切れかけている残りの2本の鎌を切り飛ばしていく。

 それと同時に石のナイフも破壊となった。ま、役目は果たしたから特に問題は無し!


「ふー、とりあえずこれでカマキリの攻撃手段は奪ったぞ。アル、サヤ、ヨッシさん、残りは任せていいか?」

「任せてかな!」

「だな。あそこまでやっとけば、後は楽勝だろ」

「うん、任せてよ!」

「それじゃよろしく!」


 ハーレさんはついさっきまで俺と攻撃をしてたから……ん? 何かハーレさんから変な視線を感じるけど、まだ暴れたりなかったか? でもここは余力の残ってるみんなに任せた方が良いはず。カマキリの残りHPも2割ってとこだしね。


「あのー、ちょっと良いです?」

「ん? どうした、セラさん?」

「いやー、私達は全滅させられかけちゃってたじゃないですか? 助けてもらって図々しい気もするけど、思いっきり攻撃を叩き込みたいなーとか?」

「あー、なるほどね」


 ふむ、まぁセラさんの言ってる内容については気持ちは分からなくはない。他の全滅しかけてた人達も同じ気持ちなのか俺の方を向いている。

 うーん、セラさん達が生み出したフィールドボスなら後始末を押しつけた上に堂々と図々しい事を言うなと言いたいとこだけど、そうじゃないもんな。


「ケイさん、それくらいは問題ないんじゃない?」

「そうなのさー! 何も出来ないまま見てるだけなのが嫌なセラさん達の気持ちは分かるのです!」

「ま、確かにそりゃそうだな。それじゃ――」

「「「「「「あっ!?」」」」」」


 うん? セラさん達が声を揃えて……って、そういうこともあるのか。うーん、こうなると変に大人数で攻撃を仕掛けるのには不適切な状況になってしまった。


「脱皮をしたのさー!?」

「……鎌が復活したか」


 カマキリが脱皮を使って、アルが言うように鎌が完全復活している。まぁそりゃ攻撃手段を完全に封じたら、それ相応の行動はしてくるか。てか、脱皮は爬虫類系の種族や甲殻類系の種族が使うものだと思ったけど、虫系の種族でも使うやつがいるんだな。

 うーん、脱皮を使う条件は、部位破壊をされた時とかかな? 俺も脱皮を使うのはそういう時だしね。


 そういやこのカマキリ、近接用の応用スキルをいくつ持ってる? サヤが2回相殺して、さっきはハーレさんが1回相殺した。

 再使用時間が過ぎたと考えたらもう1発、ここから使ってきてもおかしくはない。だとすると……。


「セラさん達には悪いけど、予定変更だ! 脱皮したなら、俺の昇華魔法で片付ける!」

「……あはは、残念だけどその方が良さそうですよねー」

「……あぅ」


 直前までは攻撃しても良いと話が纏まりかけてたけど、状況が変わったから仕方ないって事で諦めてもらうしかない。

 何故かハーレさんまで反応してるのが少し気になるけど、折角手助けに入ったのに甘く見て死なせたという結果は嫌だからな。


「みんな、俺が仕留めきれなかった場合は頼んだ!」

「それは多分大丈夫じゃないかな?」

「脱皮でHPが回復してるとはいえ、防御が盛大に下がってる今ならケイの単独発動で仕留め切れるだろ」

「……まぁそうだとは思うけど、念の為なー」

「ま、その場合は俺が根の操作で捕獲するから、トドメはサヤに任すぜ」

「うん、任されたかな!」


 ふー、与えるダメージ量を見誤って倒し損ねるとかは嫌だし、これで心配はいらない。まぁ脱皮で防御が盛大に下がってはいるはずだし、物理型っぽいから魔法には元々弱いはずだから、俺の昇華魔法で大丈夫だとは思うんだけど……。


「って、逃すか!」


 くっ、逃亡の特性を持っていないくせに飛んで崖の上に逃げようとしやがったぞ、このカマキリ! ……もしかすると脱皮を使った場合は逃げるという行動パターンがある可能性もありそうだな。

 まぁ逃すつもりは欠片もないからそこはいいや。とりあえずさっさとくたばれ、このカマキリ!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 16/77(上限値使用:4): 魔力値 195/222

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 14/77(上限値使用:4): 魔力値 192/222

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/222


 今回は魔法砲撃にはせず、カマキリの頭上から滝を生成して押し潰していく。あー、ちょうど目の前に崖がある状況だから、本当の滝に大きなカマキリが呑まれていったって感じになったね。

 うーん、水量が多くて肝心のカマキリの様子が見えないな。こりゃ効果が切れるか、討伐報酬が出ないとどうなったかが分からないか。完全に効果範囲内には捉えたから、逃げられているという事はないはず。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


<『瘴気石』を1個獲得しました>


 お、討伐報酬が出たって事は、無事にカマキリの撃破完了だな。それに今回ので瘴気石が手に入ったのは地味にありがたい。


「とりあえずみんな、お疲れさん」

「一番消耗してるのはケイな気がするかな?」

「アルさんもヨッシも魔力値は尽きてるし、少しの間は回復の為に休憩なのさー!」

「ま、そうなりそうだな。特にケイな」

「流石にこのままは進めないしね」

「だなー」


 うん、みんなの言う通りかなり消耗はしてるから、まだ行った事のない溶岩の洞窟に行くのは少しお預けか。

 正確な入り口の位置は移動しながらチェックするつもりだったけど、回復を待ってる間にチェックしていけばいい。それに溶岩の洞窟に入る為の準備を整えないといけないしね。


 その時間が出来たと考えれば、まぁ悪い話ではない。俺らが戦闘開始した時には既にHPは7割くらいにはなってたからその分だけ減ってはいるみたいだけど、それでもそれなりに経験値は貰えたしなー。


「あ、あの! 今回は手助けしてくれて、ありがとうございました!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

「あー、良いって、良いって。俺らとしても損した訳じゃないからな」


 ん? なんでそこでざわめき出すんだ……? 特に赤の群集の人達の方は困惑してるっぽい。え、俺って今そんな変な事を言ったっけ?


「……いつかの連中と違って、偉ぶったりしない!?」

「今でも恩着せがましい奴もいるのに!?」

「これが灰の群集かぁ……。ルアー達も頑張ってるのは分かるけど、こういう人に会うと移籍を考えたくなるよな」

「……だなぁ」

「気になってたんだけど、あのケイって人、アーサーがコケの兄貴って言ってる人じゃね?」

「え、あのコケの人? でもコケは見当たらないぞ?」

「……泥塗れで汚れてるのが気になる」

「いや、でも流石にそれは聞き辛くね?」

「だよなぁ……」


 あー、うん。なるほど、この赤の群集の3人組はアーサーの知り合いか。……俺自身もまた忘れかけてたけど、そういや今はコケが泥の汚れで思いっきり隠れてる状態だもんな。

 転移してきてすぐに汚れは洗い流す予定が、すぐにフィールドボス戦になったからそのままになってるよ。……うん、回復中に洗い流すだけはやっておこう。


 てか、赤の群集って恩着せがましい人が存在してるのか。……まぁそういう人は灰の群集にもいない訳ではないとは思うけど、赤の群集にはそういう傾向の人が多いのかもな。


「助けてもらってフィールドボスの討伐称号を得たのに、何もせずってのは納得出来ない……」

「つっても、セラ、俺らはロクなもんを持ってねぇぜ?」

「あるのはさっきのフィールドボスで得た瘴気石くらいだぞ」

「うーん、足りない気もするけど、それを渡そうか。あ、赤の群集の人達、ちょっと相談があるんだけど」

「あー、聞こえてたぜ。瘴気石を渡すのなら賛成するぞ」

「おう、俺もだ」

「このまま助けられっぱなしもなー」

「よし、それじゃそれでいこう!」


 一応小声では話しているんだけど、連結PTになってるからPT会話で丸聞こえってのは……言わない方がいいんだろうな。

 別に俺らとしては対価を求めて手助けに入った訳じゃないから気にしなくても良いんだけど、セラさん達としてはそれじゃ納得できないんだろうね。


 ここはセラさん達の気持ちを立てておくのが良いかもしれない。一応みんなの方を見てみれば頷いているので、受け取るのに反対という事はなさそうだ。


「今回は本当にありがとうございました! これ、少ないかもしれませんが、今回のお礼です!」

「ふー、俺らがこれを受け取らないと納得出来なさそうだし受け取るけど、1つ条件がある」

「……条件?」

「ま、無茶な条件は言わないから安心してくれ。条件は、誰かが困ってるとこに遭遇したら助けてやってくれな? あ、流石に競争クエストで対戦中とかは除外でいいけど」

「は、はい!」


 ま、困った事があればお互い様って事で良いだろう。大勢のプレイヤーが同時にプレイするオンラインゲームなんだし、こういう形での助け合いも大事だしね。

 特に新規に始める人に対して、先にやってる人がマウントを取るような事になれば新規が居付かなくなって衰退しちゃうからなー。こういう些細な意識って大事だよね。



 そうしてセラさん達から6個の瘴気石を受け取り、そこで連結PTは解散となった。でも、何か思うところがあったのか、赤の群集の3人と青の群集の3人はそのままPTを組んで狩りをしていく事になって立ち去っていった。


 さて、予定外のフィールドボス戦も終わったし、俺らは俺らで本来の目的をやっていきますか!


 

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