第867話 手助けをして 前編


 封熱の霊峰に転移してきて早々に、目の前で行われていたフィールドボス戦の手助けをする事になった。フィールドボスに遭遇して全滅しかけていたセラさん達は運が悪かったもんだね。


「サヤ、もう少し抑えていられるか!?」

「うん、問題ないかな! 『爪刃双閃舞』!」


 よし、サヤがカマキリの2対の鎌を上手く捌きながら、着実に斬り刻んでダメージを与えている。さて、ここからどう動くか。

 今はアルが守りを固めて、ヨッシさんとハーレさんが他の人達のHPの回復を支援している。まぁ余り気味であるアルの蜜柑を渡してるだけではあるけど……とりあえず確認すべきとこから確認していくか。


「セラさん、Lvが分かってるって事は識別済み?」

「え、うん。やっぱり伝えといた方が良いよね?」

「まぁ最悪自分で識別するけど、識別内容が分かってるなら行動値の節約になるから教えてくれ」

「あはは、そりゃそうだよね。えっと、Lvは20で、瘴気強化種だったはず。ごめん、名前は忘れた……。それで、確か属性は無くて、特性は豪傑と斬撃と……俊敏と豪腕? あれ、他にも合ったような気もするけどなんだっけ?」

「特性に合成とか、鎌が2つあるのを表すようなのって無かった?」

「あ、それだ! 確か双刃って特性があったよ!」

「……『ソウジン』ってどんな字?」

「双子の双に、やいば!」

「『双刃』か。了解っと」


 2対ある鎌だから2つの刃って感じはしないけど、元々が2対で1つのカウントになってるってとこか。

 とにかく識別情報を聞いた限りでは斬撃特化で、俊敏と豪腕があるから連撃もチャージも両方いけそうな感じだな。……移動速度も悪くはなさそうだ。


 さてと、適正Lvが20に届いていないエリアにLv20のフィールドボスかつ瘴気強化種の合成種なら自然発生とは考えにくい。もし土属性のドラゴンの時みたいに殺された人が多くて経験値を与えまくって育ったのなら、それに関する情報があっても不思議ではないけども……。

 でも、それならLv20なら討伐出来る人は今は多いし、あっという間に情報が伝わって倒されそうだから、それほど時間は経っていないはず。……このカマキリをフィールドボスに進化させた人達が死んで、そのすぐ後にセラさん達が遭遇してしまったってとこか。


「ケイさん、回復はもう大丈夫だよー!」

「ほいよっと! 流石に格上のフィールドボスが相手だと厳しいだろうから、セラさん達は下がっててくれ。アル、ハーレさん、ヨッシさん、やるぞ!」

「おっし、了解だ!」

「はーい!」

「うん、分かったよ」


 とりあえずアルとヨッシさんは発動中のスキルを解除して戦闘に移れるようにはなった。さて、相手は斬撃特化の物理型のカマキリだ。

 どう見ても主力攻撃はあの2対の鎌から繰り出される連続斬撃やチャージの斬撃だろう。それに魔力集中は発動してるみたいだな。


 手助けをするという事で参戦にはなったけど、赤の群集と青の群集の人の目の前ではあるし、出来るだけ新しめの手の内は封じていくか。……余裕があればだけど。


「サヤ、カマキリを引きつけつつ、こっちに下がってきてくれ。アル、根の操作で捕獲の用意。鎌の刃の部分を避けて、吊り下げるぞ」

「分かったかな! 『爪刃乱舞』!」

「そりゃ良いが……動きが早いし、あの鎌も動きまくってんぞ?」

「あー、それは確かに……」


 サヤが俺らの方に後退しながらカマキリの鎌と打ち合っているけど、カマキリの鎌の数が多い分だけ連撃の1撃ずつの入れ替わりが早い。……サヤは対応出来ているけど、こりゃLvが下だとキツかっただろうな。

 この状況で確実に動きを封じるなら、他に何か動きを制限する手段が欲しい。魔法での拘束をしてもいいけど……ここはフィールドボス相手だから上手くいくかは分からないけど、ちょっと朦朧でも狙ってみるか。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 78/78 → 78/80(上限値使用:1)


 今の戦闘では水のカーペットは不適格だから、一旦解除! 飛行鎧に切り替える!


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 78/80 → 74/74(上限値使用:7)


 よし、飛行鎧の展開完了! さて、サヤが引きつけている間に攻撃の準備をしていかないとね。


「ハーレさん、とりあえず俺に乗ってくれ。上空からあのカマキリの頭に一撃入れてやる」

「了解です! 貫通狙撃? それとも魔法弾での狙撃?」

「物理型だし、効きがいい魔法弾だな」

「はーい! 『魔力集中』『魔法弾』!」


 とりあえずハーレさんが魔法弾の待機に入った状態で、サヤとカマキリが打ち合っている上空へと移動していく。

 魔法弾で朦朧を狙うなら、水魔法よりは土魔法の方がいいよな。……ま、これは上手く朦朧が入るか分からないけどね。


<行動値4と魔力値12消費して『土魔法Lv4:アースボム』を発動します> 行動値 70/74(上限値使用:7): 魔力値 210/222


 これでハーレさんの魔法弾の準備は出来た。でも、まだカマキリの動きが激しい。うーん、流石にサヤだけでカマキリの相手を任せたのは厳しかったか?

 サヤは苦戦している訳ではないけど、攻勢に移れているかというとそうでもない。まぁ後退するという指示は出したのもあるんだろうけどさ。……よし、もう1手使っとこう。


「ハーレさん、合図するまで待機な」

「はーい!」


 フィールドボスとはいえ、全ての状態異常が効かない訳ではない。……何が有効か、それも探ってみるべきか。かと言って、全員で攻勢に出る訳にもいかないから、ここは役割分担をしていこう。


「サヤはアルが捕獲したら行動値を回復させつつ、ヨッシさんと万が一の為に防衛に回ってくれ。ヨッシさん、サヤの連撃が途切れた段階でポイズンインパクト! 毒の種類は……とりあえず腐食毒と麻痺毒の複合毒で!」

「うん、分かったかな! もう1回、『爪刃乱舞』!」

「了解!」

「アルはハーレさんが魔法弾を叩き込んだら、即座に根の操作で鎌を縛ってくれ。朦朧の有無はこの際無視していい」

「おう、任せとけ!」


 さてと、毒や朦朧が入らなくてもこの2段構えでの魔法での攻撃なら隙は出来るだろ。少なくともまだ一度も攻撃してないアルの迎撃に最優先という可能性は低いはず。

 ま、捕獲されないように迎撃に動くという行動パターンだったとしたら、別の方法で鎌を封じるまで。成熟体の動きを封じようって訳じゃないんだし、フィールドボスとはいえ自分より低いLvの拘束くらいやれなきゃ無様ってもんだ!


 よしよし、サヤが後退しながらアルとヨッシさんの方に近付いていってる。2対で4本の鎌があるとはいえ、連撃はサヤの爪刃乱舞と同じように同時には2発まで……って、そんな事を考えてたら違うパターンが来た!?

 4本の鎌で同時に斬りかかってくるって、鎌が4つあればそういう芸当も出来るのかよ! 同時攻撃が可能な連撃系スキルはあるけど、2発同時までが限界じゃなかったのか?


「っ!? 『略:突撃・風』!」

「サヤ、ナイス判断!」

「どうもかな! ヨッシ、今かな!」

「それじゃ行くよ! 『ポイズンインパクト』!」


 咄嗟に手数では受け切れないと判断したサヤが、背負った竜の向きを右方向に変えて突撃する事で緊急回避をしていた。

 なんというか、サヤはクマの集まりで竜の活用方法を色々と考えてきた感じっぽい? サヤの戦法の変化やさっきのカマキリの攻撃も気にはなるけど、今はそれどころじゃないな。


 とりあえずサヤが緊急回避して、ヨッシさんがカマキリの真っ正面から毒の衝撃魔法を放つ事には成功した。ただ、発動していた連撃のスキルで相殺しようと斬り刻んでいる。

 銀光を放ってはいないから通常スキルだとは思うけど、発動している状態で真正面からは無茶が過ぎたか。ま、そっちは本命ではないから問題ない。


「ハーレさん、やれ!」

「私の出番なのさー! 『狙撃』!」


 よし、前方からのヨッシさんのポイズンインパクトの相殺はされてしまったけど、無防備な頭部に魔法弾になったアースボムが炸裂した。

 魔法弾になって効果範囲は狭まったけど、密度は増した爆発魔法を頭部に食らったらどうだ?


「よし、朦朧が入った! アル!」

「おうよ! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」


 流石にフィールドボスには朦朧が入ったとしてもそんなに効果は保たないだろうけど、効く相手には効くというのが分ければ充分!

 とにかく効果が切れる前に、一気に攻め立てるまで! ……思った以上に魔法ダメージが効いているから出し惜しみ無しでいくか。


「アル、この後の拘束は俺が引き継ぐ。その後にアルはウォーターフォール、ヨッシさんは氷塊の操作を使ってアイシクルみたいな槍状にして突き刺してみてくれ」

「アイシクルみたいにだね、了解!」

「そりゃ良いが、ケイはどうやって抑える気だ!? 結構、凄いパワーで拘束を破ろうとしてきてるぞ!?」

「思いつきのぶっつけ本番! 駄目そうなら、サヤがまたカマキリを吹っ飛ばしてくれ!」

「あー、了解だ! ミスんなよ、ケイ!」

「ま、気持ちとしてはそのつもりだぞ! ハーレさんは仕留めきれなかった場合に時間稼ぎを頼む!」

「了解なのさー! それじゃ私は降りとくねー! 『略:傘展開』『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」

「おう!」


 そうしてハーレさんは俺のロブスターの上から飛び降りて、アルのクジラの上へと着陸していった。ハーレさんのクラゲを使った飛行方法も、こういう時に役立つね。

 さて、それじゃこのカマキリを仕留めに動き出しますか。本当は俺も昇華魔法をぶっ放したいとこだけど、それはまだ早い。使うとしたら、アルとヨッシさんの攻撃で仕留めきれなかった場合だな。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 69/74(上限値使用:7): 魔力値 207/222


 まずは土を生成して下準備を行っていくと同時に、カマキリの動きを封じる為に近付いていく。

 岩の操作を2つ並列制御で使ってもいいんだけど、ちょっと違った行動値の節約パターンを試してみたいからそれでいこう。ま、手段は違えど狙い自体は同じだけどね。


<行動値上限を3使用と魔力値6消費して『魔力集中Lv3』を発動します>  行動値 50/74 → 50/71(上限値使用:10): 魔力値 201/222 :効果時間 14分


 物理攻撃を使うつもりだから、魔力集中の発動は忘れないようにしないとね。これがあるかどうかで大きくダメージが変わるんだしさ。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 50/71(上限値使用:10)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を30消費して『万力鋏Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 20/71(上限値使用:10)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『万力鋏Lv1』のチャージを開始します>


 よし、飛行鎧でカマキリの背後を取って、右側の2本の鎌の付け根を万力鋏でがっちりと挟み込み、ギリギリギリとハサミに力が入っていく。この状態で鎌を挟んだまま、前方に回り込んで鎌を地面に押し付ける!

 それと同時に左側の2本の鎌は岩の操作で包み込み、岩で押し潰すように締め付けていく。おー、暴れてますなー! だけど、完全にカマキリの鎌は地面に押しつけて拘束してるからね! ふっははは、力押しだけでは抜けれまい!


「……あー、チャージしながら操作でも抑え込むって、そういうやり方もあんのか」

「……あはは、これはカマキリが少し哀れになってくるかな?」

「ああいう風に拘束されると逃げられる気がしないのです!」


 まぁそういうのを試してみようと思ってやってみたけど……って、しまった!? 赤の群集と青の群集の人が見ているのを忘れて、新しい事を試して……まぁこれくらいならいいか。

 前にベスタと模擬戦をした時に近接戦闘が弱点だと思ったからその辺はそれなりに強化した……あ、この理屈だと知られない方がいいよね。……うん、今更遅いか。まぁ魔法を含めて色んな拘束パターンがあるって事で警戒してくれればいいなー。


 あー、ともかく今はこのカマキリを倒す事だけを考えよう。別にこれだけが俺の手札って訳でもないしね。


「アル、拘束解除とウォーターフォール! ヨッシさん、突き刺しちまえ!」

「おうよ! 『並列制御』『アクアクリエイト』『アクアクリエイト』!」

「了解! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」


 よし、これでヨッシさんが地面側から槍状の氷を生成し、カマキリを……うーん、流石に貫通まではいかないか。でもアルのウォーターフォールが俺を避けながらカマキリを押し潰しているし、ダメージ自体は結構ある。あ、ウォーターフォールの勢いでヨッシさんの槍状の氷塊が貫通したっぽい?

 よし、これでカマキリのHPが一気に減って3割を切った! これだけ上手く決まればフィールドボスでも相当なダメージを与えられ――


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 20/71 → 20/77


 って、抑え込んでたカマキリの鎌が変な方向に折れ曲がって千切れかけてる!? しかもその状態で闇雲に振り回してきて、それが飛行鎧に当たった! くっ、流石に千切れかけた状態で暴れるとか想定してなかった……って、ヤバい! これで飛行鎧が解除されたら、万力鋏もキャンセルされるかも!

 

「おわっ!?」

「ケイ!?」

「ちっ、部位破壊をしたら暴れ出したか!」


 アルが言ってるけど、カマキリが全身で俺を振り解こうと暴れまくり始めた。ここまで来たらいっそのこと、万力鋏で右側の鎌も斬り落としてしまいたいけど、この状況でチャージが終わるまで抑え切れるのか……?


<『万力鋏Lv1』のチャージが中断になりました>


「げっ!?」


 まだチャージを続けている最中に、ここまで暴れられてたら挟み続けられずに放り出されてしまって、チャージは失敗になってしまった。……万力鋏というかチャージ系のスキルがチャージを中断されるとこういう表示になるのか。

 くそっ、物理特化のフィールドボスにこれだけ暴れられると流石に抑えきれないんだな。さて、とりあえず放り出されたけど、ここからこのカマキリをどうしてくれようか。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る