第866話 封熱の霊峰へ
急に予定外の経験値増加アイテムの入手にはなったけど、昨日使ったから補充出来たのはありがたいね。これは情報をくれた人達に感謝!
おっ、凄い勢いで湿地を競うように走っているクマが2人……あ、2人共が沼に足を取られて盛大に転んでた。あー、ツキノワさんと黒曜さんみたいだけど、思いっきり泥まみれになってるね。
「そういやハーレさんも泥まみれか」
「あ、さっきので汚れてるのさー!?」
「……ハーレは分かるけど、ケイはなんでそんなに汚れてるのかな? ここに来る前から汚れてたよね?」
「……え? あ、マジだ」
そういやミズキの森林で泥を扱ってから、全然汚れを落とすような事はしてないし、むしろ地面に埋まってたくらいである。ロブスターのハサミをよく見たら、思いっきり乾いた土で汚れていた。
全体的には見えないから分からないけど、まぁこういう風に言われているから汚れてるのは間違いないんだろうなー。
「ケイの事だから泥の実験をした時に汚れたままで忘れてたんだろうよ」
「ぶっちゃけその通りだけど、何か言い方が気になる!? よし、ハーレさん、泥を掴んでアルも汚すか」
「っ!? ケイさんに責任を押しつけて好き勝手に投げつけるチャンス!?」
「なんでそんなにノリノリなんだよ、ハーレさん!?」
「ちょ、ハーレさん、その発言は待て!?」
ハーレさん本人が思いっきり乗り気でやってるのに、俺の責任として全面的に押し付けるのは流石の待て! いや、そもそも俺がどうせすぐに汚れは落とせるからと軽い気持ちで言ったのがダメか!?
「はい、ハーレ、悪ふざけそこまでね」
「はーい!」
「ケイも悪ノリはそこまでかな」
「……ほいよっと。とりあえず封熱の霊峰に転移してから、泥を洗い落とすか」
「ま、ここじゃまた汚れる可能性もある……って、ハーレさん!? 汚れたまま乗ったら――」
「あっ、いつもの感覚で乗っちゃった!?」
「……あー、悪気はないみたいだし、わざとじゃねぇなら構わねぇよ」
「でも……アルさん、ごめんなさい……」
あらま、本当にうっかりといつもの感じでアルの木の巣の上に移動しようとして、クジラの背中にリスの足跡が思いっきり付いてるな。
さっきまでの悪ノリとは違って本気で凹んでるっぽいから、ハーレさんは本当にただ特に何も考えずにやっちゃったっぽい。まぁハーレさんがアルの木の上に登るのはいつもの事だから、普段の流れで無自覚だったんだろうね。
「ハーレさん、水で洗い落とせば問題ないから、そんなに気にすんな? な、アル?」
「おう、そうだぞ。気にすんな、ハーレさん」
「次は気をつけるのさー!」
ん? なんとなく今のハーレさんの言い方に違和感があったけど、ガチで凹んでいるのを今ので強がってる……? いや、流石に今のは些細な違和感だし、俺の勘違いって可能性も――
「ハーレ、そんなに凹まないの。逆に心配になるからね」
「あぅ……」
「気を取り直して、Lv上げに行くかな! ハーレ、気にしてて足を引っ張ったらダメだからね?」
「それはますます凹みそうだから、普通に頑張るのさー」
ふむ、今のは妙な違和感はなかったから本音っぽい? ま、アルのクジラを汚した事に対して少し過剰反応な気もするけど、とりあえずいつもの様子に戻ったみたいか。
「あー、とりあえず移動の前にこれだな。ほいよっと」
「そういやPTを忘れてたか」
「あはは、すっかり組んだ気になってたかな」
「……私も同じく」
「私もなのさー!」
<ケイ様の率いるPTが結成されました>
<サヤ様がPTに加入しました>
<ヨッシ様がPTに加入しました>
<ハーレ様がPTに加入しました>
どうやらみんなしてまだPTを組んでいなかったのを忘れていたようである。まぁ直前まで思いっきり共同体のチャットをしてたし、その辺が原因かもね。
ぶっちゃけ、俺もPTを組む前に転移しようと言いかけそうになったしさ。ちゃんとPTは組んでおかないと経験値がPTで分配されないから、ここは気をつけないとね。
「そんじゃPT組めたし、封熱の霊峰に転移していくぞ!」
「「「「おー!」」」」
という事で、元岩山エリアで、現在は命名クエストで『封熱の霊峰』に名前が変わったエリアへ移動である。明確にボーナス目当ての人が増え始めているから、急いで立ち去ろう。
封熱の霊峰には土属性のドラゴン戦……正確にはその前に赤のサファリ同盟や、青の群集や、無所属の羅刹とイブキと挑戦権を賭けて戦う前に転移の実の方で登録してるからね。
<『転移の実:封熱の霊峰』を使用しますか?>
お、転移の実の方は、登録している登録先も使用時に表示されるんだ。アイテムの説明欄に登録先は表示されているけど、スタック式だからこの確認は間違わなくてありがたいね。
さて、目的地に間違いはないので、使用を選択して転移開始! 転移の種とあまり見た目は変わらない演出で、光の膜に何重にも覆われていく。
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『封熱の霊峰』に移動しました>
花びらが散るように光の膜が消滅していき、転移は完了した。転移の実は使い捨てだから、これで1回分は消費になった。
まぁ共闘イベントで交換した10個と、不具合報告で貰った5個と、参加特典で貰った1個のうちの1個だからまだ個数には余裕がある。スタック式だけど10個以上あれば分割は出来るし、分割してカイヨウ渓谷にも登録はしてるからね。
でもサヤとヨッシさんとハーレさんは不具合報告分は貰ってないはずだから、そこの個数の差は気をつけないといけないな。
さて、封熱の霊峰に来たのはいいけど、登録してたのってどの辺の位置だったか忘れたからそこら辺をまず確認しよう。
えーと、周囲を見回してみれば……あぁ、挑戦権を賭けた乱戦をした周囲が崖に囲まれた拓けた部分か。邪魔にならないようにこの拓けた場所の端の方に登録してたんだったな。
「あー、うん、なるほどなー」
「……転移してきて、目の前でこれか」
「まぁそういう事もあるんじゃないかな?」
「おー!? 2対の鎌があるカマキリなのです!」
「黒い王冠マークがあるし、フィールドボスみたいだね」
転移早々ではあるけども、目の前では思いっきり戦闘が行われていた。敵は2対の鎌……4本の鎌と言い換えても良いけど、それで思いっきり切り裂きまくっているカマキリのようである。
てか、俺のロブスターと同じくらいの大きさだから、カマキリとしてはかなりデカいな。属性がある訳じゃない感じの体色だし、物理……特に斬撃に特化した感じだね。
「……戦ってる人達、思いっきり苦戦してないかな?」
「でも、勝手に手を出す訳にもなー」
戦ってるPTの人達は、死亡していなくなってる人がいなければだけど6人PTのようである。……今戦闘中の人は既に全員が満身創痍になっているし、行動値も尽きているようで辛うじて生きているという状態だ。
それに対してカマキリのHPは7割も残っている。これは俺らが手助けをしなければ、もう間もなく全滅するのは確実だな。てか、赤の群集の人と青の群集の人の混成PTなのか。
「これ、どうする?」
「……どうするってもな。フィールドボスなら自分達で誕生させてる可能性の方が高いし、手を貸すっていう方が失礼じゃねぇか?」
「……確かにそうだよね。流石に自分達で誕生させたフィールドボスだと、手助けはして欲しくないかも……」
うーん、アルとヨッシさんの言うことも理解出来るんだよなー。ぶっちゃけ自分達で誕生させたフィールドボスで壊滅しかけているとしても、それは自分達の戦力を見誤ったミスでしかない。
黒の暴走種をフィールドボスにして行動に異常な偏りが発生しているというのならまだしも、斬撃メインではあっても極端な行動パターンは見受けられない。それに2対の鎌があるなら、高確率で合成種だろうしね。
「それじゃ今回はスルーして先に進むか、全滅した後に討伐する感じかな?」
「まぁ見殺しにはなるけど、それが一番トラブルにはならないとは思う」
「っ!? ケイさん、念のため手助けがいるか聞いてみて良いですか!?」
「あー、それは良いけど……トラブルになっても知らんぞ?」
「それは多分大丈夫なのです!」
「……俺もハーレさんに同意だ。青の群集のアルマジロの人が、何か迷いつつチラチラとこっちの様子を伺ってるからな」
「あ、ほんとかな」
「……向こうからは言い出しにくい感じみたいだね」
「あー、確かにそんな感じだな」
まぁ転移してきたばかりの面識がない他の群集の人に助けてくれと言うのには躊躇もあるか。一応フィールドボスも自然発生のが居ないわけじゃないし、このカマキリはそっちの可能性もないわけじゃない。
もしくは他のPTが倒せずに全滅して、その後に放置されていたという可能性も考えられるか。……そういう場合なら助けを求めたくなってもおかしくはない。
「よし、それじゃハーレさん、助けが必要か聞いてくれ。みんなはいつでも戦闘が開始出来るように待機!」
「分かったかな!」
「了解!」
「おうよ!」
「はーい!」
さてと、転移してから汚れを落とそうと思っていたけどそれどころじゃなくなってしまった。まぁハーレさんが手助けがいるかを聞いてみて、いらないと言われたなら全滅するまでの間で汚れを落としてしまえばいいか。
もし手助けを頼まれたら、行動値は全快にはなってるし、あのカマキリのLvは分からないけど極端に苦戦する事はないはず。
「そこのPTの人達、手助けはいりますかー!? いらなかったら返事はしなくていいからねー!」
「っ!? 手助けしてくれるの!? それならお願い!」
「了解なのさー! それじゃこっちのザリ……ロブスターの人にPT連結の申請をお願いします!」
「うん、分かった!」
おい、ハーレさん、相変わらず心の中ではザリガニと呼んでいるのか! って、今回はコケの人とは言わなかった……あ、今はロブスターの視点になってるけど、もしかして……。
くっ、コケの方に視点を切り替えてみたら何も見えない!? これ、乾いた泥で完全にコケが隠れてるっぽい。って、そんな事を考えてる間にPT連結の申請が来たね。
<セラ様のPTと連結しました>
これで俺らが攻撃しても問題はなくなった。ふむ、元々連結PTではなく、死者の出ていない6人PTだったみたいだね。まだ誰も死んでない状況で良かったか。
さて、それじゃまずは壊滅寸前の状況から助け出さないとな。急がないと助ける前に誰かが死にかねない。
「アル、水流で戦ってた人達を守れ。出来れば根の操作で安全圏に移動も頼む」
「おう、任せとけ! 『アクアクリエイト』『並列制御』『水流の操作』『根の操作』!」
「おわっ!?」
「えっ?」
「す、水流……?」
「た、助かった……」
とりあえずアルが水流でカマキリとの間に壁を作って、根の操作で持ち上げられる範囲だったこのPTのリーダーの青の群集のアルマジロのセラさん、同じ青の群集であるネズミの人とトカゲの人、赤の群集のカエルの人は助けられた。
「くそっ、助けがきたのに、こっちに来んな!」
「ちっ、なんでこんなのが放置になってんだよ!」
でもまだ赤の群集のライオンの人と、オオカミの人は助けられていない。さて、ここからどうするか。
というか、今のオオカミの人の発言的にこのPTで誕生させたフィールドボスではないみたいだな。……完全に予期していなかったフィールドボスとの戦いになって壊滅しかけてたってとこか。
あー、カマキリの鎌が銀光を放ち出しているから、これは相殺をしておかないとまずいか。ここは俺かヨッシさんかハーレさんの遠距離攻撃で――
「ケイ、ここは私が行くかな!」
「サヤ? あー、手があるなら任せた!」
「任せてかな! 『魔力集中』『並列制御』『連閃』『略:突撃・風』!」
ん!? サヤは竜を大型化したままの状態でここまで来てたし、竜の魔力集中の効果もまだ切れてなかったけど、風属性で加速させた突撃でカマキリに突っ込んでいった!?
おぉ、カマキリまでは結構距離があったのに、竜の突撃でカマキリに襲われていたオオカミの人の前に割り込んで、カマキリを吹き飛ばしていった。ふむふむ、このサヤの戦法は今までには無かったやつだな。
そこから大きくなっている竜から飛び降りると同時にクマで竜を背負い、竜での勢いを殺す事なくサヤは銀光を放つクマの爪で、カマキリの銀光を放つ鎌での斬撃を相殺していく。一撃目に突撃の勢いが乗っていて、サヤが押し勝ってるな。……てか、共生進化の離れられない制約が邪魔にならないようにしつつ、竜の勢いを利用してクマの攻撃に繋げるのが上手かった。
「『アイスクリエイト』『氷塊の操作』! ライオンの人、オオカミの人、今のうちに氷の橋の上を通ってこっちへ!」
「悪い、助かったぜ!」
「……死ぬかと思った」
「はい、回復アイテムをどうぞ!」
「……え、そこまでしてもらって良いの?」
「困った時はお互い様なのです! PTでの自家生産だから、多少なら問題ないのさー!」
「……すまねぇ、助かった!」
ま、ちょっと回復アイテムの提供まではサービスのし過ぎな気もするけど、手助けをすると決めた以上はこれくらいは許容範囲か。
他の群集の人に恩を売っておくのも、今後のことを考えると決して悪い判断ではないしね。それにこの状況についての情報が欲しいから、好意的に接している方が情報を聞きやすい側面もあるし。
「えーと、このPTのリーダーはセラさんだよな? 初めはあのカマキリはセラさん達が生み出したフィールドボスかと思ってたんだけど、そうじゃないって認識で合ってるか?」
「うん、その認識で合ってるよ。……そのカマキリ、私達がここに来た時には既にいたんだ。ちなみに赤の群集の人達ともここで会って、共同戦線にしてたんだけど……」
「……それでも勝てなかったってことか。ちなみにカマキリのLvは分かるか?」
「うん、それは識別したから分かってる。……Lv20だよ」
「ここでLv20!?」
確かこの封熱の霊峰での適正Lvは13〜18だったはず。そこにLv20のフィールドボスがいたら、そりゃPTメンバーの情報を見る限りここの適正Lvであるセラさん達ではさっきみたいな状況になるか。
こりゃ、生み出したは良いものの倒せなくて放置されてる可能性が高くなってきたな。……俺らがフォローしつつ、セラさん達にカマキリを倒してもらおうかとも思ったけど、ちょっとそれは荷が重そうだね。
さて、今はサヤがカマキリを抑えてくれているけど、このカマキリは俺らで始末していくか。Lv20のフィールドボスなら、劇的に経験値が多いというほどではないけどそれなりの経験値にはなる。
それに瘴気石も成長体も用意しなくて済んだという点ではラッキーだな。よし、とりあえず溶岩の洞窟に行く前のウォーミングアップといきますか!
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