第863話 少し雑談をして


 フーリエさんに落とし穴の実演をし終わって、まとめに報告を上げていく。すぐにという訳ではないけど、競争クエストの再開催が徐々に近付いている可能性があるならこういう情報も大事になってくるだろうしね。


「そういやフーリエさんって、前回の競争クエストって参加は?」

「ゲームを始めた時には共闘イベントの真っ最中だったので、全然知らないです!」

「あー、そういうタイミングか」


 なるほど、フーリエさんが初めた頃は共闘イベントの真っ最中だったんだな。まぁこの辺りはゲームを始めるタイミング次第だから、後から始めた人が未参加っていう事態は普通にあるよね。


「まだ少し先みたいですけど、競争クエストは楽しみにしてるんです!」

「おっ、やる気だな、フーリエさん」

「はい! ケイさんは前回のは参加してるんですよね!? どんな感じでした!?」

「あー、競争クエストの様子か」


 俺が参加したのは赤の群集の森林エリアと戦った今いるミズキの森林と、ジェイさんと斬雨さんと初めて会った海エリアのマークの海原と、青の群集との総力戦になったミヤ・マサの森林だな。

 どれも色々とあったけど、参加した競走クエストの中で一番印象が強い相手はジェイさんと斬雨さんのコンビか。改めて考えると青の群集と戦った時はジェイさんの考案の作戦に襲われてばっかだな。


「……あれだな。青の群集のコケの人……ジェイって人は知ってる?」

「あ、はい! まとめの悪い意味ではない方の要警戒プレイヤーの一覧に載ってる人ですよね?」

「……そういうまとめられ方をしてるんだ」

「そういえばケイさんはそんなにまとめは見てないんでしたっけ! ジェイさんって人は斬雨さんって人とコンビを組んでいる参謀型の要注意人物って載ってますよ。接触する事があれば情報を聞き出されたり、偽情報を掴ませられないようにって」

「うん、まぁ確かにその情報には納得……」


 ジェイさんには俺も実際に偽情報を掴まされた事もあるし、少しでも油断をすれば俺らの情報も探ってくるもんな。

 戦闘面でヤバい人は他にも沢山いるけど、情報面や作戦面で一番ヤバいのはジェイさんだよね。……味方を含めて考えるなら、ベスタやレナさんも相当ヤバいけど味方だからそこは安心出来る。


「まぁ青の群集には奇襲作戦や分断作戦を立案してくるジェイさんがいるから、そこがやばかったな」

「なるほど、作戦が重要なんですね」

「そうそう、海エリアを海流の操作で移動してるところをピンポイントで斬りにきたり、森林エリアでは空中に投げられた斬雨さんが奇襲でぶった斬ってきたりな。冗談抜きでジェイさんが絡む時は要注意」

「……ケイさん、もの凄い警戒してますね」

「……俺も仕留められかけたからな」

「え、そうなんですか!?」

「毒に閉じ込められたからなー。……その時に成長体から未成体に進化して凌ぎ切ったけど、あれはやばかった」

「そこで進化だったんですか!?」

「そうそう、コケを支配進化させて、ロブスターは強制進化になったんだよ。まぁいつでも使える手札じゃないから、これは参考にするなよ?」

「……そうですね。進化階位が上がる進化は回数が限られますもんね」


 あの時の打開策はサヤがヒントをくれたけども、あれは博打も博打だ。ただ色んな条件が俺にとってありがたい形で整っていただけに過ぎない。……結果としては勝っているけど、ジェイさんの作戦を実力で破ったとは断言出来ないんだよね。

 ん? あぁ、いまいち自覚はなかったけど、今こうやってフーリエさんに考えを話してみて何となく分かった。ジェイさんに実力で勝った気がしてないのか、俺。


「それで赤の群集はどうだったんですか? このミズキの森林が戦場だったんですよね?」

「あー、赤の群集か。……俺、終盤の方は直接戦ってないんだよな」

「競走クエストって、そういう事もあるんですね?」

「ま、群集支援種の誘導とか、ギミックのクリアとかがあるからな。俺がやったのは、ギミックのクリアの方だ」

「それも楽しそうです!」


 てか、あの時の半覚醒の攻略をしたのがちょうど今いる場所か。うん、そこまで昔って訳じゃないのになんだか懐かしいもんだね。

 次の競争クエストがどんな形式になるかはまだ不明だけど、今はエリア間の移動は簡単になっているから参加するメンバーは前回の時とは大きく違うだろう。


 前よりも激戦になる可能性は非常に高いし、俺としても楽しみである。そして、自覚したからには次は確実に実力で勝ったと言い切れるようにジェイさんに勝つ!

 赤の群集に赤のサファリ同盟から参戦がほぼ確定になった弥生さんがヤバいし、青の群集も安定はしたから油断は出来ない。……次は灰の群集の圧勝とはいかないかもしれないね。


「あ、そういやフーリエさん。聞きそびれてたけど、なんでこんなエリアの端の方にいたんだ?」

「え? あっ!? シリウスが竹の採集をしてるから、合流しようとしてたんでした!?」 

「ちょ、シリウスさんを待たせてるのか!? フーリエさん、それならすぐに連絡入れてから合流しとけ」

「はい! すぐにフレンドコールして……あれ? シリウスはログインして……あ、今ログインした? わっ、フレンドコール!? シリウス、どうしたの? え、あ、急用で呼ばれて――」


 ふぅ、漏れ聞こえてくる内容的にシリウスさんの方も何かあったようで、待たせていたという事はなかったようである。……運が良いのか、悪いのか、何とも言い難いとこではあるけど、まぁお互いにほぼ待たずに済んだっぽいから結果オーライって事にしておこう。


「もう近くまでは来てるからすぐに行くよ。うん、それじゃ後でね」

「問題なさそうだったけど、大丈夫だよな?」

「はい! シリウスは宅配便が来て少しログアウトしてたそうで、その時に連絡し忘れて慌ててたみたいです」

「あー、なるほどね」


 シリウスさんのリアル環境が分からないから何とも断言はし切れないけど、慌ててログアウトして宅配便を受け取りに行ったって事は家族は不在だったとかかな? もしくは手が空いている人が他にいなかったか。ま、この辺は考えても仕方ないな。


「それじゃ僕はそろそろ行きますね! ケイさん、興味深い話をありがとうございました!」

「おうよ! またな、フーリエさん」

「はい!」


 そうしてフーリエさんはこの場所の北部のフレッシュ平原にある竹林に向かって移動していった。

 てか、シリウスさんは竹の採取をしてて、フーリエさんはそこを目指してたんだね。そりゃミズキの森林の北の端にある湖までやってくる訳だ。思いっきりここからは近場になるもんなー。



 さて、再び1人に戻った事だし、次は何をしていこう? 一応確認したかった内容については確認し終えたけど、他の事を何かやってみるか。

 それかスキルの特訓でも……って、その前に今は何時だ? それなりに時間は経ってるとは思うけど、共同体のチャットやみんなからのフレンドコールは来てないから10時を過ぎてはいないはず。

 あー、現時刻は9時45分か。この時間だと今から他の何かを始めるのは厳しそうだけど、みんなに合流というのもまだ微妙に早いか。って、良いタイミングで共同体のチャットが光り出した。……このタイミングでチャットに書き込むとすれば、アルがログインしたか?


 アルマース : 言ってた時間より少し早くなったが、ログインしたぞ。みんな、いるか?

 ケイ    : あ、やっぱりアルか。

 アルマース : お、ケイ。反応が早いじゃねぇか。

 ケイ    : ちょうど手が空いて、次はどうしようかと思ってたとこなんだよ。

 アルマース : なるほど、ケイとしては良いタイミングだった訳か。

 ケイ    : そういう事になるなー。


 本当に絶妙に微妙な待ち時間が発生するところだったから、アルがログインしてきたのは良いタイミングである。

 アルは家事を片付けるって言ってたし、予定してたより少し早く片付いたってとこだろうね。まぁ集合時間は10時に設定してるから、それまで少し時間潰しの雑談でもしとくか。


 アルマース : あー、ケイは実験をやってたんだな。へぇ、天然産の土と魔法産の水で作った泥を使った妨害用の落とし穴か。……地味に厄介なもんを考えたな。


 ケイ    : ちょ、それってさっき報告上げたばっかだぞ!? ログインしてまとめの報告をすぐ確認したのか、アル!?


 アルマース : いや、ミズキの森林でログアウトしてたんだが、ログインしたら既に話題になってたぜ?


 ヨッシ   : あ、アルさん、おはよう。少し早めにログインしたんだね。

 アルマース : おう、おはよう、ヨッシさん。てか、ヨッシさんらしきハチが湖の周りの連中に囲まれてる気がするのは気のせいか?


 ヨッシ   : ……あはは、それは気のせいじゃないね。というか、アルさんもミズキの森林……あ、今見つけたよ。


 アルマース : おー、あちこちの地面を掘り起こし始めたな。

 ヨッシ   : ……あはは、まとめの報告にケイさんが情報を上げたのに気付いてから、一気に罠の再現と他の罠の案が出てきてね。私に落とし穴の中に隠れておいてアイシクルの発動をしてみるのを提案されてたところなんだよね。


 ケイ    : みんな、行動早くない!? え、本当に数分前くらいなんだけど!?


 ヨッシさんのいる場所はモンスターズ・サバイバルの本拠地になっている湖の畔だけど、あそこで一気に罠の活用方法を探り始めた?

 うーん、気付くのが早いのはともかくとして、そんなに急いで新しい罠を考案する必要性があるのか? 


 ヨッシ   : えっと、なんだか競争クエストの再開催が近付いてるかもって推測から、ミズキの森林を死守するって張り切ってるみたいだよ?


 ケイ    : あー、そうか。モンスターズ・サバイバルの人達にとっては、ミズキの森林は本拠地だもんな。


 アルマース : ん? 競争クエストの再開催があるって話題が出てるのか? 掲示板で次の群集クエストの推測みたいなのは見たが……。


 ケイ    : 情報共有板で、次の群集クエストの内容が群集拠点種の成熟体への進化で、そこから新マップへ転移が可能になって、そこでの活動拠点を奪う競争クエストが発生するんじゃないかって推測は出てたぞ。


 アルマース : それだとミズキの森林とは繋がらなくないか?

 ヨッシ   : そこは既存のエリアの一部と新エリアで分けてやるんじゃないかって推測みたいだよ。


 ハーレ   : いつの間にかそんな話が出てたのー!? あ、アルさん、おはよー!

 アルマース : おう、ハーレさん、おはよう。

 ヨッシ   : 今の時点では推測に推測を重ねてるだけみたいだけどね。

 ハーレ   : それで罠の改良に繋がってるんだねー!

 アルマース : ……次は真っ向勝負の力技でねじ伏せられるとは限らないか。

 ケイ    : 赤の群集はレナさんやシュウさんが出てくるのは確実だし、青の群集もジェイさんが何を仕掛けてくるか分からないしな。


 この辺はさっきフーリエさんと話していて実感したとこだしね。前回が灰の群集の圧勝だったからといって、次も同じように勝てるとはみんな思っていないっぽいな。

 

 アルマース : 確かに赤の群集は赤のサファリ同盟への依存からは抜け出しているところらしいし、青の群集も乱していた連中が居なくなった事で安定はしてるみたいだしな。


 ヨッシ   : 内輪揉めがなくなって足並みが揃ったら……こっちも真剣に相手しないと危ないよね。

 

 サヤ    : 少し見るのが遅れたら、何か真剣な話になってたかな。あ、アル、おはようかな。

 アルマース : おう、サヤ、おはよう。ま、どっちにしても今日、明日の話じゃねぇだろ。

 ハーレ   : テスト明けまでは待ってもらわないと困るのです!

 サヤ    : あはは、確かにテスト期間中だと参加出来そうにないかな?

 ケイ    : まぁ多分その辺は大丈夫だろ。現時点ではそもそも次の群集クエストの内容の部分から推測でしかないしさ。


 ヨッシ   : うん、まぁそれはそうだね。


 推測を元に行動するのが駄目な訳でもないけど、推測でしかない段階でそうと決めつける事も危険ではあるからなー。

 まぁその辺を理解せずに罠の考案をしているとは思えないし、今のうちから使える手段を増やしておくのは決して悪い事ではない。それに罠作りそのものが操作系スキルの特訓にもなるだろうしね。


 アルマース : そういや、みんなはバラバラで何をやってたんだ? ケイは泥を使った罠作りってのは分かったが。


 ケイ    : 俺の罠はおまけだぞ!? 本命は昨日のオオサンショウウオの使ってたウォーターカッターの再現だから!?


 アルマース : 本命はそっちかよ!? で、結果はどうだったんだ?

 ケイ    : あー、現状ではまだ全く同じ事は無理。あれ、想像以上の高難易度で、今の俺で蛇口から勢いよく水を出すくらいの水量に砂を混ぜて、無理矢理削り切るくらいが精一杯だ。


 アルマース : マジか……。ケイでそれが限界なのかよ。

 ハーレ   : 想像以上のヤバさだったのさー!?

 サヤ    : 成熟体はやっぱり強いかな!

 ヨッシ   : ……あはは、それだとあっさりみんな死んでいく訳だね。


 実際に試してみて実感したけど、本当に成熟体の強さは格が違う。今の時点でも白光するスキル、黒くなるスキル、未知の魔法、属性持ちの物理攻撃とかが存在しそうなのは分かっているけど、それだけではなさそうだもんな。

 分かっているのは明確に見た目で判別出来るものだけ。見た目で判断出来ないスキル……例えば『凝縮破壊Ⅰ』や『連鎖増強Ⅰ』や各種の昇華のスキル、この辺は実際に成熟体に進化しないと分からない。そういうのに何があるのか、そこは進化してからのお楽しみだな。


 さて、とりあえず俺の成果はこんなもんだけど、サヤ達はそれぞれどんな事をしてたんだろうね?

 サヤとハーレさんはスクショの撮影で、ヨッシさんはモンスターズ・サバイバルのとこでアイテム作成だったはずだけど、その辺を軽く聞いていくか。それからこれからのLv上げの場所も決めていこう。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る