第854話 検証、3戦目


 ツキノワさん達が全滅し、オオサンショウウオとの2戦目が終わった。とりあえずオオサンショウウオは湖に潜っていったから、もう1戦はいけそうだね。

 というか、そもそも何戦まで戦える……あ、経験値増加の効果が切れた。ふむ、効果時間を十全には使えなかったけど、今回は成果が大きいから十分だ。


「とりあえずもう1戦はいけそうだな。次の連結PT、今のうちに準備しとけ」

「リーダー、了解!」

「さて、次は俺らの番だな!」

「あの黒いのが発動する条件を探ってみるか。今回が初出のスキルだし、出来るだけ情報が欲しい」

「それと湖を濁らせる事での攻撃パターンの変化もだな」

「それなら2PTで攻撃を凌ぎつつ、1PTが実際に攻撃してみるって感じ?」

「おし、水の操作、水流の操作、土の操作、最低でも昇華になってるやつをメインに組み立てていくぞ!」

「「「「おう!」」」」

「他の属性でもどうなるかも試す必要はあるよね」

「そういやそうだな……。その辺も意識に入れつつ臨機応変にだ!」


 そうして次の1戦をやる連結PTのメンバーが見物席を離れてから、検証の内容を決める為に作戦会議を始めていく。

 なんというか『烏合の衆の足掻き』の最終確認というより、操作種の成熟体であるオオサンショウウオに対する検証になってきてる気がする。

 いや、その検証内容も重要だけどね。それこそあの黒い、操作を無効化するスキルについては完全な未知みたいだしさ。


「……今更といえば今更なんだけど、このオオサンショウウオを相手に何戦出来るの?」

「あ、それ、俺も思ってた」

「……ケイもかな? 私もそれは知らないけど……」

「アルさん、その辺りの事って知らないー!?」


 俺が知らないだけかと思ったら、サヤもヨッシさんもハーレさんも知らなかったようである。

 俺らグリーズ・リベルテの中で、知っている可能性があるのはアルのみに限定された! まぁだから何かがある訳でもないけどさ。


「あー、悪いがそれは俺も知らねぇよ。てか、誰も知らないと思うぜ?」

「……それって個体差があるのか、徘徊持ちの成熟体の検証が不十分なのか、どっちのパターン?」

「……即座にその2択が出てくるか。まぁ前者の個体差の方だな」

「あー、そっちか」

「それなら実際に何戦出来るかは分からない感じかな」

「そういう事になるな」


 ふむふむ、とりあえずアルが徘徊の特性を持つ成熟体との戦闘回数の限界数の傾向は知っていたようである。うーん、個体差があるなら、実際に戦闘が不可能になるまで分からないんだな。


「ちなみに戦闘が出来なくなる場合はどうなるの?」

「あー、とんでもない速度で一気に逃げ出すぜ。……まぁ距離さえ取って、邪魔をしなければ問題はないがな」

「なるほど、そういう感じか」

「はい! もう1つ、ついでに質問です! 固定位置にいる成熟体の場合はどうですか!?」

「……それか。そっちは一定範囲内にいるプレイヤーを問答無用で虐殺らしいぞ。回数に個体差があるのは同じだな」

「虐殺だったのさー!?」

「あー、そっちはそんな感じか」


 ふむふむ、元々成熟体と戦った場合は逃げに徹しないと全滅するようなもんだしな。虐殺してくる事自体はそれほど不思議ではないか。

 でも大人数で交代しながらひたすら戦い続ける事は出来ない仕様なんだね。まぁ、空白の称号が無尽蔵に手に入る訳じゃないとはいえ、相当な経験値が手に入るのは間違いないから仕方ないか。



 そんな話をしているとツキノワさん達が次々とリスポーンをしてくる。どうやら俺らと同じように近場でリスポーン位置を設定してたっぽいね。

 俺らの後に戦うのが決まってたんだろうし、先にリスポーン位置の準備はしてたんだな。さて、肝心の『烏合の衆の足掻き』の取得はどうなったんだろう?


「ツキノワ、『烏合の衆の足掻き』の再取得はどうだ?」

「おう、特に問題なく取得出来たぜ、リーダー。次の連結PTは……なるほど、黒いあれの発動条件を集中して調べていくんだな」

「あれが気になっているのは皆同じだろう」

「確かにそりゃ違いねぇな! ほんじゃ、俺らはまた見物に戻らせてもらうぜ」

「あぁ、そうしておけ」


 そう簡潔にツキノワさんとベスタが話して、ツキノワさん達は次の連結PTメンバーが揃って見学していた場所に移動していった。

 うーん、ちょっと話をしたかったけど、微妙に俺らからは離れている場所か。……流石にこればっかりは仕方ないな。




 そこから再び戦っても問題がない時間まで待ってから、次のオオサンショウウオとの1戦が始まった。指揮をしてるのは青い水属性のティラノの人だな。

 その1戦では作戦会議が始まる前に聞こえていたように、プレイヤー側の操作を打ち消す黒いスキルの発動条件を探るのをメインにして検証がしている状況だ。


 俺らの1戦目、ツキノワさん達の2戦目に続く、今の3戦目はかなり安定した状態で7分くらいが経過している。

 湖を濁らせれば水球の数を減らす事が出来るのを確認出来て、迎撃に余裕を持たせられたのが大きいだろう。この辺は属性によっては操作の妨害が出来るという事実が有用な情報だね。


 でも、それは逆に俺らにとっても弱点となり得る要素ではあるから注意は必要になる。水属性に対してだけではなく、他の属性でも同様の要素はあるはずだ。

 パッと思いつく限りでも、火を風で煽って意図しない形で火力を高めて制御を狂わせたり、雷に氷の粒をぶつけて狙いを狂わせたり、そういう妨害も出来そうだよね。まぁ実際にやってみないと分からないけどさ。


「よし、水流は凌いだ。流石にそろそろ黒いやつの再発動はあるだろ。まずは岩の操作をいけ!」

「おうよ! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「……黒いのは出てこないか。てか、移動操作制御での移動が速いな!?」

「破壊しないと、それはそれで厄介だな!」

「ともかく次は本命いくぞ! 『水流の操作』! おし、打ち消された!」

「よし、これは持ってる属性に対応してると考えてよさそう!」


 お、今のはかなり良い情報だぞ。てか、あのオオサンショウウオが乗っている水の塊での移動が相当速い。……あの移動操作制御、壊して攻撃を苛烈にするか、壊さずに回避性能を高めさせるか、対応が悩ましいとこだね。


 まぁ移動操作制御の厄介さもあるけど、この一連の流れであの黒いスキルが発動する条件がそれなりに見えてきた。ふむふむ、割と大雑把な推測ではあったけど、的外れではなかったみたいである。

 

「やっぱりオオサンショウウオが所持している属性の操作のみを打ち消してる感じかな? あと、直接黒くなった部分が触れる必要があるみたい?」

「だなー。それと正確には分からないけど、あの黒いスキルには再使用時間はありそうな気がする」

「……確かに、無効化出来るタイミングの水流を無視してたタイミングがあったな」

「あんなの、ホイホイと連発されたら困るのさー!」

「……それはそうだね。通常スキルの水の操作はともかく、応用スキルの水流の操作も強制的に解除出来るんだから発動頻度は高くはなさそう?」

「多分、そうだろうなー」


 そうだろうとは思うんだけど、具体的な再使用時間を調べるのは厳しいだろう。少なくとも数秒単位ではなく数分単位な気がするし、それを調べるには相手が成熟体という条件が厳しい過ぎる、

 『烏合の衆の足掻き』の取得条件から考えても、狙って誘発して発動するのは良くて2回か3回。ただ、敵のスキルの使用状況の影響もあるし、今は手の内がある程度判明して安定しているけど決して甘い攻撃ではない。……確定出来るだけの試行回数が足りそうにないな。


「リーダー、残り時間は!?」

「あと2分だ。既に傾向は見えているし、条件的に厳しいから確定情報にまではする必要はない。焦って条件達成の失敗はするなよ」

「……了解だ! 残り2分、全員生き残るつもりで行くぞ! 探ってくれた情報を無駄にするな!」

「「「「「おう!」」」」」


 普段から同じPTでいるっぽいメンバーは気合の入った返事をし、そうでない人もそれぞれに力強く頷いている。

 先に2戦ほど戦闘の様子を見てからなら、まぁそりゃ気合は入るよね。必ずしも失敗が悪い訳ではないとしても、既に判明している内容で失敗はしたくないもんな。



 そこから2分間は、ツキノワさん達がやった手段と同じ要領で水球と水流を凌ぎつつ、全員が生き残っていった。

 うん、やっぱり今日ここに集まってきている人達はどの人も動きが良い。これが灰の群集の検証勢なんだと実感しますなー。あ、俺らもこの一員に入るのか。


「よし、10分経ったぞ」

「了解だ、リーダー! 移動操作制御は破壊せず、各自倒されていくぞ!」

「「はーい!」」

「つっても、行動値はきっついなぁ!」

「ま、成熟体相手じゃ仕方ねぇって。やるだけやるまでさ」

「そりゃそうだ!」

「それじゃ1人ずつ水球の集中砲火を受ける感じでー!」

「あー、移動操作制御を破壊しないならその方が楽だな」

「んじゃ一番乗り貰いっと! 『連投擲』!」

「抜け駆けか!?」

「ズルいぞ!?」

「いや、誰から死ぬかの順番を競ってどうするよ……」

「よし、んじゃ今のうちに濁らせたのは手の空いてるやつで元に戻していくか」

「お、そりゃいいな。濁りをプレイヤーの方で除去した場合の行動パターンの変化が分かるしな」

「おーし、その方向でやってくぞー!」


 ほほう、なんかこの終盤になって検証案件が増えたね。今後濁った状態の水を得意とする敵が出てきた場合に、有効な手段かどうかという判断材料にもなるね。

 ん? そういや濁った水って、要するに水の方が多い泥だよな? そしてその除去は土の操作で行える。あっ! なんで今まで気付かなかった? これ、水の操作と土の操作を並列制御で使えば自力で泥を作れるんじゃ……?


 うん、今はその思い付いた手段はおいておこう。それにしても積極的に先に死にに行くのは……あー、既に全滅以外の条件を達成済みならこれは特に問題ないな。

 むしろ、積極的に先に死ぬ方が負担は減る? ま、そこら辺は実際に戦ってる人達の判断に任せればいいか。



 そこからは順番に1人ずつが標的になるように動いて、水球で殺されるのと、水流で殺されるのが繰り返されていった。うん、まぁ全滅が条件だからこうなるよね。

 濁らせた水から土の除去も成功して、途中からは水球が12発になっっていた。決して無防備で受ける人はいなかったけど、みんな行動値がほぼ尽きていて一方的な感じだったけどね。


「おっしゃ、俺で最後だ! かかってこいや、オオサンショウウオ! 『移動操作制御』『強硬牙』!」


 オオサンショウウオの方もみんなが単独で殺されていった事で流石に行動値が尽きていたようで、最後に残った指揮をしていたティラノの人の噛みつきに対しては近接攻撃で対処しようとしていた。

 ティラノの人も俺の水のカーペットのようなものを生成して、その上を駆けて湖から水の塊で浮いているオオサンショウウオに向かって大きな口を開けて突撃していっている。


 そういや、このオオサンショウウオって魔力集中も自己強化も使ってるのは見てないな? 操作系スキルにはどちらも意味はないから、使ってないだけか?

 ちゃんと見れてなかったけど、ベスタが戦ってた時もその気配は無かったはず。……HPが全然減ってない段階では使わないだけなのか、全体を通して使わないだけなのか、そこが分からないな。


「おらよっ――」


 あ、ティラノの人の攻撃がもう少しで届きそうってところで、空中に水と土が生成されていく。って、今回は操作をする気配がなく、生成された水と土が重なって……昇華魔法のデブリスフロウになった?

 そっか、このオオサンショウウオは物理型の操作種だけど、昇華魔法が使えないって訳じゃないんだな。そりゃ水も土も昇華になってるのはほぼ確実だし、魔法産も生成してたんだからこの可能性は考えておくべきだった。


 そして、ティラノの人はちょっと予想していなかったデブリスフロウに呑まれていく。あー、それなりの規模ではあるけど、魔法型に比べると規模は控えめだね。

 まぁそれでも俺の単独発動くらいの威力はあるけどね! いや、物理型と考えたら十分強いって。


「はっ! 手の内をもう1つ暴いてやった――」


 そう誇らしげな声の途中で中断された台詞を最後に、ティラノの人のHPが全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。

 これで3戦目は全滅して、条件は達成したはず。でもまぁ、他の攻撃パターンを引き出したのはナイスだ、ティラノの人!


「……あはは、ここで昇華魔法は予想外だったかな」

「ビックリしたのさー!?」

「でも、よく考えたら可能性は充分あったよね」

「ヨッシさんの言う通りだな。ま、発動頻度は低そうではあるがな」

「だなー。行動値が尽きた状態かつ、移動操作制御を破壊しなかった場合ってとこ?」

「魔法産の生成が少なくなるパターンだから、その可能性はありそうです!」

「うん、私もその辺りが条件だとは思うかな」

「ま、それを確認するにしても、中々大変そうだけど……」

「そりゃ確かにな」


 どう考えても1戦に1回しか試せないし、黒いスキルの検証よりも確定させるのは難しいだろう。

 それにオオサンショウウオは徘徊の特性を持ってるから、いつまでもここにいる訳じゃない。戦闘が何戦出来るか、そこも個体差があるという話だからなー。


「あー!?」

「ハーレさん、どう……って、あー!?」


 3戦目を終えたオオサンショウウオが、水の塊に乗ったまま上空へと飛び上がっていく。そして、木々の上まで行くとそこから一気に急加速してあっという間に見えなくなった。

 そっか、これがアルが言ってた戦闘回数が無くなった時にとんでもない速度で一気に逃げるって状態か。


「……このオオサンショウウオの回数は3回までだったか。対象となる成熟体が逃亡に移ったから『烏合の衆の足掻き』の最終検証は、さっきのメンバーが再取得出来たかどうかの確認が済んだら終わりだ」


 ま、対象となる成熟体がいなくなったんだから、これ以上最終確認の検証は実行出来ないもんな。人数的に参加出来なかった人も間違いなくいるけど、これはどうしようもない……。


「今回参加出来なかった者もいるとは思うが――」

「あー、リーダー、それは気にしなくて良いぜ。色々と興味深いもんは見せてもらったしな」

「流石に成熟体の操作種は予想外だったもんね。それにあの黒いスキルも興味深かったよ」

「だな。『烏合の衆の足掻き』については条件は確定出来たと判断して良いだろうし、そこらは自分らでやるわ」

「おし、この後空いてる人でどっかの成熟体のとこ行こうぜ」

「あー、それじゃどっかで徘徊してる成熟体がいないか、目撃情報を探ってくるわ」

「おう、任せた!」


 うん、どうやら今回の件で参戦出来なかった事を気にしている人はいないようである。てか、みんな逞しいね!?

 さてと、現在時刻は夜10時。……少し中途半端な時間になっちゃったけど、今日は早めに終わりにするか?

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