第853話 外から見てみれば
ツキノワさんが総指揮となり、オオサンショウウオとの2戦目が始まっていく。さて、俺らが戦った事でそれなりに行動パターンの情報がある状態でどうなるか。
それにこの成熟体のオオサンショウウオとの戦闘そのものを客観的に見てみたいからね。じっくりと見ていこうじゃないか。
「まずはオオサンショウウオを湖から引っ張り出す! 行くぜ、黒曜! 『纏属進化・纏水』『魔力集中』!」
「分かってるよ、ツキノワ。アリス、危機察知は任せたよ。『纏属進化・纏水』『魔力集中』『重脚撃』!」
「任せて! シオカラとモコモコ、他の人達も今は待機だねー!」
「うん、分かってるよ」
「水球に対応しないといけないしねー」
ふむふむ、とりあえずクマであるツキノワさんと黒曜さんが湖に飛び込んで、湖の中に戻ったオオサンショウウオとの戦闘状態に突入するんだね。
てか、黒曜さんが蹴り主体だったと思うけど、既に銀光を放ちながらチャージを開始して湖面を泳いでいる。……オオサンショウウオからの攻撃が来たら、すぐに対処出来るようにする為だろう。
そして戦闘開始になるまでは他の人は手を出さないという戦略のようだ。まぁ俺らとは違う方向性から動いていくつもりっぽい。……いきなり湖の水を抜くのは奇抜ですよねー。
「黒曜の方に真下から危機察知に反応ありだよ!」
「視認した! 黒曜、チャージは終わってるか!?」
「丁度終わったとこだよ!」
おぉ、盛大に水飛沫を上げながら、黒曜さんが強烈な蹴りを放ったみたいだね。……オオサンショウウオの近くで何かスキルを使えば、それに反応して水の操作で攻撃を仕掛けてくるのか。
「……初手は今回も1発だけか。だが、今回は黒くなって無効化は無いようだな。いや、そもそも無効化出来る状況ではないだけか? どう見る、黒曜?」
「あー、もしかするとオオサンショウウオが無効化するスキルに直接触れる必要があるとか?」
「……その可能性はあるな」
まぁあくまで可能性でしかないけど、近接攻撃をあまり使わないっぽいオオサンショウウオが相手であれば操作系スキルで遠距離攻撃を狙わなければ意外と使ってこないのかもしれないしね。
「次は水球4発が来るぞ! アリス、モコモコ、シオカラ、それぞれに攻撃対象をこまめに変えつつ引きつけ、チャージ持ちが破壊していけ!」
「了解ー! モコモコ、シオカラ、やっていくよー! 『魔力集中』『連速投擲』!」
「うん! 『魔法砲撃』『ウィンドボール』『ウィンドボール』!」
「やるよー! 『並列制御』『エレクトロクリエイト』『エレクトロクリエイト』『並列制御』『電気の操作』『電気の操作』!」
お、これはさっきの俺らの戦闘を参考にしたっぽいね。なるほど、攻撃が接触した相手に標的が変わるのを利用して、1撃ごとに狙う水球を変えて何度も狙いを変更させる形で凌ぐのか。
ふむふむ、これは思いつかなかった手段だけど、かなり有効そうではある。
「おし、チャージは俺らがやるぞ、野郎ども! 海の飛行組の意地を見せるぞ! 『魔力集中』『砲弾重突撃』!」
「「おう! 『魔力集中』『激突衝頭撃』!」」
そして、空を飛んでいるサメ人とエイの人とマグロの人がチャージを開始していく。今みたいに他の人が引きつけておけば、チャージでも破壊は出来そうだね。
ツキノワさん達は俺らの戦闘での行動パターンを参考にしているみたいだし、これは俺らの時よりは楽かもね。ま、とりあえず様子を見ていきますか。
そこからしばらくは特に苦戦する気配もなく、順当に時間が経過していった。5分ほど経っても俺らの1戦を元に、ある程度の対策をしつつ動いていたので、まだ死亡者は出ていない。
「ツキノワ、5分経過だ」
「了解だ、リーダー! そろそろ激化するだろうから、気を引き締めて行くぞ!」
そのツキノワさんの掛け声に、参戦メンバーの力強い返事が重なっていく。ふむふむ、ここまでは順調のようである。
まぁここから俺らも大変になったんだけど、初見ではないツキノワさん達はどう対処していくのかが見ものだね。
「攻撃自体は私達の時と大差はないっぽいかな?」
「そうっぽいなー。あの黒い無効化っぽいスキルは使う様子はないけど、あれは近接専用?」
「……そもそも近接攻撃の距離まで近付けてないからな」
「オオサンショウウオは自分が攻撃されないようにしてるのさー!」
「確かに外から見てるとそんな感じだよね」
「だよなー」
ヨッシさんの言うように、外から見てみると実際に戦った時とは違った印象はあるんだよな。
今の時点でのオオサンショウウオの攻撃パターンとしては分断させようとする水の操作による複数の水球と、押し流すような使い方の水流の操作を交互に使っている。
でも、オオサンショウウオ本体に近付こうとすると、それらを防御行動に回すという傾向が見えた。……俺らは逃げながら対処するのに精一杯だったから、ここは気付かなかった。うん、別の視点から見るのって大事だね。
ツキノワさん達はそこら辺の傾向も上手く利用して、オオサンショウウオの操作の攻撃対象を頻繁に切り替えさせるという形で凌いでいる。うーん、これは俺らの時よりも遥かに安定しているね。
「危機察知に反応あり! ツキノワ、狙われてるよ!」
「おうよ、アリス! ってか、普通の水流じゃねぇか……? 黒曜、どう見る?」
「……5分経過があの砂混じりの高圧水流への切り替わり条件では無さそうだね。あの移動操作制御を破壊するか、湖を濁らせるのがあれへの切り替わり条件じゃない?」
「ま、そんなとこか。よし、砂の操作を使えるやつは妨害していけ! ここからはさっきの戦闘と違うパターンになる事を念頭に入れとけよ!」
「「はーい!」」
「砂の操作なら、俺がやる! 『アースクリエイト』『砂の操作』!」
そうしてサソリの人が大量の砂を生成し、オオサンショウウオの水流の操作の妨害を始めていく。
ふむふむ、なんというかあのオオサンショウウオの乗っている水の塊を破壊するのは下策っぽい感じがしてきた。露骨に攻撃の苛烈さが俺らの時よりも低い気がする。
「なぁ、ケイ。移動操作制御は破壊しない方が良さそうだぞ」
「……俺もそれは丁度思ってたとこ。何かあると思ったから破壊を考えたけど、まさかそれが罠だとは……」
「今までは無かったパターンだから、それは仕方ないのさー!」
「……ただの罠だった訳でもないんじゃないかな?」
「というと? あ、いや待った、自分で考える」
「あはは、ケイならそう言うと思ったかな」
ふむ、サヤとしてはただの罠ではなかったと言いたいみたいだけど、今の攻撃パターンと比較すると……あぁ、そうか。俺達の時は砂の操作も使って攻撃は苛烈になっていた分、消耗が激しくなってたんだよな。
「サヤが言いたいのは敵の消耗具合だよな?」
「うん、正解かな。攻撃は苛烈になるけど、そこを凌ぎ切れれば楽にはなりそうだよね」
「……あはは、まぁ死なずに凌ぎ切れればね」
「ま、そこが今は難しいってとこだろうな」
「でも、私達が成熟体になった時には有効そうなのです!」
「……今だから厳しいってだけか」
まだサンプルが全然ないから必ずとは言えないけど、成熟体の移動操作制御を破壊すれば行動値を過剰に消費させられるというのはメリットになる場合もありそうだ。俺らが成熟体になればもっと対処は楽だろうしね。
おっと、そうして話してる間に動きがあったね。サメの人とエイの人とマグロの人が、サソリの人が動きを鈍らせた水流の中に飛び込んだっぽい。
えーと、種族的に淡水は大丈夫なんだろうか? あ、すぐに弾き出されたし、そう簡単に敵の操作してる水流の中は泳げないか。
「ちっ、やはり無理があったか」
「くっ、淡水というのが地味にキツい!」
「いずれその水流を泳いでやるから、覚悟してろ、オオサンショウウオ!」
えーと、うん、なんかマグロの人が妙な目標を宣言してるし、サメの人とエイの人もそのつもりでいるようだ。
まぁ別にそれが悪いって訳でもないけど……って、あれ? まだ操作時間は残ってそうなのに水流が解除になった?
「「「ちょ!? 水球、多くね!?」」」
あー、うん。どうも水流の操作を泳ぐという行為でも行動パターンの変化があるっぽいね。……まぁオオサンショウウオに近付いてもいるから、それで行動パターンが変化した可能性もあるけどさ。
「新しい攻撃パターンか! 流石に数が多いから、外の人で念の為に誰か正確に数えてくれるか!?」
「ツキノワさん、私がやるよー!」
「助かる、ハーレさん!」
「とりあえず、あの3人が集中的に狙われてるからそこからどうにかしよう。アリス、いける?」
「うん、任せて、黒曜。その後はみんなよろしくねー! 『連投擲』『連投擲』!」
「「了解!」」
そこから空飛ぶ海種族3人組を狙っていた大量の水球をアリスさんが狙い撃ちしていき、モコモコさん、シオカラさんを筆頭に、他のメンバーが1個ずつ水球に攻撃していく。
なるほど、威力の低めのスキルで1撃を入れていく感じか。そうする事で誰かに狙いが集中するのを防いでいるんだね。
これが俺らの時にも出来ていれば良かったんだけど、まぁこれは今言っても仕方ない。……ざっと見た感じでは、操作の最大数になってるんじゃないか?
「……10、11、12! 水球の数は最大数の12発なのさー!」
「やはり、分かってる範囲での最大数か! 人数的に余力はあまりないから、狙われてない2人がフォローして確実に数を減らしていくぞ!」
そのツキノワさんの指示にみんなが頷き、それぞれがそれぞれの手段で水球の破壊を始めていく。魔法だったり、連撃だったり、チャージだったりと人によって手段はバラバラだね。
「なんというか、ツキノワさん達、手際が良いよなー」
「まぁ多少のパターンの変化はあるが、俺らの戦闘を見てたのは大きいだろうがな。そもそも今回の参戦メンバーは全員が一度は『烏合の衆の足掻き』を取得してるから、前情報ありならこんなもんだろ」
「あー、そういえばそうだった」
少なくとも今戦っているメンバーは普段から検証をしているし、その中でも戦闘は強い部類に入る人達が集まってるんだよな。
そういう人達が直前まで実際の敵の行動パターンを見ていて、極端に違った攻撃が出た訳ではなければ普通に対処は出来るよな。
俺だって初見じゃなければもうちょいスムーズに……って、言い訳しても仕方ないか。誰か攻撃パターンを洗い出す必要はあっただろうし、その役に立ったと考えればいい。
自惚れて調子に乗るのは駄目だけど、逆に自分を過小評価して謙遜するのもそれはそれで駄目だ。ここは失敗も含めて情報を得た事を誇るべきところ。
そこから、水球と水流の操作の交互の攻撃は続いていった。数こそ水球は12発、水流は2本に増えてはいたけど、適切な対処を行えていたので苦戦というほど苦戦はしていない。
でも、それはあくまで行動値があってこその話。……水流の操作の対処をする人は分散していたけど、水球の方はほぼ全員が対処に動いていたから行動値の回復が間に合っていないだろう。
「これ、回復出来なくてキッツ!」
「うぉ!? また水球12発!?」
「ちょ、もう対処し切れん!?」
あ、海の種族勢が一気に倒されたね。根本的に敵の……特に水の操作の方は1回の行動値の消費はそれほど多くはない。湖の天然の水を使っていて並列制御Lv2で3倍の消費になっても負担は少ないはず。
魔法産の水を生成すれば消費は増えるけど、天然の水を使う事で徹底的に消耗を抑える性質になってるな。この辺が操作種の厄介なとこか。
おぉう、そんな事を考えてたら対処の余裕が崩れ始めて、サソリの人、イノシシの人、カエルの人が死んだか。
今回は14人体制だったから、残り8人だな。……ふむ、一度崩れると1人ずつが対応しているバランスが崩れて一気に瓦解し始めるのか。回復する余裕がないのが厳しいね。
「ツキノワ、10分経ったぞ!」
「リーダー、カウントは助かる! よし、ここからは遠慮はいらん! 全員、好きなように暴れて散っていけ!」
「ツキノワ、あの水の塊も壊していいよね!?」
「あぁ、構わんぞ、モコモコ。攻撃パターン変化の鍵かどうかも確認しておきたいからな」
「よーし、お許しが出たー! それじゃ残った魔力値を全部使っていくよー! 『並列制御』『エレクトロクリエイト』『エレクトロクリエイト』!」
モコモコさんが湖に向かって雷属性同士の昇華魔法であるサンダーボルトで雷を落としていく。消費した魔力値がそう多くなかったようで規模はそれほどなかったけど、移動操作制御の水の塊を破壊するには充分だったような。
そしてオオサンショウウオは、俺らを倒しまくった例の砂の操作と水流の操作の合わせ技の用意をし、速攻でモコモコさんが仕留められた。それと同時に近くにいた杉の木に人も死んだな。……攻める為に根を伸ばしていたみたいだから多分判定は大丈夫。
とりあえずこの様子なら、高圧水流での切断を使うきっかけは移動操作制御を破壊する事で確定と考えてよさそうだね。そして、追加生成で次の攻撃も狙っているっぽいな。
「やっぱり、そこが発動の条件か! 全員、戦闘態勢を解除するな! 死ぬまで意地でも戦う意思を見せていけ! 『強爪撃・水』!」
「みんな、一斉攻撃いくよ! 『連脚撃・水』!」
「シオカラ、お願い! 『魔法弾』!」
「了解! 『ウィンドボム』!」
「いっくよー! 『狙撃』!」
「黒いのは出してみたいな」
「……厳しくね?」
「やるだけやってみるって。『重脚撃』!」
「……そりゃそうか。『移動操作制御』『砲弾重突撃』!」
残っているツキノワさん、黒曜さん、アリスさん、シオカラさん、カエルの人、イノシシの人が、それぞれの手段で攻撃を仕掛けていく。
でも、それらの攻撃は届く事なく、みんなはオオサンショウウオに次々と切断され、その次に再びの12発の水球に対処し切れずに全滅していった。
「……やっぱり、成熟体は強いか」
「ま、そりゃそうだろ。でも、俺らよりはかなり余裕はあったっぽいな」
「でも黒いのは出てなかったのさー!」
「……発動条件がハッキリしないかな?」
「うーん、もしかすると所持属性と同じ属性の操作に限定されるとか?」
「あー、その可能性はありそうだな」
今回の1戦では誰も水の操作や水流の操作を使ってなかったもんな。問答無用で操作を解除するなら、そのくらいの制約はあるかもしれない。
うん、その辺は次の1戦をやる連結PTの人達に確認してもらいたいとこだね。とりあえず、ツキノワさん達、ご苦労様です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます