第855話 終わりにする前


 オオサンショウウオが逃げていった為、これ以上の検証が出来なくなった。個体差で回数の違いはあっても成熟体と戦い続けられる訳ではないみたいだし、この辺は仕方ない。

 それにしても成熟体が出現し始めた頃は手を出してはいけない相手だったのに、全滅するとはいえ結構戦えるようにはなったもんだね。


「おーい、ハイルング高原に空飛ぶカメの成熟体がいるらしいぞ!」


 ん? なんかフクロウの人が成熟体の目撃情報を見つけたようだね。ハイルング高原に空飛ぶカメの成熟体か。位置は近いし、このタイミングでその情報は良いね。


「ちょ、近いじゃん!?」

「おし、続きはそこでやるか!」

「え、でもハイルング高原だと他の群集に確実に見つかるよ?」

「……他のエリアならまだしも、ハイルング高原は行き来が多いから検証には良くないか」

「うーむ、誰か他の群集で『烏合の衆の足掻き』が見つかってるかどうか知らないか?」

「……覚えはないな」

「確認しようとすると、何かあるって教えるようなもんだしね……」

「リーダー、その辺なんか知らねぇ?」

「悪いが、流石に他の群集の情報把握の状況は知らんな」

「だよなー」


 うーん、見物席のみんなも言ってるけど、今回の『烏合の衆の足掻き』に関しての情報は可能な限り他の群集には隠しておきたいよね。高難易度とはいえ……いや、高難易度だからこそ、存在そのものや取得条件を推測させる材料は与えたくはない。


 そういう面で考えると、どう考えても中立地点である雪山エリアへの経路になるハイルング高原で出現した成熟体は場所が悪い。このタイミングで近場にいるって情報自体は良いんだけど……。


 今いるミズキの森林に成熟体がいたのは、検証という点で破格な条件だったんだなー。ここは灰の群集の占有エリアだから、他の群集の目を気にする必要がない……って、だから今日はこんなに検証勢が集まってんのか!

 いや、よく考えたらそうだよな。これだけの検証勢が揃っていたら、他の群集には何か重要な検証をしているのは丸わかりだし……。


「ちょっと提案ー! その成熟体のカメって、ハイルング高原のどの辺ー? 場所によってはここまで誘導出来ない?」

「あー、その手があったか」

「ちょい待ち、どの辺か聞いてみるわ」

「……誘導をやるとしたら、誰がやる? 流石に最低人数の12人でも多過ぎて目立つよな」

「かと言って、成熟体の誘導は誰にでも任せられるものでもないぞ?」

「まぁお前ら、焦るなって。どっちにしても、今の位置次第だしな」

「おし、この位置なら! カメの位置が分かったぞ、ハイルング高原の東から、西に向かって移動中だ。現在地は中心を通り越して、西寄り!」

「って事は、こっち側に向かってきてんのか!」

「少し北寄りに誘導すれば、ここまで連れて来れるね」

「おし、その方向でやっていくか!」


 まだ戦ってない人達は、思いっきり戦闘する気みたいだね。順番的にも集中しての疲労的にも戦闘は無理だけど、ここまで誘導してくるなら見ておくのもありか。


「で、誰が誘導してくるんだ?」


 うーん、どうもここで名乗りを上げる人はいない……いや、正確にはそれぞれのPTで話し合ってるっぽいな。流石に単独で名乗りを上げる人は早々いないか。


「よし、その誘導役は俺が引き受けよう。ただし、逃亡までの回数を1回削る事になるから、それでも良ければになるが」

「お、リーダーがやってくれるのか!」

「そりゃ頼もしい!」

「リーダーが誘導……あ、良い事を思いついた!」

「……スイカの人、良い事とはどういう内容だ?」

「ふっふっふ、パッと見で誤解するように見せかけるんだよー!」

「……ほう? 詳しく聞こうか」

「えっと、『烏合の衆の足掻き』は大人数が条件だよね。ここをリーダー1人で何かを狙ってる風に動いてもらって、単独で狙える何かがあるというように誤認させるの」

「ふむ、最低でも12人という認識をさせなくさせる訳か。確かにそれはありだな。その方向でやってみるか」

「やった、採用された!」

「そうと決まれば急いだ方が良いだろう。変に勘繰られないように、ここで待機していてくれ」


 ま、ここで検証勢が一気に大挙して移動を始めれば、スイカの人の提案した作戦が台無しになるもんな。

 今のベスタなら成熟体相手でも結果的には死ぬだろうけど、そうは慣れていないミズキの森林まで誘導する事はそう難しくはないはず。あ、でも逃げに徹したらそうでもないのか?


「ともかく他の動きがある前に、手早く済ませてこよう。何かあれば……次の戦闘ではないどこかのPT、連絡役としてPTを組んでおける奴はいるか?」

「お、それなら俺がやろうか? 戦闘はしねぇから、完全にフリーだぜ?」

「桜花か。なら頼む」

「おし、そんじゃ連絡役は任せとけ!」

「さて、行くか。『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『高速疾走』!」


 そうしてベスタは相当速く、森の中を駆け抜けていった。えーと、確かハイルング高原の北西の端と、ミズキの森林の南東は直接は繋がってないけどかなり近かったはず。……まぁ直接見た覚えがないからいまいち分からないんだけど。

 徘徊種の成熟体はエリアを跨いで普通に移動してくるから、その経路を通ってくれば比較的誘導はしやすいだろう。


「ねぇ、みんな。ちょっと気になった事があるんだけど、良い?」

「ん? ヨッシさん、どうした?」

「えっとさ、偽情報って言ってたけど、そこに本当に何か別の称号の条件がある可能性はない? ほら、連結PTで大人数でする気はないって人もいるだろうしさ」

「「「「……あっ!」」」」


 ヨッシさんの何気ない思いつきの言葉ではあったけど、その可能性は否定は出来ない!? その状況に該当しそうな人には十六夜さんという心当たりもいるしね。


「ほほう? それってベスタに伝えといた方が良い情報か?」

「あ、桜花さん。……確証は全然ないけど、可能性としては伝えておいた方が良いかも」

「お、やっぱりそうか。んじゃ伝えとくぜ!」


 とりあえずヨッシさんが思い至った可能性については桜花さんからベスタさんに伝えてくれている。

 ふー、この可能性をベスタがどう判断するかにもよるけど、伝えておいた方が良いのは間違いない。……まぁそれはいいとして、思いっきりみんなの視線が気になる。


「烏合の衆ではない、足掻きの称号か。確かにその可能性はあるよな」

「あはは、大人数での『烏合の衆の足掻き』の取得条件を確定する方にばっかり意識が行ってたね!」

「はっ! 俺はその可能性には気付いてたぜ!」

「いや、だったら先に言っとけよ。後出しで気付いてたとか言っても説得力皆無だぞ?」

「うぐっ!? それは……」

「はいはい、ここで言い争いはなしだよ。でも、確かに確かめて見たいとこではあるよねー」

「確かにな。仮にあるとしたら『烏合の衆の足掻き』とは別条件だろうから、リーダーに誘導してきてもらったらそのまま試してもらうか?」

「リーダーさえ良ければ賛成ー!」

「俺も賛成だ!」


 この流れならベスタが空飛ぶカメの成熟体を連れてきたら、そのまま別の検証が始まりそうだね。うん、確かにこれは重要な案件になりそうな――


「あー、盛り上がってるのぶった斬って悪いんだが、ベスタから悪い伝言だ」

「桜花さん、リーダーはなんて?」

「……悪い知らせか?」

「青の群集の数名が、既に戦闘状態に入ってたってよ。1PTで逃げ回ってるから、『格上に抗うモノ』の取得狙いって推測だな」

「あちゃー、先を越されたかー!」

「既に戦闘状態なら、割り込む訳にもいかんか」

「……とりあえず青の群集のPTの全滅待ち? 戦闘回数が1回って事はないよね?」

「そりゃそうなんだけど、赤の群集のPTが順番待ちにも来たそうだ。ベスタがこれを待つのは……」

「不自然過ぎるか……」

「その状態なら2戦するのは確定だから、個体差にもよるけど回数は少なるなるよね」

「……リーダーが1回分削るなら、それで終わる可能性も否定できないから現実的じゃないか」


 折角、良いタイミングで新たな検証が出来るかと思ったら、運悪く他の群集が少しの差で戦闘を開始かー。灰の群集が占有出来る敵じゃないから、この辺は早いもの勝ちになっちゃうよね。


「……流石に話が美味すぎたな。今のが駄目なら、他の成熟体を探しに行って、見つけたら単独での足掻きの称号を試してみるか」

「私はスクショの方に行こうっと」

「今日はここまでだな」

「ま、有意義だったけどな。中々無いぜ、占有エリアでこの大人数が集まる検証ってよ!」

「それは確かにねー! 『烏合の衆の足掻き』の最終確認だけじゃなくて、色々と新情報が得られたのは大収穫だしさ」

「おーし、とりあえず今日はここまでで解散なー! 桜花さん、リーダーにそう伝えといてくれるか?」

「おう、任せとけ!」


 あ、今日は集まってきているみんなも切り上げていくみたいだね。これ以上いても検証は出来なさそうだし、この辺が終わり時ではあるか。

 まぁ他の人も言ってるように新情報は色々と発見したし、疲れはしたけども有益な時間ではあったよな。


「今日はもう解散みたいかな?」

「流石にこのタイミングで誘導出来る距離に他の成熟体が出るとは思えないしなー。解散は妥当なとこだろ」

「それはそうだよね。それじゃ私達はこれからどうする? 1時間くらいはLv上げ出来そうだけど、やりにいく?」

「……Lv上げをしに行く気力はないなー」

「俺も、今日はもう戦闘はいいわ……」

「同じくなのさー!」

「あはは、私もかな」


 実際に戦ってはいない2戦目、3戦目でもオオサンショウウオの動きや戦ってる人達の動きを見逃さないように集中力は使ってたからね。

 やっぱりどうしてもその辺で精神的な疲労が出てくる。明日1日、ガッツリとLv上げをするのなら、今は無理をしない方が良い。……成熟体の相手は楽じゃないしね。


「とりあえず明日の予定を決めて、今日は終わりにするか」

「だな。俺は明日は家事を片付けてから10時くらいにログインするつもりだが、みんなはどうだ?」

「それなら10時に合流で、それまでは各自の自由で良いと思います!」

「集合まではソロで動いてもいいし、一緒にやれそうなら一緒にやるって感じか。で、アルがログインしたら全員集まってってとこか」

「たまにはそういうのも良いかもね」

「ハーレの提案に賛成かな」

「あー、俺は地味に除外なのな?」

「アルが一番単独行動が多いんだし、良いんじゃね?」

「……確かにそりゃそうだ。おし、どっちにしても俺は1人暮らしだから、その辺は仕方ねぇな」

「んじゃ、ハーレさんの提案で決定って事で!」

「「「「おー!」」」」


 という事で、明日の集合時間についてはこれで決定。久々にソロでちょっとどこかに遊びに行ってこようかな? まぁそれについては明日考えるか。


「それで、合流してからはどうする? 今日予定してた『封熱の霊峰』にある洞窟に行くか?」

「もしくは、またカイヨウ渓谷に行くかだな。それかフィールドボス戦の連戦だな」

「あー、確かにそれもありだけど……」

「はい! 全部やればいいと思います!」

「まぁ敵の討伐数の上限があるから、それもありだよね」

「でも、それなら午前中と午後からで分けた方が良いんじゃないかな?」

「そこはサヤに賛成だな。あー、一応聞くけど全部やるのに反対の人は?」


 特に誰も反対意見がないので、方針自体はこれで良さそうだね。ただ、そろそろLvが上がりにくくなってくるはず。明日、明後日で、Lv2〜3ほど上げられれば上等だろう。


「んじゃ、午前中は多少は慣れた『カイヨウ渓谷』、時間に余裕のある昼から『封熱の霊峰』の先の洞窟の探索、それと並行してフィールドボスの連戦で参加出来そうなとこがあれば参加って感じでいい?」

「おう、それでいいぜ」

「賛成なのさー!」

「私もそれで問題ないかな」

「私も大丈夫だよ」

「んじゃそれで決定!」


 さて、大雑把ではあるけど、これで明日の予定は決定である。タッグ戦については明後日の日曜日だから、明日はそこを気にする必要はない。

 あ、でもスクショの撮影会は……まぁ詳しい時間帯が分かってないからこれは詳しくは明日考えるか。


「あぁ、そうだ。今日は少し時間があるし、やっておきたい事があるんだがいいか?」

「アル、やっておきたい事って何かな?」

「あぁ、単純な内容だし、すぐに終わるぞ」

「ほほう? 具体的には?」

「なんだかんだで行ってないままになってた『泥濘みの地』への妨害ボスを倒しておこうぜ。進化記憶の結晶があそこにあるなら、行ける様にしとこう」

「あー、確かにそれはそうかもな」

「まだ行った事のないエリアは一緒に行くって約束だもんねー!」

「ま、そういう事だな。いつボーナスタイムが発生しても、気にせず行ける様にな?」

「うん、それは良いかな!」

「私も良いと思うよ」

「だなー。それじゃサクッと妨害ボスの討伐に行きますか!」

「「「「おー!」」」」


 今日はもう戦闘はする気はないとは言ったけど、成長体の妨害ボスを倒すくらいなら問題はない。確かあそこは沼ガメだったはずだけど、誰かの瞬殺で終わるだろうしね。



 そうして解散していく検証勢のみんなに軽く挨拶をしてから、沼ガメを倒しに行って、サヤが瞬殺して終わった。

 一応、『泥濘みの地』にみんなで足を踏み入れたけど、沼地に足場用の板が並んでいて現実にある観光名所みたいになっていた。


 アルのクジラに乗って軽くエリアを見回した程度で、細かい探索はまたの機会という事になった。ぶっちゃけ、変哲もない沼地だったから絶景って感じでもなかったしね。

 ここの整備クエストも終わってるから、特にここでやる事が無かったというのもあったけど……。


 そして、現在は森林深部のエンの近くまで戻ってきている。時刻としては11時くらいにはなったので、まぁ割といつものログアウトの時間にはなったね。


「それじゃ今日はこれで解散って事で!」

「みんな、また明日かな!」

「おうよ! さて、いつもより早めのログアウトだし、今のうちに出来る家事は済ませとくか」

「ふっふっふ、明日は今まで以上にLv上げを頑張るのさー!」

「テストまでに出来るだけLvは上げとかないとね」


 そんな風に話してから、今日はお開きとなった。さて、明日と明後日でガッツリとLv上げをしていくぞー!

 今日は色々あって疲れはしたけど、これにて終了っと。それじゃログアウト! 



  ◇ ◇ ◇



 そうして、いったんのいるログイン場面にやってきた。さて、今回はスクショのコンテストの締め切りが決まったし、それに関するお知らせが出てるはず。

 という事でいったんの胴体の文章は『スクリーンショットのコンテストの受付終了の日程が確定しました。詳細は公式サイトか、いったんまでお願いします』となっている。うん、やっぱり今回はこの関係の内容になるよね。


「いったん、スクショのコンテストの受付終了って、ゲーム内でアナウンスがあった日時で良いんだよな?」

「うん、6月24日土曜日の24時で受付は終了になるよ〜」

「って事は、スクショを撮るのは明日中に済ませてエントリーすれば良いんだな?」

「うん、そうなるね〜。投票期間については、受付を締め切った後に改めて告知するので、その点はご了承ください〜」

「ほいよっと」


 この感じだと、スクショコンテストの投票期間はテスト期間と被りそうだな。まぁテスト勉強の息抜きでスクショを眺めて投票するくらいは多分出来るだろう。


「スクショの承諾は来てる?」

「うん、来てるよ〜。はい、これね〜」

「サンキュー」


 そうしていったんからスクショの承諾の一覧を受け取って眺めていく。あー、大体はフィールドボスの連戦をしてた時のスクショだね。まぁ夕方に承諾したのと同じような内容か。


「いつも通り、灰の群集だけ許可でよろしく」

「はいはい〜。そう処理しておくね〜」

「ほいよっと。それじゃ今日はこれくらいにしとくよ」

「お疲れ様〜。またのお越しをお待ちしています〜」

「おう!」


 そうしていったんに見送られながらログアウトしていった。さて、今日は風呂入って寝ますか。




ーーーー

 お知らせが2つほど。

 まず1つ目。

 明日の更新で第25章は終わるので、一度少し休憩を入れたいと思います。

 その辺の日程については近況ノートの方に書いておきます。


 そして2つ目。

 今日の18時頃より、命名クエストTwitter版をやります。

 良ければ参加していってねー!

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