第850話 再取得の検証戦 その5


 8発の水球については、掻い潜りながら連撃を当てて、時に水球同士がぶつかるように誘導するという無茶な事をやっているベスタに任せて大丈夫そうである。

 というか、あれは誰かが割り込む事が一番の邪魔になるやつ芸当だ。……回避自体が紙一重だし、戦闘のみなら本当に1人で対処してるよ。


「それで、ケイ。突っ込んでオオサンショウウオの何を確認したいのかな?」

「あー、正確には周囲の湖の様子が知りたいんだよ。ほら、折角濁らせたのに、さっきの水球は全然効果がなかったっぽいじゃん? でも、それなら序盤で砂の操作で水球の操作の妨害が出来た事に違和感があってさ」

「あ、そういえば……それなら近くに行って、湖が濁ったままかどうかを確認したいって事で良いのかな?」

「まぁそういう事。それと単純に近接での攻撃パターンもだな」


 そんな風に狙いを伝えながらサヤと並んで飛び、湖から頭を出しているオオサンショウウオの元へと移動していく。

 夜の日で暗かった事もあってさっきの位置からでは確認出来なかったけど、オオサンショウウオに近付くにつれて状況が分かってきた。


「……え、全然濁ってないかな? 微妙に灰になってない燃えカスが表面に浮いている感じ……?」

「この可能性はあると思ってたけどやっぱりか。てか、サヤ、迎撃を頼んだ!」

「えっ? あっ、土の塊かな!? 『連強衝打』!」


 湖の中から土の塊が浮かび上がってきて、サヤへと襲いかかっていく。……今のロブスターの防御は紙同然だから、下手に近接では戦わない方がいい。少なくとも、サヤが隣にいてくれる今はまだ。

 それにしても、燃やしてばら撒いた灰……厳密には中途半端に燃え残ってたり、土の中にあった燃えてない根とかが浮かんでいて逆に気付きにくくしてたみたいだな。

 そういうやつは操作が出来ないから放置されているけど、距離があった時には濁ってるのか燃えカスが浮いているのか、その区別がつかなかっただけっぽい。……濁らせたのは余分な事だったのか?


「ケイ! この土の塊は水球よりは脆いかな!」

「……そんな感じだな」


 パッと見ただけでも水球ほどの精度はないようだし、そもそも土の塊自体が1つである。それでも決して精度が低い訳じゃないけど、水球よりは遥かにマシだ。

 移動操作制御はレナさんが潰して再発動はまだ無理なはず。そして、まだベスタは水球を相手を全て引き受けている。

 すなわち、この土の塊と8発の水球は同時に操作されているという事だ。……うん、これを見ると濁らせたのは間違いだったとも言い切れないな。


「このオオサンショウウオ、並列制御がLv2以上か」

「そういう事に……なりそう……かな!」

「サヤ、迎撃サンキュー!」

「どういたしまして。でも、かなり近付いているのに本体が攻撃してくる気配はないかな?」

「それは俺が抑えてるからだが……言ったそばから水球の標的がそっちに変わったぞ。辛子、進行方向を塞ぐようにアップリフトだ!」

「おうよ! 『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』!」


 オオサンショウウオが自分の間近に水球を引き戻そうとして、それを遮るように辛子さんの発動したアップリフトにより大地が隆起していく。

 魔力値が全快ではなかったのかちょっと規模は小さいけど、8発の水球を防ぎきってくれたようだね。……いや、8発は無かった気もするからベスタが破壊したか?


「とりあえず本体にプレイヤーが近付くと、攻撃対象は変わるのも判明だな。サヤ、次の一手は気を付けろよ」

「……分かってるかな」


 オオサンショウウオの周囲の水は濁ってはいない。正確に言えば、濁っていても土の操作で濁りは取り除かれる。

 並列制御Lv2以上で、水の操作Lv7以上。そこに普通に押し流してくる水流の操作と、高圧水流にする水流の操作もありときた。そして、操作種なのであれば、応用スキルの操作系スキルを他にも持っている可能性が極めて高い。


「やっぱり水流用の水を生成し始めたかな!」

「だろうと思ったよ! サヤ、ギリギリで回避しつつ、本体への直接攻撃に行くぞ!」

「分かったかな! 『略:エレクトロボム』!」


 サヤが牽制で放ったエレクトロボムは相手にもしないか。ここまでの戦闘から考えると、このオオサンショウウオの今の行動パターンは水の操作による同時攻撃と、水流の操作による高圧水流による切断の交互。……切断への変更のきっかけは移動操作制御の破壊っぽいけど、断言は出来ない。

 今までのパターン的に、高圧水流での切断は2発放てばそこで終わり。同時に倒す人数が多ければ、2発目に追加生成で少し時間の猶予が出来るって感じか。


「っ!? ケイ、今の見たかな!?」

「あー、ばっちりとな! あの威力はそういう事か!」

「内容は後で聞かせてもらうが、ケイ、サヤ、無防備に止まるな! 攻撃する姿勢は見せろ!」

「2人とも、こんな大詰めでミスんなよ!」

「分かってるかな!」

「おうよ!」


 ここでさっきの辛子さんみたいに盛大に昇華魔法とかぶっ放してしまいたいけど、もうそんな魔力値は残っていない。まぁ今のベスタの発言を聞く限り、戦闘を放棄したような状況でさえなければ問題はないんだろう。

 ぶっちゃけあれだけの猛攻を10分凌ぐので行動値の回復の余裕とかないしね! とはいえ、盛大にやりたいところではあるし派手に散りますか。


<行動値上限を40使用して『大型化Lv1』を発動します>  行動値 16/76 → 16/36(上限値使用:44)


 ふっふっふ、サヤは真っ正面から突っ込んでいったけど、俺は少しオオサンショウウオの真上に移動し、大型化して水のカーペットから飛び降りていく。

 この位置からだと真後ろから水流の操作による切断を受けそうだけど、俺ごと自分自身に攻撃してみろ! ……まぁ自分の攻撃じゃダメージはないだろうけど、気分的に一矢報いてやりたいからね!


<行動値を15消費して『万力鋏Lv1』を発動します>  行動値 15/36(上限値使用:44)


<『万力鋏Lv1』のチャージを開始します>


 よし、頭だけ出しているオオサンショウウオが水の中に引っ込んだけど、俺も盛大に湖に着水して、首根っこを挟み込んだぞ。

 うわっ、暴れ出した!? くっ、成熟体相手に万力鋏はちょっと無謀だった……って、水面に出して振り回すなー!? 脱皮で防御面が弱くなってるから、水面に叩きつけられるだけでHPがどんどん減っていくんだよ!


「サヤ!」

「大技を使いたかったけど、これで勘弁かな! 『爪刃乱舞』!」


<『同調打撃ロブスター』のHPが全損しました。『同調強魔ゴケ』が大幅に弱体化します>


 サヤがオオサンショウウオの背中を爪の連撃で攻撃し始めた直後に、真上で生成されていた水で水流の操作で切断された。

 サヤはクマが真っ二つに切り裂かれてポリゴンとなって砕け散っていった。俺はロブスターが即死し、ロブスターの甲羅の欠片に残った弱体化したコケがオオサンショウウオの顔に向けて落ちていく。


<群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? リスポーン位置は一覧から選択してください>


 ははっ、ロブスターの甲羅の欠片ごと思いっきり食われたけど、オオサンショウウオの高圧水流での切断がオオサンショウウオの顔面に直撃したのは見たぞ! 今はまだ倒せないけど、これくらいはやらせろっての!

 それにしても、死んだ状態でも経験値増加の効果は継続中か。効果時間が過ぎるまでは、死んでも効果が切れる事はないんだね。


 てか、割と近くに灰色の精神生命体の状態のみんなが集まってますがな! いや、そりゃ間近で見れる位置に移動はするか。

 あ、違う。普通に移動は出来なくて、先に死んだ人のとこに集まっていくんだったっけ? よく見たら湖の上じゃなくて陸地の方だし、一番最初に死んだライルさんのいる場所か。


「ケイ、サヤ、お疲れさん。今のは結構痛快だったな」

「ダメージはないけど、一撃は入れた気分! アルも色々お疲れ」

「後は辛子さんとベスタさんだけなのさー!」

「あ、辛子さんが死んだね」

「辛子、お疲れ様です」

「あー、死んだ、死んだ! おう、ライルもな!」


 ふー、これで残すところはベスタ1人か。ベスタがここから失敗するとは思えないね。分断されて全員分は見れてなかったけど、みんながこの様子なら無防備に死んだ人もいないっぽいな。


「辛子、もう少し保たせようぜ?」

「そうだよ、辛子。折角ケイさんが一矢報いた……かは微妙だけど、盛り上げてきたんだしさ」

「紅焔もカステラも死んで早々、辛辣だな!?」

「……あはは、まぁ紅焔とカステラが死ぬ時に余計な事を言ったからね」

「……あー、あれか。いや、あの状況からどうしろと?」

「そこは気分的な問題だよ! ねぇ、紅焔!」

「おう、そういう事だ!」

「……余計な事を言うんじゃなかったな。地味に面倒くせぇ……」

「「なにおう!?」」


 あはは、紅焔さんとカステラさんと辛子さんで何か変な事になってるな。まぁ、どっちの気持ちも分からなくはないから触れないでおこうっと。


「ところで、ベスタはいつまで戦うんだ?」

「……限界まで戦いそうかな?」

「というか、ベスタは暴発の練習をしてねぇか?」

「そういえば、そんな感じなのです!」

「……あはは、まぁ問題は特にないしいいんじゃない?」

「まぁそれもそうだな。あー、それじゃ今のうちに最後の方で探った情報の整理でもしておくか」


 ベスタが死んできてから話をまとめてもいいけど、ベスタ1人でも意外と粘りそうなんだよね。

 間近で操作の発動を見て気付いた事も多いし、多分見解は同じだと思うけどサヤの意見も聞いておきたい。


「そうですね。私達の方でも少し遠くからですが見てはいましたので、すり合わせをしておきましょうか。紅焔、カステラ、辛子、その辺でお終いにしてください」

「放っておいて欲しいならそうするから、そう言っておいてね」

「ちょ、ソラ!?」

「ソラ、それは待った!」

「さーて、僕らも情報の整理だね!」


 うん、ライルさんとソラさんの言葉で3人ともが言い争いを止めて戻ってきた。なるほど、飛翔連隊という共同体はこういう力関係なんだな。

 さて、あんまり無駄話をしていても時間が勿体ない……いや、この後戦闘出来るほど、あんまり精神的な余裕は無さそうだから時間自体はありそうだ。でもまぁ、ベスタが死ぬまでは暇ではあるか。


「とりあえず俺が把握した内容からいくぞ。まずあのオオサンショウウオは土の操作と砂の操作、もっと言えば昇華の状態で持っていると思う」

「それは私も同じ見解かな」

「はい! それはどういう根拠からですか!?」

「サヤが土の操作っぽいのを破壊してたのと、並列制御がLv2だと言ってたもんな。だが、砂の操作を昇華持ちでってのはどこからだ?」

「あの水流で切断する準備を近くで見たら分かるんだよ。あのオオサンショウウオ、湖の中で砂を生成してて、少しずつ渦を巻いてる水流の中に混ぜてた。湖の水を使ってなかったのは、砂の生成は魔法でする必要があるから行動パターンとして合わせてたんだと思う」

「それは私も直接見たから間違いないかな。多分夜の日で見落としやすいのはあったと思うから、昼の日だったら割とすぐに分かったんじゃないかな?」


 うん、ここについてはサヤも近くで一緒に見ていたし、見解が一致しているなら読みとしては外れてないはず。

 そして、即死級の威力があるのも、操作の時間が短いのも、これで説明がつく。応用スキルの操作系スキルを並列制御で使ってるんだ。それで威力が低いはずがないし、操作時間が長く保つはすがない。


「……って事は、理屈としては前にケイがやってた砂の操作と水流の操作を並列制御で使っていたのと一緒だったって訳だな? 要するに、リアルであるウォーターカッターを使ってきた訳か」

「まぁそうなるな。……逆に言うと、行動値に余裕さえあれば俺でもあれくらい出来る訳だ」


 ふっふっふ、前に試してみた時は砂の操作は全然育ってなかったタイミングだったはずだけど、砂の操作のLvも上がり、行動値も増えてきた今ならば……!


「ケイさんが黒い笑みを浮かべているのです!?」

「いや、表情は分からないよな!?」

「でも、イメージ的にはそんな感じだったのさー!」

「あー、うん、それはあんまり否定出来ない……」


 確かに言われてみればさっきのは悪い笑みを浮かべてるような感じの心境だったしな。まぁそれが悪いとは思わないけど。


「あー、それとこれはちょっと言い辛いんだけど……多分、草とかを焼いた灰については何の役にも立ってない……」

「薄々そんな気はしてたから気にしなくていいぜ、ケイさん。なぁ、ソラ?」

「そうだね。成功しかするなと言う方が無茶な話だし、問題ないよ」

「……そう言ってくれると助かる」

「でも合わせて実行した土で濁らせる方は効果はあったんじゃないかい? 並列制御がLv2で、水の操作がLv7なら、最大操作数は12発だろう?」

「それについては絶対とは言えないけど、土の除去に1枠使わせて、水球の数を減らせていた可能性はあると思う」


 これは確定とは言えないけど、水の操作を2つと土の操作を1つの組み合わせで実際に並列制御で発動はしていたから、決して低い可能性ではないはず。


「後は微妙に使い方は違うけど、水の操作と水流の操作を交互に使うってくらいか。誰を狙うかについては、サンプル数が少な過ぎて確定出来ないけえど……」

「ま、確かにそりゃそうだな」

「んで、アル達の方で気付いた事って何かある?」

「ふむ……ほぼ言われたから何もないな。あえて言うなら、今ベスタさんがオオサンショウウオの行動値を尽きさせているっぽいくらいか」


 え、ちょっと目を離してた隙にそんな事になってるの? あ、確かに水球も水流の操作も発動しておらず、オオサンショウウオが近接でベスタと戦っていた。

 ……流石にあの威力の連発は成熟体でも行動値が尽きるんだな。って、あれ? この次に他の人も最終確認の検証をするんだよね。

 戦闘開始時に成熟体の行動値が尽きてたらどうなるんだろ? あ、もしかしてそれを確認する為にベスタは無茶をして……って、地味にほんの少しだけど成熟体のHPが減ってる!?


「これ、もしかして暴発の無差別ダメージなら、成熟体にもダメージが与えられる……? やろうと思えば倒せない事もない……?」

「そうっぽいけど、ケイさん、それは無茶だと思うよー? あのベスタさんであれだからねー!」

「あー、そりゃそうだ」


 うん、少し成熟体を倒せる可能性を見出した気はしたけど、ベスタでほんの僅かに減らすのが限界なら、現実的に無理だろう。……てか、絶対ここからHPを減らしていったら行動パターンがもっと厄介になるだろうしねー。


「あ、盛大に暴発したかな」

「……こりゃ、流石のベスタでも詰みだな」


 暴発での無差別ダメージでベスタ自身のHPがほぼ無くなったところに、オオサンショウウオに尻尾を叩きつけられてベスタのHPが全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。

 さて、これで最後の全滅という条件は満たしたはず。頼む、失敗せずに取得がきてくれ!


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『烏合の衆の足掻き』を取得しました>

<ボーナス経験値を獲得しました>

<ケイがLv24に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『烏合の衆の足掻き』を取得しました>

<ボーナス経験値を獲得しました>

<ケイ2ndがLv24に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 よっしゃ、再び『烏合の衆の足掻き』とそのボーナス経験値をゲット! しかも今回は前よりも経験値が明確に多いから、経験値増加アイテムの効果もしっかり反映されてるね! そして、次のLvアップまでの経験値の半分以上いったから、次は早いかもしれない。

 とりあえず、これで俺らの今日の目標は達成だー! あー、疲れた……。




【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:同調強魔ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 23 → 24

 進化階位:未成体・同調強魔種

 属性:水、土

 特性:複合適応、同調、魔力強化


 群体数 0/7350 → 0/7500

 魔力値 0/220 → 0/222

 行動値 1/80 → 1/81


 攻撃 82 → 83

 防御 135 → 138

 俊敏 99 → 101

 知識 204 → 209

 器用 227 → 233

 魔力 299 → 307



 名前:ケイ2nd

 種族:同調打撃ロブスター

 所属:灰の群集


 レベル 23 → 24

 進化階位:未成体・同調打撃種

 属性:なし

 特性:打撃、斬撃、堅牢、同調


 HP 0/8650 → 0/8850

 魔力値 103/103 → 103/104

 行動値 70/70 → 70/71


 攻撃 298 → 306

 防御 272 → 279

 俊敏 226 → 232

 知識 77 → 78

 器用 94 → 96

 魔力 49 → 50



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