第848話 再取得の検証戦 その3
とりあえずこの戦闘が始まって5分は経過した。てか、10分を過ぎた後に全滅はしないといけないのに、無防備に殺されるのはアウトってのはキツいなー。
まぁ多分回避行動なり、防御行動なりをした上で倒されれば良いんだろうけどね。……とか油断してたら、行動パターンが変わって条件達成前に全滅とかあり得そうだから気を付けないと。
「おし、大体燃やせたぞ! 炎の操作、解除!」
「紅焔さん、ナイス!」
「およ? オオサンショウウオが動き出したねー!」
「あ、また水の上に乗ってるかな!?」
「……それに、また4つの水球だね」
ちっ、中々このオオサンショウウオの相手は面倒だな。水の操作や水流の操作で遠距離攻撃を仕掛けてくるけど、本体はまるで動いてこない。
未知の操作を解除してくるスキルも使わせたいところだけど、どうすれば発動させられる……? 少なくとも、今のスキル発動時には使えないはず。
「……ちょっと本体の方を狙ってみるか。レナさん、纏水をして湖の中から攻撃を仕掛けるのは可能? あの浮き上がるのに使ってる水をぶっ壊してみたいんだけど」
「んー、確かに今の状況なら属性の相性は悪くてもわたしが潜るのが適任だよねー。うん、それは引き受けるよ」
「悪いね、火属性なのに水中戦を頼んじゃって」
「あはは、それは平気、平気! わたしの主力は火属性じゃなくて物理での蹴りだしねー」
「それじゃ、レナさん、水中からは任せた!」
「任されたよー!」
とりあえずこれでオオサンショウウオが並列制御を使っているのか、移動操作制御を使っているのか、それを確定する事が出来る。
もし移動操作制御なら、オオサンショウウオ自身の動きは鈍いという可能性もあるから確実に確定していきたいところだな。……敵が移動操作制御を使うというのも、ベスタが気にしていたし初事例か?
「はっ!? 水球の狙いが定まったみたいなのさー! 狙われてるのはサヤとヨッシです!」
「こっちも危機察知に反応ありだ! 狙われてるのはソラと俺か!?」
4つの操作された水球でそれぞれに狙いをつけてきたか。1人に集中されると防ぎ切れるか怪しい威力だけど、分散されればそれはそれで厄介だな。
まぁ1発ずつはLv1の連撃系の応用スキルで対処は出来るし、もう再使用時間は経ってるはず。ただ、火属性の紅焔さんとソラさんにはフォローがいるかもね。
「サヤとヨッシさんは自分で迎撃! いけるよな?」
「まだ行動値に余裕はあるから、水球1発なら大丈夫かな! 『爪刃双閃舞』!」
「私も大丈夫! 『エレクトロインパクト』『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
「それで紅焔さんとソラさんは回避優先で――」
「辛子、カステラ、フォローに行くぞ! 『飛翔疾走』『爪刃乱舞』!」
「おうよ、ベスタさん! 『連閃』!」
「ベスタさんは無理し過ぎないでよ! 『連強衝打』!」
あ、ベスタには待機してもらって、辛子さんとカステラさんに向かってもらうつもりだったけど、まぁこれはこれでいいか。
さっきは気付かなかったけど今の様子を見れば、あの4つの水球は連撃で攻撃すれば標的も変わるみたいだしね。……そういや水球って最初にアルを、その次に紅焔さんとソラさんを狙ってたんだよな。
うーん、飛行している人が優先的に狙われてる……? いや、飛行種族のみを狙っているなら分かりやすく狙ってる可能性はあるけど、今の状況だとそうでもないか。
水球に接触した相手に攻撃対象が移り変わっていってるなら、そこまでこの法則性は重要視すべきじゃないかもしれない。
それよりも、今がレナさんに動いてもらうチャンスだね。そういや、敵の危機察知ってどうなってるんだろう? ……これは確認の手段がないからどうしようもないか。
でも、いくら成熟体だからといって、オオサンショウウオが全てを攻撃を同時に対応し切れるはずがない。ダメージの量さえ考えなければ。
「……アル、水流の操作はいけるか?」
「いけるが、それでどうするんだ?」
「サヤ達に任す予定だった灰と土を湖ぶち込むのが出来なくなったからな。水流の操作で地面を抉りながら流し込んで、湖を濁らせるって感じで頼む。あ、出来れば湖の水を使ってくれ。打ち消されるかどうか、そこで確認したい」
「……なるほど、了解だ」
「それとレナさん、そのタイミングでさっきの件の実行を頼む。水面が見辛くなるだろうけど……」
「んー、まぁその位なら大丈夫だよー。それにわたしの姿が隠される事にもなるし……あ、それならアルさんの水流に紛れて湖に突入するよ」
「あー、確かにそれはありだな。んじゃ、その方向で!」
「おうよ! それじゃ始めるぜ。『水流の操作』!」
「さーて、わたしもやっていこうかー! 『纏属進化・纏水』『魔力集中』『アクアクリエイト』『操作属性付与』『重脚撃・水』!」
あ、癒水草茶で水中に対応していくのかと思ったら、思いっきり纏属進化を使ってる。……まぁ火属性のメリットが水属性に相殺されて弱まりはするけど、水属性に対する耐性は上がるから今はこの方が良さそうだね。
よし、アルが湖の水を水流に変えて、紅焔さんが焼き尽くした草木の灰と、その下にある土砂を削り取って湖の中へと流し込んでいく。でもこれだけじゃ湖の表面全体を濁らせる事は出来ないか。
「アル、その調子で頼んだ! 濁りを広めるのは俺がやる!」
「任せたぞ、ケイ!」
「おう!」
「それじゃわたしも行ってくるねー!」
「レナさん、よろしく!」
「ケイさん、私はー!?」
「ハーレさんは現状では待機……いや、泥団子を湖に投げまくるのもありか?」
「それなら出来るのです!」
「よし、それじゃハーレさんはそれで!」
「了解なのさー! えい、とう、えいや!」
どこまで有効かは分からないけど、これで敵の湖の水を使った操作はかなりやりにくく出来るはず。てか、ハーレさんはスキルは使わずに泥団子を投げている。まぁ行動値が節約出来るならその方がいいか。
そして湖の上にいるアルの更に上空では4つの水球の操作時間を削り切る為に複数の銀光を放つ連撃が放たれて、そろそろ最大強化になりそうなところである。
改めて思うけど、成熟体攻撃力がヤバいな。通常スキルである水の操作を相殺するのに、Lv1とはいえ連撃系の応用スキルが4つ必要とかどんだけだよ。
いや、成熟体の攻撃力がヤバいのは元々分かっていた話だ。だからこそ、冷静に対処していくまで!
<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』を発動します> 行動値 20/72(上限値使用:8)
あー、多少は行動値は回復してたけど、消費がキッツイなー。とりあえずアルが土砂が混ざった水流を流し込んできているのを、俺の方で更にかき混ぜていく!
ハーレさんも次々と泥団子を投げているけど……いまいち効果があるのかどうかが分からない。まぁ全く無意味って事はないだろ。
それにしても、夜の日だから濁ったかどうかが少し分かりにくいな。でも、湖面に燃えカスっぽいのが色々浮いているから、湖全体に広がった目安にはなりそうだ。
「あ、水球が消えたかな!?」
「え、サヤの方も?」
「ケイ! こっちの水の操作が同時に全て消えたから気をつけろ!」
「了解、ベスタ!」
今のサヤとヨッシさんの反応も含めて考えると、オオサンショウウオ自身が操作を打ち切ったっぽいな。でも乗っている水の塊は消えていないという事は……。
「今が狙い時だよねー!」
「レナさん、ナイス!」
「もう一発! およ? Lv3でもダメージはさっぱりだねー」
よし、湖の中からレナさんが水の塊を蹴り飛ばして消滅したね。てか、チャージしてた重脚撃はLv3で発動してたんだ。しかも水の塊にはスキルでもなんでもない普通の蹴りだったっぽい。
ぶっちゃけ銀光の強弱まで把握している余裕がなかったけど、お陰で思いっきり空中に吹っ飛ばされてくれた。よし、こういう状況になったのなら、このまま捕獲して陸に上げてしまうか。
「アル、根で捕獲……って、今は出来ないか」
「それなら、すぐに切り替えるか」
「いえ、それなら私がやりましょう。『根の操作』!」
「ライルさん、ナイス! そのまま湖から離してくれ!」
「えぇ、そのつもりです!」
まだ回復が必要かと思っていたライルさんが、根を伸ばしてオオサンショウウオに巻きついて捕獲して陸の方へと引っ張っていく。
あっぶね、移動操作制御かどうかの確認までは考えてたけど、その後どうするかを具体的に考えてなかった。
あー、ライルさんはまだ回復してるとは言えない状態だけど、それでも捕獲に動いてくれたのは助かった。これでオオサンショウウオを陸に上げられる。
「ライル! 今すぐ離し――」
「……え?」
慌てた紅焔さんが全てを言い終える前に、オオサンショウウオの頭上に巨大な渦巻く水流が現れ、そこから放たれた細い線がライルさんの木を両断してHPを全て消し飛ばした。って、はぁ!?
「……今の、魔法産の水での高圧水流での切断……か?」
似たような……いや、理屈としてはおそらく同じ手段で俺も使った事はある。だけど、その時の俺とはまるで威力が違う。
あれは……これまでの攻撃よりも遥かにヤバい! 水流の操作は育てば細かく収束出来るようになるのか……。
「って、惚けてる場合じゃない! みんな、落ちながらで狙いは甘いはずだから、飛び回って避けろ!」
「およ? 狙われてるの、わたし――」
「レナさん!?」
くっ、上空のみんなを狙う可能性ばっかに気を取られて、真下にいるレナさんの方の考慮を忘れていた。レナさんが1撃で倒され、これで2人が死亡……。そこで水流の操作は消滅したけど、流石にあの威力では消費が激しいのか。
てか、少し優位に立った気でいたら、一手でこれかよ! 魔法産の水を使う事を想定してなかった訳じゃないけど、高圧水流による切断は想定してなかったぞ……。
「ケイ、ボサッとするな! この状況で水中に潜られたら危険過ぎるから、陸地に吹っ飛ばすぞ!」
「っ! ……確かにアルの言う通りか」
オオサンショウウオの移動操作制御だった水の塊を破壊した瞬間に明確に行動パターンが変わった。そして、その狙いの対象はその時点で手を出したライルさんと、実行したレナさん。
ライルさんは相当弱ってたとはいえ、レナさんすら即死は流石に想定外だ。だけど、HPが全快だったレナさんの即死は……今のはいくらなんでも威力が高過ぎる。
「とりあえず陸地に吹っ飛べ!」
そう言いながら、まだ湖へと落下途中のオオサンショウウオに向けてアルが横から叩きつけるように水流を操作していく。……なんか様子が変わってる?
「はっ!? 何か変なのです!」
「右の前脚が、真っ黒になった……?」
アルが叩きつけていく水流の操作にオオサンショウウオの真っ黒になったその右の前脚が触れた瞬間、アルの水流の操作は制御を失ったようにその場で水が真下へと落ちていく。
これはやっぱり操作が強制的に解除させられている? そのきっかけは、あの前脚が真っ黒になるやつか? あ、今は普通の色に戻ってる。
「今の黒いのが解除してくるスキルって訳か。そのスキルが連発出来るとは思えん! ケイが水流で陸地に上げろ!」
「確かにそりゃそうだ! ぶっ飛べ、オオサンショウウオ!」
ベスタから言われて咄嗟に俺の水流の操作を、着水直前のオオサンショウウオの腹部に叩き込んでやる。
よし、操作を解除された様子はなく、湖の上から陸地の方へと吹っ飛ばす事に成功したぞ。ただ、土砂や燃やした草とかを含んだまま強引に動かしたから一気に操作時間が無くなって、操作が切れた大量の水は湖へと落ちていった。
「紅焔、ファイアエンチャントを使え! それで魔法産の水の威力を下げる!」
「おうよ! 『ファイアエンチャント』!」
あ、その手があったか! ……ふぅ、少し落ち着け、俺。死ぬのは想定内だし、成熟体が強いのは分かりきっている。さっき、自分自身で冷静に対処するようにと考えていたんだぞ。
湖の水を操作しにくくしたのに成功したと思ってた時に、予想外に一気に2人が仕留められたからって動揺し過ぎだ。
冷静になって考えろ。明確にオオサンショウウオは特に強力なスキルをぶっ放してきた状態なのは間違いない。そのきっかけは……多分、移動操作制御を破壊した事。
でも、湖の水を使わなかった理由は……濁らせて操作をしにくくしたのが仇となった可能性があるか。これ、もしかすると2つの行動パターンの変化を同時に踏んだのかもしれない。
「げっ、今度は魔法産の水で8発の水球かよ!?」
「……これはまた厄介だね」
「はっ、1人1発ずつ落としていくだけだ!」
「まぁここは全力だよね」
「……ここまできたら、徹底的にやるしかないかな!」
「そうだね。ここまで来て、失敗は出来ないもんね!」
「レナさんの仇、絶対に討つのさー!」
いや、確かにレナさんは倒されたけど、多分その辺で精神生命体だけの状態で絶対見てるけどね。
それにしても折角泥水にしたのに湖の水で水球を作られたから、効果は無かったっぽい。……ん? いや、そうとも限らないか? 魔法産の方が消耗はさせられるしね。
「あー、ハーレさん。俺らが全滅する必要があるのを忘れるなよ?」
「はっ!? そういやそうだったのです!」
「……まぁ適度なところで死んでいけ。もうそれほど条件達成までは時間はかからないはずだ」
「あ、そういやそうか。肉食獣さん、後何分?」
戦闘に集中していると全然時間感覚がないんだけど、なんだかんだでそれなりには時間は経ってるはず。……でも、10分が長く感じるね。
「残り、後2分ってとこだな」
「……もうちょいか」
あー、思った以上にキツいな、これ。あれか、アンモナイトは基本的に捕獲をメインに考えてて戦うという意識が薄かったけど、今回はガチで攻防を繰り広げているからキツく感じるんだろうね。
分析は途中だし、行動パターンの変化も気になるけど、これからそこまで詳細に調べる余裕はなさそうだ。まずは自分達が死なずに生き残るのが最優先。
ま、俺らが全滅した後にも他の連結PTもやるんだから、分析についてはその際でも問題はない。
「さて、残り時間も全力で相手をしてもらおうか!」
そう宣言すると同時に、8つ水球が俺らに襲いかかってきた。もう条件達成までの残り時間も少ない。ライルさんとレナさんが先に死んだのは仕方ないけど、ここからは全身全霊で条件達成を目指すのみ!
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