第847話 再取得の検証戦 その2
操作種である事が判明した成熟体のオオサンショウウオが、これまで片鱗も見せていなかった未知のスキルを持っている可能性が出てきた。
ははっ、『烏合の衆の足掻き』の再取得の最終確認だけの予定が、こうなってくるとはね。検証ってのはこうでなくちゃ!
「あ、今のうちに余裕がある人は進化記憶の結晶を使っとこう!」
「あー、確かにそうだな」
「タイミングを逃すと使い損ねるのです!」
という事で、黒い方の欠片を取り出して砕いて使用! これも検証案件の1つだから、ちゃんと使っておかないとね。
<『経験値の結晶の欠片』を使用しました> 30分間、経験値50%上昇
正直、効果時間の30分は十全には使えないだろうけど、この『烏合の衆の足掻き』で手に入る大量の経験値が50%も増えるのは十分破格である。後はちゃんと称号取得の条件を満たすのみ!
「おっしゃ、逃げ切ったぜ!」
「ふぅ、危なかったね」
お、俺らが分析している間になんとかオオサンショウウオの水の操作は破壊しきれたみたいだな。一旦、紅焔さんとソラさんは地上に降りてくるようである。
その間にオオサンショウウオは再び湖の中へと潜ってしまっていた。案外、交戦的ではないのか……? いや、徘徊の特性持ちに手を出せば穏便ではないはず。あ、湖から顔だけ出してるよ。
「今のうちに全員、経験値の増加アイテムを使っておけ!」
そう言いながらベスタ達も地上へと降りてきた。ベスタを筆頭にオオサンショウウオの水の操作を破壊していたメンバーも、この少し出来た間で大急ぎで経験値の増加アイテムを使っていく。
人によって、俺が使ったのと同じ黒い結晶の欠片だったり、水草だったり、手長海老だったりとバラバラなのが面白いね。
さて、意識を戦闘に切り替えていこう。現時点ではなんとか誰もダメージは受けてないけど、オオサンショウウオはまだ水の操作しか使ってないんだよな。
それだけで相当な威力だったけど……あ、違う。言い忘れてたけど、まだ他にも気になった要素があったんだった。
「紅焔、ソラ、攻撃の方向誘導はご苦労だった。ケイ、レナ、分析は聞こえていたが、俺もその打ち消すスキルという推測に賛同だ。少し厳しくはなるが、その辺りも調べてみるか?」
「ふっふっふ、折角の新情報っぽいからねー! やるしかないでしょ!」
「俺も同感。少なくとも、同じ効果が出るのは確認してやる」
「だそうだが、他の連中はどうだ?」
そのベスタの問いかけに、他のみんなも同意を示してくる。まぁ普段からこういう検証をやってるメンバーが集まっているんだ。この状況で引き下がる訳もないよな。
まぁその件はそれで良いんだけど、もう1つ気になる件の意見が欲しいとこだから聞いておくか。
「その件はやるので賛成だけど、もう1ついいか?」
「どうした、ケイ?」
「あのオオサンショウウオ、浮いた水の上に乗ってた状態から攻撃をしかけてきてたよな。あれって、並列制御と移動操作制御のどっちだと思う?」
「それは俺も気になったが……どうやらこれ以上は時間はくれないようだな。各自散開!」
「まぁそうっぽい……って、ちょ、2つの水流の操作!?」
湖の水が渦巻き出したかと思えば2つの水流が俺ら全員に向かって襲いかかってきた! あぁ、くそっ! そこまで呑気に話し続けさせてはくれないってか!
「アル、上空へ退避する! サヤ、ヨッシさん、急げ! レナさんとベスタも!」
「おうよ!」
「こりゃ厄介だねー!」
「ちっ、今は仕方ないか。紅焔、攻撃のパターンを確認したい! そっちはそっちでなんとか凌げ!」
「了解だ、リーダー! てか、狙われてんのは俺か!?」
一本の水流は俺らの方に襲いかかってきていて、もう1本の水流は紅焔さん達……いや、紅焔さんをピンポイントで襲っている。
ふむ、これは分かりやすく狙いが決まってるの? ともかく今は高速で飛び回ってるアルから落ちないようにみんなを飛行鎧の岩で固定しておこう。
「レナ、ハーレ、危機察知はどう反応している?」
「うーん、危機察知はベスタさんに固定されてるねー。狙ってるのはPTリーダー? ハーレ、そっちは?」
「私の方には反応なしなのさー!」
「それじゃ紅焔さんの方は……聞くまでもないねー」
「ちょ、待っ!? 呑み込まれたら、死ぬ!」
うん、確実に紅焔さんが狙われてるけど、そう決めつけるのは早計だ。ただの偶然でPTリーダーが狙われてる可能性もあるし……。
「てか、俺らも充分ヤバい状況だな。サヤ、ヨッシさん、ダメ元でエレクトロウェブ!」
「分かったかな! 『略:エレクトロプリズン』!」
「了解! 『エレクトロウォール』!」
「あ、少しだけ動きが鈍ったのさー!」
よし、海水ほどではなくても属性相性的に雷属性は水属性相手には有効だ。……というか、海水の方が効き過ぎてる感じもするね。
流石に成熟体相手だから麻痺はさせられなかったけど、水流を通じてほんの僅かだけど動きを鈍らせる事自体は可能なんだな。
「紅焔、私の後ろへ! 『並列制御』『アースウォール』『アースウォール』!」
「うへぇ!? 水はやべぇって!」
「紅焔、加速させるからこっちへ!」
「悪い、頼んだ! ソラ、ライル!」
「行くよ! 『並列制御』『ウィンドボム』『風の操作』!」
「おらぁー!」
おぉ、ソラさんが紅焔さんを指向性を操作したアースボムで、アースプロテクションを展開しているライルさんの木の後ろへと吹き飛ばしていったね。
「あいつら、回避ではなく真っ向から受け止める気か……。ケイ、俺の固定を解除だ。サヤ、ヨッシ、電気魔法を撃ち込んで支援してやれ」
「分かったかな! 『略:魔法砲撃』『略:エレクトロボム』!」
「了解! 『エレクトロボム』!」
「固定を外してベスタはどうするんだ?」
「なに、片方の水流は俺に任せておけ。指揮は任せるぞ」
「……ほいよっと!」
「それで良い。『飛翔疾走』! 片方の狙いは俺だろう、しっかり狙え、成熟体!」
そう言いながらベスタは1人で空を駆けていった。ベスタを追いかけて、水流も向きを変えていく。……これは対策を考える時間を作る為に、無茶を承知でベスタが実行に移したんだろう。
サヤとヨッシさんは引き続き紅焔さん達を襲っている水流に電気魔法を撃ち込んで、少し精度を乱す事は出来ている。だけど、無いよりマシという程度……。
「くっ、凄まじい勢いで耐久値が……! 辛子、カステラ、2人もお願いします!」
「おし、任せとけ! カステラ、俺より前側に展開しろ! 『並列制御』『アースウォール』『アースウォール』!」
「凌ぐにはそれしかなさそうだね。『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』!」
サヤとヨッシさんによる電気魔法の影響でほんの少し制御が甘くなった隙に、ライルさん、カステラさん、辛子さんの3つの複合魔法で凌いでいる。
風防壁で威力を削ぎつつ、土の防壁で受け止める形でなんとか凌げているみたいだけど、この調子で魔力値や行動値を使うと絶対に足りなくなる……。
それに水流の操作なのに、回り込んで操作してくる様子がないから全然全力ではない。……ただ受け止めるだけじゃ無理か。何か打開策を考えないと、このままじゃジリ貧になるぞ。
考えろ、考えろ、考えろ! 高難易度の称号でも、必ず打開策は用意されている筈だ。倒さなくてもいい。時間が稼げればいい。何か打開策見つけないとベスタが稼いでくれている時間が無駄になる!
敵の操作をもっと妨害する手段は……昇華になってる電気魔法があればもっと違うんだろうけど、今はない! 敵が使うのは水の操作や水流の操作で、俺も使うから性質を考えろ。……操作をする際に邪魔になる要素はなんだ?
あ、そうか! これなら、いけるはず! それを実行に移す手段も今はある。どこまで通用するかは試してみないと分からないけど、やらないよりはやるまでだ!
「ハーレさん、あるだけ砂漠の砂をばら撒いてくれ!」
「え? よく分からないけど、了解です!」
よし、魔法産ならすぐに消えてしまう可能性があるけど、天然産の砂漠の砂なら消滅はしないはず。ただの砂を混ぜただけじゃ押し流せてしまうけど、操作してしまえば話は別だ。
もし、これでオオサンショウウオが砂の操作も持っていたら後々面倒になる可能性もある。でも、それならそれで今の水流の操作をキャンセルさせる事は出来るし、行動値は削れる!
<行動値を19消費して『砂の操作Lv3』を発動します> 行動値 36/72(上限値使用:8)
ハーレさんが空中にばら撒いた砂を操作して、まだ襲いかかってくる水流の中に砂をぶち込んで、もう思いっきり水流を乱してやる。
くっ、相手が成熟体の操作種だから乱すだけでも一苦労だけど、明確にオオサンショウウオの水流の操作の制御は甘くなった! 一応成功と言えば成功だけど、こっちの砂の操作の時間があっという間に無くなったー!?
「あ、それでも片方の水流の操作は消えた……?」
「なんとか……凌げましたね。ケイさ、ヨッシさん、サヤさん、助かりました」
「ちょ、ライルさん、ボロボロじゃん!?」
最後の方はもうライルさんの松の木自身が盾となって、紅焔さんへの攻撃を防いでいたみたいだ。HPとしてはもう3割を切っている。
「途中から水分吸収で回復速度と、HPが削れていく速度のせめぎ合いでしたからね……。ですが、何か掴めたでしょう?」
「……まぁね」
水流の操作を乱すのに、砂の操作が有効なのは分かった。ベスタは今もまだ1人で時間を稼いでくれている。
ただ、行動値の消費が厳しいという点は解決出来そうにない。……俺1人ならだけど。
「ライルさんはしばらく回復しててもらうとして、辛子さんは砂の操作は持ってるか!?」
「おう、持ってるぞ! さっきケイさんがやってたみたいに、砂の操作でベスタさんを追いかけてるオオサンショウウオの水流の操作に割り込めばいいのか?」
「多分かなり難易度は高いけど、頼めるか?」
「高難易度は上等だっての! でも、砂はどうすんだ? さっきのはそこらに点在はしてるが、一気に操作するにはばらけ過ぎてるぜ?」
「あー、ハーレさん、砂はまだあるか?」
「全部出したので、もう無いのです!」
「……それは失敗だったか。まぁ天然産なら再利用出来るかもって目算が甘かったし、ここは魔法産で頼む」
「おう、了解だ。『アースクリエイト』『砂の操作』!」
よし、これでベスタが引きつけてくれているのも少しは楽になるはず。……てか、ベスタは紙一重で水流の操作を躱しているんだよね。
流石はベスタと言いたいとこだけど、成熟体相手ではベスタでも逃げきれなかった前例はある。その時より更に強くなってるから少しは違うとは思うけど、逃げ切れないと想定していた方がいい。
「ちょ、もう解除かよ!? ケイさん、これでよく妨害出来たな!?」
「いや、充分だ、辛子! 今ので少し余裕が出来た」
「そりゃ良かったが、ケイさんに負けてられねぇよ! 『アースクリエイト』『砂の操作』!」
うーん、高難易度だとは思ったけど、辛子さんは俺ほどは乱すことは出来なかったか。
まぁ成熟体が相手だし、ベスタに余裕が出来たみたいだから結果としては上々だね。さて、まだ辛子さんが妨害に動いてくれるようだし次の手を打っていこうか。
「紅焔さん、炎の操作でここら一帯の草を焼き払ってくれ」
「ケイさんに何か案があるんだな? そういう事なら任せとけ! 『ファイアクリエイト』『炎の操作』!」
よし、湖の畔に生えている草花や木が一気に燃え上がっていく。うん、この勢いで燃えてくれれば、焼き払い終わるまでそう時間はかからないはず。
「ソラさんとカステラさんは、燃え尽きた残骸を風の操作で湖の中へ吹っ飛ばしてくれ。出来るだけ、湖の表面を覆う感じで」
「……なるほど、操作の指定を妨害する作戦かい?」
「あぁ、焼き払った草花の燃えカスで湖面を覆うんだね。操作系スキルで操作するには視界で指定するのは必須だし、ありだと思うよ」
「とりあえずはそんな感じだな。それに合わせて、サヤ、ヨッシさんは土も掘り上げてくれ。俺が土の操作で湖にぶち込んで濁らせて、操作しにくい水に変えてやる」
「うん、分かったかな!」
「私は氷塊の操作を使ってやればいいんだね」
さて、ここまでは操作を徹底的に妨害する嫌がらせ手段だ。……オオサンショウウオ持っている操作系スキルの種類によっては、並列制御で両方操作されて意味がないという可能性も否定は出来ないんだけど、そこまで考慮出来る余裕はない。
「くっ!」
「流石にベスタでも限界か! 『アクアウォール』!」
「……助かったぞ、アルマース。ちっ!」
オオサンショウウオの水流の操作を避け切れずにベスタが地面に叩きつけられそうになったけど、ギリギリのところでアルがアクアウォールで受け止めて無事だった。
いや、HPが半分以上減っていて、更なる追撃が迫っている状況は無事とは言えないか。でも、ベスタは即座にアルのアクアウォールの下に潜り込み、その追撃を凌いでいく。
「……そろそろ、時間切れじゃねぇか? 『飛翔疾走』『連閃』!」
「ベスタ、ナイス!」
辛子さんの砂の操作による妨害や、ベスタが紙一重の回避を繰り返していた事で操作時間は思っていた以上に削れていたようだね。そのベスタの連撃でオオサンショウウオの2つ目の水流も消滅させる事に成功した。
「戦闘中で悪いが、少しだけ聞いてくれ!」
「肉食獣さん、何だ!?」
「時間の計画報告だよ! 戦闘開始から既に5分は経過した。後残り5分だ!」
「マジか!」
戦闘と分析に集中してたから経過時間は全然把握してなかったけど、既に半分が過ぎている。……ここまでで半数生き残ってれば条件としては問題ないけど、全員生き残ってるのはかなり上出来だな。
「ここからの要注意点を言っておくぞ。ここから死んだとしても、下手にリスポーンはするな。全滅しなければそれはそれで失敗するし、全滅が無防備過ぎればそれでも失敗になる。ただし、残り2人を切ったら流石に危険だから誰か1人はリスポーンしろ。肉食獣、残り1分になった時点で合図を頼めるか?」
「おう、任せとけ。上空にファイアボムでいいか?」
「あぁ、それで構わない」
あー、そっか。これって条件が全滅する事だから全員が生き残ってたらそれはそれで失敗になるんだな。
てか、無防備に殺されるのも条件未達成になるのか。つくづく難易度が高い称号だな!
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