第846話 再取得の検証戦 その1


 さて、『烏合の衆の足掻き』の再取得がちゃんと可能か、その最終確認を行う為の作戦が始まった。

 まずは湖の中にいる敵が、条件として使える成熟体であるかどうかを確認していくのが先決だな。


「ケイさん、アルマースさん、水の操作はこっちの方まで持ってきてくれ!」

「ほいよ!」

「おう、了解だ!」


 肉食獣さんがそんな風に声をかけてきて、モンスターズ・サバイバルの面々が湖の水を処理する為に待機をしてくれている。

 水の操作の範囲のギリギリくらいの位置で待機してるね。この距離なら多分邪魔になる事はないだろう。


「アル、水の操作は交互にいくぞ!」

「おう! 先に俺からいくぞ」

「ほいよっと!」

「んじゃ、いくぜ! 『水の操作』!」


 アルが水の操作を発動し、湖面の水が一気に持ち上がっていく。うーん、やっぱり昇華になってると操作が可能な量が半端ないね。


「おらよっと!」

「おぉっと! 『水の操作』! おし、確かに受け取ったぜ!」

「それでは私の根元に水を撒いて下さい」

「おうよ、エレインさん!」

「それではやっていきますよ。『水分吸収』『水分吸収』『水分吸収』!」

「おし、持ってきたぜ! 『水分吸収』『水分吸収』『水分吸収』!」

「次々持ってこーい!」


 よし、エレインさんや他の移動種の木の人が盛大に水分吸収を行なってくれているおかげで、かなりの水が減っていってる。まだまだ湖の水はあるけど、この調子で水を減らしていくぞ!


<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 76/79(上限値使用:1)


 俺もアルと同じくらいの水を操作して、モンスターズ・サバイバルの人達の方へと水を運んで、同様に処理をしてもらっていく。


「次は俺だな。『水の操作』!」

「はっ!? 何か水の中に影が見えるのです!」

「ハーレさん、マジか!?」


 うーん、俺も湖の中を覗き込んでみるけど、夜の日で暗めだからその影はいまいち分からない。……相変わらず、よくハーレさんは気付くもんだよなー。


「……は?」

「アル、どうかした……って、なんで水の操作を解除してんだよ!?」


 普通にアルが操作して持ち上げて始めていた水が、急に制御を失って湖面へと戻っていく。……なんかアルらしくないミスだけど、まぁ誰にでもミスくらい――


「いや、俺は解除してねぇぞ!」

「……はい?」

「そんな事を言ってる場合じゃないのです!? アルさん、狙われてるのさ! 方向は……えっ!? アルさんが操作してた水なのさー!?」

「ちょ、マジか!?」


 何が起きたのかがさっぱり分からないけど、まだ落ちきっていなかった部分の水が落下している状態から、俺らの方に向かって動きを変えてきた。

 くっ、これは何か嫌な予感がする! ともかく攻撃されているのは間違いない。


「アル、緊急回避!」

「おうよ! 『略:旋回』!」

「ちっ、今ので避けきれないのかよ!」

「というか、追いかけてきてるのです!?」

「ちょっと速度を上げるぜ。『自己強化』『高速遊泳』!」


 アルが加速したけども、引き離せずに水が食らいついてくる。この水の動き、どう考えても水の操作だよな!? くそっ、まだ敵の姿はまともに確認出来ていないのに、向こうから仕掛けてきやがった!


「みんな、大丈夫かな!?」

「ちっ、大当たりではあるようだが、いきなり厄介だな。ケイ、凌げるか!?」

「何とかやってみるわ!」


 ベスタ達に対処を頼むよりは、今は自分達でこの状況をなんとかするべきだな。……成熟体の攻撃だとすると半端な防御じゃあっさり破られるだろうから、これでいくか。


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 76/79 → 76/78(上限値使用:2)


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv 5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 71/78(上限値使用:2): 魔力値 205/220

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値10と魔力値15消費して『土魔法Lv 5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 61/78(上限値使用:2): 魔力値 190/220

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『複合魔法:アースプロテクション』が発動しました>


 よし、アースプロテクションで敵の水の操作を防いでいく。魔法砲撃にしたから、固定位置じゃなくてハサミで向きが変えられるのが助かる。

 ただ、これだと正面が見えないから、ほぼ勘で受け止めてるんだよな。てか、とんでもない勢いで耐久値が削れていくんだけど!?


「って、おわっ!?」

「ケイさん!? 『略:巻きつき』!」

「うわ、危なかったー! ハーレさん、サンキュー!」

「どういたしましてなのさー!」


 うっわ、アルに乗っていたけど自分の位置を固定してなかったから、勢いに負けて危うく落ちかけた。ハーレさんが咄嗟に巣からクラゲの触手で引っ張ってくれたから助かったよ。

 あ、アースプロテクションの耐久値が全部無くなって消滅した。もう破壊されたとか、威力がとんでもないな……。って、まだ襲ってきてるし!?


「アルマース、そのまま引きつけておけ。ケイとハーレで敵の水の操作を削って、フォローだ」

「まぁ、この状況だとそうなるか! 落ちんなよ、2人とも!」

「了解です!」

「おうよ!」

「紅焔とソラは、アルマースの邪魔にならない様に湖に向けてフレアボムを叩き込め」

「了解だ!」

「分かったよ!」

「他の奴はまだ待機だ」

「えぇ、分かりました」


 とりあえずベスタが指示を出してくれて、アルが空中を縦横無尽に泳ぎまくって回避している状況だな。……まだ敵の姿は見えないけど、水の操作が1発しかないってのはまだまだ余裕がありそうだな、おい。

 さて、ハーレさんのクラゲの触手に支えられて、アルの木の根にハサミでしがみついている状況ではアルのフォローするにも微妙か。


「ハーレさん、俺もそっちの巣で位置を固定するぞ。そこからは衝撃魔法の魔法弾でいく」

「了解なのさー! 『魔法弾』!」


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 61/78 → 61/72(上限値使用:8)


 という事で、俺はアルの木の幹に、ハーレさんは足を巣と一緒に岩で固める感じで固定完了。これなら2人とも落ちる可能性は低くなる。


 そして既にハーレさんは魔法弾の用意は出来ているから、弾の用意をしていきますか! 属性は……水の撃ち合いよりかは土を投げつけた方がいいか?

 直接操作出来ない土が混ざれば、水の操作の難易度が上がるから動きは鈍るよな……? でも土の衝撃魔法で、その効果は出るのか……ちょっとやってみるか。


<行動値6と魔力値18消費して『土魔法Lv6:アースインパクト』を発動します> 行動値 55/72(上限値使用:8): 魔力値 172/220


 よし、とりあえずこれをハーレさんの構えている手に叩きつけて、魔法弾へ変換は完了だ。投げ終わるまで俺は何も出来ないけど、今のうちに少し観察に回るか。


「それじゃいくよー! 『連投擲』!」

「おっ、少し制御が甘くなったか! アル!」

「今がチャンスだな! 『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」


 そこからハーレさんが土砂を連続して投げていくと、流石に威力負けはしているけど、迫ってきていた水の操作の制御が目に見えて悪くなっていた。

 魔法産だからすぐに消えてはいるけど、土砂が水に混ざった際に精度が落とす事は可能か。……泥水だと水の操作だけでは土部分が制御し切れないから、土の衝撃魔法でも瞬間的に乱せられるならこれはありだな。


「今だな! ソラ、やるぞ! 『ファイアボム』!」

「了解! 『ファイアボム』!」


 そしてアルが湖の上から退避する為に更に加速したタイミングで、紅焔さんとソラさんによる火の爆発魔法同士での複合魔法のフレアボムが湖面で大爆発を起こしていく。

 まぁ昇華魔法ほどの威力はないけど、その熱で湖の水が盛大に乱れると同時に水蒸気が発生していく。いや、これは霧と言うべきか?


「ちっ、思った以上に視界が悪くなったか。辛子、風で吹き飛ばせ」

「おうよ! 『ウィンドクリエイト』『強風の操作』!」


 おっ、辛子さんが強風の操作で霧を吹く飛ばしていく。……強風の操作は、さっきのアルの水の操作と違って変な感じにはならないっぽい?


「はっ!? 何か影が見えるのです!」

「……大きなトカゲかな? それともワニ……?」


<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>

<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました><成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


 霧が吹き飛ばされ敵の姿が見え始め、それが成熟体であると証である発見報酬が出てきた。よし、懸念事項の1つだった敵が成熟体かどうかはこれで確定!

 見た目的には大きなトカゲっぽい気もするけど、サイズ感はワニだな。でもどっちもしっくりこない。うーん、この感じ、どっかで見た事はあるんだけど……。


「なるほど、オオサンショウウオってとこか」

「あー! アル、それだ!」


 パッと名前は出てこなかったけど、言われたらそれだ! 水の中にいて、トカゲっぽい感じの両生類の大きなやつ! 一昔前に絶滅危惧種とか言われてたやつだったはず。何かの記事で見た!


 まぁまだ識別が済んでないから確定ではないけど、今はオオサンショウウオでいいとして……なんか浮いた水の上に乗ってるね?

 これって俺の使ってる水のカーペットっぽい感じだけど……って、湖の水が浮かび上がって水の球が4つ、紅焔さんとソラさんの方に向かって飛んでる!?


「ちょ!? あの威力の水の操作はやべぇって! 逃げるぞ、ソラ! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『高速飛翔』!」

「……これはヤバそうだね。『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『高速飛翔』!」


 即座に危険な攻撃だと判断して、紅焔さんとソラさんは逃げの一手を選んだか。……てか、1発だけでも相当ヤバかったのに、それが2人に4発ってヤバいな。


「よし、紅焔とソラはそのまま攻撃を引きつけろ。サヤ、ヨッシ、カステラ、俺で1つずつ出し惜しみ無しで叩き落としていくぞ。『魔力集中』『飛翔疾走』『爪刃双閃舞』!」

「分かったかな! ヨッシ、行くよ! 『魔力集中』『爪刃双閃舞』!」

「あれは、危険だもんね。『自己強化』『高速飛翔』『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」

「紅焔! ソラ! 『魔力集中』『鋭角連突撃』!」


 そこから紅焔さんとソラさんを狙っている4つの水球を破壊しに、ベスタは空を駆け上がり、サヤは竜に乗り、ヨッシさんは素早く飛び、カステラさんも一気に突撃していく。


 紅焔さんとソラさんにずっと逃げ回ってもらうのも手ではあるけど、それだと条件が満たせるのかが怪しくなるもんな。

 それに今の攻撃はおそらくLv7以上なのは確定だけど水の操作だ。……あれの対処すら出来ないなら、10分生き残るなんてまず無理だしね。


「ベスタさん、今のうちにわたしの方で識別しておくよー!」

「あぁ、任せた、レナ!」

「任されたよー! 『識別』! ほほう?」

「アル、一旦ライルさんの近くに降りるぞ」

「……だな。湖の水を抜くって状況じゃねぇか」

「そうなのさー! でも、気になる事もあるのです!」

「俺もだ。ベスタ達があのオオサンショウウオを相手にしてる間に、その辺を詰めていくぞ」


 そうやって話しながら、ライルさんの近くへ集まっていく。空中では紅焔さんとソラさんが飛びながら逃げ回り、それを追いかける4つの水球をベスタ達が着実に狙って破壊をしていっている。

 銀光の光り方を見た感じではみんなLv1での発動にしているみたいだけど、成熟体の通常スキルである水の操作を相殺するのにそれだけ必要ってのはキッツイな。……まだ最大強化まで行ってないけど、そこまで行かなきゃ破壊出来なさそう。


「あー、成熟体がヤバいくらいに強いってのは元々分かってるから、冷静に対処するしかないな。レナさん、識別情報をお願い」

「うん、まずは冷静にだね。それじゃ識別情報を言っていくよー。名前は『巧操オオサンショウウオ』で成熟体のLv2。属性は水で、特性は徘徊、強靭、軟体、打撃、操作だねー」

「その名前に特性に操作があるって事は、操作種か! だから水の操作で攻撃してるんだな」

「うん、そうだろうねー。地味に強靭と軟体があるから物理に寄ってる感じっぽい?」

「ケイさん、確か成熟体の操作種って応用スキルが複数必要だったよねー!?」


 あー、基本的に俺らと構成が大きく異なるという事はないだろうから、進化条件に組み込まれてるスキルは所持していると考えた方が良いだろうな。俺の進化先に出てる『自在操作ゴケ』とは名前のルールが違うから、アルが狙っている方を基準に考えるか。


「……俺の場合は同調で条件が上がってたけど、そうじゃない場合は……3つだったか」

「あぁ、そうなる。上位の方でなくて良かったってとこだな」

「属性に水があるのと水の操作を使ってるところから、水流の操作を使ってくるのはほぼ確定でしょうね。他の2つの操作する属性が気になりますが、現状では分かりませんから要注意でしょうか」

「そこはライルに同意だ。相手は成熟体、警戒し過ぎても足りないくらいだ」

「……確かにそりゃそうだ」


 持っているからといって必ずしも使うとは限らないんだけど、ライルさんや辛子さんの意見も決して無視してはいけない。……なにせ情報は全く足りていないんだしね。

 

「それはそうと、アルの水の操作が急に解除になったのは何だったんだ?」

「……分からんが、このタイミングでバグとかだと困るぞ」

「んー、バグの可能性も否定は出来ないけど、他の可能性もあるんじゃない?」

「……レナさん、もしかして未知のスキルの可能性?」

「うん、成熟体だしその可能性はあると思うよ。何かを強化してるっぽい白光するスキル、属性を持つ物理攻撃、未知の魔法、ここまでは確定で存在するのは分かってるからね。わたしの読みとしては、弱体化……もしくは操作の支配権を無効化する感じのスキル?」

「……ないとは言えないけど、そこは試してみるしかないか」


 アンモナイトの魔法の溜めのキャンセルを防ぐ白光するスキルがあったんだし、逆の性質になる打ち消すスキルが存在しても不思議ではない。……その辺を念頭に入れて考えてみるべきか。

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