第845話 空白の称号


 『烏合の衆の足掻き』の再取得が可能かどうか……まぁそれ自体はほぼ出来ると確定しているけど、条件の最終確認だね。今回のは相当高難度な条件だから、確定情報として扱うには慎重にいかないと。


 という事で、まずは空白の称号で『烏合の衆の足掻き』の称号を消す為に一度ログアウトして、いったんのいるログイン場面へとやってきた。

 ふー、初めて使うね、空白の称号。ログインしてからあんまり時間が経っていない時だとこっちから話しかける必要があるから、この場合はいったんに話しかければ良いんだろう。


「いったん、ちょっと良いか?」

「はいはい〜。僕に用事だね〜? どういう内容かな〜?」

「ここでのアイテムの使用って、いったんに言えば良いんだよな?」

「うん、そうなるね〜。使えるアイテムの一覧は必要〜?」

「いや、使うのは決まってるからいいや。『空白の称号』を使わせてくれ」

「『空白の称号』だね〜。えっと、使用に際して注意事項があるけど聞いておく〜?」

「あ、注意事項があるのか」


 既に聞いた2キャラで同時に取得した称号の件だとは思うけど、それ以外にあったら困るからここはちゃんと聞いておくか。


「説明よろしく」

「はいはい〜。君の場合は特に影響が大きい部分になるんだけど、2キャラで同時に取得した同じ称号についての仕様についてだね〜」

「あ、やっぱりその件か。えっと、同時に取得した称号については1つの空白の称号で両方消せるって仕様だよな?」

「うん、君みたいな構成の場合だと発見称号や討伐称号とかを同時に得る事も多いからね〜。ただし、同じ称号を持っていても別のタイミングで取得した称号については無効だよ〜」

「まぁそりゃそうか」


 あくまでも同時に取得した称号にのみ有効な仕様って事か。ま、今回消す『烏合の衆の足掻き』については条件を満たしているから問題なし。


「それと、時々仕様を勘違いしている人もいるから改めて説明しておきます〜。『空白の称号』で消せる称号は、称号自体にスキルの取得がないものに限定されているから、そこはご注意を〜」

「荒らすモノ系統の称号自体にはスキルの取得はないから消せる対象で、強者を生み出すモノ系統の称号が属性の強化スキルが取得になったりするから消せない。法則的にはそういう認識で良いんだよな?」

「うん、その認識で問題ないよ〜」


 この辺りはちゃんと認識しているつもりだったけど、もし間違っていたら困るからね。これについても今回は消せる条件を満たしているので問題なし。


「説明としてはそんなもん?」

「そうなるね〜。それでどの称号を消したいのかな〜?」

「コケとロブスターの両方にある『烏合の衆の足掻き』を消してくれ」

「はいはい〜。うん、どっちも条件は問題はないね〜。さて、ちょっと面倒かもしれないけど、最後に意思確認をさせてもらうよ〜」

「……意思確認?」

「消したら戻せないから、本当に消しても良いかの最終確認だね〜」

「あー、なるほどね」


 間違って削除をするという事がないように、ここで確認が入る訳か。ぶっちゃけ間違って消す事はそうないとは思うけど、あくまで念の為なんだろう。

 新たに入手手段が出たとはいえ『空白の称号』はレアアイテムだしね。ちゃんと確認をしたというのは重要な手順だろうね。


「使用するのは『空白の称号』、それで消すのはコケとロブスターの称号『烏合の衆の足掻き』で間違いないですか〜?」

「おう、間違いないぞ!」

「それじゃ該当の称号の削除を開始していくよ〜」


 いったんがそう言うと同時に、真っ白な光の球がログイン場面に浮かび上がってくる。その光の球から光の帯が伸びて投影されているコケとロブスターに巻きついていった。

 それからコケとロブスターの中から淡い光が溶け出して光の帯へと吸収されていく。そして、吸収する様子が終わった後に真っ白な光の球は霧散していった。……これが空白の称号の演出か。


「はい、これで削除は完了だよ〜」

「サンキュー、いったん! それじゃゲームの続きをしてくるから、コケでログインを頼んだ!」

「はいはい〜。楽しんできてね〜」


 そんな風に空白の称号で『烏合の衆の足掻き』の削除は完了した。いったんに見送られながら、再度ゲームの中に戻っていくぞ!



 ◇ ◇ ◇



 さて、これから行う最終確認の為の下準備は終わった。後は参戦メンバー全員で連結PTを組んで実行に移していけばいい。……細かい条件とかも他にあるかもしれないけど、そこはベスタがいるし大丈夫だろう。


 でもその前に夜目を発動しとこ。ぶっちゃけギャラリー用の焚き火でそれなりの明るさは確保出来てはいるんだけど、それが消えないという保証もないからね。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 80/80 → 79/79(上限値使用:1)


 よし、これで良い。飛行鎧については……まぁ様子を見ながら使うかどうかを決めようか。

 それとちゃんと『烏合の衆の足掻き』が消えているかも確認して……うん、コケもロブスターもどっちもちゃんと消えている。ここは最終確認で必須条件だしね。


 えーと、他のみんなは……今いるのは紅焔さん、ソラさん、ベスタ、レナさん、アル、サヤとまだ全員は揃ってないな。まぁそれは少し待てばいいとして……。


「ベスタ、PT編成はどうするんだ?」

「……そうだな。ケイ達と紅焔達はそれぞれいつものメンバーで良いだろうが、俺とレナはどっちがどっちに入るか……。いや、2PTである必要もないのか」

「あ、そうか。ベスタとレナさんの2人でもう1PTにするって手もあるのか」

「それいいねー! わたしとベスタさんは動きを封じるには向いてないから、2人で遊撃で動く?」

「そうするか。ケイ、紅焔、それで問題ないか?」

「俺は問題なし」

「俺も問題ねぇぜ!」

「ならばそれで決定だな。レナ」

「PT申請だねー。承諾っと」


 さて、これで連結PTの構成は決まった。おっと、そうしてる間に、他のみんなも戻ってきてるね。


「みんな、ほれ、PT申請!」

「おうよ!」

「了解なのさー!」

「ありがとかな」

「ありがと、ケイさん」


<ケイ様の率いるPTが結成されました>


 みんなにPT申請を送って、とりあえずこれでPTの結成は完了っと。次は連結PTにしていくとして……。


「ベスタ、紅焔さん、どこのPTがメインの指揮をやる?」

「基本はベスタさんでいいんじゃね? 後は状況に応じて、切り替えてくって感じでどうよ?」

「何があるか分からんし、俺はそれで構わない。近接で抑える必要がある状況であれば指揮はケイに任せるし、空が安全圏で他のメンバーに余裕が無ければ紅焔に指揮を任せるような形で良いだろう」

「あー、確かに臨機応変に動けるようにしてた方が良いか。ま、とりあえず初めはベスタが総指揮で!」

「あぁ、請け負おう」


 とりあえず戦闘開始の段階ではベスタが指揮をする事で決まりっと。お、ベスタから連結PTの申請がきたから承諾っと。


<ベスタ様のPTと連結しました>

<紅焔様のPTと連結しました>


 よし、これで連結PTの準備は完了だ。ここからはどういう作戦で動いていくかが問題だけど、どうしたもんだろう? まずは誰かが水中に潜って、敵の姿を視認してくるべきか?


「……アル、やっぱり湖の水を水の操作で抜かね?」

「いや、だから出した水はどうすんだよ。ずっと操作してる訳にもいかんだろ」

「……やっぱりそこが問題かー」


 湖の水を無くしてしまうのはありだとは思うんだけど、流石に初手から水の操作を使いまくって、昇華魔法のエクスプロードで蒸発させるのはやり過ぎか。

 いきなり消耗し過ぎるし、後々キツくなってくるのは想像出来るもんな。


「あー、話は変わるんだが、近場にリスポーン位置を設定しといていいか? そう何度も死ぬ気はないし最悪クジラは盾にするけど、木の方はすぐに戻ってこれるようにしておきたい」

「……確かにアルマースさんの言う通りですね。私もそうしておきますので、紅焔達も再設定しておいてください」

「そういや減ったまま更新してなかったもんな。ソラ、カステラ、辛子、再設定しとこうぜ」

「今回はその方が良さそうだね」

「そうしとこうか」

「だな!」

「んじゃ俺らの方も再設定しとくか」

「「「おー!」」」

「……俺も万が一に備えて設定しておくか」

「わたしもやっておこうっと!」


 そうして今回の参戦メンバーが、この近場にリスポーン位置の再設定が終わった。今回に限っては、あえてアルには設定せずにみんな散らばって設定したけどね。

 成熟体が相手なんだ。行動パターンによってはアルが真っ先に殺し尽くされて近場でリスポーン出来なくなる可能性も……低いとは思うけど否定は出来ない。念には念を入れてやっていかないとね。


「さてと、湖の水を抜くのがダメなら、誰かが湖の中に潜って確認してくる感じ? その場合、俺になりそうな気はするけど」

「……おそらくケイに任せる事になりそうだな。だが、このメンバーだと淡水の中での戦闘には不安もあるか……」

「確かに淡水への適性を自前で持ってるのケイさんだけだもんねー。癒水草茶か、纏水を使っとく?」

「……いや、さっきのケイの案を採用しよう。肉食獣、モンスターズ・サバイバルの方で水を蒸発させる事は可能か?」


 あ、そうか、その手があった! 水の操作か水流の操作で水を抜く段階だと敵への交戦判定にはなるだろうけど、その水を蒸発させるのは敵への攻撃にはならないはず。


「へっ? いやまぁそれは出来るとは思うが、俺らの方でやんのか? てか、やって大丈夫なのか?」

「戦闘行為をする訳じゃないから、おそらく問題はないはずだ。ただ、近場にだと余波が心配だから、昇華になってる水の操作で誰かが引き継いで、距離を取ってやってもらう事になるが」

「あー、確かにそれならいけそうだな。おし、それなら任せとけ! 

「肉食獣、木や草花の人で水分吸収もありではありませんか? アイテム化出来なくても吸収は出来ますし」

「あー、確かにそれもありだな。ナイスだ、エレイン」

「確かにその手はありだな」

「俺、木の方を持ってくるわ」

「昇華になってる水の操作か水流の操作を使える奴と、水分吸収が使える奴と、火の昇華が使える奴は準備しろ!」

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」


 おぉ、結構な人数が肉食獣さんの指示に気合の入った返事をしていた。ふむふむ、なんだかんだで見物人達の力を借りるという手段もあったんだな。

 てか、水分吸収って手段もあったか。うん、そのアイデアは本当にナイスだ、エレインさん!


「ところでベスタ。俺が言うのもなんだけど、これがなんで採用になったんだ?」

「……まぁシンプルに言えば、俺らが終わった後用だな。ぶっちゃけ、湖の水が邪魔だ」

「なるほど、ケイの案の採用理由はそこか」

「手段としてはありなのです!」

「無茶苦茶ではあるけど、有効だとは思うかな」

「あはは、まぁ一時的に湖の水は無くなっても、再生するから出来る事だよね」


 うん、まぁ再生するのが分かっているからこその提案だったけど、正直に言えば今回のは本当に採用になるとは思わなかった。

 でもまぁ、やると決まったからにはやっていくまでだな! 流石に一気に全部の水を抜く事は出来ないけど、小さな湖だから水を減らしていけば敵の正体も分かるはず。


「それでは『烏合の衆の足掻き』の取得条件の最終確認をやっていくぞ! 経験値増加アイテムの効果があるかどうかも確かめるが、それは敵が成熟体だと確定してからだ。細かい条件はあるにはあるが、臨機応変さが必要だからその都度説明をしていく。いいな!」

「ま、そりゃそうだよねー! さって、わたしも頑張ろっと」


 そのベスタの号令を聞いてみんなが口々に気合を入れつつ、決して油断は出来ない作戦が開始になった。

 てか、経験値増加のアイテムの効果も試すだったからすぐに使おうと思ってたけど、よく考えなくても成熟体だと確定してからの方がいいよね!


「ケイ、アルマース、水の操作を使うのは湖の上空からやっていけ」

「え、何で湖の上空から?」

「……畔からだと、敵の動きが分かりにくいからか」

「あぁ、そういう事だ。水を減らし始めた時点で攻撃判定になって、襲いかかってくる可能性も考えられるからな」

「あ、それもそうか」

「それなら異変のチェックの為に私はアルさんの木にいるのさー!」

「……危機察知と観察力はあった方がいいか。よし、ハーレはケイとアルマースと一緒に動け。サヤとヨッシは敵の動きがあるまで待機だ」

「了解なのです!」

「分かったかな!」

「了解!」


 とりあえず俺らのPTの初めの動き方はこれで決定だな。そこから先は臨機応変に動くしかないけど、その対応をしやすくする為のハーレさんだね。

 その作戦に合わせて俺とハーレさんはアルのクジラの背の上に乗り、サヤとヨッシさんは湖の畔で待機中である。

 

「紅焔とソラは、アルマース達の更に上空から観察を頼む。ライルは根を下ろして、万が一の際に逃げ込める盾役を任せる。カステラと辛子はその補佐をしつつ、必要な際に攻撃に転じろ」

「お、俺とソラは異変の観察役か」

「……ハーレさんがいると、僕らだと微妙な気もするけどね」

「私は皆さんが逃げ込める盾役ですね。カステラ、辛子、補佐をお願いしますよ」

「任せてよ、ライル」

「成熟体の攻撃を凌ごうってんだから、3人でなんとかすっか!」


 これで紅焔さん達の方の役割も決まった。レナさんとベスタは遊撃という話だから、明確な役割が決まっている訳じゃない。……多分、初めは2人で分析に回る気はするけどね。


 さて、対峙する相手は成熟体の可能性が高い敵だ。それ以上の事は何も分かっていない状態だし、これ以上の作戦を決めたところで意味はない。

 ここまでやって成熟体じゃなかったとか、成熟体だったけどあっという間に逃げられたとかになると悲しいよなー。ま、その可能性も念頭に入れておかないといけないけど。


「それでは作戦を開始する!」

「いくぞ、アル、ハーレさん!」

「おう!」

「了解です!」

「僕らも行くよ、紅焔!」

「おうよ!」


 そうして俺とアルとハーレさんは湖面の少し上に、紅焔さんとソラさんはその更に上空へと飛び上がっていった。さぁ、今のこの湖に何がいるのか、その正体を暴かせてもらおうか!

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