第844話 最新の情報
さて、これから『烏合の衆の足掻き』の最終検証に参加していく事にはなるんだけど、具体的に今がどういう状況になってるのかが重要である。
パッと見た感じではミズキの森林は、普段と変わらない様子で特訓している人が結構いるね。うーん、湖から少し離れてはいるからミズキの近くなら避難してない感じか?
「ただいまー! あ、湖の中にいるのが成熟体だって確定してないのは普通に言い忘れてたよー。ごめんね?」
「レナさん、おかえりー! そういう事はよくあるので、気にしなくて問題なしさー!」
「まぁ俺らも説明する時間がなかったしなー」
ハーレさんが言うまで俺もその件を忘れてたから、レナさんを責めるのは筋違いだしね。元々それは俺の不確定な目撃情報だけだし、無駄足になる可能性は低くはないもんな。
「レナさん、それでどういう状態になってる?」
「んー、紅焔さん達は了承して来てくれているけど、風雷コンビは空白の称号は持ってないから無理だってー!」
「あぅ!? それじゃ最低人数の12人に足りないのです!?」
「あー、そういう理由もあり得るのか」
まぁ空白の称号を報酬で絶対に選ばないといけない理由もないし、単純に既に使用済みとい可能性もあるんだよな。海でアンモナイトを相手にしたメンバーでやりたかったけど、刹那さんも都合が悪いって言ってたしね。
そうなる現状では俺ら5人、レナさん、紅焔さん達5人で合計11人か。最低人数が12人からという話だったから、あと最低でも1人は必要なんだな。条件的には検証したいのは『烏合の衆の足掻き』を取得済みでかつ、これから空白の称号でそれを無くす必要がある。
「……そういやレナさんっていつ『烏合の衆の足掻き』を取ったんだ? 昨日の夜って、そんな時間あった?」
「んー? それなら昨日のトーナメント戦の合間の時間に、検証してたとこに混ざって取得したんだよねー。ほら、直前まで実況してる訳にもいかないけど、どうしても待ち時間って出るじゃない?」
「あー、なるほど。確かにそりゃそうだ」
レナさんはトーナメントに出場する側になってたし、そういう状況であれば実況席にずっといる訳にもいかない。かといって運営してる側に出場者が回るのも良くないし、1戦毎に待機時間や対戦そのもので待つ必要が出てくる。
その合間の微妙な時間を使って、レナさんは検証に混ざってたって訳か。まぁがっつりと検証し続ける事は出来てないだろうけど、取得条件の割り出しには強い人の人数も必要だろうから出来た話だろうね。
「それで後1人はどうするんだ? 最低12人っていうのが条件の1つなら、誰か1人は必須だろう」
「まぁそこはアルさんの言う通りだねー! そこはベスタさんが空白の称号を取得してきてる最中だよー」
「取得してる最中って、トーナメント戦か! え、ベスタが勝つ八百長?」
「いやいや、流石に八百長はしてないよー。『烏合の衆の足掻き』を取ってて、その上で空白の称号でまだ消してない人でトーナメント戦をやって、誰が勝ち抜いても文句は無しって事みたい。それで今ちょうど決勝なんだけど、ベスタさんの勝ちの可能性は高そうだね」
ふむふむ、確か空白の称号は情報ポイント1600って話だったし、参加費を200に設定すれば8人でのトーナメント戦で確保しようと思えば出来るんだな。
まぁ12人分とかになればかなり大変だけど、1人分なら現実的な解決手段ではあるね。……てか、ベスタは空白の称号を持ってなかったんだな。いや、ベスタの場合は何かに使ってる可能性の方が高そうな気もする。
「てか、そのトーナメントは普通に見たかった……」
「あはは、それはケイに同感かな」
「既に『烏合の衆の足掻き』を持ってる人ばっかだと、かなり凄そうだよね」
「うー! 打ち合わせが無ければ、そのトーナメントは見たかったのさー!」
「ま、気持ちは分かるが、もう終わるってところじゃどうしようもないだろ」
「……そりゃそうだ」
まぁ、今のままであればベスタが12人目のメンバーという事になりそうだね。うん、これ以上に心強い追加メンバーは早々いないぞ。
「それで、今はベスタさん達の方の決着待ちみたい。ただ、みんな避難する気は欠片もないみたいだよー」
「……もしかして、見物人が沢山いたりする?」
「ケイさん、大正解ー! 湖の畔で距離はちゃんと取っておくし、巻き込まれても何も言わないって事で待機してる人が沢山いるってさー!」
「あー、まぁそうだよな。俺だって、この状況で巻き込まれないように避難しろって言われても拒否しそうだ」
「実際、アルさんみたいな意見が多かったみたいだねー。あ、そうそう。モンスターズ・サバイバルの方からは、竃とかはぶっ壊しても良いってさ」
「……そういや、壊れたら壊れたで作り直しで新規の人の特訓になって良いって言ってたっけ」
まぁすぐ近くにある竃を気にせずに戦えるのならその方が良いけどね。まだ成熟体と確定した訳じゃないけど、本当に成熟体がいるのなら10分以上戦う必要がある。
ぶっちゃけ周囲の環境を気にしながら戦えるような相手ではない……って、あれ? そういやこの場合ってどうなるんだ?
「……ふと思ったんだけど、ちゃんと成熟体だったとしても、もし逃げに徹する成熟体だった場合って全滅出来るもんなのか?」
「……そういやその場合はどうなるんだ?」
「あー、それね。懸念事項には上がってたけど、問題はないよー。逃げに徹するの、3回くらいまでだから」
「え、それってそれ以上になったらどうなるのかな?」
「殺意たっぷりで、殺しにかかってくるねー! そこら辺を目に見えて徘徊してる成熟体より更に凶悪だよー」
「それは難易度が上がりそうなのです!?」
「……あはは、逃げに徹しない事を祈りたいとこだね」
ですよねー。うーん、逃げに徹する敵の方が厄介さは上なのは成熟体でも同じって事か。流石にそれは避けたいけど、こればっかりは戦闘を始めるまではわからないな。
「……よし、実際に戦うまで分からない事も多いけど、出来るだけの事はやっていきますか」
「ま、敵に関する情報が不確定過ぎるしな。進化記憶の結晶が今後も手に入る事は分かったし、駄目で元々でも良いだろうよ」
「もし検証に失敗した場合は予定通りのLv上げかな!」
「検証が成功したなら、終わった後の余力と時間次第になるね」
「それで良いと思います!」
「よし、そういう方向性でいきますか!」
「「「「おー!」」」」
とりあえずこれで俺らの行動方針は決まった。いや、決まったというよりは成り行き次第になったというべきだね。
「さて、それじゃ湖のとこまで移動しよっか」
「だなー。って事で、アル、任せた!」
「おうよ! 今はまだスキルの使用は最小限にしとくぜ」
「ほいよっと」
そうしてみんなでアルのクジラの背の上に乗り、湖のある方向へと移動を開始していく。
「そういや俺らの検証は最低人数の12人でなんだな?」
「うん、そうみたいだねー。敵がちゃんと成熟体なら後から人数を増やして、最大人数でも確認はしていくそうだよ」
「……あれ、もしかして俺らって譲られた風に思えるけど、実は成熟体かどうか確かめるとか、成熟体の特徴を調べる為の実験台だったりする?」
「あはは、そりゃもちろんそうだよー!」
「否定じゃなくて肯定が返ってきた!? あー、まぁ誰かがやる必要はある事でもあるから、それは仕方ないか」
「そうそう、そういう事! まぁ人数が少ない方が称号取得の際の経験値も多いみたいだから、悪い話でもないけどねー」
「なるほど、そういう考え方もありか」
俺らが初めに戦うのはリスクが一番大きいけども、メリットも一番大きい役目でもあるんだな。
経験値を稼ぎたい今の状況としては、決して悪くはない賭けだ。もし駄目だったとしても、空白の称号で消した分は多分無駄にはならないしね。
おっと、そんな話をしている間に湖の畔へと辿り着いた……って、なんかあちこちに焚き火がされてて、普段より賑わってるー!?
あ、でも湖からはかなり距離を取っているし、湖の周辺の木が伐採されて湖周り自体が広くなっている。……てか、切り株が観客席になってません?
「……これはちょっとビックリかな?」
「お祭り騒ぎになってるのさー!?」
「あはは、そうみたいだね」
あー、夕方に一緒にフィールドボスの連戦をした肉食獣さん達や、成長体を持ち込んできてくれた人達もいるね。
他にも灰のサファリ同盟やオオカミ組とか色々と見知った人達もいれば、見知らぬ人達も多くいる。
「出張取引所『桜花』開店中だ! 薄めて味だけになった効果はない各種飲み物や、性能は良くないが味は悪くない回復アイテムの在庫処分だ! ツマミ代わりに欲しいやつは声をかけてくれ!」
「桜花さん、こっちに疾風草茶をくれ!」
「ナッツ系のはねぇか?」
「何か果物下さいなー!」
「おう、順番に行くから待ってろ!」
なんか桜花さんの2ndのメジロが、集まっている人達の間を飛び回っているね。てか、今回のは在庫処分なんだ。
他にも同じようにしている商人をやっている人もいるけど、桜花さんは人気っぽい。どうやらこういう場面では小鳥の小回りの効きやすさが良いみたいだ。
「お、ケイさん達が来たか。こっちだ、こっち!」
「アル、紅焔さんが呼んでるから、そっちに行くぞー!」
「見えてるし聞こえてるっての!」
紅焔さん達は湖の畔に近い場所にいて、俺らが来るのを待っていたっぽいね。とりあえずアルが紅焔さん達のすぐ近くに降りていく。
「あー! ライルさんの松の木が今日は植わってるのさー!?」
「あれ? それだけじゃなくて、小鳥もいるかな?」
「えぇ、松の木がそれなりに育ってきたので、共生進化させました。まぁタイミング的に『共生を続けるモノ』が取れてないのが残念ですけどね」
「あー、そうなるのか」
ライルさんは未成体になってからすぐに共生進化させた訳じゃないから、『共生を続けるモノ』の取得が出来てないのは仕方ないか。簡略指示が使えた方が便利だろうけど、共生指示は使えるから全く無意味でもないしね。
「ライルは前回の反省って事で、スズメを盾代わりにするつもりではあるしな」
「まぁそれはあくまで最終手段で、僕らが頑張るけど!」
「辛子もカステラも、次の機会があればって2人とも連撃を鍛えてたからね」
「ま、こうも早く機会が来るとは思ってなかったがな」
「……敵が湖の中っていうのも、想定外だったよね」
「そこは仕方ねぇからな、辛子、カステラ! 陸地に引っ張り出せる可能性がある分だけ、アンモナイトよりはかなりマシぜ!」
「……だな」
「……そだね」
紅焔さん達はアンモナイトにはリベンジはしないという話ではあったけども、決して悔しくなかったって訳じゃないんだな。
それにしても、紅焔さん達にとっては湖の中は決して戦いやすい場所じゃないか。そこら辺は俺とアルでフォローをしていきますかね。
「アル、この湖の水を全て操作するって出来ると思う?」
「……湖自体は大きくないから不可能ではないと思うが、出した水はどうすんだ?」
「あー、それは……あ、紅焔さん、ソラさん、エクスプロードで湖の水の蒸発って出来る?」
「サラッととんでもない事を言うな、ケイさん!?」
「……確かにとんでもないけど、敵の種類によっては有効だね。ケイさん、それは敵の識別をしてから考えても良いかい? 陸地が平気なら意味がないからね」
「あー、確かにそれもそうだな」
湖の中にいるから水を無くしてしまえばと考えたけど、水中のみでしか活動できない種族とは限らないもんな。
むしろ、初めからいた訳じゃないんだから陸も平気な可能性は高い。……まだ成熟体なのかも不明なままだし、実際に戦うまで分からないのは変わらずか。
「全員揃っているか。待たせたな」
「お、ベスタ! 空白の称号を手に入れにトーナメントをしてたって聞いたけど、どうだった?」
「勝ち抜いて確保してきたぞ」
「流石、ベスタだな!」
これからやる事を考えれば当然だけど、ベスタはオオカミでしっかり空白の称号は確保出来たみたいだね。
「それじゃ早速、連結PTを組んでいきますか!」
「あ、ケイさん、それは駄目だよ?」
「え、レナさん、なんで?」
「空白の称号はログイン場面で使うアイテムだからねー!」
「あ、そういやそうだった!?」
完全に忘れてたけど、そういや空白の称号はそういう仕様だったよ。うーん、まだ実際に一度も使った事が無いから失念していた。
「って、ちょい待った! 今まで気にしてなかったけど、空白の称号って俺みたいな2キャラ同時使用の場合ってどうなんの!?」
「……ケイ、それはいくらなんでも今更過ぎるぞ。その場合はどっちの種族でも同時に取得になった称号に限定はされるが、1つの空白の称号でどっちの称号も消えるようになっている」
「あ、そうなんだ」
なんか少しアルに呆れられたような口調だったけど、その場合の説明はしてくれた。てか、その辺に問題があるなら、誰かが言及してるよねー!
ふむふむ、2キャラで同時に取得になった称号については空白の称号は1つの消費で済むんだな。ふむ、2キャラ同時の場合は経験値が2分割されてたり、機会が分けられないっていうのも理由としてはあるのかもしれないね。
「……ライル、悪いんだが、共生進化は解除してもらえるか?」
「え、何故ですか、ベスタさん?」
「いや、そのスズメの方が検証条件に合致しないからな。スズメの方でも『烏合の衆の足掻き』を持っていて、個別にどちらも消せるなら問題はないが……」
「……あっ、それは確かにそうですね。スズメでは未取得ですし……」
「「「「ドンマイ、ライル!」」」」
「……少し紅焔達のその言葉には釈然としない気持ちはありますが、スズメと松の木のLvを合わせる為と思ってやりましょうか」
「済まないな、ライル」
「いえ、出来るだけ前回と同じ条件でというのを失念していた私の落ち度ですのでお気になさらずに」
そっか、ライルさんはアンモナイトと戦った時とは構成が変わっているから、こういう状況になるのか。普通に取得するのが目的なら問題はないけど、今回は検証目的だからなー。
「それでは共生進化を解除して……そういえば、皆さんも一度ログアウトする事になるのでしょうか?」
「あぁ、そうなるな。参戦者の全員がログイン場面で空白の称号を使用し、『烏合の衆の足掻き』を消してきてくれ。それから戻ってきたら連結PTを組んで、最終確認に検証を開始する」
「ほいよっと!」
みんなもそのベスタの発言に頷いていく。これについては確実に必要な手順だから、ちゃんとやっていかないとね。
という事で、一旦今回の参戦メンバーはログアウトとなった。さーて、空白の称号を初めて使ってみますかね!
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