第842話 タッグ戦の打ち合わせ
タッグ戦の打ち合わせ開始が少し遅くなってしまい、今は青の群集のタッグ戦に出る人が移動してきている最中である。少し予定を狂わせてしまったのは俺らに原因があるから、ここは普通に大人しく待機だね。
それにしても青の群集からは誰が出てくるんだろ? 俺らの知ってる人か、全く知らない人か……。あー、知ってる人と知らない人が1人ずつという可能性もあるか。
おっと、そうしている間に氷結洞の反対側の出口へと繋がる方から誰かがやってきた。えーと、先に見えてきたフクロウの人は濡れたらスリム……スリムさんか。まぁ順当な感じで意外性はそれほどないな。
そして、その後ろからタコの人が飛んできた……って、ちょっと待ったー!? え、いか焼きさんじゃん!
「およ? いか焼き、そこで何やってるのー?」
「やっほ、レナさん。おいらは、ほら、ここ」
「あ、カーソルが……へぇ、そうきたんだねー」
そうしてタコのいか焼きさんは自分のカーソルをタコ足で指し示していく。そのカーソルは青くなっていて、移籍して間もない証として白いラインが入っている。
「あらま、いか焼きが相手なんだね。いいの? 私とレナが相手だよ?」
「そりゃもちろん。弥生さんとレナさんのタッグ戦とか、どう考えても面白い気配しかないし」
「よーし、それじゃいか焼き、全力で行くから覚悟してなよー!」
「おいらも簡単に負ける気はないからね、弥生さん」
「あー、嫌な予感がしてきた。……シュウさん、これって弥生は大丈夫?」
「……まぁいざとなったら僕が強引にでも止めるよ」
「その時は任せるからね、シュウさん」
ふむ、何か俺達は置いてけぼりでレナさん達で話が進んでいる。これってもしかしなくても、いか焼きさんはレナさんだけではなく、弥生さんとシュウさんとも知り合いっぽいね。
てか、レナさんが嫌な予感と言っているのはどういう理由からだろう? 確かにいか焼きさんがここで登場してくるのは予想外だったけど……。
「てか、ジェイさん。このタイミングで無所属から臨時で加入しての参戦ってズルくない?」
「ケイさん、勘違いされては困りますね。臨時での加入ではありませんよ」
「そうだね、ケイさん。おいらは一時的な加入じゃなく、正式に無所属をやめて青の群集へ所属する事にしたからね」
「あー、そうなのか。いか焼きさんは完全に青の群集に移籍なのか……」
うーん、正式に青の群集に所属するというのであれば、タッグ戦に参加をするのはズルいという訳ではなくなるのか。微妙に納得しきれない気持ちもあるけど、臨時じゃないなら条件としては問題はないもんな。
「ホホウ、色々と話したい状況なのは分かりますが、打ち合わせはしないので?」
「それもそうだね。ジェイさん、青の群集タッグ戦の出場者はいか焼きと、濡れたらスリムさんで良いのかい?」
「えぇ、それで間違いありません。少し時間が押していますし、早速タッグ戦の打ち合わせを始めましょうか」
そのジェイさんの宣言により、タッグ戦の打ち合わせが開始となった。……後でレナさんから嫌な予感がする理由は聞いておこうっと。
「さて、まずは日程から決めていきましょうか。まず、各群集からの希望の日時をお聞きしましょう」
「それぞれの都合もあるから最優先で決めるのは日時だよね。赤の群集としては明後日の日曜日の夜に希望が多いよ。次点で明日の土曜日の夜だね」
お、どっちも灰の群集の希望と同じだね。それじゃ灰の群集としての希望を……って、そういやこの打ち合わせは俺とレナさんのどっちの発言権が上なんだ?
あ、少しレナさんの方を見てみたら、俺の発言を促すような感じにジェスチャーで伝えてきてる。……普通に言えば良いだけな気もするけど、まぁ意図は伝わったし別に良いか。
「えーと、灰の群集の希望も赤の群集と被ってるな。第一希望が日曜の夜で、第二希望が土曜の夜だ」
「……なるほど、それは分かりました。青の群集としては土曜の夜が第一希望ですが、まずはその辺りから詰めていきましょうか」
「少し良いかい、ジェイさん」
「何でしょうか、シュウさん?」
「それは……本当に日時としての希望かい?」
ん? シュウさん、それってどういう……あ、そうか。明日の土曜なら昼間の日で、明後日の日曜は夜の日だ。闇に隠れる弥生さんにとっては夜の日の方が有利となる。
いや、待てよ。それを言うならフクロウのスリムさんだって、夜の日には強い種族な気がする。いか焼きさんは……どうなんだろう?
「……下手な小細工は通じないようですね」
「はっはっは! あっさりバレてんじゃねぇか、ジェイ!」
「今のは通れば良いと思っただけのおまけですよ。元々、どちらも希望としては大差ありませんでしたしね」
「それなら総合的な希望の多い日曜の夜という事で良いかい?」
「えぇ、関係者全員の都合が良ければそれで構いません」
「それじゃサクッと決めていこうー! わたしは9時以降なら問題ないけど、それで問題のある人は言ってねー!」
えーと、日曜日の9時なら……バーベキューをする時は父さんが張り切って準備や後片付けをするから大丈夫なはず!
サヤとヨッシさんは……うん、頷いているし問題があるとは言ってないから大丈夫そうだね。いや、でもなんか俺らの方に少し不安が残るから言っておくか?
「あー、おいらは9時はちょっと微妙かも? 出来れば9時半か、確実性を取るなら10時くらいだと助かるね」
「およ? いか焼きが9時からはダメだったかー。それじゃ確実性を考えて、10時からで問題ある人ー?」
今度は誰も問題なさそうである。いくらなんでも俺らの方も夜10時からなら確実に大丈夫だ。
ふー、ある意味ではいか焼きさんの都合が悪くて助かった? 不確実な情報で確定させずに済んだ訳だしね。
「どうやら問題はなさそうですね。では、開催日時は明後日の日曜の夜10時からという事で決定です。場所については海エリアが辞退したという形になっていますが、どうしますか?」
そういや海エリアの人が多ければ、陸か海かを考えるとかそういう話だったっけ。でもいか焼きさんは普通に陸に適応してるから、そこは気にする必要は無さそうではある。
「ホホウ、ここは順当に予定していたハイルング高原でよろしいのでは?」
「おいらもスリムさんの意見に賛成だね。レナさんと弥生さんさえ問題なければ、ハイルング高原で良いんじゃない?」
「ほほーう? 随分と強気だね、いか焼き?」
「はいはい、レナは威嚇しないの。私はそれでいいけど、レナもそれでいい?」
「わたしもそれで問題はないんだけど、なんか気になるなー?」
うーん、何かレナさんがジェイさんに警戒しているっぽい。……さっきもどさくさに紛れて何かを仕込もうとしていたジェイさんだから、確かに油断は出来ないのは間違いないんだけどね。
ただ、ジェイさんの場合はこれすら他の事に誘導する為のハッタリっぽい気もするんだよな。二段構えで仕掛けを用意している可能性すらある。
「……随分と警戒されていますけど、何もしてはいませんよ?」
「いか焼きをこのタイミングで参戦させといて、それを信じろってー? それは無茶な相談だよ、ジェイさん」
「えぇと……いか焼きさん、後で詳細をお聞かせ願いますか? あなたが戦いたがっていたのと、黒の統率種から元に戻す際の戦闘で皆が認めたのもあって出場選手に選びましたが、ここまで警戒される理由が分からないのですけども……」
この様子だと、ジェイさん自身がいか焼きさんが参戦を希望した理由を把握していないっぽい? あれ、ただ単純にジェイさんだからと警戒し過ぎてただけ?
「あぁ、それなら今ここで教えてもいいよ。いいよね、レナさん、弥生さん?」
「んー、まぁいっか。いか焼きって、わたしと弥生で他のゲームでタッグ戦をした時に負け越した相手なんだよねー。弥生のテンションが上がり過ぎたのが原因だったけど」
「え、レナ、そんな事あったっけ? いまいち覚えがないんだけど……」
「その時の弥生は暴走し過ぎて、シュウさんがリアル側から強制ログアウトにしたからねー!」
「おいらとしても不戦勝になって、不完全燃焼だったからね。その後、弥生さんが対人戦はしなくなったから諦めてたけど、復帰するならしっかりと勝たせてもらうから」
あー、なるほど。他のゲームをやっていた時に、不完全燃焼で終わった対決のリベンジマッチという訳か。……なんかそれだとスリムさんが巻き込まれた感もあるけど、その辺はどうなんだろう?
「なるほど、理由は分かりました。スリムはそれでもよろしいのですか?」
「ホホウ、既に聞いた上で納得しているので! ゲームこそ違えども、こうおうリベンジの機会、良いではないですか!」
「確かにそりゃそうだな、スリム! なぁ、ジェイ!」
「……まぁ分からなくはないですし、スリムが納得済みなのであれば問題はないですね」
まぁ実際に戦う当人達が問題にしてないのであれば別に良いか。てか、俺らって全員で来た意味が殆どないなー。
アルとサヤとヨッシさんは全く話す余地がないし、流石に打ち合わせをするだけならちょっと大人数だったかも……。
「あ、思い出した! シュウさんに怒られた時のあれだよね! あ、だからレナはさっきから警戒してたの?」
「自覚無かったー! シュウさん、今回はインスタントエリアじゃないから万が一の時は直接止めてねー!」
「うん、それは分かっているよ。弥生も、折角の機会だから少し抑える事を意識しようか」
「……あはは、出来るだけ頑張ってみるよ、シュウさん」
ふー、とりあえずレナさんと弥生さんといか焼きさんの因縁は分かった。そしてジェイさんも、今のが演技でなければ今状況を把握したところなのだろう。
流石に演技まで疑い出したらキリが無いので、ここは普通に予定通りのハイルング高原に決定しても良さそうだ。不完全燃焼だったという、いか焼きさんの対戦希望の理由もある。
そもそもジェイさんが何かを仕込んでいたとしても、反則は絶対にしないだろう。そこは信頼しても良いはずだ。
「それじゃ対戦場所はハイルング高原で決定なのさー! 次は実況と中継についてなのです!」
「えぇ、そうですね。今回は赤の群集と灰の群集には全面的に自由にしていただいて構いませんが、主催としての実況は行いますか?」
「はい! 私は実況をやりたいです!」
「ハーレ、実況は任せるよ!」
「レナさんに任されたのさー!」
ま、ここはいつも通りハーレさんが希望してくるとこだよな。えーと、今回は群集拠点種からの模擬戦の中継じゃないから、中継役の移動種の木の人も必要だよな。
中継先は自分の所属群集に限られてくるから、実況は赤の群集と灰の群集のそれぞれでやる必要が……いや、そうでもないか。実況の音声も同族同調で聴こえるはず。
「とりあえず、俺らの方の中継役はアルか?」
「まぁそうなるな。そこら辺は桜花さんとも話はついてるから、問題はねぇぞ」
「お、既に打ち合わせ済みだったんだ」
「桜花さんの所にトーレドに行った時に、一緒にね?」
「他にも移動種の人が来る事にはなりそうだけど、メインはアルと桜花さんになりそうかな」
「おー、なるほどね」
ま、主催になる俺らグリーズ・リベルテのメンバーであるアルと、交流の多い桜花さんがメインになるのは必然だよね。
そしてそういう意味で考えるなら、赤の群集でその役割をするのは自然と決まってくるよな。てか、それも含めて連れてきてたんだろうね。
「赤の群集は、赤のサファリ同盟からルストとフラム君で中継はやるからねー!」
「……弥生さん、私が今日連れてこられたのはそれも理由ですか?」
「うん、そだよー。フラム君も連れてきたかったけど、ログインしてなくてさー。水月さんに確認してもらったんだけど、連絡が返ってこなくてね」
「……何かあったんでしょうか?」
「さぁ、それは分かんない」
フラムに連絡がついていない? 今日のこの打ち合わせの後の撮影会に誘ってきてたのに、ログインしてないとは妙な感じだね。
あー、でもフラムの事だから、何かやらかして親から説教中とかいう可能性は否定出来ないな。ま、明日にでも直接聞いてみるか。
「それではアルマースさんとルストさんが並んで同族同調を使って、その間で主催者実況という形にしましょうか」
「あ、それなんだけどちょっと良い?」
「何か問題がありましたか、レナさん?」
「えっと、今回は青の群集は中継はなしって話だったよねー?」
「えぇ、そうなっていますね。そういう件もありますので、青の群集の方では実況への参加は遠慮させていただきます」
あっ、やられた!? ハーレさんが実況をしたがる事を見越して、わざと自分達が解説をしなくて良い理由を作ってきたな! くっ、抜け目がないな、ジェイさん……。
「あー、やっぱりそうきたねー! そこでわたしからの提案です! 青の群集にも中継の権利を渡す代わりに、ここはジェイさんに解説役を任せるのはどうでしょうー?」
「……そう来ましたか。それはお断りしても……?」
「別に断っても良いけど、それは青の群集の人達は納得してくれるかなー? わたしの知ってる限りでは中継がないのは残念そうな人も多かったけど?」
「あなたの人脈の広さは厄介ですね! ……分かりました。他の方々がそれで納得するのであれば、その提案を受け入れましょう。ただし、1つ条件をつけさせてもらいます」
「どんな条件ー?」
「赤の群集と灰の群集から1人ずつゲスト役を指名させてもらいます。赤の群集はシュウさん、灰の群集はケイさんでいかがです?」
おっと、ジェイさんからの反撃がきた。なるほど、シュウさんと俺をゲスト枠で引き込んで、解説をぶん投げてくる気だな。
実況役のハーレさんは解説はしないから、ゲスト枠を2枠にする算段でもあるのか。……ふむ、多少はレナさんの事を解説する必要もあるけど、シュウさんとジェイさんの解説を聞くチャンスでもあるんだよな。
「僕はそれでも構わないけど、ケイさんはどうだい?」
俺としては受けても良いんだけど、とりあえずみんなの様子を伺ってみる。……ふむ、みんな頷いているし、特に反対ではなさそうだ。
根本的に俺らが主催になるからこの場にいない人の意見を無理に聞く必要はない。俺がどうするか、決断してしまえば良いだけだ。……よし、決めた。
「その提案、受けるよ。それで、今回のタッグ戦は全群集へ公開だな」
「では、そのように致しましょうか」
レナさんの提案から青の群集の方にも中継が行われる事に決まったね。今後もこういう機会がある可能性も考えると条件は平等にしておいた方が良いだろう。
まぁ今回は対戦の人数が群集によってバラバラなのは仕方ない……いや、ある意味ではいか焼きさんが青の群集に入った事で、ちょっと違う感じにはなってくるのか。
いか焼きさんは今は青の群集になったものの、少し前までは無所属だった。つまり、実質的には無所属と青の群集のタッグと、赤の群集と灰の群集のタッグになった訳だ。
ははっ、こりゃ面白い事になってきたね! さて、決めるべき事はこれで終わりのはず。決め忘れがないか確認してから、次の予定に移っていきますか。
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