第841話 打ち合わせ場所へ


 既に終わっているか、まだ先になるか、そのどっちかだと思っていた群集クエストの終了演出があって、少し出発が遅れ気味だったのが更に遅れた! という事で、アルの全速力で移動中である。

 まだ約束の時間まで数分は残ってるから、今のアルの移動速度であればギリギリ時間にはニーヴェア雪山には辿り着きそうだ。でも、すぐに打ち合わせ開始にはならなさそうだよね……。


「んー、到着がギリギリになるかもって、弥生に連絡しとくねー!」

「あ、それもそうだな。レナさん、よろしく!」

「任せなさーい! あ、弥生? うん、ちょっと予定外の事が……およ? あー、そりゃ気付くよねー。え、そうなの? あらま、赤の群集に先を越されてたのかー」


 ん? ちょっと待って、レナさんと弥生さんとのフレンドコールでの会話の中に気になる部分があったぞ。赤の群集に先を越された……?

 うーん、少し気になるし、アルの動きに合わせつつもその辺の話はしておきたいね。


「アル、サヤ、ヨッシさん、俺とハーレさんがいない間に赤の群集に何かあったりした?」

「赤の群集に何かありそうなのです!」

「……特に何も心当たりはないが、途中からはハイルング高原で成長体でもいないか捜索してたからなんとも言えないな」

「赤の群集の人とはすれ違ったりはしたけど、特に何もなかったかな?」

「でも、今のを聞いてるとそんな感じじゃないよね?」


 みんなも明言は避けているけど、なんとなく察してはいる感じだな。でもまぁ、レナさんから正確な情報をもらってからにした方が良さそうだ。


「うん、うん、結構な速度で移動はしてるから、そこまで極端に遅くはならないよー! うん、それじゃすぐ後でねー!」


 そこまで言葉を発した段階でレナさんはフレンドコールを切っていった。てか、移動絡みで動いていないサヤとハーレさんが思いっきりレナさんを見てるね。


「もの凄い視線を感じるけど、今のは気になるよねー! だから単刀直入に言っちゃうけど、赤の群集の方が先に今回の群集クエストは終わったんだって」

「やっぱりそうだったのさー!?」

「……タイミング的にはいつ終わったのかな?」

「私達は30分くらい前にはまだ桜花さんの所にいたし、赤の群集の人の様子は特に変わってなかったよ?」

「あ、絶妙にタイミングが悪かったみたいだね。クリアになったのはその直後だったって」

「うわ、何とも絶妙なタイミング……」


 赤の群集の人達に群集クエストの完了の演出が始まれば、初期エリアであれば気付く可能性は高い。サヤ達がハイルング高原に移動して、俺らを待っている間にそうなってた訳か。


「それで灰の群集の方のがついさっき終わったのは、既に伝わってるみたい。まぁ他の群集には演出が見えなくても、一気に大勢の動きが止まれば気付くよねー!」

「そりゃそうなのさー!」


 戦闘や消耗の回復を行う普通のエリアだと気付きにくいだろうけど、初期エリアに限ってはそうじゃないもんな。

 クエストやイベントの演出は完全に無視って人もいるだろうけど、見ている人の方が多いはず。それで気付かれないはずがない。


「あー、今回は競ってる訳じゃないけど、赤の群集に先を越されたかー! そう思うと何か悔しいもんだ……」

「……確かにケイに同意だ。そこまで極端に差がないってとこが、また絶妙に悔しいとこだな」

「差としては30分くらいってとこか……」


 うーん、報告無しの場所が最後の一気の発見ラッシュに混ざってさえなければ灰の群集の方が早かった可能性もあるのも悔しいよなー。


「まぁ今回は仕方ないよー! 赤のサファリ同盟、特にルストやガストさんが頑張ってたみたいだからねー!」

「そこで赤のサファリ同盟が出てくるんかい!」

「まぁルアーさん達が発足した共同体と連携して探してたらしいけどねー」

「おー! そうなんだー!」


 うん、もう戦闘力と観察力を兼ね備えた集団である赤のサファリ同盟が動いていたのなら仕方ないな。

 しかもフラムから聞いた、ルアーを筆頭に新しく発足した共同体も絡んで動いていたとは……。こりゃ、今後の赤の群集は油断出来ないか。


 おっと、そろそろニーヴェア雪山のエリア切り替え地点が近いね。雪山の環境に適応させなきゃいけないから、アルが少しずつ移動速度を落としている。

 あ、そういやみんなに伝えておくべき事があったんだった。今なら時間を無駄にせずに確認は出来るから、今のうちに聞いておこう。


「そういやフラムから群集を跨いでのスクショの撮影会に誘われたんだけど……ぶっちゃけ、どうする?」

「あー! それって、掲示板で募集をしてたやつ!」

「昼間に話題にしてたやつかな」

「今回は私達としてはパスにしたやつだね」

「あ、そうなのか。アルはどうだ?」

「……興味がない訳じゃないが、今日は優先順位が違うだろう? レナさんから『烏合の衆の足掻き』の最終確認については聞いてるぜ」

「レナさんが伝えててくれたのか?」

「うん、待ってる時間があったから説明しといたよー」

「そりゃ説明が省けて助かる」


 という事は、既に情報共有板で話していた件についてはサヤとアルとヨッシさんには伝わってるんだな。説明しておいてくれたレナさんに感謝!

 てか、内容的に今説明する必要があったのか。……うん、そこまでの時間はなかったよ。


「ま、その辺の話はタッグ戦の打ち合わせが終わってからだな。とりあえず一度止まるぞ」

「はーい!」

「みんなの分の氷結草茶が必要だね。レナさんもいる?」

「んー、実はもうわたしはいらないんだよねー。火属性を手に入れてから、寒冷地への耐性は持ってるからさー」

「あ、そうなのかな?」

「そうなんだよねー! この辺は火属性のありがたいとこだよー!」

「はっ!? それならレナさんを触ると暖かいのですか!?」

「あはは、寒い所への耐性の理屈としてはそうなんだろうけど、その辺の体感気温は一定だからねー。残念ながら、それは無理ー」

「あぅ……残念なのです」


 ハーレさんが残念に思う気持ちは分かるけど、その辺の温度を体感出来るようにされると色々支障があるもんな。

 体感気温が再現されていたら雪山に中立地点なんか作れないし、砂漠なんて行ってられない。ましてや、今のLv上げ候補地に出ている溶岩の洞窟とか絶対に行きたくないし。

 まぁ食べ物を食べるのに関してのみは再現されてるけどね。


「とりあえず急がなきゃだし、みんな、これを飲んでね」


 そう言いながら風除けの氷塊を解除したヨッシさんが、レナさん以外のみんなに竹に入れた氷結草茶を飲んでいく。よし、これで雪山エリアへの活動は問題なし!


「そんじゃ、打ち合わせしに行きますか!」

「「「「おー!」」」」

「あ、ちなみに場所は灰の群集の割り当ての氷柱の採集場所になってるとこねー! 遅れるかもしれないって言ったら、出来るだけ近い場所にしてくれたからさ」

「ほいよっと」


 その辺の打ち合わせ場所の調整もしてくれておいたようだし、遅れそうになった場合には予め連絡しておくのも大事だね。

 さて、赤の群集は弥生さんが出場者というのは分かっているけど、青の群集は一体誰が出てくるかが楽しみだ。出場者は連れてくるという話だったから、誰が出場してくるかはこれで判明するぞ。


<『ハイルング高原』から『ニーヴェア雪山』に移動しました>


 とりあえず雪山へと到着して周囲を見回してみたら……うん、目の前に思いっきりジェイさんがいた。斬雨さんも一緒なのは、まぁコンビなんだから当然ではあるか。


「遅いではないですか、皆さん。待ち合わせ時間を決めた意味、分かっていますか!?」

「およ? ジェイさん、理由は弥生から聞いていない?」

「聞いていますよ。えぇ、しっかりと聞いていますとも!」


 あー、なんかジェイさんが苛立って……いや、これは悔しがってる感じ? これはもしかして……赤の群集と灰の群集は群集クエストが終わったけど、青の群集はまだ終わってないのか?


「ともかく、早く打ち合わせを始めますよ!」


 そう言いながら、コケを背負った赤いカニのジェイさんが雪山を歩いて、氷結洞の入り口の方へと歩いていく。そのジェイさんを傍目に、斬雨さんが近くに寄ってきた。


「ちょっとジェイの機嫌が悪くてすまんな。今回の群集クエストの最終段階の法則を見つけた直後に赤の群集のクエストクリアの情報を得て、それでも灰の群集には勝てると意気込んでた時に、ケイさん達が遅れるかもしれない理由を聞いたもんでな……」

「あー、そういうタイミングだったんだ。……一応言っておくけど、今回の群集クエストの終盤は俺達は何もしてないぞ」

「ん? なんだ、ケイさん達は絡んでないのか?」

「晩飯食ってログインしたら、割とすぐに演出が始まったからなー」


 終盤の一気に進む条件こそ情報共有板で見てはいたけど、今回はそれだけだもんね。まぁその情報を言ったところで意味があるかどうかは分からないけど……。


「斬雨、余計な事まで言い過ぎですよ!」

「へいへいっと。でも、ちょっとは落ち着けよ、ジェイ。流石にさっきのは見苦しいぜ?」

「……斬雨に言われるのは癪ですが、確かにそれはその通りですね。皆さん、先程の態度は不適切なものでした。申し訳ありません」

「もっと余裕を持たせていたら良いだけだったのに、遅れた俺らの方にも非はあるしな。それでチャラにしよう、ジェイさん」

「……そう言っていただけると助かります、ケイさん。では改めて、打ち合わせの場所に移動しましょうか」

「ほいよっと」


 ふー、とりあえずこれで遅れた件や、ジェイさんが荒ぶってたのは解決だな。いや、厳密には……あ、2分くらい過ぎてる。ほんの少しではあるけど、これは遅刻は遅刻だよなぁ……。


 それはもう済んだという事にしておいて……ヨッシさんは既に風除けの氷塊を解除してるし、アルも水流は解除している。俺も固定用に使っていた岩の操作を解除しようっと。……よし、解除完了!


「……ですが、今回はケイさんに負けた訳ではないと……。いえ、しかし群集としては負けていますから、次こそは……」


 うん、なんか小声なジェイさんの声が聞こえてきてはいるけど、ここは聞き流しておこうじゃないか。……まぁ俺もジェイさん主導で青の群集に負けたら悔しいだろうしね。


「俺は流石にこのままじゃ大き過ぎるか。ついでに自己強化を解除して、これだな。『略:小型化』!」

「それじゃ、打ち合わせにいくよー!」

「「「「「おー!」」」」」


 今回はレナさんの号令に合わせて気合を入れていく。まぁタッグ戦の打ち合わせだから、そこまで気合を入れる必要もないけどね。

 アルのクジラは小型化したけど、サヤ以外はみんな乗ったままである。サヤは竜に腰掛けて飛んで移動中。


<『ニーヴェア雪山』から『ニーヴェア雪山・氷結洞』に移動しました>


 色々と話しながらではあったけど、ちゃんと進んでがいたので氷結洞へと移動してきた。

 途中で氷結草を栽培しているかまくらとか、灰の群集の割り当て部分も眺めたけど、ここはそれほど前見た時とは変わってなかったようだね。


 そして氷結洞に入ってすぐの氷柱の採集場では、氷柱の採集は普通に行われていた。

 それから隅っこの方に、ルストさんの根の上に座っている弥生さんとシュウさんの姿があった。なるほど、赤の群集の打ち合わせのメンバーはこの3人か。


「あ、みんな、来たねー! 打ち合わせ場所はこっちの隅になるけど勘弁ねー!」

「俺らが遅れたのが原因だし、そこは問題ないぞ。てか、遅れてすみませんでしたー!」

「あはは、群集クエストの演出が入ったなら仕方ないって。ねぇ、シュウさん」

「まぁあれは不可抗力だろうね」

「……それは良いんですけど、今回って私が来る必要がありましたか?」

「んー、ルストはこの後のスクショの方は絶対に参加するんだよね?」

「えぇ、それは勿論ですとも! 折角の他の群集の方との共同撮影会に参加しない訳がないですよ! あぁ、今からどんな光景のスクリーンショットが撮れるのか楽しみで仕方ありません! 今回は色んな場所での実施となっていますが、あちこちに顔を出してみたいですし、時間がいくらあっても足りません! ですので、出来れば打ち合わせは任せて私はすぐにでも――」

「はい、ルスト、ストーップ。その辺りが理由だからね?」

「……まぁ、この状態になるルストを1人では行かせられないね」

「……確かに少し興奮し過ぎました。打ち合わせが終わるまで、大人しく待っていようと思います」

「うむ、それでよろしい!」


 あー、ルストさんはこの後に計画しているスクショの合同撮影会が楽しみで仕方ないのか。

 そして、ルストさんの暴走癖が出るのが目に見えているから、監視役として弥生さんとシュウさんが同伴する為に同席しているんだな。

 うん、暴走癖が出たルストさんの動きから逃げられる人も限られるだろうから、これは間違いなく必要な措置だね。


 さて、赤の群集の方の打ち合わせメンバーについては分かったけど、青の群集の方はジェイさんと斬雨さんの2人以外の姿は見えない。

 この組み合わせはない気はしてたんだけど、タッグ戦の出場者はジェイさんと斬雨さんなのか? まぁそれがダメって訳じゃないけど、一応聞いておくか。


「ジェイさん、青の群集の方の出場者って誰になるんだ? 姿が見えないけど……」

「……元々赤のサファリ同盟の本拠地でするつもりでしたが、急に打ち合わせ場所がここに変更になりましたからね。ギリギリでログインしてくる事になっていたので、今こちらに向かってきているところですよ」

「あー、なるほど」


 確かに急な場所変更になったから、今は移動中なのか。まぁそういう事情なら、俺らに責任があるから仕方ないな。

 さて、それじゃ今向かってきている青の群集の人達が到着したらタッグ戦の打ち合わせは開始だね。


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