第840話 夜の部、開始!


 外食でバイキングとなった今日の晩飯を食べ終え、自宅へと帰ってきた。うん、久々に晴香の凄まじい食べっぷりを見たよ。俺は俺でちょっと食べ過ぎた……。


「兄貴、早くー!」

「……俺より食ったのに、元気だな!?」

「少し遅れ気味だから急ぐのさー!」

「分かってるから、そう急かすなって!」


 遅くなったと言ってもそれは晴香にとってであり、俺的には普段の食器洗いを終えてからログインするのとそんなに差はないんだけどな!? でも8時は過ぎてしばらく経ってるから、急いだ方が良いのは間違いないか。


「……父さんも、そのゲームをやってみるか」

「「いくらなんでも親同伴は勘弁!」」

「……声を揃えて言わなくても良くないか?」

「はいはい、流石に親が首を突っ込むのはなしですからねー。あぁ、そうそう、観たい映画があるから一緒に観ます?」

「ははっ、たまにはそういうのも良いか。ちなみに母さん、どんな映画だ?」

「えっと、こういう――」

「っ!?」

「逃しませんよー?」

「あー、いや、その、あれだな。うん、その……」


 あ、母さんが携帯端末を操作して観たいという映画の画面を表示させた瞬間に父さんが逃げ出したけど、即座に捕まった。

 これはあれだな。しばらくこの様子は見てなかったけど時々ある母さんの完全な趣味の時間だ。……なるほど、晴香が元気になったを見て安心したからってとこか。


「あー! お母さん、それって怖いって話題のホラーだよね!?」

「そうなのよ。流石に1人で観るのも怖いから……ね?」

「……圭吾、助けてくれ! ホラーは苦手なんだ!」

「いや、そこで息子に助けを求めるのもどうなんだよ……」


 というか、完全に母さんが父さんを逃がす気がないようなので、俺としてはどうしようもない。まぁ今回が初めてって訳でもないしなー。

 てか、話題のホラーか。そういやその辺はVR機器フルダイブで観たらゲームにログイン可能な時間も減るから、最近は全然チェックしてないな。もし映画とかを観るとしたら携帯端末のAR表示でか。まぁ観る予定もないけどね。


「さて、晴香、急ぐか」

「はーい!」


 何か後ろから父さんの悲鳴のようなものが聞こえている気がするけど、まぁそこは気にしないという事で。

 なんだかんだで初めは盛大に嫌がる癖に、終わった後には母さんよりも父さんの方が楽しんでたりもするから、本当に苦手なのかも正直怪しいとこだしね。



 ◇ ◇ ◇



 そんな我が家での変な騒動は放置して、ログイン場面へとやってきた。この時間帯ならお知らせがあれば更新がされているはず。

 えーと、いったんの動体部分は……あ、夕方にログアウトした時と変わっていないな。という事は、今日は特にお知らせは無しっぽいけど、一応いったんに確認しておくか。


「いったん、新しいお知らせは特に無しか?」

「うん、そうなるね〜」


 ふむ、まぁいつでも新しいお知らせがある訳じゃないか。今のスクショのコンテストも、全ての群集で群集クエストが終わってから受け付け終了だったはずだしね。

 群集クエストがどうなったかも気になるし、サヤ達を待たせている状態だから手早く済むから今は丁度良いか。


「スクショの承諾は?」

「そっちも今は特にないよ〜」

「……まぁちょっと前に処理したばっかだし、そんなもんか。んじゃ、コケでログインを頼む」

「はいはい〜。それじゃ楽しんでいってね〜」

「おうよ!」


 そうしていったんに見送られながらゲームの中へと入っていった。さて、群集クエストは終わっているのか、それともまだなのか、どっちなんだろう?



 ◇ ◇ ◇



 晩飯を食べて戻ってきました、ゲームの中! とりあえずさっさと夜目を使っとこ。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 80/80 → 79/79(上限値使用:1)


 さて、これで視界は良好っと。ハーレさんはほぼ同時にログインしたからすぐ横にいるけど、みんなは……お、少し離れた場所にアルを発見。サヤとヨッシさんもいるし、レナさんも既に合流済みか。

 ん? 少し距離があるから内容は聞き取れないけど、何か真剣に話し合ってる様子っぽい?


「何か話し込んでるっぽいねー!?」

「……何かトラブルでもあったか?」

「そうかもしれないのさー! でも詳細は分からないのです!」

「……だな。とりあえず合流して事情を聞くか」

「了解なのさー!」


 別に歩いても良い距離だけど、飛んだ方が早いか。まぁ短距離だし水のカーペットでいいな。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 79/79 → 77/77(上限値使用:)


 すぐに生成した水のカーペットに飛び乗って、ハーレさんも飛び乗ってきた。さて、一体何が起きているのか……。

 今の状況で考えられるのは、ログアウト前に懸念していた群集クエストの残りの進化記憶の結晶が全部揃い切らなかった可能性だな。レナさんはその辺の事情は把握してるから、その事について話し合ってる可能性はある。


「悪い、ちょっと遅れた!」

「あ、ケイ、ハーレ、おかえりかな」

「ハーレから少し遅れるかもって連絡は受けてたから大丈夫だよ」

「あー、そういや連絡したって言ってたっけ」

「えっへん! ところで、何か真剣に話し合ってたみたいだけど、どうしたのー!?」

「あー、それか。まぁ、ラスト1個になった進化記憶の結晶の発見待ちだな。ちょっと無理そうだと思ったらそうでもなくて、もう間もなく群集クエストは終わるぞ」

「……はい?」


 アルは今何と言った? え、残り1個ってのは分かったけど、無理そうだったけど、そうでもなかった?

 でも、今の言い方だと順調に進まなかったっぽいのに、もうすぐ群集クエストが終わるの? 


「レナさん、状況の説明を頼める? いまいち今の状況が飲み込めない……」

「私もなのさー!?」

「あはは、そうだろねー! まぁ簡単に言うと、懸念してた事が実際に起こったんだよね。海エリアの『海の新緑』にあったのが、既に発見済みだったんだよー」

「あー、やっぱりそういう事態は起こってたのか。それで、そこから何があったんだ?」


 ただ既に発見済みで報告が無かっただけであれば、所在不明の残り1個の捜索は自力では大変なはず。でももう間もなく終わりそうであると……。

 あ、もしかして赤の群集か青の群集の方から交渉をしてきて、それに乗った感じか? それなら今は、俺らが未発見の進化記憶の結晶の場所に案内してもらってるのかもしれない。


「あ、ちなみに赤の群集や青の群集との交渉ではないよー。今回は海エリアの方に無所属からの持ち込みがあったんだよね」

「レナさん、それマジか! このタイミングで無所属からの増援クエストときたか!」

「あー!? その可能性を忘れていたのです!」


 言われてみればすごいタイミングではあるけども、その可能性は十分あった。そうなると、今は無所属の人に進化記憶の結晶があった場所に案内してもらっているところなんだな。


「シアンさん達が情報共有板でリアルタイムで報告をしてくれているから、それをみんなで見てた感じになるかな」

「それが多分真剣に話し合ってるように見えたんだろうね」

「あー、なるほどね」


 もう少しで群集クエストが完了目前であれば、報告を見ているだけでもそりゃ真剣にもなるよね。


「お、どうやら該当の場所に辿り着いたみたいだぞ」

「それじゃこれで今回の群集クエストは終わりか!」


<群集クエスト《各地の記録と調査・灰の群集》の『???』が発見されました> 30/30


 よし、群集クエストのアナウンスが出たよ。さて、群集クエストが終わったなら終了演出が始まるはずだ。……なんだかんだで、ギリギリではあったけど演出は見れそうなのはありがたい。


 あ、そんな事を考えていたら目の前にグレイの姿が映し出されてきた。これが今回の群集クエストの終了演出か。


『同胞達よ、聞こえるか? 少し前から調査を頼んでいたが、その成果が見えてきたので報告をしていく』


 えーと、地形の情報としてスクショで情報ポイントが貰えるようになってたんだよな。ふむ、とりあえず演出の続きを見ていこうか。


『まず、同胞達の進化が早まる要因についてはある程度の傾向が見えてきたので、その報告をしていこう。精神生命体と新たに得た肉体が馴染むのを促進させる物の存在が明らかになった。仮称として【進化記憶の結晶】と名付けたものがそれだ』


 あー、獲得出来る経験値の量が増えるのって、設定的には本体である精神生命体と新たな身体として育てている2つの馴染み具合を促進させるって感じになるんだね。


『【進化記憶の結晶】はクオーツを進化させた際の力の余波を受けた残滓の持つ進化情報を内包して結晶化したもののようだ』

[グレイ、そこからは我が説明しよう。そなたらとは違い、我がこの地に誕生させた生物達がそれを取り込んだ際に我の浄化の力が作用して、光を発し再生能力を得ているようである。そして取り込む事に失敗したものは、そなたらと接触する事で安定性を失い砕け散るというものであった]


 お、ここで光の球が出てきて、クオーツ……元の名前は惑星浄化機構だったよな。クオーツもここで説明に加わってくるんだね。

 てか、黒いやつと光ってるやつについても違う理由があるんだなー。要するにクオーツの浄化の力を一般生物が取り込めるようになったのが光る方で、そうならずに不安定な結晶になっていたのが黒い方って訳か。


[これらはそなたらのこれからの進化の役に立つと判断したのと、まだ残り続けている瘴気を元に、再び強化されていく残滓の抑制の為に利用する事にした。常にとはいかないが、再生能力を得た生物達を糧とするがいい。また、砕け散った残骸もまだ残っているようなので、その回収も頼みたい]

『これらの情報は、赤の群集のセキ、青の群集のサイアンも把握している。まぁ各自で精査が終わってから伝えるという話になっているがな』


 ほほう、これは要するにそれぞれの群集のトップは把握しているけど、その情報が所属のプレイヤーに開示されるのは群集クエストをクリアしてからって事だな。

 てか、砕け散っている方はまだ残っているし、光ってる方も定期的に再生していくっぽいな。ふむふむ、もしかして1度限りの取得制限は緩和されるのか?


『そして、今後の事だ。もうしばらくは地形の調査は受け付けているが、ここまで色々とあっただろう。まだまだ未開の地も多く、同胞達の進化もまだまだだが、少しの休憩を挟もうかと考えている』


 ん? それって、期間は分からないけどイベントや群集クエストは無しの期間があるって事か? まぁサービス開始からぶっ続けで色んな事があったし、そういう何もない期間っていうのもあっていいのかもね。

 テスト期間でプレイ出来ない俺としてはその方が都合が良いし! って、一時的にログインするプレイヤーが減るからって理由もありそうだね、これ。


『ただ、同胞達にはまだまだ頼みたい事も多い。それにクオーツに、ある事を優先して実行してもらっている』

[我はそなたらの力を借りて新たな姿へと変わりはしたが、この惑星の全ての浄化はまだまだ出来てはいない。それらの地を大々的に浄化する準備が整えば、力を貸してもらいたい]

『クオーツ、改めて言うが忘れるな。私達は一枚岩ではない』

[分かっている。我が望むのは、この惑星の完全なる再生だ。そなたらの縄張り争いに口を挟むつもりはない]

『……それならば良い。同胞達よ、今回の調査協力には感謝する。少しの間、それぞれに身体と心を休めるといい』


 そう言いながらグレイとクオーツの姿は消えていった。ふむふむ、何やら次の展開の示唆があった気がするね。


<群集クエスト《各地の記録と調査・灰の群集》が完了しました>

<【進化記憶の結晶】の影響を受けた一般生物は継続して取得が可能となります。ただし、1ヵ所につき同時取得は1人1個まで。(定期メンテナンス終了後に取得回数はリセットされます)>

<灰の群集で発見された再取得可能地点がマップに記されました>

<未回収の砕け散った【進化記憶の結晶】の獲得は今後も可能となります>

<スクリーンショットコンテストの受付は全群集で同様のクエストが終了した翌日の24時で終了となります。再度アナウンスはありますがご注意下さい>


 お、定期メンテで経験値増加の一般生物の取得回数はリセットされるのか! 継続してって書き方だから通常時は1個しかないけど、ボーナスタイムで大量取得も狙えるかもね。


「群集クエスト、完了なのさー!」

「ただの偶然だったけど、良いタイミングでログインしたよなー」

「確かにケイもヨッシさんも、今回のタイミングは運が良かったな」

「ふっふっふ、運も実力の内なのです!」

「これ、確実に手に入る訳じゃないけど、今後も経験値増加のアイテムが手に入るのはありがたいかな!」

「確かにそうだよね。これなら使いやすくなりそうかも?」


 継続的に手に入れる手段があるか不明だったから使うのを躊躇った時もあるけど、今後も手に入るのが確定したのは素直に嬉しいところである。

 でもまぁ、気になる点がない訳でもない。灰の群集で発見した光る方の位置は報告が無かった分もマップに記載されたみたいだしね。そうなると――


「こういう仕様だから、最後に初期エリアのすぐ近くにしたのかもねー! これは混雑しそうだよー!」

「やっぱりこの仕様だとボーナスタイムが発生したら、混雑しそうだよなー」

「ケイ、それは仕方がないんじゃないかな?」

「貴重なアイテムなのは間違いないもんねー!」

「場合によったら、取得するために待つよりも、その時間で狩りした方が早いかもしれねぇぜ?」

「あはは、確かにそれはありそうだよね、アルさん」


 うん、これについては冗談でもなんでもなく、アルの言う通りかもしれないね。ボーナスタイムが始まった瞬間に近くにいれば別だけど、わざわざ駆けつけて待つのは損な可能性は充分ある。


「あー!? そろそろ時間が厳しいのです!」

「げっ、マジだ!? アル、最大速度で大急ぎ!」

「おう、全員急いで乗れ! 一気に行くぞ! 『略:空中浮遊』『略:自己強化』『ウィンドクリエイト』『略:操作属性付与』『略:高速遊泳』『アクアクリエイト』『水流の操作』!」


 慌ててみんながアルのクジラの上に乗って、アルは可能な限りの加速手段を使っていく。

 ここから更に加速させる手段もあるにはあるけど、流石にそれは加速のさせ過ぎか。というか、それ以外にすべき事があるな。


「ヨッシさん、氷塊で風除けを頼んだ! 俺はみんなが落ちないように固定する!」

「了解! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」


 よし、これで正面からの風の影響は防げる。でも、かなりの速度にはなってるから固定はしておいた方が安全だ。てか、水のカーペットはもういらないね。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 77/77 →77/79(上限値使用:1)

<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 76/79(上限値使用:1): 魔力値 217/220

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 57/79(上限値使用:1)


 岩を一気に生成して、アルのクジラからみんなが落ちないように固定完了! アル自体の移動速度がかなり上がってるから、この辺は要注意していかないとね。


 さて、それじゃ目的地は中立地点であるニーヴェア雪山! タッグ戦についての打ち合わせに行くぞー!

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