第839話 待ち合わせ場所へ
レナさんが実は普通に自分が強い事を自覚していたという事が判明したけど、理由が……うん、まぁ分からなくはない。
要するにあれだよね。執拗にオオカミ組に勧誘されていたベスタの光景みたいなのを避ける為。レナさんは特に顔が広くて人脈が凄いから、そういうのを回避する為の手段だったんだろう。
「そういえば、レナさん! 昨日のトーナメント戦では報酬は何にしたの!?」
「およ? そういやその話はしてなかったっけ。ふふーん、それはズバリ、『スキル強化の種』!」
「おー! やっぱりそれを選ぶんだー!?」
「まぁ貴重だし、取れる時には取っとかないとねー!」
「確かにそうなるよな。それでレナさんはもう使ったのか?」
「ううん、まだだねー。成熟体に進化してから、新たに手に入りそうなスキルの何かに使うつもり」
「あー、なるほど」
確かに成熟体になったら新スキルが色々増えそうな感じはしてるから、その為に残しておくのもありだよな。というか、普通に俺も『スキル強化の種』は欲しいな。
「そういや、スキル強化の種って情報ポイントがいくらなんだ?」
「4000だったよー! 128人参加のトーナメント戦で参加費として情報ポイント50に設定してたから、取れたのはわたしだけ!」
「4000もいるのか!?」
いや、待てよ。128人の参加で、参加費としては控えめな情報ポイント50って事は、報酬と引き換えに出来る情報ポイントは6400という事になる。
参加に必要な情報ポイントの設定は0〜200までの範囲で設定出来るから、32人のトーナメントで参加費を最大の200にすれば6400になる。これで1つは手に入るのか。
「最低で、32人いればその内1人がスキル強化の種を手に入れる事が出来るのか……」
「まぁそういう事になるねー」
「その人数なら八百長はしにくそうなのです!」
「確かにそうだな」
32人のトーナメントを開催出来る共同体と、その共同体と口裏を合わせられる参加者が必要だから結構な規模にはなる。流石にこの規模なら『スキル強化の種』狙いで気軽に八百長という訳にはいかないだろうね。
八百長の可能性があるとしたら、トレードが可能な瘴気石+20辺り? あれなら誰が取っても……いや、連結PTは18人までだからこれは損するか。待て待て、そもそも瘴気石+20は何ポイント必要だ?
「あー、レナさん。瘴気石+20の必要ポイント数って分かる?」
「んー? それなら空白の称号と同じで1600だよー。こっちなら8人のトーナメントで、参加費を200にすれば届くから気楽だね」
「おー! 中々手に入れやすそうなのです!」
「……ただ、こっちは八百長はやりやすいか」
この人数なら、関係した全員が瘴気石の恩恵を受ける事が出来る。あー、でも情報ポイントが必須になるから、無尽蔵にやれる訳でもないか。
「まぁ情報ポイントも無限にある訳じゃないし、瘴気石は数があって困るものでもないから大丈夫だと思うよー」
「確かにそれもそうか」
「問題があれば、運営が対処するのさー!」
「だなー」
うん、ハーレさんの言うように本当に問題になるようであれば運営が対処に動くか。
それにこのくらいなら悪影響は出ない範疇な気はする。知り合い同士で力試しをしつつ、それぞれの情報ポイントをまとめて瘴気石を手に入れるという手段は決して悪くはないよな。
おっと、そんな雑談をしながら飛んでいたら、森林深部の南端まで到着っと。集合場所はエリアの切り替え付近だけど……森林深部側か、ハイルング高原側か決めとくべきだったな。
「はっ! ケイさん、ハイルング高原側です!」
「……ハーレさん、何か聞いてるのか?」
「どっち側にするかを忘れがちだから、基本的にハイルング高原側にしようって話してたのさー!」
「そういう事は俺にも伝えといてくれよな!?」
「今の今まで忘れていたのさー!」
「……まぁいいか」
俺自身も微妙に失念していた部分ではあるし、その辺の調整を既にしてくれていたのであれば文句を言うような事でもない。
まぁハイルング高原の方がお互いに見つけやすいから、その方が待ち合わせとして楽ではあるもんね。
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>
よし、とりあえず少し離れた邪魔にならない辺りに移動して……これで待ち合わせ場所への移動は完了っと。
ふむ、夜の日だけど雲は全然無いから、月明かりでそこまで暗くはないな。こういう見渡しの良いエリアだと、晴れか曇りかで一気に雰囲気が変わるよな。
「さて、レナさんも俺らと一緒に行くんで良かったよな?」
「うん、そのつもりだよー! だからケイさんとハーレさんがログアウトするタイミングで、わたしも一緒にログアウトするつもりだね」
「ま、タイミングとしてはその方がいいか」
レナさんが一緒に来るというのは何も問題はないんだけど、7時まで微妙に時間があるな。……少し早めに切り上げ過ぎたか?
「あ、そういやレナさん的にはさっきの進化記憶の結晶の発見ってどうだったんだ? 何か妙に近いとこにあったみたいだけど」
「んー、それなんだけど始まって早々にその辺は確認したはずなんだけどねー? その時は無かったと思うんだけどなー?」
「え、そうなのー!?」
「……もしかして、終盤になって初めて見つかるようになってたとか?」
「終盤かは分からないけど、何処かのタイミングで出現した可能性は否定出来ないねー」
「……そりゃ近くにあっても見つからない訳だよ」
根本的に初めからずっとその場に無かったのであれば、見つかるはずもない。でもそうなると気になる部分もあるよな。
「はい! それって何だか微妙な気がします!」
「俺もそう思う。そういう仕込みがあるなら何かヒントがありそうな……」
「確かにそうなんだよねー」
俺らも進化記憶の結晶の探索はやるにはやったけど、そこまで大々的にやり続けてた訳じゃない。そもそもあった場所を全て把握してないし、法則性を探ろうにもどうしようもないか。
<群集クエスト《各地の記録と調査・灰の群集》の『???』が発見されました> 28/30
そんな事を考えてる間に、更に群集クエストが進んだよ。残すところ、後2個か。これは今日中に群集クエストが終わる可能性もかなりあるな。
あ、でもよく考えたら初期エリアの近場に隠された1個を見つけたら連鎖的に見つかっていく状況だし、後から追加された1個目を見つける事が最大のヒントになってるのか?
どこを探しても見つからなければ、見落とした場所が無いか再度同じ場所を探す可能性も出てくるし、その該当エリアを全然捜索してなかった人が見つける可能性もある。俺らも泥濘みの地は捜索してないしさ。
まだLvが低い人達にも参加出来るようにしていた状況と、実際にあった場所を考えるとこの可能性は決して低くはないか。ま、真実は分からないけどね。
「てか、俺らがログアウトしてる間に群集クエストが終わってる可能性がありそうじゃない?」
「それはありそうなのさー!?」
「それは仕方ないんじゃない? みんな、ずっとログインし続けていられる訳じゃないしねー」
「……まぁ、そりゃそうだ」
今までは毎回群集クエストが進む時にログインはしてたけど、ずっとそうなり続けるって訳じゃないもんな。まぁ演出自体は追憶の実で後から確認は出来るし、既に終わっていた場合はそれで済ましますかね。
「……でも、報告なしで発見場所が不明なままの進化記憶の結晶もあるんだよねー」
「レナさん、それってマジか?」
「うん、マジだよー。無事にこのまま群集クエストが終わるかどうかは、それが何処かによるんだけど……」
「はっ!? それが近場に隠れてたどれかだったとしたら、未発見がどこか分からなくて終わりきらない可能性もあるのです!」
「そうなんだよねー。まぁ、これは進んでみないと分からないから何ともね?」
「……確かにそりゃそうだ」
そうか、発見の報告義務はないからそういう事態も発生するんだな。だからといって現状で俺らがどうにか出来ることもないんだけど……。
「……今考えてもどうしようもないし、晩飯食って合流してから考えるか。戻ってきた時には何事もなく終わってる可能性もあるしな」
「それはそだねー。無事に終わってればそれでよし。駄目だったなら、赤の群集と青の群集との交渉もあり得るねー」
「駄目だった場合の交渉は私達!?」
「……タイミング的にほぼ確実にそうだろうな」
「ま、そうなったら場合はわたしに任せなさい!」
「レナさん、頼りにしてるのさー!」
「その場合の交渉は任せた!」
レナさんなら弥生さんとはリアル含めて仲が良いし、あのジェイさん相手でも引けは取らないはず。
赤の群集や青の群集の群集クエストの進捗具合は分からない……って、ちょっと待った。光る方の進化記憶の結晶って、他の群集が見つけた分もカウントに入れられるよね。
場合によっては、青の群集で以前行った『涙の溢れた地』の隅にある可能性もあるんじゃ……? いや、待て待て。流石にそこで灰の群集の群集クエストのカウントを稼いでも場所的に何の得もない。
あれ、そうなると進化記憶の結晶の発見場所の合計個数ってもしかして30個以上は存在してる? ふむ、こ情報自体が交渉材料になり得るかもしれないね。
「ケイさん、色々考えてるみたいだけど、今はこれ以上は考えるのは無しだねー!」
「ほいよっと。あ、そういやレナさん、今日ってダイクさんは? 打ち合わせが終わった後に『烏合の衆の足掻き』の最終確認に参加出来たりする?」
「ダイクなら、今日はログイン出来ないってー。急にVR機器が壊れちゃって、新しいのが届く明日まではいないんだよねー」
「あー、それは災難としか言いようがないな……」
「突然の故障は怖いのさー!?」
まぁどんなものでも、普段使っているものが唐突に壊れると困るもんな。俺もハーレさんもそういう経験はあるから、その辺の気持ちはよく分かる。
でもダイクさんは明日には新しいVR機器は調達出来るみたいだし、そこは良かったかもね。
「さて、まだちょっと早いけど、この辺で一旦解散しますか」
「はーい!」
「そだねー! それじゃまた後でー!」
「おうよ!」
そうしてそれぞれに晩飯を食べる為にログアウトをしていった。さーて、今日の晩飯はなんだろなー?
◇ ◇ ◇
晩飯の前に、いつものいったんのいるログイン場面へとやってきた。えーと、今回の動体部分は『うわー、コンテストのスクショの数がとんでもない……』となっている。
群集クエストの方も大詰めだし、スクショのコンテストの方もかなりの量になってるんだろうね。運営さん、ファイト!
あ、そういや慎也が言ってた今日の夜の群集を跨いでのスクショの撮影会の話をし忘れてるな……。
うーん、後で一応みんなに伝えはするけど、『烏合の衆の足掻き』絡みで動くなら時間的に厳しい気がする。参加したいものの時間帯が重なってしまうと、どうしようもないよね。まぁここは話して多数決で決めようっと。
「いったん、今はお知らせはあるか?」
「今は特に無いよ〜。スクリーンショットの承諾は来てるけど、やっていく〜?」
「お、来てるのか。んじゃ、やっとくよ」
「はいはい〜。それじゃこれね〜」
「ほいよっと」
いつものようにいったんからスクショの一覧を受け取って眺めていく。あー、今回は連戦をしてる様子がメインだな。ふむふむ、俺が戦闘中のもあれば、回復で待機しているのが映っているのもある。
基本的に灰の群集が多数だけど、少数ながら赤の群集と青の群集からもきていた。まぁ上風の丘は灰の群集の占有地って訳じゃないし、そりゃあるよね。
でも、俺は基本的に灰の群集からのしか許可は出さないから、そこら辺は悪しからず!
「いったん、いつも通り灰の群集だけ許可でよろしく」
「はいはい〜。それじゃそう処理しておくね〜」
「おうよ! んじゃ晩飯を食ってくるわ」
いったんに見送られながら、ゲームからログアウトしていく。今日の夜は色々とやる事があるから、晩飯を食って少し休憩はしとかないとね。
成熟体相手にまた長期戦を挑むんだ。条件に全滅が含まれているから全滅は確定しているけど、大量の経験値を得る為にミスだけは許されないからね。
◇ ◇ ◇
そうして現実へと戻ってきた。……うん、当たり前のように晴香がいるな。ただ、妙にテンションが高いっぽいけど、どうしたんだろう?
「兄貴!」
「……どうした?」
「何かガスコンロの調子が悪いらしくて、明日修理をしてもらうんだってー! そういう事で今日は外食だそうです!」
「え、マジで? どこに行くんだ?」
「食べ放題のバイキングをリクエストしておきました!」
「ほう、そうきたか」
色んなものが食べられるバイキングなら、晴香にとっては大喜びな晩飯になりそうだ。もちろん俺としても嬉しいとこである。
てか、地味にバイキングは久しぶりだよな。確か前に行ったのは晴香が受験に入る前以来……って事は、ヨッシさんが引っ越して落ち込んでた時期か。
そう考えると、晴香はもう無理はしなくなったと考えて良いのかもね。それ以前はバイキングに行きたがってた時は多かった覚えもあるからな。
それはそうとして、これから外食だと普段より少しログインが遅れそうな気もする。あ、でも店自体は割と近いからそこまで極端にズレ込む事は……多分無いはず。
「サヤ達には少し遅れるかもしれないと連絡しておきました!」
「お、手回しが早いな。てか、車のエンジンの音が聞こえてるし、父さんは既に出発準備は完了か」
「お母さんも準備万端なのです! 後は兄貴だけだから、急ぐのさー!」
「ほいよっと」
そんな風に晴香に急かされながら、出発準備を整え終わっている父さんと母さんの乗っている車に乗り込んでいく。
基本的に母さんが料理好きだからこういう外食の機会は少ないけど、たまにはこういうのも良いもんだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます